第143話
「君、〇〇屋にならないか?」
夜は意外と涼しいのか。。それとも身体が慣れたのか?
昨日もクーラーなしの部屋で、僕はぐっすり眠れていた。
朝早く起きた僕は、シャワーを浴び、朝の散歩に出かけた。
いつもの犬の少ない通りを通っていると、インド人らしい二人が、ホステル宿の前の道にせり出したテーブル席で、通る人皆に声をかけている。
最初は女性に声を掛けていたので、
(ナンパかな?)くらいに思って、その前を通ろうとすると、僕にも声を掛けてきた。
にこやかな笑顔だが、何か胡散臭い雰囲気を感じる。
一瞬、無視して通り過ぎようとも思ったが、前に通り過ぎた白人女性も挨拶くらいは返していたので、さすがに無視して通り過ぎることは失礼に感じた。
「ヘロー。なんですか?」と聞いてみると、
「ヘイ!元気か!?
どこに行くんだ? ナニ人だい?」
とテンション高く聞いてきた。
(ずいぶんと、一辺に色々聞いてくるな。)と苦笑いしながら、
「日本人で、散歩してるところだ。」
と言うと、彼らはいきなり笑い始めた。
(うん? なんじゃこいつら??)と僕がカチンとしていると、うち一人が笑いながら
「ユー ライアー! ノー!
ユー アーインドネイジアン!」
といきなり失礼なことを言ってきたので、
「誰がインドネシア人なんじゃい?!
日本人だって言ってるだろう!」
と強めに言うと、
「オー? リアリー?!」とびっくりしている。
話を聞いてみると、どうやら悪気はなかったらしい。 彼らは僕のことを、
”「アイム ジャパニーズ」と
ギャグを飛ばしてきた インドネシア人 ”
だと思ったらしい。。
そういえば前にも、インドネシアの人に間違えられたことがあった。そんなにインドネシア人に見えるのだろうか??
僕は自分が本当に日本人なのか、自分でも自信がなくなってきた…。
それにしても、インドネシア人に間違えられた僕よりビックリするのは止めて欲しい… ホントに (^_^;)
彼らはお詫びもかねて、
「コーヒーをごちそうするから、一緒にどうだい?」
と誘ってきた。ちょっと怪しい二人組だが、まあ、こちらも暇だし、何より無料でコーヒーが飲めるのはありがたい。
彼らのテーブルに座り、コーヒーをすすりながらいろいろと話をする。
やはり彼らはインド人であり、商売でタイに来ているという。そのうち一人はシヴァという名前で、ヒンドゥー教の最高神と同じ名前である。
彼らと意外に話は弾み、向こうは僕を相当気に入ったようで、事あるごとに爆笑している。そして、事あるごとに、こう言ってくる。
「マサミは本当に面白いな!最高だ。
オレ達はもう友達だ!いや、親友だ!」
今あったばかりなのに、僕は勝手に親友認定されていた。
商売についてよく聞いてみると、実は宝石商をしているという。インド人にはそういう商売で各国を飛び回っている人間がいるというのは、風の噂には聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。
その後、話はさらに盛り上がり、一緒にやろうと誘われた僕は、ロビー横のスペースでビリヤードまでした。(このゲーム代も彼らの支払いだ。)
2ゲームした後、また路上テラス席へ戻ったが、僕はのどが渇いていた。
「何か飲むか?」と聞かれたので、さすがに悪いと思い、
「ビールを飲みたいので自分で払う。」
とシヴァに伝えると、彼は笑いながら、
「なんだ、マサミ。ビールが飲みたかったのか?」
と勝手にフロントのスタッフ言って、ビールをご馳走してくれた。
それから僕が、横浜から来たというと、横浜にも商売相手がいると喜んでいた。
ここで彼らは急にトーンを落として、僕に
「是非、商売に参加しないか? 」と不思議な提案をしてきた。
それは、宝石を預けるので、帰国する時に一緒に持っていってくれないか?
