第148話
なにか落ち着く 古都チェンマイ
汗だくになりながら、途中、タクシーに乗らなかった事を何度も後悔しながらも、街並みを眺めながら僕は、チェンマイを歩いていた。
かなり歩く事になったが、初めての街は歩いていると楽しくはある。
25分程歩いて、やっとこさお堀で囲まれた、旧市街への入り口の門まで着いた。
お堀だけでなく、城壁と言ったほうがいい壁があり、この城壁の門から中に入れる造りであった。きっと江戸城下のように、城下町を守る為にお堀と城壁で中を守っていたのだろう。
きっとここにはその昔王朝があり、その昔城下町だったのだと思う。
まるで、江戸城下を囲んでいたお堀の中の町だ。
江戸城や、江戸のつくりに関しては、実はかなり僕は詳しい。
何故なら「江戸がどうやってできたか?」という事を書いている、門井慶喜氏の名著
「家康江戸を建てる」をAmazonオーディブルで、僕が、10時間の朗読をしているからだ。
これは、作品・僕のナレーションともに、かなり評判がいいらしい。
無駄に宣伝をしてしまったが… 江戸城といい、アンコールワットといい、ここ旧市街といい、皆、敵に攻められ無いように、お堀を掘るというのは、世界共通のようだ。
ただ、ここにきて終わりではない。
ここの城下町はなかり広い。。宿まではまだまだ歩かねばならない。
途中でふと気になったお寺さんがあったので僕は、日陰での休憩と、この城下町へのご挨拶も兼ねて、中に入っていった。
黄金の仏像さんの前には綺麗な絨毯が引かれ、なんとそこには可愛らしい猫さんがお昼寝をしていた。
ここは風も通って日陰で涼しい。さすが猫さんは、いい場所を知っているものだ。
バッグを下ろし、キジトラさんに挨拶する。
「ちょっとお詣りさせてもらえる?」と話しかけると、頭のいい彼は、ちょっとズレてくれ、「ドウゾ ドウゾ」とばかりに、正面の場所を開けてくれた。
どうやら彼は住職でもあるようだ 笑
お礼を言って、彼の隣に正座する。
気を落ち着かせて、目を瞑ると微かな風を感じる。
隣の猫さんと同じ風を感じながら、ゆったりとした気持ちになっていく。
汗が緩やかに頬を流れ、身体も落ち着いてくる。
「ふぅ。。 スゥうう… ふうぅぅ。」
と呼吸も落ち着いてくると、寺の周りの虫の音も染み渡ってくる。意識は広がり、ここの建物の天井や壁の大きさも感じる。
僕は静かに目を開けて、仏像のお顔を見る。
柔らかなお顔をしている。
僕はゆっくり二礼してから、目を瞑り、日本式であるがご挨拶と、旅の助けをお願いして、最後に一礼して、顔を上げた。
心が落ち着き、ここまでの道中に溜まった澱のようなものも、何か取れたような気がする。
右にいるキジトラさんと目を合わすと、
「よいぞ、よいぞ。」とばかりに優しく瞬きをしてくれた。
僕は彼にも手を合わせて「コップンカァップ」とお礼を言って、撫でさせてもらった。
さらに気が優しく、落ち着いて行く。
(このお寺に呼んで頂いたなぁ。。
うーん。。 ありがたい。)
信心深い僕は、早速チェンマイに迎え入れてもらった気がして、深く感謝していた。
お寺を出てスッキリした顔の僕は、宿へ向けて再び歩き出した。
旧市街というので、古い建物ばかりだと思っていたが、そうではなく綺麗な建物も多い。
普通に、今市街である 笑
だが、あまり高い建物は見かけないので、田舎の風情があり、何か落ち着く。
僕はこの街を、早速大好きになっていた。
旧市街には、お寺さんが結構ある。
そして、綺麗で高級そうなタイマッサージ屋さんが多い。何気なく値段を見てみると、900バーツ(3000円)以上するお店もザラだ。。僕のような貧乏旅行者にはまったく縁のないお店である。
コンビニがあったので、涼むついでに寄ってみた。
