猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

いい日旅立ち ~桜とテロリスト~

 

第114話

いい日旅立ち~桜とテロリスト~

 

不思議なもので、携帯でかけておいたアラームの、1時間前に 僕はパッチリと目が覚めた。

少し心配していたのだが、全く問題なく、僕の心は昨日のままで、エネルギーに満ち溢れている。

 

そして、旅立ちの朝は不思議だ。

何故かスッキリとした気分で、早起きが出来る。

 

まとめた荷物を背負い、フロントへと向かう。

相変わらず朝から全開の 二階の民家のドアの前を通り過ぎ、日の差し込まない暗黒路地から出て、通りをいつものように左折した。

 

ホテルに入り、先にフロントでチェックアウトをし、宿のモーニングを食べる。

 うむ。。 良いパンだ。

 蟻さんもいないし。うまうま。

そのまま、コーヒーを飲みながら、ゆったりとタクシーを待つ。

 

時間の少し前にフロントに行って、タクシーのことを聞くと、電話をかけ、タクシーを呼び始めた。

どうやら、昨日予約していたのに、まだ呼んでくれていなかったようだ。。

だが、タクシーはすぐに宿に来てくれたので、問題はなく、メータータクシーである事を確認して乗り込み、僕は空港へと向かった。

 

最初混んでいた道は、市街地を抜けると全くスムーズに走りだし、予想より遥かに早く ノイバイ国際空港へと着いた。

 

今日は 国際線の為、早く着くに越したことはない。時間も有るので、空港内を少し散歩する事にした。

建て替えたのか、どうなのかは知らないが、この空港はかなり綺麗で新しい。

気持ちよく散歩ができる。

 

二階のフロアに、不思議なことに桜があった。

まさかハノイで桜が観れるとは思っていなかった。造花のようだが、何かホッとする。

桜は世界的にも人気なのか、ベトナムの親子も嬉しそうに記念撮影をしている。

また、子供達も大はしゃぎだ!

それを見ていると、とてもほっこりする。

 

その後、機械でチェックインしてみると、僕の席は、三列シートの通路側であった。

本当は窓側が良かったのだが、

(まぁ、真ん中じゃないから良いや。

 それに、トイレにも行き放題だからね!)

と前向きに考えた僕は、そのまま飛行機へと乗り込んだ。

 

びっくりしたのは、通路を挟んだ、僕の左前の席には背もたれが無く、完全に壊れていて、

「壊れています」という様な、張り紙一枚で 解決されていた事だ。

壊れたものを直さないのは、もう、東南アジアシステムなのかも知れなかった。。

 

飛行機の席に着くと、40代位の、姉さん女房風の ご夫婦がお隣だった。

黄色人種に近い白さの肌で、中東の方かな? という感じである。

奥さんが何か、ちょっと若い頃の

天空の城ラピュタ」のドーラを彷彿とさせる。ドーラさんの若い頃はこんな感じ? という雰囲気で、お化粧が特にドーラさんで、何か占い師のような雰囲気だ。

旦那さんは、スポーツ刈りで、ポロシャツジーパンで、健康的な男性だ。

 

お隣さんなので「宜しくね」という感じで会釈をすると、笑顔で会釈を返してくれて、僕たちは和やかに、テイクオフの時を迎えようとしていた。

 

だが、奥さんを挟んで窓側にいたスポーツマン風の男性は、飛行機が 滑走路にむけて動き出すと、目を瞑り、聖書を右手に持ち、左手は奥さんの手をしっかりと握り、神に祈り始めた。。

 

どうやら、飛行機が怖いようだ。

 

気持ちはわかる。

実は僕も飛行機はあまり得意ではない。

 

アメリカ同時多発テロ事件の映画の吹き替えや、

飛行機の墜落事故の再現ドラマに出た事のある僕は、飛行機が落ちたら ほぼ100で死ぬ事を知っているので、特に 飛行機が離着陸する時は、あまりいい気はしない。

だから、

(まぁ、落ちたら死ぬわな。。)

と、一応 覚悟を決めて乗る。

 

表向きは平静を装っている僕とは違い、彼は正直に神に祈り 妻に頼っている。

何か微笑ましい光景である。

 

やがて飛行機は、無事に飛び立ち、しばらくして、シートベルトを外していいよ。とランプが点灯した。

 

窓側の彼は、聖書を片手に、さらに神に祈り始めたが、急に止まった。。そして、祈りをやめた。

 

周りを見渡した彼は、急に具合が悪くなったのか、

「うっ、う、うーん。。」

と唸り始めた。そして、

「おえっ、うおぇ! うおおおええ!!」

と えずき始めた。

 

(おいおい… 怖がりすぎだろ。

 ついに、体調悪くなっちゃったかぁ。)

と少し笑っちゃいながら、心配していると、彼は僕の方を見て奥さんに小声で話し始めた。

 

彼「……な気がするんだ」

奥さん「ノー! ヒー イズクリーン。

    勘違いよ。。ねえ、大丈夫よ。」

彼女は逆に、大きなリアクションと声で話すので、よく聞き取れた。

特に「ヒー イズ クリーン!」がである。

 

僕はドキッとしていた。

 

(あれ? これ 原因は俺だな。。間違いなく)

 

 

実は僕は、彼女が言うような クリーンな人間などではないのだ。

何故ならば、小綺麗な見た目にみえるのだが、

実は、昨日 着ていたTシャツを、未だに着ているのだ。。

 

お恥ずかしい話だが、着替えがなくて仕方がなくこのTシャツを着ていたのだ。

 

つまり。。彼の体調急変の原因である匂いの素…

異臭騒ぎのテロリストは僕であったのだ。

 

言い訳をさせて欲しい。。

一昨日まで、旅の洗礼を受けていた僕は、旅では一番億劫なシャワールームでの洗濯を、ほとんどせずに過ごしていた。

昨日、屋上温泉を出て新しいシャツを着ようしたところで、はたと気づいた。

(この最後のTシャツを着てしまったら、

 明日の夜、着替えが無くなるな。。)

宿に帰って洗濯するのも 嫌だったし、まず 乾かないだろう、何より、今日中に荷物はまとめておきたかった。

 

僕は(うーん。。いけるだろ??)

と、一回汗をかき乾いていたTシャツを嗅いでみる。

 うん。。まだ、大丈夫。

全然臭わない。

僕はTシャツに 再び袖を通した。

そしてそのままそのまま眠り、朝また嗅いでみたが、大丈夫そうであった。

 

この行動をさせた一つの理由には、マレーシアで会った従姉妹の姉さんとの会話に一因がある。

 

旅を始めたばかりの、マレーシア2日目に、東南アジアが、こんなに暑いとは予想していなかった僕は、軽装で従姉妹のホテルへと、2時間程かけて到着した。

着いたはいいが、汗だくのダクダクであった。

まさか、こんなにビショビショになるほど 汗をかくと思ってなかった僕は、うっかり着替えを持ってきていなかった。

 

従姉妹に「新しいTシャツ買いたい」と言うと、

「気にしない、気にしない!

 みんな汗だくやし、みんな汗臭いよ。

 あっついアジアやし。みんなよう臭うで。

 まーくん、全然 気にせんとき〜。」

と言われた僕は、そのまま 真に受けてしまい、

 

今日の朝、自分のTシャツを 嗅ぎ。

(ちょっとやばいかな?

 いや、案外臭わへん。

 俺より、みんな臭うやろ?

 大丈夫やんなぁ〜)

と無理矢理自分を納得させて 現在に至っていたのだ。。とはいえ、普段は必ず着替えるのだが、今日に限り 着替えがもうない僕には

 

気にせんとき〜 きにせんとき〜 キニセントキ〜

 

という 従姉妹の言葉が、都合よく頭の中でリフレインされていた。

 

そして、少しでも汗をかかないようにと!

クーラーの中にしかいないように、いないようにと、涙ぐましい努力を朝から続けていて、ここまで汗は、殆どかいていなかった。

 

だが… どうやら、大丈夫では無いようだ。。

僕は反省した。臭いのは臭いよね。。と。

 "いける ! "  と思ったが、自分の匂いは 本人には、よく分からないのだと。

 

離陸の終わっている飛行機は、もう移動ができる。

僕は(寒かったら上に羽織ろう)と思っていた、"なけなし" の長袖シャツを羽織り、そのままトイレに向かった。

 

僕はトイレで Tシャツを脱ぎ、隠し持ってきていたビニール袋に入れ、長袖シャツを直接 肌に着て、何食わぬ顔で席に戻った。

ちょっとしたマジックである。

 

すると彼は、やはり僕に注目していたが、匂いの元であるTシャツを着替えたことにより、

「イエス、アイム クリーン」のはずの、匂わない僕を見て、

(うーん。。やはり勘違いだったのかな?)

とキョトンとしていた。

やがて彼は、奥さんと楽しそうに話を始めた。

 

彼より近い、僕のすぐ隣にいる奥さんは、何も気にしていなかった所を見ると

「彼は匂いに特に敏感な人」なのだろうと、勝手に自己弁護する。

 

彼には本当に悪いことをしたと思うが、僕のTシャツの匂いの一件のせいで、彼は飛行機への恐怖は、ほとんど忘れてしまったようだ。

 

不幸中の幸いである。。?

 

(まぁ、今後は 特に気を付けよう (^_^;))

と心に刻み、僕は飲み物を出すついでに、異臭騒ぎの元であるTシャツを、バッグの奥深くに封印した。

 

やがて飛行機は、何事もなかったかのように、ベトナムの空を飛び、やがてタイへと降りていった。

 

 ほんとに気をつけよう。。

 

続く

 

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ハノイノイバイ国際空港 綺麗。。

 

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↑ 空港内のハノイの桜 みんな大好きチェリーブロッサム😌

 久しぶりの桜に癒された。。

 


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↑ 直すより、乗らなければいい。。

 安定の東南アジアシステム。

 

次話

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旅立ちの決意

 

第113話

旅立ちの決意

 

昨日も しこたま酒を飲んで寝た僕は、

部屋に降り注ぐ、明るい日差しで目を覚ました。

 

部屋は明るく輝き、不思議な事に僕は、久し振りに全身に力が漲っていた。

 

奇妙なもので、ここ数日の鬱のようだった自分と、今の自分が、同一人物とは思えないくらいスッキリしていた。

 一体なんだったのだろう??

 昨日までの あの無気力だった自分は。。

と 本当に不思議に感じる。

 

だが、とにかくここから脱出するチャンスである!

僕はとにかく、この部屋を出ることにし、ホテルのモーニングへと向かった。

そして、そのままチェックアウトの意思を、フロントに伝える事に決めていた。

今感じているこのエネルギーがある内に、とにかく明日 旅立つ事にしたのだ。

明日まで宿をとってしまっていたのと、少し自分の様子も見極めようとも思い、とにかく明日出ることに決めた。

 

ハノイに来た時には、まさか 逃げるようにして この街を去る事になろうとは、全く予想していなかった。

だが、今のこの 不思議なくらい漲る前向きな気持ちを逃すと、もう 二度とここから旅立てないような気がした。

とにかく、明日はここに泊まれないように 手続きをする事にした。

 

部屋から街に出てみると、街の様子が全くちがう。

というか、僕の感じ方が変わっているのだろう。。

少し周りを散歩してみると、全てを面白く 新鮮に感じる。

 

一瞬 (俺、躁鬱病なのかな??)

と自分を疑ってしまう。。

 

慎重に自分の心と向かい合うと、別に、

(す、す、す!  素晴らしいぞ!! 世界!!)

と大げさに感じているわけでは無い。

よく聞く 鬱の反動の様な症状は無く、落ち着いてこの街を暖かく眺めている自分がいる。

 

そう。。 ぼくはちゃんと、

街の温度を感じられているだけなのだ。

 

 うん、生きているなぁ。。

 俺は今、ここに、ただ存在して、

 ただ息をしている。ただ生きている。

 それにしても太陽ぉ! 笑    

 ほんと、暑っちいなぁ。。

 

と文句を言うくらい 僕は落ち着いていた。

 

(きっと心にも風邪を

 ひいていただけなのだろう…)

 

僕はそう結論付け、

深く考えると良くないな。。 と思い至り、

明日旅立つ前に、このハノイに、自分なりにお別れをして去ろう と決めた。

 

僕は最後のハノイを、このゆったりとした気持ちで周り、そして、カンボジアで行けなかった、屋上露天風呂で締め括る事にした。

 

プノンペンで、見つけていた日本風ホテルは、実はここハノイにもあり、宿泊してなくても、お風呂にだけは入れるのだ。

 

そう決めた僕は、とにかくホテルのフロントに向かい、そして 明日のチェックアウトの意思を伝えた。

スッキリした気持ちの僕は、その後朝食をとった。

よく味わって、ゆったりとした気持ちで、モーニングを食べ終わった僕は、部屋には戻らず、そのままここで、

タイの「バンコク」行きの 航空チケットを取る事にした。

 

あの部屋に戻る前に、もうここで チケットを取っておきたかったのだ。

日本語のホームページがある ジェットスター航空の格安チケットが見つかり、僕は躊躇せず、そのチケットを買った。

 

余裕のある、11時40分発の便にする。

時差はなく、13時半にはタイに着く。

初めて行く国には、明るい内に着きたかった。

 

チケットをとって ホッとした僕は、明日のタクシーを予約し、そのまま街を散歩する事にした。以前の僕に戻ったようで、街で見る色々なものがやはり面白い。

 

しばらく街を周っていた僕は、途中でバザールに入り、人々の活気に触れる。

エネルギーに満ち溢れた場所だ。昨日までの僕であったら、到底行けなかった場所である。

最後だと思って、時計を売ってくれたおっさんを探したが、今日は休みなのか 会えなかった。

あんな酷いやりとりしかしていないが、最後だと思うと、一目会いたくなるから不思議である 笑

 

僕はさらに歩き、お気に入りの池に出た。

最初の宿の近くの、ハノイっ子憩いの場所である。

僕はここで、遅めの昼ごはんを食べる事にした。池を一望できる、レストランビルの4階まで行き、そこに入る。

 

実はここは、日本でもよく行っていた大衆イタリアンカプリチョーザがあるのだ 笑

ベトナム最後の日だというのに僕は、何故か日本でも食べられる、チェーンのイタリアンの店に入る事にしたのだ。

ビールとサラダを頼み、ゆったりと池を眺める。やっぱり、日本でも行った事のある店は落ち着く。。

なかなか、最高の時間である。

(ふぅ。色々あったが、ついに次はタイだなぁ)

 

池を眺めながらゆったりビールを呑んでいると、

(本当に昨日までどうかしていたな。)

という思いが湧いてくる。

 

(たぶんもう…  この旅ではきっと、

 ああいう状態には ならないだろうな。)

という これまた不思議な確信があった。

 

きっと僕は、旅人への洗礼をひとつくぐり抜け、またひとつ成長したのだろう。

 

ゆったりしていると、やがて夕方になってきたので、僕はお風呂のある日本風ホテルを目指して歩き始めた。 結構歩く… うん、歩く…

 うーむ。。。無理せずにタクろう!

僕は途中でタクシーをひろった。

 

少し周りも見たかったので、大体近くまで来たところで下ろしてもらった。

タクシーに乗るようになってから、気付いた事がある。

 

それは1000ドン(5円)以下のお釣りは、くれないと言う事である。

細かいお釣りがないのか、チップとしての習慣なのかわからないが、請求しないらしい。

 

タクシーメーターは、ベトナムでは一般的な、

1000ドンの位で表示され、小数点もあり、

39.5(39500ドン)とか、

18.6(18600ドン)と

赤い電飾で表示がされる。

 

最初、38800ドン(194円)のタクシーメーターで、39000ドンを渡し、

お釣りの200ドン(1円)をもらおうと、しばらく座っていると、お互い無言のまま数分が過ぎた。。

運転手も「何か準備でもしているのか?」

と言うふうに、黙って待っていた。

 

僕は根負けしてタクシーを降りた。

 

次のタクシーでは、お釣りが900ドンであった。

 流石に900ドンは欲しいかな。。?

と思っていると、また謎の無言タイムが始まった。。 

僕は(今度は根負けしないぞ)と思い、

「900ドン… 900ドンは?」

と聞くと、運転手は不思議な顔をした後、

ため息をついて、まるで "めぐんでやるよ" と言わんばかりで、哀れな私に900ドンを 色々な紙幣で渡してくれた。。

 

僕はここで、少しだけ気付いた。

(数百ドンのお釣りは、

 請求せずに、切り上げて払うのが、

 ベトナムのタクシーの慣習ぽいぞ…) と。

 

確かに、街でも1000ドン以下の紙幣や、小銭はあまり見た事がないし、そのやりとりをしなくて良いような値段が、商品につけられている事がほとんどだ。

 

その次のタクシーでも、やはり無言タイムが発生し、僕は勝手に確信に至り…

僕は、実地で

(1000ドン以下のお釣りは 切り上げで、

 数百ドンの 細かいお釣りを請求しないのが、

 普通と考えて 間違いないようだ。)

と勝手に理解した。

 

流石に、数万、数千ドンやられたら、

(おい! お釣り詐欺だろう?!)

と思うが、1000ドンの単位までは、ちゃんとお釣りをくれる。

 

実は、1円、3円でしかない、

200ドン、600ドンでは、

本当は 何もいう気は起きないのだが、

必要以上に(騙されないぞ!)と気を張っている僕は、たかが数百ドンのお釣りでも、メーターに記載されている以上 貰えないと

(騙されているのでは?!)