というものだった。預かった宝石を運ぶだけで2000ドル(22万円)のギャラまでくれるという。
僕は、(ははあ、なるほどな…)と思っていた。
そして同時に、彼らが道行く人に、だれかれ構わず声をかけていた理由にも合点がいった。
彼らは宝石を運んでくれる人間を探していたのだ。
前に読んだ本に、宝石やら、楽器や、タバコさえも量が多いと、関税がかかって、結構なお金がかかると書いてあった。
それらを関税がかからない様に、又は安く済ませる為に、小分けして運びたいのだ。
その為に、帰国するついでに宝石を運んでくれる人間を探していたのだ。
それは何人いても困らないのだろう。
要は「運び屋」をしてくれる人間を探していたのだ。そして僕はまんまと引っかかった人間と言うことだ 笑
まぁ、今聞いた限りでは、合法な品物ではある。。が盗品かも知れないし、直前でヤバいものを運ばされないとも限らない。
色々と奢ってもらったが、そんなことは気にせず、僕はサクッと断った。
あまりにパシッと「やりません」と断ったので、彼らはびっくりしていた。
「ええと。。マサミ。これはいい話なんだ。
友達だから、このいい仕事を紹介したんだよ。
なんで断るんだい? どうして。。
それに君には、色々ご馳走してあげたし、
色々と良くしてあげたじゃないか?」
そうシヴァが優しく説得してきたが、がんとして僕は断った。
「世の中には、うまい話などない」と言う事は、子供の頃から僕はよく理解している。
なので、意外とそういうビジネス?(詐欺?)には、疑り深く慎重である。
幼少期に、父が会社を畳み、急にフリーで山師のような商売を始めた関係で、色々と世の中の与太話を聞く機会が多かった。
たまに急に大きな事を言う父の話では、我が家はとっくに億万長者になっていなければおかしかった。 そして億万長者どころか、なぜか未だに貧乏旅行者の僕には、
金儲けとはそんなに甘いものではない。
ということは、身に染みて、DNAレヴェルで刷り込まれている事なのであった。
そんな僕は、色々奢って貰った事など、まるで無かったかのように平然としている。
彼らは、こんなに奢ってやったのに、こんなに恩知らずで、後ろめたさを感じない人間に初めて会ったのだろう、、顔を見合わせてびっくりしていた。
だが彼らも商売だ… びっくりしながらも、
「いや。。 でもさ、マサミ。
流石に少しは考えるべきじゃないか?」
と彼らは当然、恩を着せてくる。
確かにちょっと悪いなと思っている僕は、それもあり、少し考えてからこう言った。
「いや、ご馳走のなったのは僕も感謝しているよ。
でも、君たちは友人として、
好意でご馳走してくれたんだろ?
ずっと君たちは僕の事を、
親友だって言ってくれてたじゃないか?!
それとも、そんなつもりじゃ無くて、
口だけでそう言ってたのかい?
だったら、今までの払いは、全部払うから
そうなら、そう言ってくれ!」
すると彼らは動揺し「そうじゃないよ。。」と口ごもった。
さらに僕は畳みかけた。
「君たちは僕を友人だと言ってくれた。。いや!
親友だとさえ言ってくれた。俺は嬉しかった!
おれは友情を大事にするから、友人とは
トラブルになりたく無いから、日本でも
友人とはビジネスをしないと決めている。
君たちは、ビジネスパートナーじゃなくて、
おれとは友達なんだよね?
ねえ? どっちなんだい?!」
と捲し立てた。
この場から逃れる為に、適当な事を、これまた適当な英語で言っていたので、嫌な顔をされてバイバイを覚悟していたのだが、何故か僕の演説は、彼らの心を打ったらしい。
彼らはキョトンとし、再び顔を見合わせた後、お互いにうなずいたかと思うと、シヴァが真面目な顔でこう言ってきた。
「マサミ、君の言うとうりだ。その通り。
君は友達だ。だから君の言う事を尊重したい。
そう、俺たちはビジネスじゃなくて、
友情で繋がっている。
君の言ってることは正しい。
その通りだ、許してほしい。 そうだ!
お詫びにもう一杯ビールはどうだい?」
まさか百戦錬磨のインド人に、ここまで僕の口八丁が通じるとは思わず、僕は思わず動揺してしまった。そんな僕の心はつゆ知らず、彼らは真剣な顔で僕に向き合ってくれている。
なぜか僕が思ってる以上に彼らは、僕の事を気に入ってくれていたようだ。
それから彼らは全く、ビジネス?の話はしなくなり、また話は続く。
勿論、彼らは僕の事を諦めた分、僕と話している間もどちらかが必ず、目の前を通る人達に声を掛ける事は怠らなかったが 笑
シヴァは陽気で女性の話しかしない。
最近珍しいガラケーの彼は、若いタイ人らしい女性の写メを数枚見せてくれ、
「全部タイの俺の彼女だ。 俺はもてるんだよ。」 と嬉しそうだ。
たしかにこれだけ人に声をかける彼だ。陽気だし、ナンパなど朝飯前であろう。
それに宝石商だといえば、たしかにそれはモテるだろう。
話の流れで、僕が今日チェンマイに行くつもりだと言うと、もう一人が
「おお、そうだ。
そろそろ移動しようと思ってたところだから、
俺たちもマサミと一緒にチェンマイに行こうか。
なぁ、シヴァどうだい?」
と言い出したので、丁重にお断りをした。
わざわざ何時の汽車に乗るのかも聞かれたので、
(マジで付いてくるつもりなんか…) とちょっと怖くなった僕は、
「うーん。。 何時だったかなぁ…?」 とすっとぼけてみせた。
話をしていると、陽気ないい奴らなのだが、なんせ胡散臭さがかなり匂い立つ。。
(行ったことはないが、インドってこんな感じなんだろうな…)
と、僕はまだ見ぬインドを勝手に想像しながら、お礼を言って握手をし、
「どうしても連絡先を交換したい!」
と言われ、さすがに断るのも悪いなと思い、念のため、あまり使っていない方のパソコンのメールアドレスを教え、彼らと握手をして別れた。
うーむ。。 朝からなかなかのインド疑似体験であった。
つづく
↑ バンコクの路地
↑ ビジネスを持ちかけてくれた親友?
いい奴だが、どこか胡散臭い。。 笑
左は、日本産のインドネシア人。
次話