猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

3等車って、イイね!

 

第109話

3等車って、イイね!

 

窓から差し込む 優しい朝の光で、僕は自然と目が覚めた。

昨日、病み上がりで、うっかりビールを飲んでしまったが、朝起きると体調は万全だった。

 

念の為、日本から持ってきていた「ビオフェルミンS」を多めに飲んだ。

 

日本で旅前に 色々調べている時に、

正露丸」は 賛否が分かれていたのに対し、

ビオフェルミン 最強!」とか

ビオフェルミン良いよ!」と言う記事を結構見つけた。

その "ビオフェルミン最強説" を信じ、僕はこの整腸薬を日本から持ってきていた。

 

まぁ、整腸薬なので風邪などには効かないが、治って間もない僕は、せめて身体にビオフェルミンを多めに入れおく事にしたのだ。

 

胃腸の調子を万全にした僕は、今日は9時の列車に乗らなくてはならない。

朝早いので、初めてこの宿のモーニングを食べてみる事にした。

 

通りに出てから、左折し 四軒先のホテルに入る。フロントに別館のカードキーを見せたところ、奥へと案内された。

 

ここのモーニングは洋風の普通のもので、パンと、バットに入ったスクランブルエッグ、ゆで卵、サラダ、果物という シンプルなもので、自分で取って食べるビュッフェ方式だ。

3種類あるパンから、クロワッサンと、バターロールをとる。

もちろんその際に "蟻がいないか" をしっかり確かめた。

(まぁ、さすがにいないだろうが、

 …念の為、念の為。。)

前の宿の蟻パンは、実はかなりのトラウマであった。

大丈夫な様なので、スクランブルエッグと、バター、コーヒーを取る。

 

ここはフロントの奥という事もあり、縦長のスペースで、二人掛けの小さいテーブルながらも、席数は18程ある。そのうちの一つに座り、僕はモーニングを食べ始めた。

(蟻のいないパンは久しぶりだな。。)

よく分からない事を考えながら、バターを塗り、パンを齧っていると、初日に 別館の中を案内してくれたスタッフが、僕を見つけて 笑顔で話しかけて来てくれた。

 

「おはようございます。

 どうですか? 部屋の具合は?」

 

 とても良いですよ。 綺麗だし快適です。

 

「そうですか、嬉しいです。

 モーニングは初めて来ましたよね?

 どうですか? お味は?」

 

その気さくな感じに、油断した僕は

 いやぁ、グッドテイスト。

 パンに蟻がいないのも素晴らしいですね 笑

と、つい冗談を言ったところ、

 

彼は急に顔色が変わり、

「え? 蟻?? 何処に蟻がいましたか?」

と真剣に聞いて来た。

 

その真剣さに、冗談を説明するどころでは無くなった僕は、シドロモドロになり

 …ええと、蟻はどこにもいません。。

 いや… あの、前の宿にいました。

 

モゴモゴと 小声で言うと、彼は怪訝な顔をした後

「そうですか。。 では失礼。」

とフロントに戻って行った。

 

全く、迂闊なことを言うべきではない。

カタコトの英語で、わかりにくいジョークなど言う必要などなかったのだ!

 

僕は朝から盛大にスベった。。

びっくりするくらいの 大スベりである。

(これも蟻パンの呪いに違いない!!)

と僕は、関係ないはずの 前の宿のせいにした 笑

 

朝食をしっかり取った僕は、ハノイ駅へと向かった。15分程前に着く予定で、出発した。

 

最初、外国の電車なので

(時間通りにくるのか?)

と思ったが、よく考えたら ハノイ始発駅である、きっと時間通りに出るはずである。

 

駅につき 改札をくぐると、僕の電車は既にホームに停車していた。

駅スタッフに聞いて、自分の座席のある車両を教えてもらう。

今日僕の乗る3等車は、クーラーが無く、代わりに扇風機が回っているという以外は どんな席かはわからない。

 

中に入ると 車内は意外と混んでいる。立っている人はいないが、ほぼ満席だった。

車内を見渡すと、なんだか 懐かしい感じがした。

椅子は木の椅子で、4人掛けの向かい合った席になっている。時代を感じさせる車両は何故か、小学校の木造校舎を連想させた。

何か 懐かしい匂いのような、ノスタルジーを感じる車内だ。

 

気分の良くなった僕は、自分の席を探す。

3等車なのに、自由席ではないのが不思議だった。

車両の後ろから乗ったので、番号を見ていくと、どうやら僕の席は前の方であるらしい。

 

 

席を見つけると、僕の席のあるボックス席は、家族連れが すでに占領していた。

席番を確かめて、声を掛けるが、どいてくれない。「他が空いてるだろう??」と言い、全く席をどく気は無いようだ。

東南アジアあるあるで、皆、座席に関係なく空いている席に座っているらしい。

 

しょうがないので、斜め後ろの これまた家族連れの所に行くと、荷物をどけてくれず、いやな顔をされて、

「ここはあなたの席では無い」

と言われてしまった。

 

久しぶりに人に拒絶され、僕の心は硬くなっていった。

 もう車掌を見つけて、自分の席に居る人に

 注意してもらうしかないのかな?

