猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

獣道に潜むモノ

 

第168話

獣道に潜むモノ

 

ツアー2日目は、なぜか最初に、村の小学校を紹介してくれた。可愛い村の子供達が5、6人、体育座りをして迎えてくれる。

 

この山奥の小さな村に、小学校がある事に少し驚いた。

だが考えてみると、確かに小学生の子ども達に、毎日山を登り下りをさせて、町の学校に通わせていたら大変だし、何より危ない。

小学校までなら一人の先生がいれば、充分学校として成り立つ。少人数だし、村で教えた方が効率がいいと言うのは、考えてみれば良くわかる事だった。

こじんまりとした、ちょっとした平建ての一軒家が学校であるという。風通しもよく、いい空間だ。

 逆に日本の鉄筋の学校より

 ある意味贅沢なのではないか?

そんな事を考える。

子供達は突然来た外国人達に少し戸惑っていた。みんな素朴な田舎の子という感じで可愛らしい。僕は教職免許も持っているので

(授業に参加させて貰えたら嬉しいな)

と思っていたのだが、挨拶をし、しばらくししたら終わりで、僕らはすぐに出てしまった。これには子供達もキョトンとしたままだった。

せっかく機会なのに、来ただけで、何も出来ずに残念だった。海外のツアーの内容には、不思議な「やっつけ感」のある残念なイベントが一つか二つある。

ベトナムメコン川ツアーの時の

 地元の人の演奏もそうであった…)

とにかく、盛りだくさんで、もてなそうという気持ちの表れなのだと自分を納得させた。

 

学校見学の後、宿に戻り荷物をまとめた僕たちはついに村を降りる事になった。

この不思議な犬の村ともついにお別れだ。

正味、丸一日もいなかったのに、名残惜しい気持ちになるから不思議なものだ。

 

ルートは、昨日とは山を反対側へと降り、裏の滝に出るという。

整備されている尾根の登山道から、急に右に曲がり、草むらの中へと歩き出す。先頭のプイさんはその先の全く道などない方向へと歩き出した。

草は膝上くらいまであり、足元が見えないので慎重にゆるい坂を降り歩く。

(ええ〜? 今こそ 長ズボンがいるじゃん…)

と思ったが、ハーフパンツの僕には後の祭りであった。

草をかき分けながら、ゆるい丘をどんどん降っていく。

途中から木々の間に入り、今度は獣道の様な山道を降っていく。

普段から利用しているのか、細く狭い、草のない地面があるので、そこを皆んなで降っていく。

結構急である。ボクはアメリカ人のチャーリーに習って、よさそうなしっかりとした木を見つけて、杖にして降って行った。

 

ここで驚いたのが、獣道の隣の坂を、草をかき分けながら「ガサガサ!」とすごい勢いで並走する動物が現れたのだ。

「まさか、猪でもいるのか?!」

とボクはびっくりして身構えた。

ここは外国の山奥である、何が出てきてもおかしくは無い。気配の大きさからすると、熊では無さそうなのが唯一救いだ。

中学校で剣道をやり、殺陣もやる俳優の僕は、杖を木剣に見立て上段に身構えた。

するとその動物は止まり、ヒョイと顔を出した。

 

それをみて僕はびっくりした。

なんと昨日から一緒にいる、赤毛の中型犬だったからだ。彼は僕に挨拶?をするとまた、獣道の隣をガサガサと降り出した。結構凄いスピードである。

僕はホッとすると同時に、最後までお見送りに来てくれる彼が、本当にプイさんの相棒なのだなぁ。。と感心していた。

(同時にかなり怖い思いをしたが…)

 

そしてこれは、放し飼いで飼われている犬にしか見られない現象であろう。リードで繋がれている日本ではまず見かけない、貴重な映像だ。

「流れ星銀河」と言う熊犬の漫画があるが、漁師とともに山道を駆け下りる彼らと、赤毛の彼が何となく重なって見えた。

 

途中降り出した雨の中、僕はリュックから日本の、コンビニで買っておいた簡易のビニールのレインコートを取り出して、着ながら降りる。

みんなはビショビショになっている。

大男のベンが僕をみて

「正実だけずるいぞー」と笑っていた。

「ならベン、このレインコート貸そうか?」

と返すと、ベンは

「そのサイズの貸してもらっても

 ビリビリ破けて終わるだけだよ」

と笑っていた。

そんな彼はいつの間にか、自撮りのGoProを片手に、撮影しながら降りていた。

なんだかんだで雨も楽しみながら僕らは、ワイワイやりながら細い山道を降って行った。

(途中ベンが派手に後ろにすっ転んで、

 その本人も、僕らも爆笑していた。)