商品を見ていると、毒々しい、ピンク色の怪しい液体が入った、香水のスプレーのような、小さな透明な容器を見つけた。
そして、僕はこの怪しい液体をすぐに購入した。
(ああ、やっと見つけた。
これかぁ。。最強のアレは。)
実はこれは、タイの達人である中条から聞いていた、蚊除けスプレーなのだ。
実は旅立ちの前に日本の友人から貰い、日本から持ってきた
「まったく人体に無害だが蚊に効く!」という
「蚊除け ヨモギスプレー」は、日本では抜群に効くのだが、やはり東南アジアのモスキート達には効果が弱かった。
やはり、日本よりエネルギッシュな東南アジア、それは蚊の生命力にも現れているのだろう。
中条は夏になると常に、タイの
「ピンク色の蚊除けスプレー」最強説 を唱えており、僕は話半分に
(ホントかいな?)と聞いていたが、自分がこの土地に来てみると、日本の蚊除けスプレーでは対抗できない事実により、ついに彼女の言い分に白旗をあげたのだ。
早速、シュッシュとして、身体に塗ってみるとかなりヒリヒリする。メンソールという感じなどではない。かっと熱くなるようなヒリヒリ感である。
(これは確かに最強に違いない。。)
僕はこのヒリヒリ感で、深く納得できた。
さらに歩くと、縦長のレストランが並んでいる通りや、珍しく文房具店もあり、小さなツアー会社もチラホラある。
そして目印の郵便局を見つけた。
この裏に僕の宿があるはずである。
裏手に回ると、路地にランドリー屋さんがあり、その隣に2件宿が並んでいる。
色々と覗いてみると、どうやら僕の宿は手前の宿の様だ。
ガラス越しにみる内部は、広い共有スペースもあり、とても綺麗で、とても950円の宿とは思えない。
カウンターには誰もいない。
チャイムを鳴らすと、階段から中華系の少し太った20代後半の、大きなメガネをかけた、オタク風のTシャツ短パンの男性が降りてきた。
鍵を中から開けてくれ、僕は宿に入った。
サイトで見た通りの綺麗なロビーは、とてもいい印象である。
寝起きの様な寝癖がついた彼は、ニコニコしながら宿の説明をしてくれた。
一階には、カウンターのフロントがあり、天井が高い。フロントのすぐ奥には、椅子と机の共有スペースで、さらに中2階にロフトがあり、ここは寝っ転がったり出来る共有スペースになっている。
なかなか贅沢な作りである。
部屋のカードキーを貰い、案内された寝室は、しっかりとした木の2段ベッドで、それが四つあり、8人用のドミトリーであった。
ここも清潔で、下の段が空いていたので、そこが今日の僕のベットとなった。
しっかりとした、木の作りのベッドは安心感が違う。
シャワーや、トイレの説明を受けて、僕は自由の身になった。
よく考えたら、2時チェックインのはずだが、まだ午前中なのに、まったく気にせずに部屋に入れてくれた宿の主人マイクにとても好感が持てた。
彼はとにかくおおらかというかというか、のんびりとしている。常に不思議な笑みを浮かべている。細かいことは気にしないタイプに見えた。
彼の不思議な存在感も含めて、この宿は居心地が良さそうだ。
とにかく僕は荷を解いてから、まだまだ明るいチェンマイの街へと歩き出した。
なんとなくこの街に来てから僕は、初めて来た気がしていなかった。訪れた事などないはずのこの地は、何か母の実家の田舎の居心地の良さを感じさせる。
別に田んぼや、畦道があるわけでも無いのだが、とにかくそう感じるから不思議だ。
夏休みの一ヶ月をいつも過ごしていた、大阪の泉佐野の田舎を再び訪れた様な。。
僕の心は、不思議と小学生の時の自分へとタイムスリップしていた。。
続く
↑ チェンマイのお寺にいらっしゃる
徳のあるキジトラ住職様。ナーム。
↑ 友人からもらった沖縄産さぁ。
最強のヨモギスプレ〜「サラバ〜ス」