と 疑ってしまっていたのだ  笑

 

だが…そういう習慣であれば、メーターに小数点で数百ドンの表示をしないで欲しい。。

 ややこしいよ…  メーター。。

勝手に恥をかいた僕は そう思っていた。

 

日本風ホテルのあるエリアは、そういうニーズがあるだけあって、日本人エリアのようだ。

そういうエリアによく見る、日本のラーメン屋さんや、赤提灯の居酒屋、お寿司屋さんなどもあり、日本語の看板で溢れている。

 

そんな街並みを楽しみながら歩いていると、例のホテルに着いた。

ここでもフロントの方は、ベトナム人だが、プノンペンと同じで、日本語が達者である。

笑顔も 接客も気持ちがいい。

 

前払いの料金を払い、鍵をもらい 屋上の露天風呂へ向かう。

タオルなどのレンタルもあったが、勿体無いので借りずに向かう。自分のタオルは持ってきているからだ。

 

エレベーターで、屋上のお風呂に着くと、そこには誰もおらず、貸切だった。

日本語で書いてある、ボディソープとシャンプーで、体を綺麗にしてさっぱりした僕は、

星空の下、露天風呂にゆっくりと浸かった。

 

竹で出来た仕切りの外には、ハノイの街並みも見下ろせる。。

 最高だ…  最高の時間だ!

最後まで 貸切状態の露天風呂は素晴らしかった。

 

最後にハノイから、まるで " ギフト" を貰ったかのように感じた僕は、

もう見る事は無いであろう、ベトナムの夜空を見上げながら、ただただ この国に感謝していた。

 

つづく

 

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ベトナムカプリチョーザ

 何故か無性に行きたくなった。

 

 

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↑ 日本風ホテルの屋上露天風呂

     夜空とハノイの街並みが最高であった。

 

 

次話

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旅人に 澱のような雨が降る

 

第112話

旅人に 澱のような雨が降る

 


 Dear  ...

 

突然のお手紙お許しください。

 

お元気にしておりますでしょうか?

今、私はハノイの安宿で雨を眺めています。

 

ここハノイに来てから、珍しく雨が降り、昨日から 降ったりやんだりしています。

それは まるで僕の心に降っている様で、僕は宿のベッドでダラダラと過ごし、外にもほとんど出ていません。。

 

何故か、あれほど熱く求めていた人との触れ合いも 億劫になり、あまり人にも会いたく無くなっています。

以前、ホーチミンで紹介されていた、ハノイのインプロ団体にも全く連絡を取っていないし、今後も連絡をする事も無さそうです。

 

何故なのかはわかりませんが、この外界からほとんど隔絶された部屋で僕は、寝れるだけ寝て、やがてもう寝ることが出来なくなると、外に出て、飯を食べ、酒をガブカブと飲み、気絶をするように、またベッドに寝転がります。

 

そして、やがて目が覚めた僕は、人目を避ける様に、深夜のハノイを 拒絶の塊の様に 身を硬くして歩くのです。

 

思えばこの一ヶ月、刺激と出会いをひたすらに求め「自由」というものの恐怖から、逃げ回っていたような気がします。

 

そう、今僕が逃げるように、そして、強ばりながら闘っているものは、正に「自由」というものなのです。

期限も、目的もない旅人に訪れる試練なのでしょうか?

 

朝起きて、

「今日は何をしよう?」と考えたり

 

1日の終わりに

「明日は何をしよう?」

 

と考える事に疲れてしまったのかもしれません…

 

思えば、37年生きてきた僕は、こんなに長く

「本当に自由である事」を経験したことがありませんでした。

 

俳優として、走り続けてきた僕は、本当に何もない事が耐えられない性分のせいか、そしてまた、もち前の明るさや、人懐っこさで、不思議な程の縁に恵まれ、

この1ヶ月間を、まるで ジェットコースターに乗ったように過ごしてきました。

 

イベントは勝手に向こうからやって来て、そして無ければ イベントを自分で用意する。。

そんな事をこの1ヶ月、ずっとやって来たような気がします。

 

それは僕の

 

 旅の一日一日に

 何か意味を持たせなければいけない。

 

という無意識の強迫観念から来ていたのかもしれません。

 

一度身体を壊し、部屋にずっといた事も一因でしょう。

せっかく行った 隣町のフーリーで、特に何もせずに帰って来た僕は、宿に帰った後から、急に何もかもが億劫になり、部屋に篭るようになりました。

 

この外界から隔絶された部屋も、原因の一因なのでしょうが、僕にはもはや、宿を変えるエネルギーさえ無くなっているのです。

 

よく、アジアなどの旅先の街で、旅人がその街から 動けなくなってしまう事 

「沈没」 と言うらしいのですが、

 

 このまま僕も沈没してしまうのではないか?

 

という恐怖と、

 

 もう、どうでもいいな。。

 

と 同時に思う自分がいるのです。

 

 

思えば、僕の旅の憧れの一因になっていたものは、「深夜特急」を読む、数年前にもあった事に 昨日考えつきました。

 

それは、鴻上尚史さんの戯曲

スナフキンの手紙」だったのです。

 

大学生の時に、この戯曲に不思議と魅せられた僕は、演劇部で、初めて「演出・主演」というものに挑戦しました。

 

この「岸田國士戯曲賞」を受賞した本では、シルクロードを、一冊の大学ノートが旅をする話が出てきます。

日本から来た旅人達が 様々な思いを書き綴った そのノートが、旅人から また旅人へと受け渡されていき、シルクロードを今も旅している。

 

それは いつの間にか人々に

スナフキンの手紙」と呼ばれるようになる。

 

そこには、前向きな言葉もあれば、

旅人の、悲痛な叫びや、旅への疲れ、沈没してしまった、もう生きているのかもわからない旅人たちの「声」が、書き綴られ、今もその「声」と共にノートは、シルクロードを旅している。

 

僕は昨日、急にそのノートの事を思い出し、

その手紙の事を考えていたのです。

 

今、知り合いもなく、このハノイの街で ただ存在しているだけの自分の「声」を遺しておこうと、この手紙を書いています。

 

この手紙を誰に出すのか?

それともそれすらも億劫になり、誰にも出さずに捨ててしまうのか?

 

それすらもわからず この手紙を書いています。

 

もし、この手紙があなたの元に届いているなら、その時僕はどうしているのでしょうか。

 

笑い話として、

「あの時は、少しおセンチだったみたいだね」

とでも言っているのでしょうか?

 

それともこの手紙と共に、僕の「声」も、僕自身も アジアの中に埋もれて…

旅の海の底に沈んでしまっていて、誰にも読まれる事などなく、何も無かった事になっているのでしょうか?

 

本当はもう、どうでも良くなって来ているのですが、希望は捨てません。

 

明日、万が一 僕に気力が戻っていたなら、

すぐにでも旅立つつもりです。

 

そう願いながら僕は、これからまたアルコールを身体に入れ、ベッドに潜り込むはずです。

 

追伸

 あめは…  

 雨だけは 不思議とやんだようです

 


 . JUNE  .2017

MASAMI  AZUMA

 

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次話

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日帰りのフーリーと寝台車

 

第111話

日帰りのフーリーと寝台車

 

スーパーで思わぬ大笑いをした僕は、色々スッキリして再び橋へと向かった。

 

橋から眺める川は、ゆったりと流れている。

上流から ハスのような水草が数束、ゆっくりと流れていくので、水の流れはよくわかる。

 

僕は橋を渡り、町の向こう側へと歩いて行った。国道沿いが大きな建物が多かったのに対し、この道は まぁまぁ広い割には、田舎の風景である。

左右には建物が連なっているが、二階建てや、3階建ての民家や、ショップが結構あるが、地元の人御用達のカーショップや、クリーニング屋さんの様なお店ばかりだ。

観光地の様に、飲食店や、服を売っている店や、無論お土産屋など皆無だ。

人もほとんど歩いていない。。

 

しばらく歩いたが、あまりにも楽しくない 笑

それはそうである、私の様な観光客にかかずらわる様な、人も お店も無いからである。

ただ歩いているだけで、たまにお店を覗くと、外国人が珍しいのか、言葉の壁があるのか、積極的にコミニュケーションは取ってくれない。

そして暑い。。お酒が入った事もあり、大量の汗も出る。

僕の身体は、毛穴からさっき入れたアルコールを 大量放出し始めていたのだ。

 

 うーん。。ちょっと休みたいなぁ。

と思っている所にちょうど、結構広い 平家建てのカフェを見つけた。Wi-Fiも完備らしいので、僕はこのお店で一休みする事にした。

 

中に入ると、やはり涼しい。

僕はクーラーの涼しさにホッとしながら、周りを見渡すと、お店には僕の他は誰もいない。

 

…というか、店員さえいない。

 

 エクスキューズ ミ〜〜。

 

と一応言ってみるが、誰も出てこない。

(ええと…今日は休みの日??)と思い、表に一回出てみると、表の看板は「Open」となっている。

僕は再び店に入り、勝手に席に座って待つ事にした。窓から外がよく見える、あまり日の当たらない席に座った。

 とりあえず涼しいから、ゆっくり待とう。

と僕は勝手にゆったりする事にした。

 

窓の外は相変わらず、車がたまに通るだけで、ほとんど人も歩いていない。

しばらく待つと、何故か店の外から店員らしき男性が入ってきた。

僕が「ヘロー」と挨拶をすると、こっちをみてビックリしていたが、やがてすぐに、

謝りながら、メニューを持ってきてくれた。

どうやら所用で外に出ていたらしい。

不用心では無いのかしら? と思ったが、都会とは違いそんなに気をつけなくても良いのかもしれない。

 

ここは、入り口に「Open」と英語の看板があるだけあって、持ってきてくれたメニューには、英語も書いてあった。

僕が冷たいコーヒーを頼むと、笑顔で彼は店の奥に入って行った。

 

やがてすぐに、アイスコーヒーを持ってきてくれた。

彼もベトナム語しか喋れないらしく、ミルク、砂糖、ガムシロップ等を全て持ってきてくれ

「好きに使ってね」とジェスチャーをしてくれた。

僕も笑顔で「サンキュー」と言い、ミルクとガムシロップを入れた。

ガラスの容器から ミルクを入れる時に

「…大丈夫かな?」と思ったが、まぁ、気にしたら負けだ と思い、たっぷり入れた。

 

アイスコーヒーを飲みながら、Wi-Fiに繋ぎ、携帯をいじって ゆったりする。

(うーん。。思ったより疲れてるな。。それに

 帰りの電車まで 2時間を切っているなぁ)

僕の帰りの電車の時刻は 午後2時半頃である。

 

どうしてそんなに早く帰るのか??

と疑問の方もいるだろうが、実は帰りの電車は、これしか無いのである。

他の列車は、皆 フーリーを通過していく。フーリーから乗れる 次の電車にすると、深夜の1時まで待たなければならない。

 

流石にそれだともう宿泊した方がいい。

日帰りだと、午後2時半が限界なのである。

 

時間の事もあるし、病み上がりに 炎天下を歩き回った疲れも手伝い、僕はもう ここで残りの時間を潰す事にした。

 

色々見れたし、なんだかんだで刺激の多い 都会のハノイが、僕は早くも 恋しくなっていたのだ 笑

 

このカフェで、調べ物など 充実した時間を過ごした僕は、汽車の時間まで 1時間を切ったところでカフェを出た。

少し散歩をして、駅に戻る事にした。

 

橋に戻ると、何か違和感を感じた。

川が緑色になっていたのだ。

 

よく見ると、先ほど流れていた水草が、川を覆わんばかりに大量に流れてきていた。

ここは 2つの川が合流している場所で、なぜか上流の片方の川からだけ、草が流れてきている。

その左側の川は、川面が水草で 完全に覆われている。

(どういう事だろう??

 来た時とは比べ物にならない量の草が

 上流から流れてきている。。

 この時間に急に大量移動している…)

 

どうでもいい様な事かもしれないが、しかし、明らかに異様な量であった。

 

水草を まるで生き物の様に感じる。

(こんなに大量の水草は、何処から来てるの?

 この量が、毎日流れていくのだろうか?

 というかなぜこの時間に

 急に流れてきたんだろう?)

僕はしばらく その不思議な光景を眺めていた。

 

(やっぱり、ハノイの水上人形劇の

 水の色が緑色だったのは、

 水草を意識しているだろう。。)

と、僕は勝手に納得していた。

 

先程のスーパーを過ぎ、駅に戻る。

なんだかんだ、ご飯を食べて、スーパーに行っただけで、小旅行は終わった 笑

 

だが、まだ寝台車に乗るというイベントが残っている。

 

直前まで日陰で涼しい駅舎のベンチで待つ。

日本の区役所の待合の様に椅子が並んでいて、皆そこで待っている。

時間が迫ると皆ホームへと向かうので、それに合わせて僕もホームへと向かう。

日本と違い、普通に線路を越えて、真ん中のホームに行く。

 

やがて列車がきて、客車へと這い上がる。

 

日本のように、すっとは乗れない。

バリアフリーって何?」という感じの、人間の強さを信じ切った 高さのドアである。

 

車両に入ると、丁度車掌さんがいたので、チケットを見せると、案内してくれた。

恰幅のいい男性の親切な車掌さんである。

寝台車は、右側は窓のある廊下で、左側にだけドアがあり 部屋になっている。、

 

僕のベッドのある部屋の前で、彼は止まりドアを開ける。

部屋の中に、3段ベッドが左右にあり、計6床ある部屋である。

 

部屋を見ると、一番下のベッドには、左手に子供が、右手にはその母親らしき女性が寝ていた。

 

車掌が、その母親を起こし、退くように言ってくれ、僕に「ここだよ」と教えてくれた。

 

流石に 終点のハノイの一駅前で、新しく人が乗ってくるはずが無いと思って、ゆったりと僕のベッドで寝ていた母親に、少し罪悪感を感じた。

彼女は、上のベッドに行く気力は無いのか、子供と一緒のベッドで一緒に寝始めた。

 

(一駅だけ寝台車に乗ると、なるほど。。

 結局、こういう事になるんだな…

 一駅しか乗らない 俺がおかしいから

 全然 彼女を責められない (^_^;) )

 

「寝台車じゃ無くて、3等にしなさいな」

とアドバイスしてくれた、窓口の女性の言葉が、今更頭にリフレインする。。

 

だが、せっかく乗ったのだから楽しまないと損である。母親も慣れたもので、すぐに寝息を立て始めた。

 

僕はベッドでとりあえず横になってみた。

(うーむ。結構良いベッドだ。)

寝やすそうである。流石はホーチミンからの2泊3日に耐えうる寝台である。

 

この寝台車の衝撃なことは、三段ベッドであることである。

僕が泊まってきた数々のドミトリーでさえ、三段ベッドは存在しなかった。

2段目は結構スペースがあるが、3段目は もう天井とキス出来そうなくらいのスペースしか無い。 挟まりそうな狭さである。

そして、3段目へ登るのは、結構な筋力がいるはずである。

(面白い! やはり寝台にして正解だった!)

僕は大喜びしていた。

 

窓からは、風景がよく見える。

壁には謎の計器と、温度計もある。

温度を見ると23度である。

行きに乗った三等車と違い、クーラーも効いていて、涼しい。

珍しく、室温が丁度良い温度になっていて、寒くは無い。睡眠をとる 寝台車ならではの温度なのだろう。

 

ベッドで景色を見ながらゆったりとしていると、すぐに田園風景から、市街地の風景になった。

行きはお喋りが盛り上がっていて、景色はあまり見ていなかったが、結構 街に入るのが早かった。

ふと疑問に思った。

(この親子はもう3時前だというのに、

 よくすやすや寝れるなぁ…)

という事と、よく考えるとこの寝台車は、個室である為、知らない人と最大6人相部屋になるのだが、女性である母親は、男の僕が入ってきても、平然と無防備に寝ている。

どうやら寝台車は、結構安全みたいだ。

 

そして、ハノイまであと30分と言うところで、奇跡が起こった。

車内にスピーカーから 大音量で

ベトナムの歌謡曲」という様な歌が 流れ始めたのである。

女性シンガーの、悲しいような、ダイナミックに歌い上げるバラードである。

まるで、この長いホーチミンからの旅の終わりを、恋人の別れのように歌い上げているような曲である。

 

ついに、終点のハノイに着くというのに、曲の音量と、哀愁が物凄くて、僕は笑ってしまっていた。

 

だが、不思議と聴いている内に、この曲が妙にしっくりくる。

「いよいよ終点ですよ〜!

