猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

お風呂の栓で揉める… 事が人生にはあるらしい。

 

第99話

お風呂の栓で揉める… 事が人生にはあるらしい。

 

ハノイの街の北側をぐるっと周った僕は、大分北側まで行き、無事タクシーを捕まえて、宿に帰ってきた。

 

Googleマップの住所を見せると、宿にピタリとつけてくれた。

そして、お代も200円程で、バスよりは高いが、よく考えると かなり安い。

早くタクシーを使えば良かったと思うが、それはそれである。

中二階にある、少し広めのシングルルームに戻った僕は、昨夜は疲れていたので シャワーで済ましていたが、ついにお風呂に入る事にした。

「グフフ。。ゆっくりと浸かっちゃうぞ。」

と少し変態気味に喜びながら、お湯を張る。

  どどどドドドドド…

どんどんお湯が溜まっていく。

「クカカカカ! ドンドン溜まっていくわい!」

とおかしなキャラになり 笑いながら、僕はシャワーで汗を落としてから、やがてお湯が溜まったバスタブに飛び込んだ。

 ふうぅぅぅ。。あ"、 ああ"〜〜!

口から勝手に息が漏れ、ぼくはゆったりと足を伸ばして目を瞑った。

 ふぅ〜う。今日もいきなり色々あったなぁ。

とさっきまでの出来事を思い出していた。

今朝、蟻パンを食べた事が、遠い昔のことの様に思える。。

初日から中々 色々起きたし、体感できた。

しかしながら、夕方に来る

 " 日本からの友人に再会する"   という、

この旅を始めた時から発生している

「一大 最終イベント」が、まだ僕を待っている。

 

ゆったりと浸かっていると、疲れが出たのか、案の定 寝てしまった。

10分程で、ビクッと僕は起きた。

顔に、お湯をかけて目を覚ます。

僕は大分スッキリして、お風呂から上がった。

 

だが、ここで問題が起こった。

またしても風呂の栓が抜けなくなったのである。

一週間ぶりにベトナムに帰ってきた僕は、

ベトナム お風呂の栓抜けなくなる問題」

が頭からすっかり抜け落ちていた。

ここも例の「落下傘型のステンレス製の栓」で、紐などはついてなく、爪を引っ掛けて取ろうとするが、水圧で栓は取れない。。

 あぁあ"〜  もぉおお!!

と、せっかくの気分は台無しになり、僕はフロントに電話をかけた。

早速、背の高い若いスタッフが来てくれた。

彼はバスタブを見て、一応手を入れて、取れないとわかると、事もなげにこんな事を言い出した。

 シャワーがあるから問題ないね。

 シャワーを使って下さいね。

 

(え…嘘でしょ?  この人何言ってんの?)

僕は優しく言った。

 いや…、あのね。

 僕はバスタブ使いたいんですよ。

 なんとかなりませんか?

 今までどうやって栓抜いてたんですか?

 

 今までバスタブ使った人はいません。

 みんなシャワーだ。

 シャワーを使えば良いんです。では。

 

そう言って帰ろうとする彼に僕は辛抱強く話しかけた。

 いや、だからね、、私は、

 バスタブに浸かれるからこの宿にしたんです。

 栓を抜くマニュアルとかはないの?この宿?

 

 だから何度も言っていますよね?

 シャワーが使えます。何も問題はありません。

 何故 私のいう事が理解してもらえないんですか?

 

と言う彼に努めて冷静に僕は話しかけた

 いや、だからあのね。

 お風呂。お風呂に浸かりたいんです。

 日本人は、バスタブ大好きなんです。

 だから、シャワーだけじゃダメ。

 ゆー OK?

 

 お客さん 笑 あのですね…

 そんな事は、今まで誰も言ってきてないし、

 みんなシャワーしか使いませんよ?

 なぜバスタブなんかにこだわるんです?

 

かなりカチンと来ていたが頑張って話す

 だ、か、ら ワタシは、バスタブが必要なんです。

 バスタブがあっての この部屋の料金ですよね?

 

 ですからバスタブは使いませんって 笑

 お客さん、お聞きしますが、

 逆に、何故シャワーじゃダメなんです!?

 

 

と聞いてきた彼に、温厚な僕も、

ついに堪忍袋の尾が切れた。

 どぅあから!

 バスタブに入りたいんだよ!俺は!!

 シャワーだけだったら!!