 

やがて雨も止み、結構急な山道を1時間程で一気に降ると、水音が聞こえてきた。そこに向かってさらに降りて行く。そして山道を降りきった先が急に開けた。

そして目の前には、いきなり大きな滝が出現した。高さ15メートルくらいで結構高いが、横幅の広い滝で、広範囲に緩やかに水が落ちているのでそこまでの圧迫感は無い。

滝の下では、先に来たであろう観光客達が水遊びをしている。

ふと気配を感じて後ろを見ると、例の赤毛のワンさんが「ヘッヘッヘっ」と息を整えている。

隣で腰に手を当てて、これまた息を整え、汗を拭うプイさんに、

「ここまでついて来てくれるなんて

 彼もいいガイドなんだね」

と言うと、プイさんはまるで自分のことを褒められたように喜び、誇らしげに

「イエス!ヒー イズ マイ バディ!」

と、彼が最高の相棒である事を教えてくれた。

 

その時、彼と目があった僕は、ふと頭を撫でてみたくなった。僕は本当に久しぶりに犬に触りたくなったのだ。

不思議と恐怖感はなく、自然と彼の頭を撫でていた。

彼は大人しく撫でられている。体も撫でてみる。彼は大人しく撫でられている。

僕は本当に子供ぶりに

(…噛まれるのでは無いか?)

と言う恐怖をどこにも感じず、犬を撫でた。

僕は嬉しくなり、どんどん撫でた。長年の呪縛から解き放たれた僕は、さらにしばらく、しつこいくらいにワンさんを撫でていた。

しばらく大人しく撫でさせてくれていた彼だったが、流石に「いい加減にしろよ」と思ったのか、急に向こうへ行ってしまった。

それを見ていたプイさんは笑っていた。

僕も(撫ですぎたな。。)と、反省ついでに笑っていた。

滝に目をやると、皆がいつのまにか水着に着替え、滝の下で遊んでいた。

他のツアーに参加しているであろう観光客も数人いる。そこに僕も着替えて参戦する事にする。

水の流れは、結構高いところから流れてきている。水量もあるので勢いも結構あるが、冷たくて気持ちがいい。

ベンは例の如く豪快に笑い、みんなもまるで海の波の様に、流れ落ちてくる水に挑んでは、弾かれて大笑いしている。

その時、ふと見た19歳のリオに僕は心を奪われてしまった。黒のビキニを真っ白な綺麗な肌にまとった彼女は、水圧に水着を持ってかれそうになりながら、はしゃいでいた。その姿は清らかで美しく、なんというか、お淑やかであった。

その姿を見て、僕は彼女に神々しいほどの若さと、美しさを感じてしまっていた。

(女性って、本当に美しいな。。)

僕は改めてこの神秘ともいうべき、男の性の私が絶対に辿り着けないであろう美しさに、舌を巻いていた。

女性の持つ、神秘的な美しさは不思議だ。

僕は、ただただ見とれてしまっていた。

 

ジェンダーの理解が進み、色々とセンシティブなこの時代であるから、怒られるかもしれないが、僕がこの旅でいつも感じていたのは、

「男性と女性はやはり違う生き物だなぁ。」

という感覚である。

 

やがて皆水遊びに飽きてきて着替え始めた。

昨日の滝と同じパターンである。

そして、昨日と同じくここでガイドが交代になる。昨日のドライバーのシアンが迎えに来てくれており、ここでプイさんともお別れだ。

皆と握手をして別れる。

僕は 「また飲もうね」 と呑兵衛特有の別れの挨拶をし、固い握手をした。

隣の赤毛さんにも、しゃがんで撫でてお礼を言った。

赤毛さんと並んで手を振りながら、明るい笑顔のガイドのプイさんは、僕らが見えなくなるまで見送ってくれていた。

 

陽気なガイドと別れた僕らは、さらなるツアーに向けてまたぞろぞろと歩き出した。

 

つづく。

 



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↑ 村の小学校の先生と子供たち



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↑ 2日目の大自然コースへ

 

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↑  獣道へと


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↑ 滝で遊ぶ みなみな


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↑ 見送りしてくれた 赤毛さん


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↑ いい滝・夢気分!