 皆さん、降りる準備をして下さいね〜」

という意図だろうが、この曲はハノイ駅に着くまで 大音量で30分以上、ずっとエンドレスで流れ続けた。

 

ホーチミンから来たわけでも無く、一時間しか乗らない僕でさえ、何か感慨深いものを感じてしまう。

(ああ、やっとハノイに着くのだなぁ。。)

と、まるでこの列車と長旅をしてきたような気分になり、名残惜しさが込み上げてくるから不思議な曲である。

 

僕は廊下に出てみた。

すると皆 部屋のドアを開け放している。

 

廊下にまで荷物を出し、降りる支度をする人。

まだ幼い息子を抱き抱え、自慢げに街並みを見せている若い父親。

肩を抱き寄せ、窓の外を見る 若い夫婦。

じっと街並みを眺めている年配の女性。

 

この列車で共に旅をしてきたであろう人たちが、廊下に溢れていた。

僕もそのまま廊下で、彼らと車窓の景色を見る事にした。

 

例の曲のせいか、不思議な事に僕も、彼らと長い旅をしてきた仲間の一員の様な気がして、

不意に何かが込み上げてきて、危うく涙が出そうになった。

 

何故だがわからないが、僕は 不意に心を揺さぶられたのだ。

 

不思議な寝台列車はやがて、そんな僕たちを乗せて 終点のハノイ駅へと入っていった。

 

つづく

 

ベトナム統一鉄道 動画

寝台車内部

https://m.youtube.com/watch?v=fWMB_TbdMxI

 

寝台車のハノイ到着直前のバラード

https://m.youtube.com/shorts/zmkDvSls0bU

 


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動画 フーリーの川と水草

https://m.youtube.com/watch?v=TD6kZSx7XqQ

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次話

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隣の町はゆるやかぁ。

 

第110話

隣の町はゆるやかぁ。

 

隣町のフーリーは、国道沿いこそ会社やビルなどあったが、水上レストランから見える川向こうは、高い建物もなく、のんびりとしてそうだ。

 

まだ 11時を過ぎたばかりである。

こんな時間に来る常連以外の客が珍しいのか、それとも観光客自体が珍しいのか?

迎え入れてくれた 若い男性の店員さんは、かなり戸惑っていた。

 

彼には、全く英語が通じなかったので、

ジェスチャーで、川がよく見える、入り口付近のテラス席に座っていいか聴くと、快く座らせてくれた。

(そういえば、駅前の食堂でも

 英語は全く通じなかった。。)

 

渡されたメニューは、ベトナム語のみで、写真も無く よくわからない。。

とりあえず僕は、後ろのおじさんたちが美味しそうに食べていた 焼きそば を頼もうと、おじさんたちが食べている皿を指さし、注文しようとした。

ジェスチャー

「アレ、あの皿のやつ、ワンね。」

とやっていたところ。

後ろの親切なおじさんの一人が、店員に ベトナム語で、僕の注文をしてくれた。

彼は、メニューの一部分を指差して、親指を立てて、最高の笑顔で、たぶん

「グッドだお勧めだ」と言ってくれている様だ 笑

僕はおじさんたちに頭を下げて

「サンキュー」と言うと、

「いいんだ、いいんだ。」と言うふうに 彼らは頷き、再び酒盛りを始めた。

 

ビールは、ドリンクメニューに写真がプリントされていたので、それを指差し、指を一本立てた。

スタッフの彼は、注文が理解できたのか、ホッとした表情で店の奥へと帰って行った。

言葉が通じない事に慣れていないと、お互いに気を使う。

 

たった一駅、ハノイから離れただけで、英語が全く通じない事が少し驚きだった。

この旅の中でも、ここまで誰にも英語が通じないのは 初めてだった。

とにかくジェスチャーで、なんとかなった僕は、少しホッとしていた。

 

川を見てボーッとしていると、ビールが来る。

何故か、皿に山盛りの、茹でたピーナッツも 一緒に来た。頼んでいないはずだが、言葉が通じないので、「頼んでないよ〜!」と言うのも面倒になり、そのまま受け入れた。

(まぁ、お通しだと思おう…)

 

ビールを片手に、川を見ながら呑んでいるのが心地いい。

(うーん。リゾートだね。)

と心が落ち着く。

 

しばらく川を見ながらボーッとしていると、店員が料理を運んできてくれた。

僕はそれを見て止まった。。

 

それはさっき指差した「焼きそば」では無く、スープがたっぷり入った、丸い白い麺の

「フォーラーメン?」のようなものが来た。

(ええと。。なぜラーメンが…?

 俺は焼きそばが食べたかったんだけど…)

戸惑って 周りを見渡すと、後ろのおじさんと目があった。

おじさんは親指を立てて、笑顔でバチッとウインクをしてきた。

 

どうやら、僕の要望は伝わっていなかった様だ。。

だが、これほどの もの凄いウインクをしてくれるのだから お勧めで美味しいに違いない。

 

ツマミも兼ねて、焼きそばを頼みたかったのだが、まぁ、ツマミには大量にピーナッツもあるし、良しとしよう。

 

ポジティブな僕はそう考え、早々に諦め…というか、前に進むためにも、麺をすする事にした。

食べ始めてみると、地元のおじさんがお勧めするだけあって、なかなか美味しい。

野外のテラスですするフォーラーメンもまた、乙なものである。

 

フォーラーメンを平らげた僕は、ビールのおかわりをして、ボーッと 川を見ながらピーナッツを食べていた。

他のツマミも頼みたかったが、何が来るかわからない。万が一ガッツリご飯が来たら食べきれないだろう。。

 

僕は茹でピーナッツが意外とツマミとして優秀だった事で、そのままゆっくりビールを呑んでいた。

途中で、おじさん達は帰って行った。

その際に、また笑顔で挨拶してくれた。

ほろ酔いの僕は、それに手をあげて応えて見送った。

 

しばらく一人でいると、いつもの都会の風景を離れて、昼前からここでビールを呑っている事に、不意に不思議な感覚を覚えた。

旅に慣れ、あまり意識していなかったが、今僕は 日本を遠く離れ、縁もゆかりもないこの町で、平然とビールを飲んで寛いでいるのだ。

 今外国にいるんだよなぁ。。

と、風邪をひいて寝込んでいた時とは、全く違う感慨を感じていた。

これも都会を離れ、不意に、初めての土地に来たから感じられる事だろう。

 

しばらく不思議な感覚を味わい 堪能した僕は、会計をお願いして、店を出た。

会計は普通の値段で、結構安かった。川のコテージとはいえ、地元のレストランだからだろう。

 

一旦 橋まで戻った僕は、突然尿意を覚えた。

(しまった。。

 さっきの店で行っておけば良かった)

と思ったが、後の祭りである。

 

僕は橋に出る前に見つけていた、新しそうなスーパーマーケットに行く事にした。行きは あまり気にしていなかったが、トイレを借りる為に入ってみる事にしたのだ。

行きに通り過ぎた時は、

(表で何かやっているなぁ。) くらいにしか思っていなかったが、近づいてみると、どうやら本日オープンらしい。

 

二階建てのしっかりとした、倉庫のようなコンクリートの建物のスーパーである。

(本日開店かぁ。。しかし俺は

 よく イベントにぶつかるなぁ…  笑)

と苦笑しながら、中に入る。

 

中では、鮮やかな 紅いアオザイに身を包んだ若い女性が迎えてくれ、荷物をロッカーに預ける様に誘導してくれる。(勿論ベトナム語である)

例の、ベトナムのスーパーでの 万引き防止システムである。

アオザイのスタッフさんは、メガネをかけた普通の娘さん、と言う感じの顔立ちだが、スタイルは抜群で、本当にアオザイがよく似合う、綺麗な娘さんである。

(このこに会えただけで、

 この町に来た甲斐があったな。)

とほろ酔いの現金な僕は、ニコニコしていた。

 

アオザイとは、実は歴史的に見ると 結構近年に出来たものだと聞いていた。

元々の民族衣装ではないらしい。

 

ホーチミンで出会った友人の女性からは、

アオザイが着れるように、

 ちゃんとダイエットしているのよ」

と言う話を聞いていたし、やはり、

「スタイルが良くないと 似合わないのだ」と教えてくれた。

 

最近のベトナム若い女性達は美意識が非常に高い。 日焼けを嫌がる女性も多い。

元々色白のベトナム人女性は、肌を大事にしている女性が多いらしい。

知り合ったその娘さんも、待ち合わせで会った時も、原チャリの「ベスパ」に乗りながら、白い布と服で 顔も全身も覆い、日光を完全防備をしていた。

まるで、白黒時代のテレビの 昔のヒーロー

月光仮面」にしか見えなかった。

待ち合わせの時に、彼女が 顔も白い布で覆っていたので、僕は話しかけられても、

(あ、月光仮面だ。。

 月光仮面が話しかけてきた…)

と、大昔のヒーローを思い出しているだけだった。

 

 月光仮面の おじさんは ♪

 せぇいぎの味方だ よい ひーとーだー ♫

 

という、テレビの「昔のヒーロー大集合」的な番組で覚えていた「主題歌」を思い出し、

 (ええと。。 どなた??)

と思うくらいの変装(コスプレ?)であった 笑

 

話は逸れたが、そんなお祭り騒ぎのスーパーマーケットへと 僕は入った。

トイレを探しながら、一階を見て周ると綺麗なスーパーでかなり広い。

一階は食料品がメインのフロアで、驚いたのは店内で揚げたての春巻きを売っているのはいいが "まさに揚げたて" だった事だ。

調理場では無く、店内の通路で「試食販売」のように、直径1メートルの鉄鍋に油をたっぷり入れ、今まさにプロパンガスの力で揚げているのだ。。

(ええ?!  あ、、危なく無いの??)

高温の大量の油が スーパーの通路に、2箇所も出現している事が、僕にはかなりのカルチャーショックだった。

 

そんな僕は ぐるっと回ったが、トイレは一階には無かった。

普段なら、トイレの場所をすぐに聞く所だったが、ここは英語が全く通じないフーリーである。 自分で探すしか無い。。

 

僕は2階へと上がった。

だが階段を上り、限界が近づいてきた僕は、ついに店員さんに聞く事にした。

背の低い、まだ若い男性店員さんを見つけて 話しかけた。

まず「アイ うぉんとぅ ゴー レストルーム

と言ってみる。

彼はキョトンとしている。。

(なるほど…) と思い、

「トイレ、トイレット、レスト、バスルーム!」

と単語を駆使するが、全く伝わらず、彼はやはりキョトンとしている。。

 

僕は諦め、ジェスチャーで伝える事にした。

「トイレ、トイレ。。手洗い!」と言いながら手を洗うジェスチャーをする。

すると伝わったのか、彼は(ああ!)という感じで頷き、僕を案内してくれた。

 

ホッとしてついていくと、ある棚に案内され、タオルを指差し、「どうぞ。」というジェスチャーをしてくれた。

(…まったく 伝わっていなかった。。)

僕は手を拭きたいわけでは無い。

 

僕は次に、少し恥ずかしかったが、ズボンを下ろすジェスチャーをして、パンツまで下ろすパントマイムをした。

 

すると彼は、ハッと気付いて手を叩き、

(ああ!! なぁんだ! そうでしたか。

 わかりました。 それならこちらですよ!)

とやっと理解してくれ、お互い笑顔になり、彼は僕を案内してくれた。

 

僕は 再びホッとしてついて行ったが、なぜかまた棚の前につき、彼は男性用のトランクスを指差し、満面の笑みで、

「どうぞ! いっぱいありますよ。」

ジェスチャーしてくれた。

僕はパンツを履きたい訳ではない。。

 

どうやらパンツを欲してると伝わったらしい。

(おいおい… この伝言ゲーム。

 むりゲーすぎるだろ?)

 

…ここまでジェスチャーが通じないのは人生初であった。

英語が通じないのはしょうがないとしても、カンボジアでも、マレーシアでも、ジェスチャーで何とかなってきていたが、

一駅 田舎に来ると、ジェスチャーまで通じないらしい。。

 

が、しかし僕はここで諦めなかった!

既に漏れそうだった僕は、潜在能力が発動したのか、頭の中で あるアイデアが閃いたのだ。

(そういえば、全然使ってなかったが

 iPhoneの、Google翻訳のアプリで、

 ベトナム語を、オフラインで使えるように

 宿でダウンロードしておいていたな。。)

用意周到な僕は、新しい国に行くたびに、その国の言語をダウンロードしていたのだ。

 

今までの旅で、1回しか使っていなかったアプリを開き、日本語で「トイレ」と打ち込むと、右側にベトナム語が表示された。

僕はそれをその店員さんに見せる。

 

その瞬間である!!

男性店員さんは大声で、「あああぁ〜!!」と気付き、爆笑し始めた。

勘違いで 色々案内していた自分に気付いて、笑いがこみ見上げてきたのだろう。

普段なら、僕も一緒に爆笑するところだが、それをやると、確実に漏らすだろう。。

 

僕が引きつった笑顔を浮かべていると、さすがに同じ男性である彼は、 笑っている場合では無い  と察してくれ、大真面目な顔で僕を先導し始めた。

ついていくと、彼は 階段を降り、1階のフロアを早足で歩き、出口から出ていった。

外に出て 戸惑う僕に「いそげ! 着いて来て!」とジェスチャーし、建物の裏口に案内してくれた。

 

そして、彼が指差した先には トイレがあった。

なんと、トイレは外にあったのだ!

僕は「サンキュー!」と言い、トイレに駆け込んだ。

(ま、間に合った!!)

やがて至福の顔で出てきた僕を待ってくれていた彼が、「間に合ったかい?」と話しかけてきた。僕は、

「サンキュー!! 貴方のおかげだよ

 ありがとう。 でも、パンツはないだろ?」

と言うと、彼は僕を指差し、笑い始め、僕も釣られて大笑いしていた。

 

あれほど通じなかったジェスチャーが、共に危機を乗り越えた今は、何故か通じ始め、僕と彼は急にコミニュケーションが取れるようになり、お互いの間抜けさを指摘し合いながら、大笑いしていた。

 

不思議なもので、人間とは、

 不意に心が通じると、

 何故か会話が出来るようになるらしい…

 

そんな、この 人間という生き物の深淵 に触れたぼくは、

 

更なる出会いを求め、フーリーの町を再び歩き出していた。

 

続く

 

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↑ 水上レストラン

 山盛りのゆでピーナッツとサイゴンビア

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↑ のどかそうな川の向こうと橋

 

次話

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3等車って、イイね!

 

第109話

3等車って、イイね!

 

窓から差し込む 優しい朝の光で、僕は自然と目が覚めた。

昨日、病み上がりで、うっかりビールを飲んでしまったが、朝起きると体調は万全だった。

 

念の為、日本から持ってきていた「ビオフェルミンS」を多めに飲んだ。

 

日本で旅前に 色々調べている時に、

正露丸」は 賛否が分かれていたのに対し、

ビオフェルミン 最強!」とか

ビオフェルミン良いよ!」と言う記事を結構見つけた。

その "ビオフェルミン最強説" を信じ、僕はこの整腸薬を日本から持ってきていた。

 

まぁ、整腸薬なので風邪などには効かないが、治って間もない僕は、せめて身体にビオフェルミンを多めに入れおく事にしたのだ。

 

胃腸の調子を万全にした僕は、今日は9時の列車に乗らなくてはならない。

朝早いので、初めてこの宿のモーニングを食べてみる事にした。

 

通りに出てから、左折し 四軒先のホテルに入る。フロントに別館のカードキーを見せたところ、奥へと案内された。

 

ここのモーニングは洋風の普通のもので、パンと、バットに入ったスクランブルエッグ、ゆで卵、サラダ、果物という シンプルなもので、自分で取って食べるビュッフェ方式だ。

3種類あるパンから、クロワッサンと、バターロールをとる。

もちろんその際に "蟻がいないか" をしっかり確かめた。

(まぁ、さすがにいないだろうが、

 …念の為、念の為。。)

前の宿の蟻パンは、実はかなりのトラウマであった。

大丈夫な様なので、スクランブルエッグと、バター、コーヒーを取る。

 

ここはフロントの奥という事もあり、縦長のスペースで、二人掛けの小さいテーブルながらも、席数は18程ある。そのうちの一つに座り、僕はモーニングを食べ始めた。

(蟻のいないパンは久しぶりだな。。)

よく分からない事を考えながら、バターを塗り、パンを齧っていると、初日に 別館の中を案内してくれたスタッフが、僕を見つけて 笑顔で話しかけて来てくれた。

 

「おはようございます。

 どうですか? 部屋の具合は?」

 

 とても良いですよ。 綺麗だし快適です。

 

「そうですか、嬉しいです。

 モーニングは初めて来ましたよね?

 どうですか? お味は?」

 

その気さくな感じに、油断した僕は

 いやぁ、グッドテイスト。

 パンに蟻がいないのも素晴らしいですね 笑

と、つい冗談を言ったところ、

 

彼は急に顔色が変わり、

「え? 蟻?? 何処に蟻がいましたか?」

と真剣に聞いて来た。

 

その真剣さに、冗談を説明するどころでは無くなった僕は、シドロモドロになり

 …ええと、蟻はどこにもいません。。

 いや… あの、前の宿にいました。

 

モゴモゴと 小声で言うと、彼は怪訝な顔をした後

「そうですか。。 では失礼。」

とフロントに戻って行った。

 

全く、迂闊なことを言うべきではない。

カタコトの英語で、わかりにくいジョークなど言う必要などなかったのだ!

 

僕は朝から盛大にスベった。。

びっくりするくらいの 大スベりである。

(これも蟻パンの呪いに違いない!!)

と僕は、関係ないはずの 前の宿のせいにした 笑

 

朝食をしっかり取った僕は、ハノイ駅へと向かった。15分程前に着く予定で、出発した。

 

最初、外国の電車なので

(時間通りにくるのか?)

