猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

ハノイに歓迎される

 

第97話

ハノイに歓迎される

 

「蟻パン」への怒りを 少し吐き出した事もあり、前向きにその出来事を 綺麗さっぱりと "手放した" 僕は、さらに街を北上した。

 

しばらく行くと、小さなコンビニくらいの大きさの、日本語が書いてあるショップがあった。中を覗くと「メイド イン ジャパン」の商品を 専門に扱っている店らしい。

どうやら今日がオープン当日らしく、大々的にチラシなどを配っていた。

ここで、僕は「しめた!!」と思っていた。

 

僕は日本から、体を洗うのに、牛乳石鹸を持ってきていた。シャワールームで、それで身体も頭も洗い、ついでに洗濯物も一緒に洗っていた。

勿論、シャンプー 石鹸付きの宿もあったが、ドミトリー宿では無い事が多かったからだ。

長旅では、固形石鹸が1個あると、かさ張らないし、かなり便利なのである。

だが、その愛用の石鹸は、旅の間にかなり小さくなってきており、新しく買い足す必要があったのだ。

そこにきて、このメイドインジャパン専門店である!  まさに運命としか言いようがない。

 

店の中に入ると、日本ショップのコンセプトなのか 浴衣風のコスプレ? という格好の、女性と 男性店員が、日本語で元気に挨拶してくれる。

「いら〜シャい! まセ〜〜!!」

店内には、客は僕一人なので、みんなで大歓迎してくれる。

お目当ての石鹸を探すと、牛乳石鹸は無かったが、日本製の花王のホワイトがあった。

(おお! そこまで高くない。よし 買おう。)

と思った僕は それをひとつ取り、レジへと向かった。

「ありガトぅ! ゴザぃマァスっ!!」

レジに向かうだけで 大変な騒ぎだ。。

 

僕は何か楽しくなりつつ、レジで会計を頼むと、

レジでは色白の、とても素敵な妙齢の美人さんが、会計をしてくれた。

着慣れていない浴衣もどきを着ているので、はだけた胸元が チラリと見えそうになる。

僕は目のやり場に困った。。

(ご、ごちそうさまです。。)とうっかり思うが、本当に可愛らしい笑顔で会計してくれるので、

(おい!マサミ! 卑怯だぞ、見るなよ!

 お前は紳士のはずだ!!我慢するんだ!)

と僕は自分にそう強く言い聞かせ、目を逸らした。

僕は目を逸らしながら、胸元を直すジェスチャーをして、

「ビー ケアフル(気をつけて…)」

と言うと、彼女は恥ずかしそうに、浴衣を引き締めた。。

(なんて 可愛らしい女性なんだろう…)

本当に僕は 一目惚れ寸前だった。

(また、彼女に逢いに来よう。。)

と思いながら 外に出ると、開店のお祝いなのだろうか?

綺麗な、真っ白なテーブルクロスを掛けたテーブルが、4つくらい 歩道沿いに並んでいて、そこで 数人が楽しそうにしていた。

純白の布を掛けた椅子などは、大きなワイン色のリボンで おしゃれにデコレーションされていて、まるで結婚式のようだ。

 

若い経営者らしき人物が、友人達とワインを開けて、そこで開店パーティーをしていた。

彼は短髪の、かなり洗練された印象の、骨のありそうな、爽やかなイケメンである。

目が合うと、彼から話しかけてきた。

「どうですか? お店は?」

と聞かれて、石鹸が手に入って助かった旨を伝え 挨拶した後、旅をしている等 少し話すと、彼はニコニコして、

「一緒にお祝いしてくれませんか?

