第154話
坂を降る時
永遠に続くかと思われた奈落の様な下り坂も、ようやく終わりのようだった。。
行きに見たサファリパークのような動物園の入り口が見えてきたからだ。
ここをもう少し降れば、そこは街である。
そこから50メートル程緩い坂を降ると、左手にカフェらしきお店があった。
個人経営なのか、かなり古いコンクリートで、看板だけ新しい。
とりあえず僕は水分を求めてそこに滑り込んだ。
中は意外とオシャレで、スムージーなども置いてあるカフェで、女性客が多い。
店員さんも若い女性だった。
とにかく水分の欲しい僕は、フルーツジュースを頼んだ。併せてミルクも頼む。
これは僕の、牛乳好きの人生経験から来ていて、実感として
熱中症予防には牛乳!
という僕なりの牛乳信仰から来ているのだ!
まるで、砂漠のオアシスを見つけた旅人のやうに、僕はガブガブとその場でシェイクしてくれるフルーツジュースを飲み、続けて牛乳を一気飲みした。
「ふぅうう。。あぁ、。生き返る。。
あ、ミルクお代わりお願いします」
なんと! 僕の身体はまだまだ牛乳を欲していたのだ!!
店員さんはあまりの僕の勢いと、牛乳をお代わりする客は見たことがないのか?
「あー、えっ? またミルク?
ホントに… アイスミルクで良いのよね?」
と怪訝そうに注文を取ってくれた。
おかわりの牛乳をチビチビと飲みながら、僕はようやく回り始めた頭で考えた。
(しかし… とんでもない長さの坂だった。。
もし、次に行くならロードバイクだな。)
だがよく考えたら、ロードバイク型自転車は、クロスバイクよりレンタル料が結構高かった。
それに僕は、日本でもロードバイクにはほとんど乗った事が無い。
それで外国の道路を走る事はちょっと怖かった。
一体、どうしたもんだろう??
そんなことを考えながら僕はボーッと店内から外を眺めていた。
身体が落ち着くまで、なんだかんだで30分以上、クーラーで涼んでから僕はお店を出た。
再び自転車に乗ると、身体はかなり疲れていたが、平地のためスイスイ進む。
「あぁー♪ 平地♪ ヘイチィー♪ しあわせ〜♪」
と僕は即興の歌を、鼻歌まじりに歌っていた。
はたから見ると、かなりやばい奴だが、まぁ、熱中症で死ななかったので良しとしよう 笑
少し走ると、左手に大きな屋台村というか、食のバザールとでもいうべき巨大なフードパークのようなものが出現した。
僕は吸い込まれるように、この素敵なお祭りのような場所へ入っていた。
(ふむふむ。。次は食事で塩分を摂取ナリ。)
そう思った僕は、自転車を例の如く、頑丈そうな道路標識に、グルグル巻きにワイヤーキーでくくりつけ会場へと入る。
入り口付近には、しっかりとした作りのお店が数件あり、広い客席も大賑わいだ。
正面の店は一番大きく、バーベキュー屋のようである。
右手にはこれまた大きな、個人経営のハンバーガー屋で、お酒も楽しめる大店である。
お店横の通路の両脇にも、小さなお店がいっぱいあり、お土産屋などの露店もあった。
さらに通路を抜けると、また広い空間に出て、正面にはぎっしりと、フードコートのように、美味しそうなお店が並んでいる。
僕はそれらのお店を一通り周って見たが、観光客向けの価格設定でもあるのか、意外と安くは無かった。
その大通りにもなっている客席エリアを抜けていくと、その先に、駐車場があり、そこには地元の屋台らしき店がいっぱい出ていた。
大きな鉄鍋に油を入れ、揚げ物を出している店や、ガパオライスや、カオマンガイのお店もある。
そして値段を見てみると、地元価格である!