と思ったが、よく考えたら ハノイ始発駅である、きっと時間通りに出るはずである。

 

駅につき 改札をくぐると、僕の電車は既にホームに停車していた。

駅スタッフに聞いて、自分の座席のある車両を教えてもらう。

今日僕の乗る3等車は、クーラーが無く、代わりに扇風機が回っているという以外は どんな席かはわからない。

 

中に入ると 車内は意外と混んでいる。立っている人はいないが、ほぼ満席だった。

車内を見渡すと、なんだか 懐かしい感じがした。

椅子は木の椅子で、4人掛けの向かい合った席になっている。時代を感じさせる車両は何故か、小学校の木造校舎を連想させた。

何か 懐かしい匂いのような、ノスタルジーを感じる車内だ。

 

気分の良くなった僕は、自分の席を探す。

3等車なのに、自由席ではないのが不思議だった。

車両の後ろから乗ったので、番号を見ていくと、どうやら僕の席は前の方であるらしい。

 

 

席を見つけると、僕の席のあるボックス席は、家族連れが すでに占領していた。

席番を確かめて、声を掛けるが、どいてくれない。「他が空いてるだろう??」と言い、全く席をどく気は無いようだ。

東南アジアあるあるで、皆、座席に関係なく空いている席に座っているらしい。

 

しょうがないので、斜め後ろの これまた家族連れの所に行くと、荷物をどけてくれず、いやな顔をされて、

「ここはあなたの席では無い」

と言われてしまった。

 

久しぶりに人に拒絶され、僕の心は硬くなっていった。

 もう車掌を見つけて、自分の席に居る人に

 注意してもらうしかないのかな?

と思ったが、出来ればそんな事はしたくない。

 

(うーん。。 どうしようか?)

と立ち尽くしていると、一番前の席にいた 若い子達のグループから、1人の青年が来てくれ、僕を席まで連れて行ってくれた。

 

4人掛けの席は、彼も入れて満席のはずである。座っていた1人が席を立ち、そこに僕に座るように促した。

「いや… さすがにそれは申し訳ないよ」

僕が遠慮していると、席を立った彼はどこからか丸椅子を持ってきて、通路に腰掛けて、ニコッと笑いかけてきた。

(ああ、そう言うことか。)と理解した僕は、お礼を言い彼の席に座らせて貰った。

不意に触れた若者たちの優しさに、僕の心は緩やかにほどけていった。

 

彼らは、女性1人、男性3人の、4人組だった。先程 僕を連れてきてくれた彼が、英語を喋れる。

話してみると、彼らはハノイの大学生で、下宿先から、これから実家に帰るのだと言う。

皆、同郷の生まれの、同級生だそうで、彼らはとても仲が良い。一年生なので、まだ初々しいと言うか、あどけなさが残る。

夏休みで、初めて帰省をするという彼らは、とても楽しそうだ。やはり慣れないハノイから、住み慣れた土地に帰るのが嬉しいのだろう。

 

聞くと、僕の降りる駅から、さらに3時間程行った駅で降りると言う。

彼らは若さゆえの好奇心と、若者特有の優しさを持ち合わせており、お菓子をくれたり、ずっと話をしてくれた。

ベトナムでは、日本の漫画やアニメが人気なので、その話でも盛り上がり。

僕は調子に乗って、スラムダンクの三井のスリーポイントシュートを打つ名場面を再現したりして、大盛り上がりだった。

 

彼らのお陰で 本当に楽しい時間となり、あっという間に1時間が経った。

そして、もうすぐフーリー駅に着くという時、彼らの一人が、

「一緒に、私たちの駅まで行きましょう!

 良い所ですよ、案内しますよ。」

とまで言って 誘ってくれたが、残念な事に 今日中に宿に戻らなければならないし、帰りの列車のチケットもあるので、僕は残念ながら遠慮した。

 

本当に残念そうな、悲しい顔をしている彼らを見て、

(泊まれるように出て来れば良かったな…)

と少し後悔したが、まぁ、これも旅である。

 

彼らとの触れ合いは、本当にいい経験だった。

(やはり3等車に乗ってみて良かった!)

僕は初めての3等車での、彼らとの触れ合いが、本当に新鮮で楽しかった。

 

彼らと握手をして別れ、僕は初めての土地 フーリー駅に降り立った。

駅舎を出るとすぐ右に小さな食堂、左手には小さなお店があり、すぐ目の前は国道だった。

早速 食堂をチェックしてみたが、あまり美味しそうではない。国道に出る。

建物は国道沿いに立派なものがあるが、会社のような建物ばかりだ。

そして国道の向こう側は何か田舎の風情がする。

 

僕は国道を渡り、すぐの川に出た。

川幅が結構ある、多摩川くらい広い川である。

そのまま橋を渡ろうとすると、

川に突き出た木製のコテージのような場所があった。何か面白そうだと思い、その場所に行ってみる。

 

近くまで来ると、何か看板がある。

ベトナム語で書いてあり、よく分からないので、奥も覗いてみる。。

 

奥では地元の人らしき人達が、朝から一杯やっている。 どうやらレストランの様だ。

 

少しお腹が空いていたので僕は、この川にせり出したレストランで、自然を満喫しながら一杯やる事にした。

 うん、まだ早いけど、まだ明るいけれど…

 今日は小旅行だものね。 そう。特別ね。

昼から飲む、呑兵衛特有の言い訳をし、

ここで僕は早めのビールを飲む事にした。

 

つづく

 

 

動画 フーリー駅ホームと列車

https://m.youtube.com/watch?v=DYhjoG6_erU

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↑ フーリー駅(右手は駅舎)

 


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↑ 国道沿いの建物

 (何かの会社のようだ…)

 


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↑ 国道のすぐ横の川と橋

 (結構川幅がある)



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↑ 橋から見つけた水上レストラン

 

 

次話

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電車でGO!

 

第108話

電車でGO!

 

体調を少しでも戻したい。

明日は、元に戻ってますように。

と祈りながら、昨日 早めに寝付いた僕は、早朝に パッと目が覚めた。

 

恐る恐る起きてみると、嘘のように体調が戻っていた。身体を動かして、部屋を歩き回ってみても、全く違和感がない。

どうやら、ただの風邪だったようだ。

 

胸を撫で下ろしながらも、ヒビリの僕は、まだ油断はしない。

午前中は、少し慣らし運転のように、日陰を選び、近場を散歩しながら、身体の調子を確かめていた。

どうやら万全の状態に戻っているようであった。

 

ホッとした僕は、一度宿に戻り、今日 行く場所を決めた。

 その場所とは「駅」である。

体調も戻ったようなので、あまり無理はせずに、電車のチケットを買いに行く事にしたのだ。

病み上がりの僕は、今日の仕事は

「電車の切符を買うだけ」と決めていた。

 

実は、ベトナムでは電車に乗った事がなかった。

体調を崩す前まで僕は、近日中に、小一時間ほど離れた駅あたりまで、電車でのんびり、日帰りで 小旅行に行ってみようと思っていたのだ。

 

3日前、床屋に行く途中に見つけていた鉄道駅に、切符を買いに行く事にした。

南にだいぶ歩き、駅の入り口しき所から中に入る。小さな暗めの駅舎は、窓口が4つ程並んでいるが、誰もいない。。

 無人駅に見えるが、

 田舎の駅だからだろうか…?

と思ったが、すぐに、

 …いや。  落ち着け 自分!!

 ここは「この国の 首都の駅」のはずだ?!

と思い直し、線路の方に行くと、職員らしき男性がいた。 話しかけると

「ここは今は使ってない駅舎だ。」

と教えてくれた。

 

確かに人のいない改札?から入ると すぐ線路で、ホームの様なものもない。

貨物車だけが、鎮座していた。

 ここを抜けて行けばいいの??

と聞くと

「危ないから、あそこの踏切から

 北側に回りなさい。 駅舎があるから。」

と親切に教えてくれた。

僕は旧駅舎に戻らず 線路沿いに、来る時に渡ってきた踏切に行き、北側に戻った。

 

北側の大通りにぶつかり右に折れ、少し行くと駅舎が見えてきた。

かなり大きな駅舎で、旧駅舎とは全然違う。

僕はちゃんとした駅があってホッとしていた。

 

中に入ると古いながらも、綺麗な駅だった。

自動券売機らしきものがあるので、ちょっといじってみる。

English というパネルを押し、触ってみるが、まず なんの駅があるのか、名前も知らないし、触るだけ無駄だと気付いた。

 

奥を見ると、皆窓口で切符を買っている。

窓口の前には、銀行の待合の様なベンチが、四列ほど並び、皆受付の後、そこで待たされる様だ。

 

マレーシアもそうだったが、券売機が置いてあっても、窓口が開いていれば、窓口で買う人が多い。

 

不思議な事に日本だと、券売機で買う人の方が多いのに対し、僕の行った国では、結構窓口で買う人が多い。

日本だと速さを尊ぶせいか、まず券売機で買うのだろうが、外国だと並んでも窓口で買うのが、楽みたいだ。

国民の識字率や、機械の使い方を知っているか。なども関係しているのだろうか?

分かりやすくする為か、タッチパネル式の券売機の画面のボタンは、日本に比べてかなり大きい。

 

いかにも貫禄のある、時代を感じさせる窓口の前で、色々見てみると、時刻表を見つけた。

この鉄道は、有名なベトナム統一鉄道のはずである。調べたところによると、南のホーチミンまで通っている。

南北を繋ぐ「絆」の象徴のような鉄道らしい。

 

 ええと…どれどれ?

 ホーチミンまでどれくらいなのかな?

 

興味本位で 到着時刻を見ると、夜中に出て、明後日の早朝に着くらしい。。

 え? ええっ!? 車内に2泊三日??

 ま、マジで?  や、ヤバいな統一鉄道。。

さすがベトナムを、南北に縦断している鉄道である。

 

隣駅までを見てみると「フーリー」という駅で、1時間とちょっとかかるらしい。

(隣駅まででも 1時間以上か…)

日本育ちの僕の感覚だと、特急でも無いのに、隣の駅までが1時間以上の遠さというのは初めてだ。

さらに隣駅となると、2時間以上だった。

(滞在時間も考えると、日帰りだと

 これは隣駅が限界だな…)

そう思い、僕は隣駅に行く事にした。

 

ネットで、切符の種類を調べていた僕は、行きは一番安い、3等に乗り、帰りはせっかくなので、寝台車も見てみたいので、寝台に乗る事にした。

 窓口でいきなり説明しても、難しそうだな…

と思った僕は、メモ書きに、

 

行きの列車の時刻と、降車駅の「フーリー」と、その到着時間、三等の英単語。

帰りの列車の、フーリーの発車時刻、ハノイへの到着時刻、寝台の英単語をわかりやすく書き、窓口に持っていった。

 

30歳くらいのベテラン感のある窓口の女性に、そのメモを渡して、

「トゥモロウ! アイム ゴーイング tomorrow!

 アイ ウォン to トゥモロウチケット!!

 プリーズ! トゥモロウね!」

と、しつこいくらい 明日を望んだ。

 

スタッフの女性は

(コイツ… 明日明日、うるさいなぁ。。)

と言う顔をしてから、僕のメモ書きに目を落とした。

そして、少しして首をかしげた後

「just a moment」

と言い、奥にいた、上司らしき男性に相談し始めた。

(なんだろう? 英語が通じなかったのかな?)

と思ってみていると、やがて女性が戻ってきた。

「あなた、行きは "3等車" で行くのに、

 帰りを "寝台車 "って 間違えて書いてるわよ?」

と親切に教えてくれた。

 

だが、間違いではない。僕があえてそう書いているのだ。

 いや、間違いではありませんよ。

 僕は帰りは寝台車に乗りたいのです。

 

「いや、そうじゃなくて、

 たった一駅を 寝台車に乗る必要ないでしょ?

 しかも、あなたの乗りたい寝台の

 一番下のベッドは 一番高いのよ?

 帰りも、3等車になさいな。」

 

確かに、たった1時間弱の電車で、寝台に乗る意味が、彼らには解らないだろう。。

(隣町なので、どちらも数百円だが、

 席の値段は、やはり倍以上違う。)

 

おそらく彼女は、親切心で言ってくれているのは分かっていたが、説明するのに ただ正直に、

「ただ 乗ってみたいだけ」と説明するのが難しいな… と思った僕は 違う説明をする事にした。

 いや、、あの…ですね。

 アイ ゴーイング to フーリー & アラウンド

 ビフォアー ベリィ タイヤード。

 ビコーズ アイ need ベッド!

 アイム うぉんと トゥ スリーピング

 リターン トレイン。 OK?

と大真面目に丁寧に伝えた。

 

怪訝な顔をする窓口の女性に 僕は更に、

駆使し得る英単語を 全て駆使し、

いかに自分が "疲れやすいか" を伝え、昨日まで体調が悪く、病み上がりである事も熱心に伝え、いかにベッドで寝て帰る事が重要であるかを 情熱的に伝えた。

 

すると根負けした彼女は 呆れた顔で、

「わかりました。チケットを用意するので、

 ベンチでお待ちください。」

と言って、やっと了承してくれた。

 

スムーズに切符を買えるように、わざわざ紙に書いて渡したのに、購入が難航した事は 想定外だったが、何とか無事に買えそうだ。

 

そもそも、そんなに病み上がりで疲れやすいなら 、大人しく部屋で寝てろという話である 笑

 

だが、さすがにそこまでは 彼女はツッコんでこなかった。

やがて窓口に呼ばれた僕は、お金を払い、念願の切符を手に入れたのである。

まだ病み上がりながら、色々とやり取りをしたが、そのやりとりも結構楽しく、僕はより元気になっていた。

 明日は、いよいよ 電車でGO! だな!!

と思いながら僕は、そのままの余勢を駆って、うっかり小料理屋でビールを飲んでしまっていた。

 

 ん? 体調はどうしたんだ。って?

 

だっていっぱい喋って 喉が渇いたんだもの。。

 

明日へと続く。

 

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↑ 旧駅舎の目の前の線路と列車たち

 

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↑ 無事買えた明日の切符

 三等が30000ドン(150円)

 寝台が66000ドン(330円)

 確かに倍以上だが、隣町なので安い 笑

 

 

次話

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ついに外国で身体を壊す。。

 

第107話

ついに外国で身体を壊す。。

 

…………ぅ…ん…。

…う〜ん。。 うううぅ。。 …んっはっ!

僕は ベッドで、かばっと起きた。

 

…どうやら、悪夢を見ていてうなされていた様だ。 気がつくと、汗をびっしょりかいている。。

だが、悪夢を見ていた記憶はあるのだが、内容はさっぱり思い出せない…

 

昨日帰ってから、気を失うように寝た僕は、深夜に気がつくと、熱が出て うなされていた。

その後も、何度か目覚めては、眠り、また目覚めては眠る と言う事を繰り返していた。

この旅に出てから、初めて体験する体調不良であった。

 

うなされながらベッドの中で、異国で一人で高熱を出すと言うのは、本当に心細いものだと改めて思い知らされた。。

(もし このままこのまま治らなかったら…)

と考えると、物凄い不安になる。

 

万が一の事を考えると、心配している家族にも、本当に申しわけ無い事になる…。

とまで考えてしまう。

 

そんな事が頭をよぎりながらも、とにかく横になり、無理にでも眠る努力をしていた。

 

 熱に浮かされ…

 何度も 寝て起きてを繰り返した。

 

そして、、どれだけ横になっていても、もう寝れなくなった時、ふと時計を見ると、時刻は もうお昼の2時になっていた。

恐る恐る、起き上がってみると、体はだるいが、だいぶ マシになった気がする。

軽くふらつくが、僕はシャワーを浴びるために廊下に出た。

 

今日は人がいるらしく、隣の部屋に人の気配がする。それだけでも少しホッとする自分がいる。  体調が良かった時は、

「独り占めだ!ラッキー!天国じゃん。」

と思っていたこのホテルも、体調が悪くて一人だと、地獄である。

 

そして ぼうっとしていた僕は、うっかり シャンプーをしてしまった。 思わず

「 っキ、キツ…  ココ、、コロサレル…」

と呟いてしまった。

体調が万全でない所に「最強のメンソール」はかなり堪えた。

(なんで シャンプーなぞ

 してしまったのだろう… )

と後悔し、より心細くなった。

シャワーを浴びて、バスタオルで体を拭き、着替えの下だけ履いて部屋に戻る。

 

少しさっぱりして部屋に戻ると、身体がだいぶ楽になっている事に気づいた。

どうやら、無理にでも寝ていた事で、大分熱も下がったようだ。

体温計など持ってきていない僕は、正確な体温などわかりようは無いので、全ては感覚だ。

 

(とにかく何か食べておかないと…)

と思い、外で食事をする事にした。

体調は戻ってきている様に思えるが、油断はできない。

フォーのお店に入り、一番体に優しそうなシンプルな一杯を頼む。

優しい味のスープをすすりながら、僕はふと マレーシアの事を思っていた。

 

マレー料理は辛いものが多いし、味も強めのものばかりだったけど、体を壊した時はみんな何を食べているのだろう?