 違う宿にしてるんだよ!!

 バスタブ!!バスタブが大好き!!

 バスタブ愛してる!!わかる???!!!

 アイ ラブ バスタブ!?

 ウィー ラブ バスタブ!!

 Japanese Love バスタブ!!

 ユー オーケー??!!

 どうでも良いから、栓抜く方法!

 聞いてこいや?!

 わからなかったら、桶かバケツ持ってこい!

 お湯抜いてから栓抜くから!!

 つーか、栓に紐くらいつけとけや?!

 前の宿は抜ける様に、

 ストリングス付けてたぞ!!

 ああ??聞いてんのか?! おい!!

 俺は アンダースタンド か聞いてんだよ!?

と、この旅で一番、僕はブチギレた。

 

たかが風呂でこんなにキレている自分を、

「大人気ないねぇ。。この人…」と、冷静に見ているもう一人の自分もいたが、我慢が出来なかった。

すると彼はあまりの僕の剣幕に、口をパクパクさせた後、

 す、ストリングス…?

 何故ストリングスがいるんですか? 泣

 分かりません。。 とりあえず、

 ば、バケツ持ってきます!

と半泣きで下に降りていった。

 

彼が出ていった後、僕は苦々しく溜息をついた。カタコトの英語同士で伝わらない事もストレスだったが、彼の怯えようを見て、

 あぁあ…嫌な事しちゃったなぁ。。

と自己嫌悪も感じていたからだ。

ホーチミンで、怒りに任せた挙句、

10人以上に追いかけられて、反省していたはずなのに、全く学習していない自分がアホにしか思えない。。

 

この長い旅で、大分 気が長くなったつもりでいたが、まだまだ何も成長していない自分に嫌気が差したし、あんなに彼を怯えさせた事を後悔していた。

 何様だよ、お前はよ…?

 おい、マサミさんよ!

と、自然と自分に毒付いていた。

 

ふと鏡を見ると、どうやら、僕はバスタオル1枚腰に巻いただけで、あれ程怒り狂っていたらしい。。

 あのさぁ。。 コントかよ…??

と笑ってしまい、そのおかげで、僕は気持ちがふっと楽になった。

 

(もう、風呂使えなくても良いや

 ちゃんと 彼にも謝ろう。。)

僕は今怒った出来事を笑って流す事にした。

 

しばらくすると、スタッフの男性は、凄い真剣な顔で、バケツを持ってきてくれた。

僕は「ありがとう」と柔らかくお礼を言い、彼の目の前で、 ザバー…、ザバー。

と、風呂の湯を抜いて行き、やがて半分以上湯が無くなったところで、栓を抜いて見せた。

彼は、「オー マイガー」とびっくりしていた。

僕は、「先程は言い過ぎてごめんなさい。」

と謝るが、彼はもう、僕が恐怖の対象でしか無いらしく

「いっ、いえ、だ、大丈夫です…」

と言って逃げる様に、下に降りていった。

もう、苦笑いするしかったが、前向きな僕は、この事はもう忘れる事にした。

都合のいい旅人であるが、忘れる事もまた大事な事である。

(ちゃんと謝ったし、後悔してるから、

 今 これ以上やれる事はない。)

と割り切ったのである。

 

実はこの日、夜中の 1時過ぎまで酔っぱらった僕が宿に帰ると、ドアが閉まっており、インターフォンを鳴らすと、フロント台の後ろに布団をひいて、隠れて寝ていた彼が、眠そうに目を擦りながら、ドアを開けてくれた。

 

それを見た僕は、家にも帰らずに仕事をしている彼に、さらに申し訳ない気持ちにさせられたが、それ以上に、あの日本語も 人使いもテキトーなオーナーに、少し違和感を感じながら、若いスタッフさんに より罪悪感を感じながら、ベッドで眠りについた。

 

いちいち勉強になるわ…  一人旅。。

と呟きながら。

 

凹んでいる日は、不思議と人恋しくなる事も、改めて感じた夜だった。

 

つづく

 


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↑ ハノイの街並み

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↑ 道路はこんな感じ 空いてる所と混んでる所がはっきりしている。

 

 

次話

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博物館の英語の長文で哲学する。

 

第98話

博物館の英語の長文で哲学する。

 

色々ホーチミンと 比べていたが、歩き周り始めると、僕はこのハノイの街が大好きになっていた 笑

 

大通りに戻り、さらに北側に向かうと、立派な博物館があった。

普段 博物館には滅多に入らないのだが、外観が気に入ったのと、観光客の集団が大量に出てきたのを見て

(今なら空いてそうだな?)