自分へのご褒美に、ここでゆったりとビールで、ご飯を食べたかったが、酒に酔って自転車で、夜の大通りを行くのはかなり怖かった。
やはり夜は、圧倒的に自転車だと危険だと思っていた。
日本ほど街灯は無いし、何より歩道も凸凹している所が多いので、もし暗がりで気付かずにそれらに乗り上げたら大怪我に繋がるだろう。
とにかく僕は、まだ夕方の明るいうちに自転車を返したかった。
少し寂しい気持ちで、お店を回っていると、ふと日本語のノボリを見つけた。
そこには「たこ焼き」と書いてあった。
お店を見ると陽気なタイのおばさまが、元気にたこ焼きを焼いていた。
ひょいと覗いてみると、おばさんが挨拶してくれた。
試しに日本語で話しかけてみると、片言だが、日本語が通じた。
嬉しくなって話していると彼女も楽しそうだ。
聞くと日本にしばらく居たことがあるそうで、少し日本語が喋れるらしい。
たこ焼きを焼いているので、大阪なのかと思ったが、なぜか名古屋にいたらしい…
だが、名古屋でたこ焼きに出会い
「これだ!!」と思い、チェンマイに戻った後、屋台を始めたそうだ。
そんな不思議なたこ焼き屋さんだが、見た目は美味しそうである。
実は僕は、たこ焼きにはけっこううるさい。
何故なら子供の頃から、夏休みにいつも行く、タコ焼きの本場大阪で、おやつ代わりにたこ焼きを食べていたからだ。
よし、試しに買って見よう!
僕はそう思い、陽気なおばさんに日本語で
「ヒトツ クダサイナ!」と、何故か僕もカタコトでお願いし、とりあえず、一舟買って見ることにした。
美味しそうなたこ焼きを見て涎が出てきたからだ。
慣れたピック捌きでおばさまは、すぐにたこ焼きを一舟用意してくれた。
値段も200円しない。
マヨネーズや、青のりをかけて、綺麗に盛り付けてくれたたこ焼きを、僕はベンチで早速頂く事にした。
(そういえば日本食を食べるのも久しぶりだ)
そんな事に気づきながら僕はさっそくそれにパクついた!
う、う、ウマァ。。 の前に
あふあふ、、アッつぅううう!!
ハフハフと僕は、口の中のたこ焼きを、冷やしながら味わった。
美味い! マジでうまい!!
さすがにタイ人の作るたこ焼きであるので、本場の大阪とまではいかないが。。
(というか、名古屋発のたこ焼きだが… 笑)
大満足出来る美味しさである!!
タイでこんなレベルのたこ焼きを食べれた事に、僕は大喜びして、
「おばさん美味しいです! コップンカップ!」
と感想を伝えると、おばさんは大喜びしてくれた。
そして、せっかく出会ったたこ焼きを、まだまだ食べたくなった僕は、持ち帰りでもう一舟頼み、おばさんと握手をして、この巨大フードテーマパークを後にした。
自転車に戻ると、周りはすっかり夕暮れになっていた。ちょっと焦って自転車を漕いでいくと、暗くなる前になんとか旧市街へと戻って来れた。
自転車を返してから、コンビニに寄りビールを買い、宿に帰る。
帰り道、行きつけのグランマの店の前を通ったが、声をかけられない様に身を縮めて通る。
僕は温かいうちに、たこ焼きをビールで呑りたかったのだ。
宿に戻り、いつものように一杯やっていると、同部屋のベンと、アランがやってきた。
彼らは僕のたこ焼きを見ると、興味津々だった。
「一つ食べる?」と聞くと彼らは喜び、
食べた彼らは「オーマイガー!」と大喜びして、売ってる場所を聞いてきた。
Googleマップで場所を教えてやると彼らは、
「絶対明日行く!!」と親指を立ててきた。
そして、彼らは僕を誘ってきた。
「ヘイ マサミ、一緒に新市街の、
女性のお店にいかないか?」
元気いっぱいの彼らに、今日すでに、一度死にかけた僕はそんな元気はなく、、
「アイム ベリベリータイヤード。
たこ焼きを食べたらすぐ寝ます。。」
と断ると、彼らは肩をすくめ、
「オーマイガ グッナイ マサミ。」
と肩をすくめて、僕を残し宿を出て行った。
「全くアメリカ人っで奴は元気だぜ…?」
と呟き僕はビールも程々に、シャワーを浴びた後、死んだようにベッドで眠ってしまった。
その日僕が見た夢は、永遠に大穴を落ち続ける地獄「奈落地獄」の夢だった事をここに記しておく。
つづく。
↑ 気合充分の僕
↑ テイクアウトしたタコ焼き。
ビールにぴったり!
次話