と、不思議な事を考えていた。

流石に風邪の時に、いつもの料理は油も味も辛さも、身体が受け付けないはずだと思ったのだ。

自分が弱っている事も手伝ってか。

マレーシアからだいぶ離れたこのベトナムで、マレーシア人を勝手に心配している自分に、思わず笑ってしまった。

(きっと大きなお世話だろうな…)と。

 

僕はそのまま宿に帰り、そのままその日は、大人しく部屋で過ごしていた。

 

僕の旅は、本来ゆったりと周る旅である。

海外で体調を崩す人が結構いると聞くが、

無理して観光や 予定を詰めすぎて、免疫が下がってしまうと、体調を崩しやすいと、聞いていた。

 

せっかく お金がある限り、いつまでも続けられる旅をしている僕は、とにかく無理をせずに 国々を周ろうと決めていた。

 

何より僕は、旅先で 体調不良になる事程 嫌な事は無いと思っていた。

なので病気には、必要以上にビビっていた。

前日に無理をしたら、次の日は空調の良い所でゆったり過ごしたり、昼前まで寝る事にしていた。

 

実は、僕は若い頃、自分の体力を過信したあまりに経験した、苦い思い出があるからだ。

それは19歳の時、一浪した後に受かった大学に「危うく 通えないかも…」という事件から始まった。

 

「いや〜、受かると思ってなかったから

 入学金 用意してなかったわ〜 笑」

父に、そんな冗談の様な事を 入学手続き直前に、笑って言われた僕は、本当に 目が点になった。

さすがに、冗談だと思ってよく聞いてみると、事業の仕事の都合で金が必要だったので、そっちに使った。 との事だった。。

 

もう親父は当てにならんと感じ、このまま、二浪したくない僕は、色々当てを探した。

そして急遽、入学金を母方の祖母に借りれる事になった。

(流石に その後の授業料は 父が払ってくれたが…  )

 

そして、無事 大学に入学できた僕は、そのお金を返す為や、遊びにも全力だった。

20歳頃に自分の体力を過信していた僕は、

毎日「2時間しか寝ない生活」をしていた。

授業→演劇部→地元で深夜2、3時まで、友人と遊ぶ。

2時間寝て引越しのバイト。

で、休みは月に1日あれば良い方。。

という様な、無茶苦茶な生活を一年程続けて、80万近い入学金は完済できたが、2年次の健康診断にひっかかった。

 

自分の大学の 附属病院に呼び出された僕は、

「肺に影があります。

 レントゲンが真っ白です」と言われ、

「最悪 肺癌かもしれませんよ…」と脅されて、歯学部もある 自分の大学の敷地内の病院で、すぐにCTスキャンを取られた。

(在学生なので、診療代に、

 謎の学割がきいて、安かった 笑)

 

僕は「癌? そんな訳あるかいな  笑」

と笑っていたが、よく考えると、労咳病みの様にずっと咳をしていた自分がいた。。

 

僕は当時麻雀が好きで、咳が止まらない中、

「ゴホゴホ、ゴホゴホ」言いながら、よく徹マンをしていた。

 

「ゴホゴホ…あ、ごほっ。。ロン!!」

 

「エッホ! エホっ!!

 ごほ。。コ、コホ…、あ、ツモ。」

 

まるで「麻雀放浪記」の登場人物である。

 

その後、専門の呼吸器科に、強制的に通院させられた僕は、肺を肺カメラなるもので撮る事になった。胃カメラの肺版である。

えづきながら、カメラを肺に入れられた後の診察で言われたのは、

「癌ではないが、見た事ないほど、

 信じられないほど、肺が真っ赤っかです。」

 

「もう、何が起きてもおかしくない。

 菌が入ったら、すぐ感染して

 結核にもかかります。」

 

とお医者様に言われ、事態はどんどん大ごとになっていった。

 

そして僕は、ちゃんと治療する事にし、バイトも辞め、睡眠時間を 1日8時間に戻し、処方された薬が肝臓に負担をかけるので、お酒は禁止され、禁酒を守りながら、大学生活を過ごし。。

「結局、治るまでに 一年を要する」という事があった。

それまでの僕は、元々丈夫だったので、

(絶対身体など壊さないはずだ!!)

と大きな勘違いをしていたのだ。

 

そして今でも無理をすると、咳は出る。

「肺は 再生しない臓器です。」

という、医者の重い言葉を 今も僕は覚えている。

 

その経験により、早いうちに身体に無理をさせないクセが付いていた。

舞台がある時は ある程度無理をするが、睡眠時間を削りすぎる様な事はせずに やっていた。

 

そのはずの僕が、旅先で身体を壊したのである。

いつか、旅先で 何かキツい思いをするとは覚悟していたが、まさか、

" 友人と再会して、

   はしゃぎすぎて身体を壊す "

という小学生みたいな事になるとは思わなかった。

 

このまま笑い事ですむように、明日には完治していますように。。

そう願いながら僕は、夕飯もフォーをとり、早めに布団に潜り込んだ。

 

2時まで寝ていたので、眠れないかと思っていたが、しばらくゴロゴロしているうちに、いつの間にか僕は眠りについていた。。

 

つづく

 

 

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↑ 部屋で大人しく…


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↑ 一人旅は 孤独でもある。。

 

 

次話

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長旅に 無理は禁物である。

 

第106話

長旅に 無理は禁物である。

 

シクロ代をめぐる 激しい「ボッタクリ論争」が決着し、その後、タクシー万歳とばかりに、タクシーで無事水上人形劇に間に合った僕達は、まだ見ぬ人形劇に期待していた。

 

劇場のロビーには人形劇に使う人形なども展示されており、テンションがあがる。

席は、真ん中の方のかなりいい席だった。

そして、いよいよ開演である。

 

水上人形劇は、2回目でも全然飽きなかった。

楽器の生音があり、舞台の両端には、歌い手がおり、人形に台詞の歌を当てたり、地の文を歌ってくれる。

ホーチミンとも ほぼ同じだったが、ストーリーは、違うものも多かった。

 

何より面白いと感じたのは、水の色だった。

水上人形劇は、水が透明だと、下で動かしている棒などが見えてしまうので、水に色が付いている。

ホーチミンは、灰色だったのに対し、

ここハノイでは 緑色だった。

 

僕の見たメコン川は、光の加減で、川が灰色に見える事もあり、ホーチミンは、メコン川をイメージしているのでは?と思った。

そして、ハノイ水草みたいな物を意識しているのだろうか?

と、勝手に分析していた。

 

しかし、舞台の後ろから、長い木の棒で人形を操作しているのに、まるで生きているかの様に 人形達を動かせる技術は、本当に素晴らしい技巧である。

またベトナムに来たら、是非 もう一度見てみたいと思わせてくれる舞台だった。

 

僕達は大満足して、池の周りを歩きながら、感想を語っていたが、"リサーチ王" でもある上田が、

「美味しい火鍋の店がある」と教えてくれ、最後の食事は、そこで鍋をつつく事にした。

 

お店を地図で見てみると、僕らがいる池の丁度反対側であった。

池の周りをぐるっと周る。

途中に色々お店もあり、なかなか楽しい。

 

ふと、スーパーを見つけた上田が、

「ちょっとここで買い物をしたい」

と言い出した。

友人に頼まれた、コスメか何かを買いたいそうだ。

そういえば、不思議と僕は、ベトナムのスーパーには入った事がなかった。

せっかくなので、一緒に入ってみる事にする。

 

しかし、ここでカルチャーショックを受けた!

なんと! ベトナムのスーパーでは、手荷物をロッカーに預けないと、入れないらしい。

僕はそれを聞き、荷物を預けるのを面倒に感じてしまった。

なので、荷物を僕が預かって、上田一人で入ってもらう事にした。

 

後で調べると、万引き防止の為にベトナムではロッカーに荷物を預ける事は、どこのスーパーでも常識らしい。。

 

気の良い人が多そうな国だと思っていたが、万引き対策で ここまで徹底しなければならない事が、ちょっと意外でビックリした。

(…そんなに万引き多いの??)  と。

 

僕がしばらく待っていると、上田が出てきた。

「ごめ〜ん。。欲しいやつ売ってなかった。

 空港で探してみるね〜」

と言うのを聞いて、

(なるほど。

 彼女ほど、キチンとリサーチしてると

 欲しいものも決まっており。

 売ってる店を、探して周らないと なので、

 こんなに買い物に時間を割くんだなぁ。。)

と最終日に僕は、妙に納得した。

そしてそれを楽んでいるところを見ると、

宝探しにも似た感覚なのだろうと思った。

 

スーパーからすぐ近くにあるはずの、火鍋のお店は、ちょっと分かりにくい所にあり、周りを 結構散策し、やっと見つけた。

 

木造のだいぶ古めかしいお店で、2階に案内された。

階段付近は、色々なものが置いてあり、雑然としていて汚い。。 階段も暗く 埃だらけで、何故か階段の真ん中のあたりの 棚の上に、埃まみれの薄汚れた野良猫さんもいた。

(飲食店として 大丈夫か? この店…)

と思っていたが、2階のフロアーは白が基調で、ちゃんとしていた。

 ちょっとやばいかな? この店…。

 と思ったけど、大丈夫そうだね 笑

と僕が言うと、

 ほんと〜。階段やばかったよね…

 なんか 猫いなかった??

と上田も かなり気にしていた。

 

ガイドブックでは「とにかく美味しい」と紹介されており、僕はフォローのつもりで

 アレじゃない?  日本でも、

 「店は汚いけど美味しい店」とかあるじゃん。

 ベトナムだと 「汚い」のレベルが高い!?

 とかなんじゃない??  笑

 

と言うと、上田は爆笑しながら、

 じゃあ、「美味しい」レベルも、

 半端ないじゃん! 笑

と言って、僕らは笑いながら盛り上がっていた。

 

オススメの鍋を頼んで待つ事にする。

肉入りの鍋に、野菜や香草などを入れていくもので、昼に食べた つけ麺の様な米の麺もついてきた。

店員さんが鍋を作ってくれる「料亭すき焼き屋」システムの様だ。

 

食べ始めていくと、

(う〜む。。 まぁ、「美味しい」けど…

  「汚い」が圧勝している。。)

と思って顔を上げると、上田と目が合った。

どうやら彼女も同じ事を思っている様だ。

長年一緒に芝居をやっている仲なので、アイコンタクトで言いたい事がわかる。

店員さんが真横にいるので、言葉にできないので、よりそうなった。

 

途中上田がトイレに立つ。

店員に場所を聞くと、例の階段を降りた一階にあると言う。

 

上田が席を立った後、僕はちょっと具合の悪い自分に気付いた。。

昨日の疲れが抜けていない所に、今日うっかりそのまま散歩にも出て、炎天下を歩いていた。

 

そして、そのまま昼寝もしないで、上田と合流した後も、色々歩き、シクロのおじさんと怒鳴り合い、そのまま大急ぎで劇場に行き、この店に至っている。。

 

何より、今まで自分のペースで 1ヶ月も生活してきた僕は、友人が来た事で、知らず知らずのうちに はしゃいでいたようで、結構無理をしていたのだろう。。

どれくらい体調が悪かったかと言うと、

僕は久しぶりにビールを頼んでいなかった。

これはかなりの重症であるはずなのだ 笑

 

戻ってきた上田が、そんな僕を見て心配してくれたが、何故か上田も少し顔色が悪い。

 

 ちょっと… 疲れが出てるかな。。

 少し、熱中症気味かもしれない。

 でも、上田も顔色悪いけど、どうした?

と聞くと、

トイレがまず 汚かった事と、トイレを出てすぐの廊下で、ネズミの様な 何か踏みそうになったそうで、

「うわっ!? な、なに??」となり、

よく見てみると、まだ目も開いていない、生まれたての仔猫が、埃まみれの薄汚れた姿で「ミーミー」と鳴きながら、足元にいたと言うのだ。

 

それを聞いて、流石に僕も引いた。

かなりゾッとするお店だ。。

「もう、ここを出よう。。」となり、

店には申し訳無いが、鍋は半分くらい残っていたが、そのまま出る事にした。

よく考えてみると、ガイドブックでも有名な店のはずなのに、僕らしか客がいない事も 確かにおかしかった。

 

店から出て、僕はかなりクラクラしていた。

「づま、大丈夫??」

と言われて、

「いや、大丈夫じゃないかも… 汗」

せっかく来てくれた上田に、心配をかけたくは無かったが、情けない事に 強がる気力もなかった。

 

「あたし、まだ買い物もあるし、

 一人で帰れるから、もう宿に帰りなぁ。

 十分2人でまわれたよ〜。

 凄い楽しかったし、大丈夫だよ。」

と言ってくれる 上田の優しさが身に沁みる。

 

本当は、彼女を 空港まで見送りに行くつもりだったが、この状態では、もう一緒にいても迷惑になりそうだ…。

 

「ほんとにごめんね。

 たぶん、軽い熱中症だと思うから。

 宿で休めば治ると思う。。」

宿まで送ろうか? と言う上田に、流石に遠慮し、タクシーで宿まで帰る旨を伝えた。

また日本で ゆっくり旅の話をしようと、約束をして、上田が止めてくれたタクシーの前で、握手とお別れをして、僕は宿へと向かった。

 

タクシーは、ありがたい事に ぴったり宿の前に着けてくれた。

そして、無事に宿に帰った僕は、水をがぶ飲みした後、ベッドに倒れ込み、そのまますぐに気を失っていた。。

 

つづく…  ハズ。

 

 

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↑ 水上人形劇場に展示してある人形

 クセになる可愛らしさ?がある。


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↑ 開演前に間に合った!!

 

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↑ 何度見ても、素晴らしい舞台

 

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↑ エンディング。

 超絶技巧の人形使いの方々。

 

 

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↑ 例の火鍋屋である。

 美味しくはあるのだが…

 

 

次話

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人生初シクロで シタ苦労

 

第105話

人生初シクロで シタ苦労

 

昨日泥の様に眠った僕は、心地よいベッドで ゆったりと目を覚ました。

(んん? あ、そうだ… また違う天井だ。。)

と僕は、宿を変えるたびに見る 新しい天井の景色を眺めていた。

 

時計を見ると、まだ8時頃だ。

しばらくゴロゴロしていたが、僕は起き上がり、シャワーを浴びる事にした。

 

ドアを開け 廊下に出ると、人の気配は全くない。僕は共同のシャワートイレに入り、シャワーを浴びる。

石鹸とシャンプーのボトルも設置されていたので、それを使い身体と頭を洗う。

シャンプーは、かなりメンソールが効いていて、結構 痛かった。。

(こ、これ… キツイな。 は、禿げないかな??)

などと心配だったが、在るものは使うに限る。

せっかく買った石鹸は、勿体無いので、なるべく使いたくはない。

 

各国のボディソープや、シャンプーを色々使ってきた僕だが、

これは 歴代最強クラス のメンソールだった 笑

当たり前だが、アメニティも、国によっても、宿によってもかなり違う。

それも なかなか興味深いものである。

 

身体がだいぶ軽くなっていたので、僕は午後の待ち合わせまで、また散歩に出る事にした。

(実はこれが間違いであった事は、後で分かる)

 

ハノイの街を結構周るが、炎天下を周っている内に、昨日の疲れが出た僕は、ちょっとクラクラ来たので、カフェに入る事にした。

 

冷たいアイスコーヒーを頼んで、ゆったりとする。

Wi-Fiを繋いで、色々調べものなどをしている内に、上田との待ち合わせの時間が迫って来ていた。

僕はカフェを出て、待ち合わせの彼女の宿に向かう。

宿に着くと、丁度彼女はフロントで、大きいほうの荷物を預けているところだった。

今日の夜の便で、彼女は日本に帰るのだ。

 

 なんか、そこらへんに 他のと一緒に

 荷物置かれてるんだけど… 大丈夫かな?

と心配する彼女に、

 どこもそんなもんだよー。

 フロントの前だから、意外と安全だよ。

と慰めてから、二人で街に出る。

 

まだ お昼ご飯を食べてないので、美味しそうな、米の麺の つけ麺屋のおばさんから、

「オイイシヨー!ヨッテって!」

と日本語で誘われた僕らは、そこで食べる事にし、予想通り美味しかった つけ麺に舌鼓を打ち、その後 観光に出る。

 

「水上人形劇が見たい!」と上田が言い

僕は「いいネ!」とばかりに、同意した。

 

ホーチミンで 一度見ていた僕だが、もう一度見てみたいと思っていたし、ハノイ版はどうなのかも気になっていた。

 

先に チケットを買いに行くことにした僕らは、昨日行った池の、周りにある劇場に向かった。

劇場は、いかにも老舗感のある建物で、2階が劇場の様で、一階の窓口でチケットが買えた。

ウェイティングバーなのか、窓口の隣にはバーと、お土産屋があった。

 

無事にチケットを買えた僕らは、彼女の提案で、「シクロ」という、自転車の前に客席を付けた、人力の乗り物に乗る事にした。

 

事前に交渉して、2人で30万ドンと言われたところを、25万ドンに負けて貰って、市内を周ってもらう事にした。

 

ちょっと高い気もしたが、せっかくの観光で、1250円なので、1人625円だと考えたらまぁ良い値段だろう。

一人だと、乗る事は無かったシクロだが、2人だと楽しそうだ。

 

おじさんは、ニコニコして、とても良い人そうだ。カタコトの英語で、色々街を説明してくれる。

オススメだという、小物屋さんに案内してくれ、上田もテンションが上がり、色々店内を見ている。

 

観光を再開したあたりで、おじさんが、写真を見せてくれ、

「これは私の息子だ。警察官なんだ。」

「偉いんだ、私の息子は。」

と自慢してくる。

 

最初は、微笑ましく聞いていたが、車中でも、同じ事を何回か言い始めた。

僕は少し違和感を感じていた。。

 

ホーチミン廟の前の大通りの前を過ぎて、その近くの公園を一周したところで、少し降りて休憩になった。

 

そろそろ戻らないと、

「水上人形劇に間に合わないね」

と話し合って、おじさんに、間に合うかな?

と聞いた所、おじさんは

「間に合わせるから、先にお金を払って欲しい」

と言い出した。

 

まぁ、ここまで来てくれたら、もう大丈夫かと思い、25万ドンを渡そうとすると、

「50万ドンだ!!50万ドン!!」

と、突然おじさんが言い出した。

 

最初、キョトンとしていた、人の良い僕達だったが、よく聞くと、どうやら、

 1人25万ドンの約束だから、

 2人で 50万払え!!