と想像して、中に入ってみる事にした。

 

受付の女性にお金を払って 中に入ると、予想通り、お客さんはまばらだ。

建物は近代的な作りで、吹き抜けた広い天井には、何故かシャンデリアがぶら下がっている。

ここでは、ハノイの歴史や、発掘物などが展示されていた。

船の闘いのシーンを再現した、ミニチュアの展示が面白かったりしたが、何の戦いなのかは分からない。

頑張って周ってみたが、説明が英語なので、僕には結構 理解するのが難しかった。

というか無理だった 笑

実は、中学の時 英語アレルギーだった僕は、英語の長文を見ると、目眩がするのだ。。

 

そう言えば、そんな僕は 高校生の時

(英語は人生に必要ない。いや、

 厳密に言うと、俺の人生には必要がない!)

と馬鹿なことを本気で思っていた。

英語の授業中にずっと、当時ハマっていた、角川スニーカー文庫の「フォーチェン・クエスト」を読んでいた。

ようは勝手に授業をボイコットしていたのだ。

 

この時の英語の先生というのは、頭が大分禿げ上がったおじさん先生で、ある日僕は、彼に職員室に呼び出された。

この先生は頭ごなしには怒らず、

「なぜ授業中に、本を読んでいるのか?」

と丁寧に、理由と話を聞いてくれた。

 

そこで、いかに自分に英語が必要ないか という事をいちいち説明し、テコでも動かない頑固な僕に、

 うーん、わかった。

 君の言ってることはある意味正しい。

 ただ、そのままと言う訳にはいかないよ。

 そこで提案なんだけど、

 ノートだけはとって欲しい。

 それさえしてくれたら、

 別に本を読んでようと構わないから。

と、提案をしてくれ、

僕も「それならばノートだけは取りましょう!」

と生意気ながら、話し合いは無事 落とし所を見つけた。

(当時の僕は何様だったのだろうと、

 若気の至りが過ぎる自分を考えると、

 今でもお恥ずかしい限りである。

 ようは 本当に人間として未熟だったし、

 ある意味 純粋だったのだろう。。)

 

この先生が、頭の良い方であるのは 後で解る。

やはり ノートをちゃんと取っていると、本などを読む時間など無いのである。

男の約束を守る僕は、それだけをキチンと守っていた。そして先生の狙い通り、そのうち、本を読むことを諦め、授業に参加する事になったのだ。

本当に「よく生徒の性格を見ていた先生だなぁ」と、今でも思う。

今でも、この先生には感謝している。

プアーなイングリッシュしか持たない僕だが、それでも、この高校である程度はノートを取っていたから、ほんの多少は 英語が理解できる様になっていたからである。

この先生に出会わなければ、本当に、ナッシング イングリッシュになっていただろうし、大学にも受からなかったと思う。

 先生、本当にありがとうございます。

 

僕が中・高の教職免許を取ったのも、この先生に限らず、転校が多かった割には、この先生の様な、とても良い先生方に恵まれて来たからである。

(その後、大学でお世話になった教授に、

 せっかく学校まで紹介して頂いたにも関わらず、

 結局断って、俳優になってしまったが…)

そんな事を、思い出しながら僕は

(何やってんだろうなぁ…)と、少し自分を笑いながら、中を周っていた。

展示の内容は分からないながらも、色々思考が広がり、とても良い時間だった。

まさか、ベトナムで、高校時代の恩師の事を思い出すとは想像していなかった 笑

思考とはまさに繋がりであり、人との繋がりで 今の自分があるのだと気付かされる。

 

この博物館では、結局、ベトナムの原人? の様なパネルに顔だけ出し「ベトナム原人 マサミ」に変身した以外は、あまり理解出来なかった 笑

 

博物館を出た僕は、また歩く。

バス停が目に入ったので、バス停に書かれた路線図を見てみるが、かすれているし、また大雑把でよくわからない。

ホーチミンでは、職員用のバス路線図を、バス会社の優しい職員さんから頂いていたので、どのバスに乗れば どこら辺に行くかは 大体解っていたが、ハノイでは流石に路線図をくれる人はいないだろう。。

(一般の人用に渡す、配る路線図は無いと

 前に、ホーチミンで聞いていたからだ。)

 

 実地で乗って覚えていくしか無いな。。

と腹を括って、早速バスに乗ってみた。

宿の方向に向けて乗ったはずだが、右折して欲しいところを、バスは、早速左折レーンに入り、反対側に走り出した。。

 うぉーい!!いきなり逆行っとるがな (^_^;)

と焦ったが、そこはグッと我慢する。

 まだ、どうなるかわからないぞ!