と思ったが、出来ればそんな事はしたくない。

 

(うーん。。 どうしようか?)

と立ち尽くしていると、一番前の席にいた 若い子達のグループから、1人の青年が来てくれ、僕を席まで連れて行ってくれた。

 

4人掛けの席は、彼も入れて満席のはずである。座っていた1人が席を立ち、そこに僕に座るように促した。

「いや… さすがにそれは申し訳ないよ」

僕が遠慮していると、席を立った彼はどこからか丸椅子を持ってきて、通路に腰掛けて、ニコッと笑いかけてきた。

(ああ、そう言うことか。)と理解した僕は、お礼を言い彼の席に座らせて貰った。

不意に触れた若者たちの優しさに、僕の心は緩やかにほどけていった。

 

彼らは、女性1人、男性3人の、4人組だった。先程 僕を連れてきてくれた彼が、英語を喋れる。

話してみると、彼らはハノイの大学生で、下宿先から、これから実家に帰るのだと言う。

皆、同郷の生まれの、同級生だそうで、彼らはとても仲が良い。一年生なので、まだ初々しいと言うか、あどけなさが残る。

夏休みで、初めて帰省をするという彼らは、とても楽しそうだ。やはり慣れないハノイから、住み慣れた土地に帰るのが嬉しいのだろう。

 

聞くと、僕の降りる駅から、さらに3時間程行った駅で降りると言う。

彼らは若さゆえの好奇心と、若者特有の優しさを持ち合わせており、お菓子をくれたり、ずっと話をしてくれた。

ベトナムでは、日本の漫画やアニメが人気なので、その話でも盛り上がり。

僕は調子に乗って、スラムダンクの三井のスリーポイントシュートを打つ名場面を再現したりして、大盛り上がりだった。

 

彼らのお陰で 本当に楽しい時間となり、あっという間に1時間が経った。

そして、もうすぐフーリー駅に着くという時、彼らの一人が、

「一緒に、私たちの駅まで行きましょう!

 良い所ですよ、案内しますよ。」

とまで言って 誘ってくれたが、残念な事に 今日中に宿に戻らなければならないし、帰りの列車のチケットもあるので、僕は残念ながら遠慮した。

 

本当に残念そうな、悲しい顔をしている彼らを見て、

(泊まれるように出て来れば良かったな…)

と少し後悔したが、まぁ、これも旅である。

 

彼らとの触れ合いは、本当にいい経験だった。

(やはり3等車に乗ってみて良かった!)

僕は初めての3等車での、彼らとの触れ合いが、本当に新鮮で楽しかった。

 

彼らと握手をして別れ、僕は初めての土地 フーリー駅に降り立った。

駅舎を出るとすぐ右に小さな食堂、左手には小さなお店があり、すぐ目の前は国道だった。

早速 食堂をチェックしてみたが、あまり美味しそうではない。国道に出る。

建物は国道沿いに立派なものがあるが、会社のような建物ばかりだ。

そして国道の向こう側は何か田舎の風情がする。

 

僕は国道を渡り、すぐの川に出た。

川幅が結構ある、多摩川くらい広い川である。

そのまま橋を渡ろうとすると、

川に突き出た木製のコテージのような場所があった。何か面白そうだと思い、その場所に行ってみる。

 

近くまで来ると、何か看板がある。

ベトナム語で書いてあり、よく分からないので、奥も覗いてみる。。

 

奥では地元の人らしき人達が、朝から一杯やっている。 どうやらレストランの様だ。

 

少しお腹が空いていたので僕は、この川にせり出したレストランで、自然を満喫しながら一杯やる事にした。

 うん、まだ早いけど、まだ明るいけれど…

 今日は小旅行だものね。 そう。特別ね。

昼から飲む、呑兵衛特有の言い訳をし、

ここで僕は早めのビールを飲む事にした。

 

つづく

 

 

動画 フーリー駅ホームと列車

https://m.youtube.com/watch?v=DYhjoG6_erU

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↑ フーリー駅(右手は駅舎)

 


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↑ 国道沿いの建物

 (何かの会社のようだ…)

 


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↑ 国道のすぐ横の川と橋

 (結構川幅がある)



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↑ 橋から見つけた水上レストラン

 

 

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