と言っているらしい。

僕は最初に、2人で25万だと、しっかり交渉していたので、「始めやがったな…」と思う。

 

上田は多分 人生でもボッタクリにあった事はないだろうし、女性なので

「えええ? そうなの?

 でも、25万の約束だよね??

 づま、どうしよう?」

と不安がっている。

 

おじさんは、先程の笑顔の "恵比寿顔" とは真逆の「悪い顔」になっている。

まるで、水戸黄門の「越後屋」の様な、分かりやすい悪顔だ。

そして、先程見せていた 息子の写真を見せて、

「警察だぞ!! 私の息子は!!」

と脅しをかけてくる。

 

ここまで来ると、はっきり解る、分かり易すぎる "ぼったくり"  である。

「えええ? づま、、どうしたらいいの?」

と言っている 彼女も護らなければならない。

 

何より僕は、認めてはいないが、カンボジアですでに、詐欺にもあっている 笑

これまでの 経験が生きてくる。

 

僕の頭はフル回転し、

(上田は 今日帰るから、僕と違い、

 後日、彼に会う事もないだろう。)

とまで考え、彼と対峙した。

 

「いや、2人で25万だとあなたは言った。

 間違いない。50万なんて払わない!!」

とかなり強くいうと、彼も負けじと、

 なら、警察を呼ぶ!!息子は警察だぞ!!

 電話するぞ!今するぞ!!

 私思いの息子は、すぐ飛んでくるぞ!!

と電話を見せて脅してくる。

(ああ…さっき しきりに息子が警察だと

 わざわざ言っていたのは、この脅しの

 伏線だったのね。。)

と気付く。

 

(コイツ!  かなりの確信犯だ!!)

僕は怒りが込み上げて来た。

 

「それなら、絶対払わない!!

 なんなら 1ドンも払わないぞ!!

 25万ドンだけにするか、

 それとも無しにするかだ!!」

と僕がいい。

「いや、50万払え!」

「いや、25万か、ゼロかだ!」

と言い合いをしばらく続けていると、

彼は憎々しげに僕を睨んだ後、

再び電話を見せながら、

 息子に言いつけてやる!!

 ひどい、あなたは酷い。。

 こんな年寄りを!!

 あんなに自転車を漕がせて!!

 25万で済まそうというのか!?

 ここまでいっぱい漕いだ!!

 50万と言ったに決まってるだろう!!

と泣き落とし気味に言われた。

 

たしかに、不当な事を言い始めたボッタクリだが、年寄りの彼に自転車を漕がせて、若者の僕達がゆったり座っていたのは、事実である。。

 

僕は人が良いのか、、

(たしかに… そこは間違ってないな。。)

と思ったが、もう対処は1つしかない。

 

僕は、彼の 一理 だけは認め、

「じゃあ、後 5万ドン(250円)だけ、

 チップとして渡す。これはチップだからね!

 じゃあね!タクシー探すわ!!」

と、上乗せした5万ドンとで、おじさんに30万ドンを無理矢理握らせて、上田に

 

「行くよ!! どうせシクロがあるから

 追って来れないから。」

と言って歩き出した。

 

策士の僕は実は、交渉をしながら、

「なら払わないぞ!」と、何度も脅しのジェスチャーも兼ねて、少しずつシクロから離れながら 怒鳴りあっていたのだ。

 

おじさんは、結構向こうにあるシクロが放って置けないので、悔しそうに、電話をかけるふりを始めたが、僕は上田をせかして、とにかくボッタクリシクロから離れていった。

 

後ろを振り返りながら、トラブルにならないかと 心配している上田に、

「大丈夫だから。 追って来ないから。

 十分 向こうも儲かってるから。」

と、タクシーの相場も知っている僕は、彼女を急かして 大通りを曲がり、僕達は 彼の視界から消えた。

 

ボッタクられたとは言え "無賃乗車" は、さすがにやばいだろうと思い、料金は払ったし、チップまで渡したのだから

(無賃乗車だなんだとの、

 警察沙汰にもならないだろう)

と計算して、まだハノイに滞在する僕は、

彼や、彼の仲間に

 " あまり恨みを 買わない様に "

とも計算して、一応5万ドン上乗せしていたのだ。

 

"ボッタクリだから" とは言え、

人を あまりやり込めると、必ず恨みを買う事を、僕は人生経験でよく知っている。

 

「ボッタクリされたから、

 こうしてやった!!

 1円も払わずに降りてやった!」

などと武勇伝を作る事は、僕は あまりしたくない。

何故なら必ず何処かで、恨みを買っていそうで怖いからだ。。

 

百戦錬磨の旅人ならば、まず最初の値段が高いとか、もっと上手くやれるよ?

と思うのだろうが、海外で初めてのボッタクリに遭遇した僕は、この対応で精一杯だった。

上田を不安がらせない為に 強がってはいたが、なんのかんのいっても、僕も内心ドキドキだったからだ。

 

その後僕達は、タクシーを捕まえて、無事水上人形劇に間に合った。

 

色々あったが、公演にも間に合って、

僕は ほっと胸を撫で下ろしていた。。

 

続く

 

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↑ 美味しい米のつけ麺。

 薬味の香草は、かなりキツかったので

 あまり使わなかった 笑

 

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↑ 水上人形劇に展示してある人形

 


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↑ いざシクロで市内観光!

 

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ホーチミン廟の前も周る!


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↑ 最高の笑顔のおじさんと僕。

 まさかこの恵比寿顔が、

 越後屋顔になるとは。。


「やれやれだぜ。。」と言いたくなった 笑

 

 

次話

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友人と周る ハノイ 2日目

 

第104話

友人と周る ハノイ 2日目

 

買い物を終えた上田と 無事合流した僕は、彼女が腹ペコだというので、早めの夕飯を食べる事にした。

 

彼女が行ってみたい店があるというので、僕は例の如く彼女に任せる。

よく考えたら、優秀な日本人ガイドが来てくれて、案内してくれる様なものだと気がついたのだ。

下調べをちゃんとしてくれている彼女に感謝しつつ、場所の特定だけは、僕が仕事をした。

 

考えてみると、僕もハノイに関しては、彼女の1日先輩であるに過ぎず、彼女の方が 下調べをちゃんとしている分、僕より優秀な旅人であるはずなのだ。

 

上田がお金を下ろしたいというので、先にATMに向かう。

日本では、あり得ないが、ベトナムのATMは、剥き出しのことがよくある。

日本の様に、屋内とか、小部屋のガラスの自動ドアの先にあるのでは無く、一応濡れない所に設置されているが、自販機の様にドンと置いてある。コンビニも、店内では無く店頭にドンと置いてある。

 セキュリティ的に大丈夫なのだろうか…?

と思うし、やはり外置きなのでだいぶ傷んでいることが多い。。

 

そして、僕もそうだったが、外国のATMでクレジットカードでお金を下ろすのは、結構ドキドキだ。

「え〜と、これでおろせるの?」

と剥き出しのATMを見ながら、上田も少し不安そうだ。

(ああ、旅の最初の頃の自分を見ている様だ…)

空港の時の僕ほど酷くは無いのだが、気持ちが痛いほど分かる。

しばらく待っていると

「なんか下ろせないみたい。。」

と帰ってきた。

「途中まで、俺がやろうか?

 暗証番号の所だけ 後ろ向いてるから」

と言うと、

「このATMが、私のクレジットカード会社に

 対応して無いみたい。。」

と言うので、お金は、多めにおろしていた僕が出す事にし、明日お金を下ろしたら、渡してもらう事にした。

「日本に 俺が帰った時に

 日本円で返してくれても良いよ 笑」

 

と一応言ってみたが、彼女は

「明日買いたいものもあるから、

 明日おろして返すね。 ありがとう!」

と明日返してもらう事になった。

 

正直僕は、

(まだ何か買うんだ。。

 スゴいな… 女子とベトナム 笑)

ともう笑ってしまったが、それくらいベトナムでのショッピングは魅力的なのだろう。

 

彼女が見つけてくれていたお店は、庶民的なお店で、扉などない路面店で、歩道にもテーブルが出ている。

だが、地元の人達が並んで待っているほどの人気店であった。

 

僕はベトナム人が並んでいるのは、空港のイミグレーションでしか見た事がなかったので、結構面白かった。

「ここはフォーがめっちゃ美味しい、

 隠れ家的なお店なんだって〜」

と上田が教えてくれる。

たしかに地元の人が並ぶくらいだから、本当に美味しいのだろう。 しかし、凄いリサーチ力だ!!

 

少し待っただけで、僕と彼女はお客さんでごった返す店内の小さなテーブルに案内してもらった。

注文も彼女に任せる。

色々と勉強家の上田は、必要最低限のベトナム語を、ちゃんと覚えてきていて、果敢にも ベトナム語での注文に挑戦していた。

(うーん。。前から思っていたが、上田は

 やっぱり努力家だし、頭がいいなぁ。。)

と日本で会うよりも、上田の一面が より垣間見える。

 

(やはり日本以外で、友人と会うと面白いな…)

そんな事を考えながら、フォーをすする。

 

一口スープを飲んだが、確かにうまい!!

僕はあっという間にフォーを食べきってしまった。

だが、向かいを見ると、彼女はまだ半分も食べていない。

「ごめんね〜、ちょっと待って〜」

と言われて

(しまった!!ジェントルマサミ 一生の不覚…

 美味しすぎて、彼女のペースを考えずに

 自分だけ 一気に食べてしまった。。)

 

ここまで、あまり人と食卓を囲む事なく、気儘に「孤食」を続けて来たせいで、自分のペースだけで食べるという習慣が、いつの間にか身体に染み付いていた事に気付いた。

 

僕はすぐに

「全然 大丈夫だよ〜 汗

 ゆっくり食べてね。あ、そうだ!

 ビールでも飲んでるからさ。」

と店員にビールを頼み、それを飲んで誤魔化す事にした。

 

しかし、日本ではあまり意識しない 彼女の一面に、

「ふふっ、色々気付かされるな…」

などとカッコつけていたくせに、

旅の間に身についた、自分のクセの様なものに逆に気付かされて、僕は赤面していた。

 

それに気付いたのか

「どうしたの? づま。顔赤いよ?」

上田が心配してくれたが、僕は

「いやぁ…? 酔ったのかな? 笑」

と誤魔化すしかなかった。

 

とにかくフォーを食べた僕たちは、昨日楽しかった、歩行者天国へと向かう。

露天も多いが、今日も相変わらず、色々な出し物がやっている。

 

本格的に、照明を入れて、美しい民族衣装の様なものを着て、舞踊を披露している集団もいる。

煌びやかに踊る女性たちの前に、これまた着飾った男性がいて、何故か 火をつけた棒をお客さんに渡していく。。 何かの魔除けだろうか?

そして、彼が渡す火は かなり炎が大きい…

面白いが、お客さんが心配になる。

 

そして、中でも素晴らしかったのは、ヴァイオリンで路上ライブをやっているパフォーマー集団だった。

やはり、路上と言う事もあり、何かノリが違う! めちゃくちゃカッコいい!!

夜空の下で聞く、アップテンポのヴァイオリンは、物凄くポップだ!

僕らも、大興奮して、ノリノリだった!

お酒を片手に、大喝采を送る。

 

そのまま色々話しながら、ハノイっ子の憩いの場になっているであろう、池に向かう。

 

ここは、僕の最初の宿から3分ほどにある、深夜でも人がいる場所で、貸しセグウェイ屋がいるのか、セグウェイに乗って遊んでいる人も多いし、パフォーマーもいる。

 

しばらく見ていたが、ちょっとしんどい自分がいた。

やはり、今日は意図せず、蟻に早朝に叩き起こされ、かなりの炎天下を歩き、床屋に行き、宿を移動し、昼寝もしてない事もあり、かなり疲れていた。

 

しかも、夜で気温は下がっているとはいえ、やはり暑い。。

「ちょっと、クーラー効いてる所で、

 少し 座らない?」

と提案し、その池の目の前にある、飲食店が各階に入っている、大きな建物に入る事にした。

ここは4階建てで、各フロアーに店が入っているが、3階にある " ベトナムサイゼリア?" と言う感じの店に入る事にした。

窓際の席にしてもらい、下の池を見下ろしながらゆったりと出来た。

 

色々話し、明日は 昼過ぎから遊ぼうという事になり、夜も遅いので、彼女を宿まで送り、僕は自分の宿へ戻った。

流石に今日は色々ありすぎて、かなり疲れていた。。

 

宿といえば、夜は明かりがついているので、

逆に暗黒路地は 明るくなっていたし、流石に民家の全開ドアも閉まっていた。

 夜の方が、逆にプレッシャー少ないな この宿…

そう思いながら、カードキーで玄関のガラス扉を開け、自分の部屋へ戻った僕は、

クーラーをつけた後すぐに、シャワーも浴びずに、ベッドに倒れるように寝てしまった。。

 

そして僕は夢さえ見ない程、泥の様に眠りこけていた。

 

つづく



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動画 「ハノイの路上舞踊パフォーマンス」

https://m.youtube.com/watch?v=B8TI6Ur1WPg

 

 

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↑ 陽気に並ぶ僕と 混み合う店内


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↑ バカうまな「フォー!」と

 付け合わせの揚げパン


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歩行者天国には、露天も多い。

 

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↑ 池の前。 イベント期間だったのか

 モニュメントもあった。

 

次話

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失った時と 巡り会う。

 

第103話

失った時と 巡り会う。

 

この宿は、3階に上がるまでは アレだが…  上がってしまえば、そこは快適で清潔な空間だった。

この建物で、僕の別館エリアだけが まるで天国だった。

 

暗黒路地から、宿のガラス扉迄の "魔窟感" は凄いが、逆にギャップが大きくなり、よりこの部屋を素晴らしく感じさせる 笑

 

この3階フロアには、従業員さえいないので、今は僕一人しか居ない。

まるで、一軒 家を借りきった様な 贅沢な気分になっていた。

(清掃でベットメイキングしてくれる度に、

 カップル仕様にセットしてくれるので、

 バスタオルを 普通に四つ折りに畳み直し、

 シーツに撒かれていた花びらを、ゴミ箱に

 片付けるのは、ちょっと手間だったが…)

 

僕は ゆったりとベッドに寝転んで、何時だろうと思い、腕時計で現在時間を確認した。

 

そう。。僕は腕時計を手に入れていたのだ。

カンボジアで腕時計を無くしていた僕だが、実は初日のバザールで、腕時計を購入していたのだ。

 

その店は、バザールの 一階のエリアの端で、道路との境目で営業していた。

机程の大きさの、二段しか無い棚の、安っぽい汚れたガラスケースに、時計や腕時計が 全部で7点程並べられていた。

 え〜とぉ。。 し、品数… 少なっ。

と思いながら覗いてみると、僕の目は、ある腕時計に釘付けになった。

 

そこにある一点は、僕が日本から持ってきていた腕時計と うり二つだった。

あまりに同じだったので、一瞬僕は、

 自分の無くした時計が

 ここで売られているのでは??

と疑ったくらいだった。

 

しかし、冷静に考えてみると、僕が時計を無くしたのは、カンボジアである。

ベトナムで売っているはずがない。

 

包装などされていない その時計は、中古なのか、新品なのかもわからない。。

僕は目の前でタバコを吸っている、元は白だったであろう うす茶色の汚いランニングを着ているおっさんに話しかけた。

 

 えーと、その腕時計見せてくれない?

 

 ああ? どれだ?  ああ、これか?

 ん、ほら つけてみな?

彼は、ケースの鍵を外し、建て付けの悪すぎるガラスケースを、ゴリゴリゴリ…と無理矢理開けて、腕時計を渡してくれた。

(鍵をする必要はあるのか…?)とツッコミを入れたかったが、我慢して「サンキュー」と言って、それを受け取った。

 

手にとって、見れば見るほど 同じ時計だ。。

腕につけてみる。

 うーん、時計を無くす前の左腕だ。

 腕が、元のデザインに戻った。。

 なんか落ち着くな。。

 

僕は ある事をほぼ確信していたが、あえて値段を聞いてみた。いくらですか?と。

 

 その時計か?  いいだろ?

 なにせメイドインジャパンだからな。

 えーっと、8万ドン(400円)だ。

 

(ああ、やっぱり偽物かぁ。。)

僕はそれを聞いて、確実に偽物だと確信した。

CASIOの腕時計が、日本でも1500円だったものが、アジアとはいえ、400円なわけが無いからである。

僕は値引き交渉に入った。

 

 ええ〜? 8万は高いよ!

 もう少し安くなりませんか?

 せめて6万とか??