と自分を励まし、少しの希望に縋ったが、バスはドンドン宿から離れていく。。

流石に諦め、3駅目でバスを降りた。

道の向かいのバス停に向かい、そこから今来た方向に向かう右車線から、来たバスに乗った。

先程のバス停の近くに来たところで、バスを降りた。

僕は 冷や汗をかきながら、

(やはり、、行き先も分からないバスに乗るのは

 かなり無茶だな。。汗 )

と今更実感していた。

 

ここで改めて考えてみた。

(うーん、マレーシアでは、高いし、

 運転手がヤバめだったから乗らなかった。

 カンボジアはそもそもトゥクトゥクだった。

 しかし、ここはベトナムだし、

 そろそろタクシーを使っても

 良いのでは無いだろうか?)

昨日、宿にぴたりと着けてくれた事も考えると、ハノイのドライバーさんは、かなり優秀なはずだし、市内を移動するのなら、そんなに高くは無いだろうと、僕は今更だが この旅でタクシー利用を解禁することにした。

そういえば、不思議な事に、あまりベトナムでは、ボッタクリの話も聞かなかったからである。

帰りはタクシーに乗ってみようと決めて、僕はさらに歩いた。

左手に劇場があった。がぜん興味が湧き、中を覗いてみると、下がジャージでTシャツを肩まで腕まくりした、若者がベンチで休憩していた。

ここの俳優さんだろうと思い、話しかけると、やはりそうで、これから稽古だという。

「夜に公演はあるが、

 自分はまだ修行中なので、出ない」

と教えてくれた。

僕も劇団の研究所時代を思い出し、彼と少し話をした。聞くと、芝居を始めてまだ間がないとのことだった。

今は身体訓練や、シーンスタディをやっているらしい。

僕も俳優だと伝えると

「是非見に来てください」と言ってくれたが、

「君は出ないんだよね?」と聞くと、

「僕はまだお芝居には出れないんです」

とはにかんでいた。

その初々しさは、もう僕は、とうの昔に捨て去ってしまったものだ。

僕は 初心を思い出させてくれた彼に、

「時間があったら見に来るね、

 あと、あなたが早く舞台に出れる事を

 楽しみにしてますね」

と言うと、嬉しそうに

「ありがとうございます」

と言ってくれ、別れ際にチラシをくれ、握手をして別れた。

彼の力強く握られた手から、よく鍛えられている事、この若者の前向きな力強さとエネルギーを感じた。

何かパワーを分けてもらったかの様に、力が湧いてきた僕は、ついに道でタクシーを捕まえて乗る事にした。

結構ドキドキする。

外国に1ヶ月以上いるが、流しのタクシーに乗るのほぼ初めてである。

 

たかがタクシーに乗るだけで、こんなにも、思考し、エネルギーを使い、本当にドキドキする事があるのが、やはり初海外ならではである。

 

やはり旅は面白い。

 

つづく

 

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↑ 作りが素敵な 博物館

 


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↑ 何かの戦いらしいが…

 


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↑ 発掘された マサミ原人

 


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↑ 亀さんと 船さん

 



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↑ 何度見ても難しいバス路線図…

 


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ハノイの劇場



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↑ 街歩きで見かけた綺麗な建物たち

 

 

次話

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ハノイに歓迎される

 

第97話

ハノイに歓迎される

 

「蟻パン」への怒りを 少し吐き出した事もあり、前向きにその出来事を 綺麗さっぱりと "手放した" 僕は、さらに街を北上した。

 

しばらく行くと、小さなコンビニくらいの大きさの、日本語が書いてあるショップがあった。中を覗くと「メイド イン ジャパン」の商品を 専門に扱っている店らしい。

どうやら今日がオープン当日らしく、大々的にチラシなどを配っていた。

ここで、僕は「しめた!!」と思っていた。

 