 もう少し、お話もしたいですし。」

と自分の隣の席を引いてくれた。

遠慮するのも何なので、僕は

「そうですか。。ありがとう! では。」

と席に座って注がれたワインで 皆と乾杯した。

 

お互い自己紹介をすると、彼は「ミン」さんという名前で、このショップの経営者だそうだ。

他にも2店舗経営しているらしい。周りにいるのは、経営者仲間の友人や、親戚だという。

 

この開店祝いは、お祭りのような雰囲気で、ミンさんと話している間にも、目の前の道にベンツなどの高級車が止まり、彼の友人や、親戚が降りてくる。

その度に、ミンさんはこの人は、兄だとか、同級生だ。と嬉しそうに紹介してくれる。

ミンさんは、男気のありそうな、柔らかい笑顔の、とても良い男だった。

色々話してる内に、僕が俳優だとわかり、店の衣装についても聞かれた。

僕は日本では、老舗の劇団の研究生だった事もあり、一応着物は自分一人で着れる。

 ちょっと、着崩れが気になるかなぁ。

 あのレジの女性なんか、胸元が危ないので

 気をつけた方が良いですね。

 

 そうなのか、マサミ。

 気をつけないといけないな。

 何でそうなるんだろう?

 

 えーと、ミンさん、

 これは身も蓋も無いかもだけど、

 材質自体が滑りやすいから

 そうなりやすいと思う。

 まぁ、レジの方が、とても綺麗な女性で、

 僕は今日、ラッキーでしたけど。

 ちょっと好きになりそうでしたよ 笑

 

と お調子者の僕が、つい そう冗談で言うと、

ミンさんは笑いながら、

 あのね、マサミ、それはダメだよ。

 彼女はね、僕の奥さんだよ。

と嗜めてきた。

僕は焦ってしまい、

 ええ?? 本当に!?  

 アイムソーリー …But..

 アー、I'm ジェントルメン.  

 because…(何故なら…)

 ちゃんと目を逸らしました!!

とヘンテコな英語で 必死に弁解すると、

ミンさんはそれが可笑しかったらしく、かなり爆笑し、

 オーケー! マサミはジェントルだ 笑

 みんな! このジェントルマンに 乾杯だ!!

とみんなに言い、僕に乾杯してくれた。

 

懐の深い、優しいミンさんに、

(そら、奥さんも惚れるはずだわ…)

と僕は感心していた。

 

その後、40分程いた僕は、他の方とも色々とこれまでの旅の話などもし、酔っ払いすぎる前に お暇することにした。

ミンさんは笑顔で、「是非また来て!マサミ」と言ってくれ、僕は、

「着付けが難しかったら 僕が指導に来ます。」

と約束して、また街を歩き出した。

 

それにしても気持ちのいい人たちだった。

ハノイに来て、いきなりいい思いをさせてもらった僕は、ニコニコしながら、無目的に街を歩き出した。

 

路地に入ったりと、思うがままに行くと、大きな川に出た。

小さな漁船も停泊しており、酔い覚ましも兼ねて、僕は 川から吹く風に身を任せて、しばらくゆったりと佇んでいた。 川を見ながら、

「あーぁ、そっかぁ、人妻だったかぁ。。」

と つい呟いてしまっていたが 笑

 

それにしても、いつ見ても川はいい。

僕は川が大好きだ。

日本でも何かあると川に行っていた。

 

朝 6時開店のカフェで 早朝バイトをしていた時、出勤日を間違えて、うっかり休みの日に行ってしまった時も、そのまま帰るのも何なので、途中下車して多摩川に行き、コーヒー片手に、橋から1時間くらい川を眺めていたり、、

中学生の時、親と喧嘩して、酒は飲めないので、泣きながら 瓶のコーラ を売ってる自販機で瓶コーラを買い、戸塚の地元の柏尾川のプロムナードで、

尾崎豊の歌を呟きながら、怒りに任せ

「バカやろー!!」と叫んで、夜の川に瓶を投げ入れたのは、若気の至りだが いい思い出だ…。

 

川はいつも、人の気持ちを優しく受け止めてくれる。

悠久の時を刻むその存在は、人間の一時の感情など、意にも介さず、ただ流れ、ただ存在してくれているのだ。

 

 川はどこの国でも変わらんなぁ。。

 

酔いも手伝い、哲学的に川を眺めていた僕は、風がさらに強くなってきたので、街の方に戻ることにした。

 

つづく

 

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↑ 本日開店!!

 日本製品専門のショップ

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↑ オーナーのミンさん、皆さんと。



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ハノイを流れる ソンホン川(風強め)

 

次話

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