 

と聞くと、おっさんは商売する気がないのか、黙って僕から腕時計奪い取ると それをしまい。

急に無愛想になり、タバコを消し、新しいタバコを吸い出した。

 

全く交渉する気はない様だ。

僕は、どちらにしても腕時計が必要だったので、もう彼の言い値で買うことにした。

(まぁ、必要なものを買うのに、

 400円なら安いはずだ。

 それに偽物だったとしても、

 あまりに話が出来すぎている。

 この時計は ガラスケースでずっと、

 きっと 僕だけを待っていたはずだ。)

と勝手に不思議な縁を感じていた僕は、僕を完全に無視しているおっさんに、黙って8万ドンを差し出した。

すると、おっさんも黙って、ガラスケースを開け、その腕時計を渡してくれた。

そしてお互い無言で別れた。

 

だが僕は、不思議と「感じが悪い」などとは思わなかった。

(彼の性格や、商売のやり方なのだろう。)

と、何か妙に 納得できるおっさんだったからだ。

 

何にせよ、僕の左腕のデザインは 旅の当初に戻り、僕は気軽に時間を確認できる様になったのである。

(まぁ、やはり偽物らしく ボタンは少し緩いし

 毎日、キッチリ1分づつズレていくが、

 アジアでは大した問題では無い 笑)

 

そんな僕は、ベッドに仰向けに寝転びながら、天井をバックに、自身の左腕を見て、ニヤついていた。

 

そういえば先程 ショッピングに精力的な上田から、LINEで、

「もう少し、買い物したいから、

 待ち合わせ時間 伸ばして〜。

 終わったら連絡するね〜^_^」

と、買い物の延長戦の申し入れが来ていた。

 

しかし、僕の様な 旅行先で滅多に買い物をしない人間からすると、

(しかし、、よく そんなに

 買いたい物があるもんだなぁ。。)

と感心してしまう。一体何を買っているんだろうか?と。

 

やはり、 女性+ベトナム=買い物

なのだろうか? そういえば「地球の歩き方」を買った有楽町の三省堂でも、ベトナムの棚は

「女性向けのガイドブック」で溢れていた事を思い出す。

ベトナムとは、日本女性にとって「桃源郷」なのかもしれないと、改めて思う僕であった。

 

だが、せっかく親友と会えているのに、僕より買い物を優先されている事実に、

 もおぉ〜、ちょっと傷ついちゃうなぁ。

と僕は、少し買い物に嫉妬してしてしまうが、僕の方が年上だし、旅の先輩ぶっているので、そんな事は口が裂けても言えない 笑

 

「私と、買い物! どっちが大事なの?!」

と言いたくなり、女性心理が何となくわかった様な気がした。。

 うーん、酒でも飲むかぁ。

と思った僕は、この心地よい部屋から出て、宿の近くの散策ついでに、一杯やろうと宿から出る事にした。

相変わらずドア全開の 民家の前を通り過ぎて、暗黒路地に降りて、僕は日の当たる通りに出た。

 

この通りには色々お店がある。

今日はベトナムの若者達が多くいる、ロックな感じのするレストランに入った。

ビールは相変わらず50円ほどで飲めるので、席に座り、それを頼む。

メニューは色々あるが、僕は例の如くフレンチフライを頼み、ゆったりと飲み始めた。

 

しかし、まだ3日目なのにハノイでは、色々起きる。。

慣れているはずのベトナムだったが、都市が変わると結構違う。

僕にとっては「ベトナム」と一括りにしていたが、縦長の国ベトナムの、南の端のホーチミンと、北の端のハノイはきっと、博多と青森くらい違うのだろう。。

日本でも、都道府県で 全然気質が違うのだから、外国もそうである という、基本的な事に今更気付いていた。

 

ここまでが、あまりに長編ブログの為、読者の皆様も勘違いされているかもしれないが、

この時の僕は、生まれて始めての旅で、実はまだ一ヶ月ちょっとしか旅していない、未熟な旅人だったのです 笑

 

だからこそ、旅は続く

 

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↑ 清潔で快適な 素晴らしい部屋

 

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↑ 僕の腕に 戻ってきた時計

 

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↑ 腕時計と運命的な出会いを果たした

 バザール。熱気がすごかった。

 

次話

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アリノナイ世界へ ホームステイする。

 

第102話

アリノナイ世界へ ホームステイする。

 

青空床屋での散髪が終わり、髪の毛も水で流し サッパリとした僕は、バックパックを取りに、一旦 宿に戻る事にした。

 

実は 今朝起きてすぐ、宿を変える決心をしていたのだ。それは、昨日の上田のアドバイスで決めた訳ではなかった。

今日僕が 早起きしていたのには、一つ理由があった。

昨日上田と別れてから、さらに飲みたくなった僕は、一人でバーで呑み、深夜1時過ぎに宿に帰っていた。

本当は、もっとゆっくりと寝ているつもりだったが、朝、ある事で叩き起こされていたのである。

 

カーテンの隙間から 朝日が差し込む部屋で、僕は首がチクチクするので、違和感を感じて目を覚ました。。

手で首をかきながら払うと、手にも何かが付いているのを感じた。

 んん? え?! なっ、なに!?

僕は飛び起きた!

 

そして周りを見て、仰天した!!

なんと、小さな蟻が 行列を作り、ベッドの上を行進していたのだ。

足が多いベッドの、足の1つから登り、彼らは僕の喉元の辺りを通り、向こう側へ行進していたのだ!

 うわ!! なんだよ!? おい!!

 ふざけんなよ!? おいっ! アリっ!

僕は首や、胸元に入り込んだ蟻達を必死に手で払っていた、服も脱いで、バスルームの鏡で見ながら全部を払った。

 

払いながら、

 俺は、パンじゃねぇっつーの!

 冗談じゃないよ… マジで 泣

 

半泣きの僕はさらに

 無理だわ ここ!  バカかよ!?  

 お馬鹿さんかよ?! 

 どんなモーニングコールだよっ!?

と本気で毒づき、ツッコミを入れていた。

 

そして、僕は怒りに任せて、

 もぉお! 宿変え けってぇーい!!

 はーい!! 決定しましたよー!!

 アリだけに、無しになりましたよー!!!

と叫んでから、僕は もう行進するアリ達は無視して、蟻から遠い椅子に どかっと座り、booking .comで宿を探し始めた。

 

前の魔窟の時から思っていたのだが、ガイドブックが紹介する安宿では、ろくなことが無い。。そして日本人にも会えた試しがない。

 

僕はもう、旅に出てから一番信頼している、ホテル検索サイトで、自力で宿を探す事にした。

近くに、良さそうな宿を見つけた僕は、バスタブは無いが その宿に移る事にした。

 

荷物をまとめ、干していたシャツも生乾きだが全てしまい、僕はフロントに降りていった。

部屋のドアを開けた時、ドアの下の隙間から蟻達が来ていた事が分かったが、もうどうでも良かった。

チェックアウトついでに、

「蟻を完備しすぎたろ!?この宿!」

と文句の一つも言ってやろうと思っていた。

 

だがフロントにいたのは、昨日 思いっきり怒鳴りつけてしまった 若いスタッフだった。

彼は 僕の顔を見ると怯えた表情をする。。

どうやら、よっぽど怖かったらしい。

(昨日 どんなキレ方をしたんだろう? 僕は…)

と罪悪感が頭をもたげる。

 

      彼はもう 十分罰をうけている。。

 

そう思った僕は、もう クレームさえ入れずに、黙って宿を出る事にした。

 

チェックアウトする旨を伝え、手続きをしてもらう。

そして、次の宿のチェックインは、最短で 午後1時なので、僕はバックパックだけ フロントに預かってもらい、そのまま今朝の、散歩兼 散髪に出ていたのである。

 

そして今に至る。

午後1時前に、移動の為に宿に戻ってくると、例のいい加減そうなオーナー兼 主人がいた。彼は僕を見るなり、

「どうして宿を変えるんです?!

 ハノイの次の宿はどこですか??」

と、珍しく気色ばんで聞いてきた。

 

僕はめんどくさくなり、

「いや、今日もうハノイを出るんだ。」

と適当に言った。

 

すると、何故かその嘘がバレて、

「イヤ! アナタは 宿変えるダケ!

 ドシテ?  ナゼこの宿ダメか?!」

と急に日本語で言ってきた。

 

( えっ? なんで分かったんだろう??

 ん、、まぁ、勘だろう。。

 もうめんどいからいいや)

と思った僕は、まだ何か言いたそうな彼を無視して、バックを背負い「グッバイ!!」とだけ言い残してその宿を出た。

 

この宿には、クレームの一つも入れてやりたかったはずなのに、

逆に自分が、罪悪感を覚えさせられて 宿を出るという "不思議な理不尽さ" に、なんか笑えてきた。

(まったく… 凄い宿だなぁ 笑)

と歩きながら、吹き出していた。

 

この宿の方が、今朝の青空床屋より、よっぽどネタとしては秀逸である。

 

そんな事を考えながら歩いていくと、次の宿の前には、5分程で着いた。

前の宿が近いので、

(あのホテルの前は 当分通れないな…)

と思ったが、しょうがない。

遠回りすれば良いだけだと 自分に言い聞かせる。

 

Googleマップでは、宿の目の前に着いているはずだが、ホテルのような建物はない。。

そこには、歩道でタライに水を溜め、食器を洗っている女性がいるだけで、そこから路地はあるが、袋小路で、本当に暗い狭い路地だ。

 

(この先には民家しかないのでは…?)

と思いながら、恐る恐る路地に入っていくと、悪臭もする。。

 

右手に階段があり、僕の宿の表示があった。

斜め上を指している矢印通りに、階段を上がると、2階は 広めの踊り場といったところで、かなり暗い。。

階段を登り切ろうとしたところで、僕は止まった。

いきなり、暗い廊下を挟んだ目の前に、

ドア越しに「明るい部屋」が出現した。

玄関のドアが全開で開いており、上半身裸のお父さんと、おじいさん、その家族が

「ザ・ベトナムの一般家庭」という感じで、食卓を囲み、一家団欒していた…

 

一瞬、(本当に民家に迷い込んだのか?)

と思った僕は、次に、

 

「え? えっ?!   嘘でしょ?

 マジのホームステイじゃないよね??」

と呟いていた。

 

実は このホテルの名前が

「An Family Homestay」

だったからだ。

 

だが、サイトの写真では、ちゃんとした、綺麗なシングルルームであり、シャワートイレだけが共同だったはずで「本当のホームステイ」などとは書いていなかったはずだ。

 

僕が、呆然と彼らを見つめていても、彼らは無視、と言うか全然気にしない。家族の誰も僕を見ない。

「何か用ですか?」とすら思ってない様子である。

 

僕は勇気を出して、階段を登り切ってみた。

するとドアの前を過ぎた先に、さらに階段があり、その階段だけ やけに綺麗だ。

 

ドアの前を横切り、その階段を登ってみると、ガラスのドアがあり、そこにインターホンがあった。

そしてそこには、ホテル名が書いてあった。

ドアの中も、雑然として暗かった2階とは違い、かなり綺麗で明るい。

 

僕はほっとした。

「流石に あの一般家庭に

 ホームステイは厳しいぞ。。」

と思っていたからである。

 

インターホンを鳴らし、しばらく待つと、スピーカーから スタッフの声がして、オートロックの扉の鍵が空き、そのまま中で待つ様に言われた。

 

扉のすぐ横に 共同スペースの小さなテーブルと椅子があり、僕はそこで待つ事にした。

しばらくすると、スタッフが 下の階段から上がってきた。そして鍵を開けて、入ってきた。

てっきり奥から出て来ると思っていた僕は、面食らったが、この謎は後で解ける事になる。

 

背の低い、20歳そこそこであろう、頭の良さそうなスタッフが、部屋に案内してくれるという。

まずは共同のシャワートイレを見せてくれる。

そして、その向かい側の部屋が僕の部屋で、大きなダブルベットがあり、そこそこ寛げるスペースもある。

 

ちょっとびっくりしたのは、いかにも

「愛の巣へようこそ!」という様な、カップル向けの演出がされていた事だ。

シーツの上には、可愛く折られたバスタオルが置かれ、赤い花びらが散りばめられていた。

(俺は一人で泊まるんだが… 笑)

と苦笑いする。。

 

しかし、それ以外は、本当に綺麗な良い部屋だ!

ここは僕の部屋から外階段を上がった4階に一部屋と、隣に一部屋しかなく、今日は僕しか泊まる人は居ないらしく、この空間を全て一人占めらしかった。

前の宿と変わらない値段の割にはだいぶ得をした気分だ。

 

鍵を貰い、荷物を置くと 彼は

「手続きをするから、付いてきて」

と言って 階段を降り始め、何故か一緒に、宿の外の通りまで出た。

そして彼は、同じ通りの4つ先の建物に入って行った。そこはしっかりしたビルで、ビジネスホテルの様だった。

どうやらここのフロントが、僕の部屋のフロントでもあるらしい。

 

僕の部屋は、このホテルの別館だったのだ!

無料のモーニングも、このフロントの奥の 食事スペースで出るらしい。

そして、謎だった2階の人々は、元々あそこに住んでいる人達で、彼の親戚だそうだ。

 

どうりで、急に見知らぬ旅行者が上がってきても、何も騒がないはずだ。

彼らからすると、そんな輩には、慣れ切っていたのだろう。

 

だが、最初に何も説明が無いので、そんなの分かるわけがない。

あと、「ホームステイ」という紛らわしいホテル名も本当にやめてほしい 笑

 

なんにせよ僕は 手続きを済ませ、別館に戻る為に、悪臭のする 暗い路地へと戻って行った。

 

(ここさえ過ぎれば、居心地のいい部屋だ)

そう 自分に言い聞かせながら。。

 

続く

 

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↑ 事件現場。。


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サラバ! 愛しのバスタブ。


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↑ 新しい宿、 えーと。。

 僕は1人で寂しく泊まるのですが… 笑

 

 

次話

azumamasami.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

海外で初散髪。そこは青空と風の中…

 

第101話

海外で初散髪。そこは青空と風の中…

 

昨日 上田が、会話の中で、

日本にいる もう一人の俳優仲間からの

「伝言」を預かっているよー!

と言ってきた。

「散髪 いつ行くの? 」と。

 

 

そういえば、、日本を出る前に、そのもう一人の仲間から貰ったアドヴァイスの

"外国に行ったら やってみてねリスト" の中に

「海外で散髪をする」というのがあった事を僕は思い出した。

 

今日本にいる、 タイを勧めてくれた、これまた俳優仲間でトンチのきいている彼女は 20代の時、タイの床屋で 髪を切った時に、前髪をパッツン切られて「ちびまる子ちゃん」にされたと言っていた。

 

日本にいると、マネージャーが営業に使う

「プロフィール写真」や「撮影の繋がり」の関係もあり、我々俳優は、殆ど髪型は変えられない。

阿部寛さんなんかは、他の人に短く切られすぎたりするのが嫌で、自分で切っていると聞いた事がある。

(因みに僕は、たまたま受かったCMで

 阿部さんと共演させてもらった事がある)

 

長い旅とは、この機会に 思いっきり髪型で遊べるチャンスでもあるのだ。

それより何より、とんでもない髪型にされても、海外だから、旅の間にまた伸びるので、

ガンバ以上の大冒険が出来るのである!

 

「明日は、午前中は買い物に行きたいから、

 別行動しよう」と提案してきた 上田からも

「私がいる間に、髪切ってきて、

 明日、生で見せてよ! 笑」

と言われて、ぼくも ついに髪を切ることにした。

 

日本でもよく、私を乗せて楽しんでいる彼女達を楽しませる為、僕は旅での "ネタ作り" の一環も兼ねて、散髪屋を探すついでに、朝早く散歩に出た。

僕は別に 芸人さんでも無いのに である 笑

 

最初に見つけた美容室は、看板の写真に大きく男性が描かれ、彼の左右の側面は 頂上まで? 断崖絶壁と化している。

従業員を見ると、皆、側面がエベレストか、アンナプルナ岩壁の様に、クライマーを寄せ付けない程の異様を放つ  "刈り上げ" だ。。

高尾山にしか登った事がない僕には、この山は レヴェルが高すぎた。。

「僕は…まだ 死にたくない。。」

と呟き、そそくさとその場を離れた。

 

ノリが良すぎる僕は、万が一店員に話しかけられたら、うっかり説得されて、彼らとブラザーになりそうだと、危険を感じたからである。

 

そのまま南の鉄道駅を過ぎて 歩いていくと、オレンジツナギの国家公務員を見かけた。

若い女性で、一生懸命ゴミを拾ってくれている。

だが、ホーチミンと違い、圧倒的に ゴミの量に対して戦力が足りない。。

彼女はこのクソ暑い中、決して勝てない大量のゴミという怪物達と、必死に闘っていた。。

僕はそんな彼女に敬意を表しながら、さらに歩く。

途中に 日本製品専門店を見つけ、

(ここも、ミンさんの経営する店かしら??)

と思いながら歩く。

 

それにしても本当に 暑い。。

(誰だ??ハノイに行くと風邪を引く

 とか言っていた輩は…。)

と、ホーチミンで「ハノイは 寒い…」と言っていた友人に毒付きながら歩く。

 

僕はやがて、巨大なスタジアムにぶち当たった。

門が空いていて、入ってみると、どうやらサッカースタジアムである。

芝は少し禿げ上がった場所もあるが、数万人を収容できる規模のスタジアムである。

中に入った僕は、結構圧倒されていた。

そして、こんな立派な施設に、普通に中に入れる事に ちょっと笑ってしまっていた。

(おーい!首都ぉ! セキュリティぃぃ!?)

と 一笑いした僕は 外に出て、スタジアムの周りを歩き出した。

 

その時に、まるで恋に落ちるかの様に、運命的な出逢いを果たしてしまった。。

 

このスタジアムのかべを利用した

「青空床屋」を見つけてしまったのだ。。

 

なかやまきんにくんをソフトな髪型にした様な、全面積を刈り上げた20代前半であろう、目のギョロギョロした おとなしそうな若者が、ハサミを片手に持っている。

そこには、スタジアムの壁に鏡を立てかけただけの、謎の床屋がキックオフしていたのである。

 

スタジアムの壁に 鏡を立てかけただけで 一人で営業する床屋さん。。

なんと言ったらいいか、床屋界のファンタジスタだろうか??