僕は日本から、体を洗うのに、牛乳石鹸を持ってきていた。シャワールームで、それで身体も頭も洗い、ついでに洗濯物も一緒に洗っていた。

勿論、シャンプー 石鹸付きの宿もあったが、ドミトリー宿では無い事が多かったからだ。

長旅では、固形石鹸が1個あると、かさ張らないし、かなり便利なのである。

だが、その愛用の石鹸は、旅の間にかなり小さくなってきており、新しく買い足す必要があったのだ。

そこにきて、このメイドインジャパン専門店である!  まさに運命としか言いようがない。

 

店の中に入ると、日本ショップのコンセプトなのか 浴衣風のコスプレ? という格好の、女性と 男性店員が、日本語で元気に挨拶してくれる。

「いら〜シャい! まセ〜〜!!」

店内には、客は僕一人なので、みんなで大歓迎してくれる。

お目当ての石鹸を探すと、牛乳石鹸は無かったが、日本製の花王のホワイトがあった。

(おお! そこまで高くない。よし 買おう。)

と思った僕は それをひとつ取り、レジへと向かった。

「ありガトぅ! ゴザぃマァスっ!!」

レジに向かうだけで 大変な騒ぎだ。。

 

僕は何か楽しくなりつつ、レジで会計を頼むと、

レジでは色白の、とても素敵な妙齢の美人さんが、会計をしてくれた。

着慣れていない浴衣もどきを着ているので、はだけた胸元が チラリと見えそうになる。

僕は目のやり場に困った。。

(ご、ごちそうさまです。。)とうっかり思うが、本当に可愛らしい笑顔で会計してくれるので、

(おい!マサミ! 卑怯だぞ、見るなよ!

 お前は紳士のはずだ!!我慢するんだ!)

と僕は自分にそう強く言い聞かせ、目を逸らした。

僕は目を逸らしながら、胸元を直すジェスチャーをして、

「ビー ケアフル(気をつけて…)」

と言うと、彼女は恥ずかしそうに、浴衣を引き締めた。。

(なんて 可愛らしい女性なんだろう…)

本当に僕は 一目惚れ寸前だった。

(また、彼女に逢いに来よう。。)

と思いながら 外に出ると、開店のお祝いなのだろうか?

綺麗な、真っ白なテーブルクロスを掛けたテーブルが、4つくらい 歩道沿いに並んでいて、そこで 数人が楽しそうにしていた。

純白の布を掛けた椅子などは、大きなワイン色のリボンで おしゃれにデコレーションされていて、まるで結婚式のようだ。

 

若い経営者らしき人物が、友人達とワインを開けて、そこで開店パーティーをしていた。

彼は短髪の、かなり洗練された印象の、骨のありそうな、爽やかなイケメンである。

目が合うと、彼から話しかけてきた。

「どうですか? お店は?」

と聞かれて、石鹸が手に入って助かった旨を伝え 挨拶した後、旅をしている等 少し話すと、彼はニコニコして、

「一緒にお祝いしてくれませんか?

 もう少し、お話もしたいですし。」

と自分の隣の席を引いてくれた。

遠慮するのも何なので、僕は

「そうですか。。ありがとう! では。」

と席に座って注がれたワインで 皆と乾杯した。

 

お互い自己紹介をすると、彼は「ミン」さんという名前で、このショップの経営者だそうだ。

他にも2店舗経営しているらしい。周りにいるのは、経営者仲間の友人や、親戚だという。

 

この開店祝いは、お祭りのような雰囲気で、ミンさんと話している間にも、目の前の道にベンツなどの高級車が止まり、彼の友人や、親戚が降りてくる。

その度に、ミンさんはこの人は、兄だとか、同級生だ。と嬉しそうに紹介してくれる。

ミンさんは、男気のありそうな、柔らかい笑顔の、とても良い男だった。

色々話してる内に、僕が俳優だとわかり、店の衣装についても聞かれた。

僕は日本では、老舗の劇団の研究生だった事もあり、一応着物は自分一人で着れる。

 ちょっと、着崩れが気になるかなぁ。

 あのレジの女性なんか、胸元が危ないので

 気をつけた方が良いですね。

 

 そうなのか、マサミ。

 気をつけないといけないな。

 何でそうなるんだろう?

 

 えーと、ミンさん、

 これは身も蓋も無いかもだけど、

 材質自体が滑りやすいから

 そうなりやすいと思う。

 まぁ、レジの方が、とても綺麗な女性で、

 僕は今日、ラッキーでしたけど。

 ちょっと好きになりそうでしたよ 笑

 

と お調子者の僕が、つい そう冗談で言うと、

ミンさんは笑いながら、

 あのね、マサミ、それはダメだよ。

 彼女はね、僕の奥さんだよ。

と嗜めてきた。

僕は焦ってしまい、

 ええ?? 本当に!?  

 アイムソーリー …But..

 アー、I'm ジェントルメン.  

 because…(何故なら…)

 ちゃんと目を逸らしました!!

とヘンテコな英語で 必死に弁解すると、

ミンさんはそれが可笑しかったらしく、かなり爆笑し、

 オーケー! マサミはジェントルだ 笑

 みんな! このジェントルマンに 乾杯だ!!

とみんなに言い、僕に乾杯してくれた。

 

懐の深い、優しいミンさんに、

(そら、奥さんも惚れるはずだわ…)

と僕は感心していた。

 

その後、40分程いた僕は、他の方とも色々とこれまでの旅の話などもし、酔っ払いすぎる前に お暇することにした。

ミンさんは笑顔で、「是非また来て!マサミ」と言ってくれ、僕は、

「着付けが難しかったら 僕が指導に来ます。」

と約束して、また街を歩き出した。

 

それにしても気持ちのいい人たちだった。

ハノイに来て、いきなりいい思いをさせてもらった僕は、ニコニコしながら、無目的に街を歩き出した。

 

路地に入ったりと、思うがままに行くと、大きな川に出た。

小さな漁船も停泊しており、酔い覚ましも兼ねて、僕は 川から吹く風に身を任せて、しばらくゆったりと佇んでいた。 川を見ながら、

「あーぁ、そっかぁ、人妻だったかぁ。。」

と つい呟いてしまっていたが 笑

 

それにしても、いつ見ても川はいい。

僕は川が大好きだ。

日本でも何かあると川に行っていた。

 

朝 6時開店のカフェで 早朝バイトをしていた時、出勤日を間違えて、うっかり休みの日に行ってしまった時も、そのまま帰るのも何なので、途中下車して多摩川に行き、コーヒー片手に、橋から1時間くらい川を眺めていたり、、

中学生の時、親と喧嘩して、酒は飲めないので、泣きながら 瓶のコーラ を売ってる自販機で瓶コーラを買い、戸塚の地元の柏尾川のプロムナードで、

尾崎豊の歌を呟きながら、怒りに任せ

「バカやろー!!」と叫んで、夜の川に瓶を投げ入れたのは、若気の至りだが いい思い出だ…。

 

川はいつも、人の気持ちを優しく受け止めてくれる。

悠久の時を刻むその存在は、人間の一時の感情など、意にも介さず、ただ流れ、ただ存在してくれているのだ。

 

 川はどこの国でも変わらんなぁ。。

 

酔いも手伝い、哲学的に川を眺めていた僕は、風がさらに強くなってきたので、街の方に戻ることにした。

 

つづく

 

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↑ 本日開店!!

 日本製品専門のショップ

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↑ オーナーのミンさん、皆さんと。



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ハノイを流れる ソンホン川(風強め)

 

次話

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郷に従うと酸っぱいよ、朝。

 

第96話

郷に従うと酸っぱいよ、朝。

 

んん?! ここは何処だ??

結構広いシングルルームで目を覚ました僕は、

初めて見る天井を見て、そう思っていた。。

 

 あぁ…  そうだった。。ハノイかぁ。

 そういえば ベトナムに来たんだった。

 

一週間ぶりに、寝起きで違う天井を見ると、一瞬、何処にいるのか 分からなくなるようだ 笑

昨日チェックインしたこの宿は、とあるガイドブックで オススメの宿であり「日本人もよく泊まる」と聞いていた宿である。

宿のレビューも結構高かった。

この宿を、何より素晴らしいと思ったのは、ここでもまた、前回のベトナム旅でしか出逢えなかった、

バスタブ付きの宿 だったからである。

 お お おー! お、お、お風呂に入れる〜♪

僕は、プノンペンの日本風宿の「屋上露天風呂」に入れなかったことも手伝って、バスタブがある事が決め手となり、この宿を予約していた。

結局、カンボジアの遺跡周りの勤続疲労を落とす為に、ここハノイ "セルフ湯治" をする事にしていたのだ。

朝ごはん付きなので、僕は顔を洗ってから2階の部屋からフロントに降りていった。

 