 

(流石にここは無いわ…(^_^;)

と思って通り過ぎようとすると、だいぶ髪が伸びていた僕を見た、店員であり店長?の彼がハサミを片手に

 床屋ですか? 床屋ですよね??

ジェスチャーで僕に一生懸命、話しかけてきた。

 いや、いやぁ。。うーん、そう??

と僕は話だけ聞こうと近づいた。

すると彼は「どうぞ」と椅子を引くが、僕はここで切る気は無い。

 いやいや、、座りませんから 笑

 なんか… 本当に ここ大丈夫なの? 

と思わず聞くと、

 

「OK OK!」と言う。

 

 …えーと、、ハウマッチ?

 

聞いても、「OK OK!」と彼は言う。

 

 いや、だから値段です…  いくらですか?

 

「ア〜、うん、OK  OK!」

 

どうやら彼は、英語は「OK」しか知らない様だ。

だが、その「オーケー」だけで、なんとかコミニュケーションを取ってくる。

「オーケー」のニュアンスと、表情と、ジェスチャーで、全てを解決しようとしているのだ。

 

僕も面白くなってきて、ふざけて

「Oh! オーケー?」と聞き返すと、彼も大きく頷き 嬉しそうに、

「OK OK!」と席を進める。

 

僕は半笑いで「おーおー!オーケー? OK?」

とやりとりしている間に、楽しくなってきてしまい、ノリで うっかり席に座ってしまっていた。

 

(し、しまった!  や、やられた!?)

 

悪意があると、すぐに分かり 対処するのだが、彼はとても良い人そうで、安心感があったのか、僕も彼のノリに引き込まれてしまっていたのだ。

 

まるで彼に 「シャル・ウィ・ダンス?」

と、はにかんで手を出された舞踏会で、

 

(あら? この人良い人そうだわ。。

 それに一生懸命、わたくしなんかを

 誘ってくださってるわ。。)

とうっかりその手を取ってしまったかの様に…

 

(これは 一番やばいパターンだぞ…

 マサミホイホイに引っかかったぞ。。)

 

自分が悪いのだが、僕は早くも後悔し始めていた。 うっかり座ってしまったが、

(流石にここは無いだろう。。)

とかなり焦り始めた。

 

ノリとはいえ、座ってしまった以上、何か理由を付けなければ、ここを出れない。

彼はニコニコしながら、僕に髪除け用のエプロンを、全く自然につけ始めていた。

 ちょ、ちょっとストップ!

 ノーOK! オーケー??

 えーと、お金、ドン! ドンいくら??

とぼくが言うと、「アー、、OK 」と言っている。

 

僕は財布に たまたま色々な種類のベトナムドンが入っていたので、相場のわからない僕は、とりあえず、

20万ドン(1000円)を、提示すると

「OK OK!」と言ってきた。

僕はどうせ「OK」しか言わないだろうと思い、とことん値切ってみることにした。

 

交渉さえ決裂すれば、僕はこの席から解放されるからだ!!

 

札二枚提示し、15万ドン(750円)に変えて、「OK?」と聞いてみる。

 「OK OK!」

さらに、10万ドン札(500円)に変えてみる、

 「OK OK!」

 

僕は 流石に怒るだろうと思い、

5万ドン札(250円)を提示すると、

「OK OK!」

…全く変わらないテンションで、「OK OK!」と言う。。

 

流石に僕も観念した。。

これ以上値切っても、彼は「OK OK!」と言う事がわかったからだ。

もう、彼はいくらでも 僕の髪を切りたくてしょうがないのだと思ったのだ。

それに、流石にこれ以上値切るのは、本当に失礼な気がした。

 

僕は観念して、ひと際 元気な声で、

 「おっけぇええ〜〜〜 !!!」

と絶叫し、彼に伝えた。

その僕の叫びは、ハノイの 気持ちのいい青空に吸い込まれていった。

 

流石に「刈り上げ」全盛の

「刈り上げてなければ、人にあらず」という平家システムのベトナムに抗うため、僕は彼の髪型を指差して、

「ノーストレート、ノーまっすぐ、

 ノー刈り上げぇええ!」

ともう日本語で、必死にバツを作り、ジェスチャーで伝えた。

そして、日本の僕の事務所のホームページの宣材写真を見せて、

「これ!これ!!これにして〜〜!!」

と懇願していた。。

 

勿論彼は、全てに「OK OK!」と返してくれたが…。

 

画像だけは真剣に見てくれた彼は、僕の髪を切り始めた。。

 

最初、切腹する武士の様に覚悟を決めた顔をしていた僕だったが、彼がハサミを動かす内に、徐々に表情が柔らかくなってきた。

(あれ?? 彼の介錯…意外と上手く無い??)

僕の手を取り 踊り出した彼は、実はかなりのテクニシャンだったのだ!!

 

僕は笑顔になり、

(もおぉ! 上手なんだったら、

 勿体ぶらずに、早く言ってよ〜。)

とはにかんでいた 笑

 

やがて意外と良い感じになった僕は、

(これだとネタにならないじゃん!

 もう。ぷんぷん☆ ぷんぷん丸☆)

と可愛く怒りながら、彼にお礼を言い、

一緒に記念撮影して貰って、彼と握手し、そこを後にした。

 

外なので、ここには流石にシャンプー台は無く、高野豆腐か、足の角質とるやつ??という軽石レベルに硬くなったスポンジで、顔や、首や、肩の髪の毛を払ってくれたが、

顔をガリガリ、首をガリガリ

(ち、血がでるぅぅうう。。)

と言うくらい痛かったので、ついに僕は、

「NO! のぉぉおおお!! のおぉぉおん!」

と、「OK」とは逆の、たぶん この店では 言ってはいけないであろう単語を発して、ようやく解放されていた。

なんにせよ僕は、彼を

ベトナムシザーハンズ と呼ぶ事にした。

 

髪の毛が 顔にも付きっぱなしの僕は、このままじゃ気持ち悪いので、工夫で乗り切ることにした。

近くのお婆さんのやっている、本当に小さな、暗いお店に入り、おばあさんから2リットルのペットボトルの水を買い、頭を流すことにしたのだ。

人通りのない歩道を見つけ、誰もいなくなったタイミングで、Tシャツを脱いで上半身裸になった僕は、ズボンが濡れない様に前屈みになり、頭からその水をぶっかけた!

その瞬間である!!

 つ、つ、つめてぇええええ!! えええ?!

と僕は叫んでいた。

僕はおばあさんに、常温の水を指差して買ったはずだが、おばあさんは、知らぬ間に気を遣って、冷蔵庫でキンキンに冷やした水を渡してくれていたのだ!!!

考えてみると、確かに普通は、飲む用に買っていると思うはずで、おばあさんの優しさである。

 

そんな僕が、ヒーヒー 言いながら、何とか頑張って、頭を水ですすぎ終わると、何故か目の前には若い女性がいた…

彼女は、物凄く頭のおかしい人を見る様な目で 、僕を一瞥してから、目が合うと 逃げる様に走り去って行った。

 

海外で髪を切るのは本当に大変である。

皆様もご注意願いたい。。

 

因みに上田には、

「全然 おもんな〜い!!」

と案の定 ガッカリされた。

 

それでも 僕の旅は続く。

 

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↑ 見つけた綺麗なスタジアム


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↑ 髪を切る前の僕とスタジアム。

 写真では分かりにくいが、

 意外と髪はボサボサだ。


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↑ 青空と、本当に美しいスタジアム。

 この外壁に床屋があろうとは。。


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切腹の覚悟を決めた僕


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↑ 髪の毛と今生の別れをする僕…

 手前にあるのが 固すぎるスポンジ。。


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↑ あ、あれ?? 意外と…


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↑ お互いに大満足の 僕とジョニー・デップ


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↑ 全然おもんない僕が出来ましたとさ 笑

 

 

次話

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「遂に 外国で友に再会す!」の巻

 

第100話

「遂に 外国で友に再会す!」の巻

 

20xx年 宿のバスタブの栓をめぐる、

ハノイ バスタブ戦争」が終結し、

この宿は平和を取り戻していた。

 

僕は色々な疲れにより、ベットで少し横になる事にした。

心地よいクーラーの温度と、お風呂に入れた事による身体の柔らかさが加わり、僕はやがて平和な寝息を立てていた。。

 

だいぶ深く眠っていたはずだが、LINEの着信音が鳴り、僕は目を覚ました。

どうやらもう2時間ほどで、彼女は自分の宿に着くらしい。

そう、ハノイで再会する友人は俳優仲間で、女優でもある。彼女 上田とは、舞台共演は勿論、一緒に何回か旅公演も行っている、10年来の、親友であり、家族に近いというか、戦友に近い。

芝居や、プライベートな事も気兼ねなく相談できる 数少ない人物である。

僕が旅に出る前に、いつものメンバーで飲んでいた時、上田が、

「私もマイルが切れそうだから、

 使い切りに、近々ベトナムに行くから、

 旅の間に会えたら面白いよね〜」

と言って笑っていた。

僕が旅にでる直前に、上田は次の月に 丁度まとまった休みが取れる事になり、呑み屋で冗談で言っていた事は 実現の運びとなったのである。

 

ラインで、彼女の予約した宿の場所が、Googleマップ付きで送られてきた。

その場所は、僕の宿から歩いて5分ほどの、すぐ近くだった。

ハノイに慣れている僕が、彼女の宿まで迎えにいく旨を伝え、落ち着いたら待ち合わせ時間を決める事にした。

 

ついに外国で友人と再会する!

日本を出てから、1ヶ月以上が経ち、ついに最後のイベントである。

 

その後、僕は宿でゆったりと待ってから、待ち合わせ時間に彼女の宿に向かった。

かなりワクワクしている自分がいる。

 

会えるのも嬉しいが、日本語で遠慮なしに喋れるであろう事も、この嬉しさに拍車をかけていた。

僕は、一週間前にいた "プノンペン" を最後に、ここ一週間、今の宿の主人の 怪しい日本語にしか触れていないからである。

そんな事を考えていたら 宿にはすぐ着いた。

ホテルの階段を見上げると、ガラス越しにフロントにいる上田が見えた。

向こうもこちらに気づいて手を振って降りてきた。

「づま〜、久しぶり〜、焼けたね〜。

 というか、痩せたね〜! 」

と彼女は元気いっぱいだ。

(因みに「づま」とは僕のあだ名である)

 

僕もニコニコしながら、

 まぁね。色々あったからさぁ〜。

と半笑いで 返事をする。

 

彼女のその元気なノリを見て 僕は、

(観光客だ、、観光客が来た… 笑)

そう思い 実は少し笑ってしまっていた。

 

彼女は二日間ダナンに行っていて、満を辞してのハノイである。

僕の様な、時間だけはあり、ダラダラ過ごしていてる 暇な旅人 と違って、限られた時間で、行きたい所を周らなければならない。

 

そんな彼女はやはり気合が違うのだろう。

旅に出て以来、のんびりした旅人にしか会っていなかった僕は、彼女の その「観光客パワー」の様なエネルギーに、久しぶりに触れて、

彼女には悪いが、思わず何故かそう思って 笑ってしまったのだった。

 

 だが しかし、嬉しい!!

1ヶ月以上も "友人の誰とも会わないでいる" という事自体が、まず 人生で初めての経験である。

友人に会える事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。

 

あまりの事に 僕は少し人見知りしていた…

恥ずかしい話だが、長旅で、友人との距離の取り方が 少し分からなくなっていたのだ 笑

 

はにかんでいる僕が、とりあえずどうするかと話すと、彼女は「行きたいピザ屋がある!」と話が早い。

 

今日ダナンから来た彼女は、ベトナムを、限られた日程での観光である。

僕みたいに、なんとなく街をうろついている輩とは違い、ちゃんとガイドブックで、色々リサーチを 完璧にしてきていたのだ!

 凄い ちゃんとした旅行者だ!!

と感心しながら、僕は別にどこでもいいので、彼女のリサーチ力を頼りに、回る事にした。

 

彼女のガイドブックで探すと、なんだかよくわからない。。近くにはいるはずだが…

僕には旅で培った、勘のようなものがあり

「たぶん、こっちじゃ無い?」

と、ずんずん先導し、結局そのままそのお店に着いた。彼女は、

「すご〜い。やばい能力身につけてるね!」

と感心してくれたが、

言われてみると、そんな能力が身に付いているのは確からしかった。

 

ピザ屋に入ると、キチンとしたレストランで、何か場違いな感じがする。。

ローカルレストランばかり行っていた僕は、ちょっとオシャレすぎて苦笑いしていた。

 

だが、自分ではお店は 絶対に見つけられなかったはずで、たぶん見つけても入らないはずである。彼女のおかげで 違う街の姿を発見出来た。

 

(普段、どんなとこ行ってるん?自分…  笑)

と自分にツッコミ、相対化するいい機会である。

 

食べながら色々喋っている内に、リハビリが済んだのか、僕はようやく普通に喋れる様になっていた。

さすがは、10年来の友人だ、ありがたい 笑

 

ハーフアンドハーフの2種類のピザを一枚ずつを頼んで、シェアする事にした。

値段はまぁまぁ高く感じるが、よく考えると、日本に比べるとはるかに安い。

(自分の感覚が大分 ズレているのだなぁ。)

と気付かされる。

 

しかし、流石に有名なピザ屋である、接客も気持ちよく、ピザも美味しかった!

満足した僕らは、暗くなってきたハノイの街を散歩する事にした。

 

ここハノイは、街中は 歩行者天国になっていて、出し物や、舞踏、ミュージシャンなどがいて、ちょっとしたベトナム大道芸と言ったところである。

 

実は、彼女は結構おしゃべりで、僕もかなりのおしゃべりだ。

俳優同士であるので、お互い聞く力はそれなりに手に入れているが、気の許せる仲間同士なので、日本では いつもお互いマシンガントークで、激しく撃ち合っていた 笑

 

色々話をしていると、彼女が不思議そうにしている。

 あれ? なんかすごい聞き上手になってない?

 あんまり喋らないね。。

僕は「そうかなぁ。。」

と言っていたが、確かにそんな気がする。

 

少し考えてから彼女に、

 だぶん、こっちだと英語だから、

 とにかく 聞くことだけに、

 マジで集中してないと、本当にさぁ…

 コミニュケーションが成立しないから。

 とにかく聞こうとするクセが付いてるのかも

 だから、そうなっているのかもね…?

と話した。

どうやら僕には、昔 日本のインプロの師匠が、口を酸っぱくして言ってくれていた「傾聴力」なるものが、いつの間にか身に付いていたようである 笑

 

彼女は大爆笑して「すごい成長だ!」と大喜びしていたが、確かにそうなのかもしれない。

 

確かに芝居の勉強で、聞くことは学んでいたが、まだまだ自分発信で喋っていた僕は、旅の間に いつの間にか

「まず聞く」という事が出来るようになっていたのだ。

 

この旅での「成長」を、日本での僕しか知らない彼女が、色々気づいてくれた事で、僕も気付くことが出来たのは、収穫だった。

 

僕がハノイの宿 名物「蟻パン」の話をし、

「上田も パン食べる時は蟻に気をつけてね 笑」

とボケて彼女に

「いやいや、まず食べないから!」

とツッコミを入れて貰うやりとりもあり、このような日本語での、テンポのいいやりとりが非常に楽しい。

 

久しぶりに安心して日本語で話せる事が、本当にありがたかった!

日本語で話す事が新鮮に感じるのだから、なかなか人生で味わえない経験である。

 

そのあと 彼女に

「その宿さぁ…変えた方が良いんじゃない?」

と言われて初めて、

「そっかぁ…そうかもね。。」

と何も気にしていなかった自分に気付いた。

(確かに これは宿を変える理由になる案件だ…)

ちゃんとした感覚の彼女の意見は新鮮だった。

明日まで、あと一泊だけ予約していたので、僕は明日、他の宿を探す事も 視野に入れる事にした。

 

その後、歩行者天国の通りで、足マッサージの店の人に声を掛けられ、値引き交渉してみると、安くしてくれた。

あまりに自然に交渉する僕にも、彼女は驚いていた。「さすが、慣れてるね…」と、どうやら僕は、知らぬ間に このアジアに大分馴染んでいる様だ。

 

足マッサージをして貰いながら、隣同士でも下らない話を色々する。

僕の旅の話も、面白そうに彼女は聞いていた。

彼女は先に他の都市も2日周っていたので、その話も聞く。

ここは足湯で最初に足をしばらく漬けて、その後マッサージなので、かなりリラックス出来た。

「旅に連れがいると また楽しいものだ」

と改めて思う。

(次に、外国に行く時は、

 誰かと来てみようかなぁ。。)

という考えも頭をもたげる。

 

まぁ、彼女が帰ってしまったら、また一人だ。

とにかく、今この時をとにかく楽しもう!!

 

  人生初の "友人と周る外国 "  を満喫しつつ、

合流してくれた彼女に、僕は本当に感謝していた。

 

やはり、長い旅はしてみるものである。

 

つづく

 




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↑ 実は ベトナムにも出没していた

 カンボジアウォーターマン

 

 

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↑ 美味しいピザ!!

 ピザにはビールです^_^

 

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↑ めちゃくちゃ楽しそうな僕 笑



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↑ 彼女と再訪した夜の教会(聖ヨセフ大聖堂)

 


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↑ 足湯…からの足マッサージ

 隣同士での会話はリラックス出来て

 楽しくてオススメです。

 

 

次話

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