フロントには、明るいこのホテルのオーナーがおり、彼は日本語が少しだけ話せるらしく、

「オハーよー!ゴザイまぁす!」

と日本人の僕に、大きな声で元気に挨拶してくれる。

 

無料の朝食は簡単なもので、パンに、あとはビュッフェ的にウインナーや、ゆで卵が置いてあり、自分で取って食べる。

使った食器は自分で洗って、水切りの食器たてに戻すシステムだった。

硬めのコッペパンの様なものが、主食の様なので、トレイを覗いてみる。

すると、何故か小さな蟻が結構いる。。

 ええ? マジで?! 蟻がたかっとる…

びっくりした僕は、一気に目が覚めた。

 

周りを見渡すと、他の宿泊者の人達は皆、気にせずに、黙々とパンを食べている。。

ベトナムバックパッカー宿は、

 皆、こういうものなのだろうか?

 気にしたら負けなのだろうか…?)

と思った僕は、周りの人たちが あまりにも平然としているので、郷に従い パンを取ることにした。

(まぁ、払いのければ問題無いだろう…)

と思ったのである。

そういえば、子供の頃お世話になった 家の隣にあった教会の、優しかったおばさんも、ピクニックに連れて行ってくれた時に、おにぎりに蟻が一匹登ってきた時に、僕が嫌がると、

「あら、アリさんが食べに来るって事は

 それくらい美味しいおにぎりなのよ。」

と僕に優しく諭してくれたことも思い出し、

僕は旅慣れた旅行者然として、あえて騒がずに、アリを払って 黙って食べる事にした。

(俺が何カ国周ってきたと思ってるんだ!?

 ふーん。。全然こんなの気にしませんよ?)

と僕は強がっていたのだ。

インスタントコーヒーを入れ、ウインナーと、ゆで卵、パンを取った僕は、席に座り食べ始めた。パンを一口齧ると、酸っぱい。。気がする。

 …腐ってないよな??

匂い嗅ぐが、問題はなさそうだ。

今度は、中央の割れ目を覗いてみる。

 

するとそこには、先程のアリさん達が数匹、まだ歩き回っていた。。

 こんにちは。 ようこそベトナムへ!

アリ達に挨拶され、僕は戦慄していた。

何故なら、さっき酸っぱかったのは、アリを 一緒に噛み潰していたからだと 気付いたからだ。

(マジで?? もう飲み込んじゃったよ?!)

 

「うわー!!」と叫びたかったが必死に我慢し、再び周りを見てみると、皆平然と食べている。

僕も感覚がおかしくなり、自分が悪い気がして、

(そっか、、中も取らなきゃダメだったんだ)

という謎の境地に至り、パンの中の蟻を必死に取り出した。。が、表だけでなく、少し中にまで食い込んでいる奴もいて、なかなか大変だ。。

やっとの事で蟻を全て取ったぼくは、パンを何度もひっくり返し、確かめてから、何とか食べ切った。

朝から中々の試練だった。

 

一応、フロントの元気印おじさんにこの事を伝えると「ええ? ホントに?!」と焦ってトレイに行き、彼は目に見えている蟻を払いのけ、

「もう大丈夫!」と力強く僕に報告してくれた。

何が大丈夫なのかは、全然わからなかったが…。

 

そんな僕はとりあえず、ハノイの街に出る事にした。

昨日はすぐ近くにある、そこそこ大きい池の周りの公園へ 散歩に行ったくらいだった。

 

街に出ると、ホーチミンと違い、結構雑然としていて、道も狭い。お店もぎゅうぎゅうに営業している感じだ。

しばらく行くと、巨大な建物があり、中は、バザールになっていた。

3階建ての、中央が吹き抜けた巨大なモールだった。入って見ると、かなりの熱気だ。お客も多く、小さなお店の店主達と値段交渉をしている。

一通り三階まで冷やかした僕は、満足して、そこを出た。

 

さらに 歩いていくと、何やら かなり古い煉瓦造りの門があった。いきなり道に出現した感じで、2車線の道を、分断している。

真ん中に2メートルくらいのアーチ状の穴があり、そこからは、バイクだけが、出入りしている。上には国旗が飾られていて、ここだけ急に昔のベトナムの風情が顔を出す。

だが、特別感はなく、ここハノイの街並みや、地元の人達に違和感なく溶け込んでいる。

 不思議な門だなぁ。。風情もあるなぁ。

と引き込まれて、ここが気に入り、僕しばらく近くや遠くから眺めていた。

後で調べて見ると「東河門(ドンハー門)」という、有名な門であるらしかった。

 

街歩きをして見ると、不思議な事に、かなり街はゴミだらけだ。

ホーチミンでは、国家的ゴミ拾い人が、大量にいたのに対し、そのオレンジのツナギの人達は、かなり少ない。

 えーっと、ここは「首都」のはずなんだけど…

と、ベトナムの首都「 ハノイに対するイメージが崩れていく。

 

大通りを歩いても、オレンジツナギの国家公務員の方々は少なく、どうやら 捨てるゴミに国家公務員の数が追いついていないようである。

そして、ホーチミンでは各店に1人いた警備員の数も明らかに少ない。。

一人で2、3店舗見ている印象だった。

ホーチミンより、首都であるはずのハノイの方が、田舎のように感じた。

それでも、中々味のある街ではある。

 

僕は、昨日 空港から来るときに通った 大通りに出て、少し北上してみた。大通りは片側2車線で、車もバイクも多いが、ホーチミン程は 渋滞していない。

大都市同士のはずだが、結構違うものである。

僕はここで、ホーチミンのホテルのジョンが言っていた

ホーチミンが、一番暮らしやすいしね」

という言葉を思い出していた。

たしかに、ここベトナムの首都ハノイと比べると、ホーチミンは より洗練されている印象になる。

 

 何故、首都なのに、こんなにも、

 ホーチミンより、田舎に見えるのかしら?

 

と僕はベトナム政府のお金の使い方に疑問を覚えつつ

(まぁ、こういうの…  別に嫌いじゃないぜ? 笑)

とさらに歩いた。

 

そんな街を歩きながら僕はずっと

 (やっぱりおかしいよなぁ…)

と 朝食時に起きた現象について考えていた。

郷に従うというか、時空の歪みに引き摺られたかのように、蟻パンを食べていたが、二度と食べたく無い自分がいて、これは "旅慣れたから平気なはず" とかいう感覚とは明らかに違うはずだ。。   僕は考えた末…

 やはりおかしいのは、宿にいたアイツらだ!

という結論に至り、あの宿の朝食は二度と食べない事に決めた。

 

急に怒りが込み上げてきた僕は、

 ふざけんな…。 と呟いてから、

(もう食べないと決めたから、別にいいや…)

と前向きに、苦い記憶…というか、酸っぱい記憶とおさらばし、

ハノイの街を スッキリした気持ちで歩き出した。

 

つづく

 

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↑ どこもバザールはすごい熱気だ。

 行くだけでテンションが上がる。


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↑ 東河門(ドンハー門)

 歩いていると いきなり出現する。

 昔の風情を感じられてとても良かった。

 街中にあるので、よく前を通る為、

 その内に 親しみが出てくる。

 

 

次話

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ハノイの空港は夜

 

第95話

ハノイの空港は夜

 

午後9時50分、順調に飛び 時間通りについた飛行機から、ベトナムの首都 ハノイノイバイ国際空港に僕は降り立った。

 

ついに人生で初再訪の国、ベトナムに戻ってきたのだ。

物価の相場も、どんな感じかも、共産主義かも、右車線かも分かっている国へと帰ってきたのだ。

又、カンボジアベトナムには時差もない。

なので 午後10時頃という、夜遅くの到着でも僕は、全く不安がなかった。

 ふむふむ、ドンドン使うよベトナムドン。

かますくらい 余裕があった。

だが、さすがに夜が遅いのと、初めての土地の為、僕は 空港から宿まではタクシーを使うと決めていた。

先払いの為安心なので、空港内の配車会社のカウンターで、タクシーを頼む事にした。

一番近い会社のカウンターにいる、あまり愛想の無い 女性スタッフに話しかけた。

「この宿まで行きたいのですが

 いくらくらいになりますか?」

Googleマップの宿の位置を見せながら聞いてみる。

「ここだと45万ドンね。」

と言われた僕は

(2250円? た、高いな。。)と思いながら

「少し安くなりませんか?」聞いてみると、

「安くは なりません。

 嫌なら、他を当たってください。」

とはっきり冷たく言われた。

ちょっとその言い方に カチンときた僕は、

「なら 良いです! 他を当たるので。」

と、疲れも手伝って、こちらも不機嫌に 他の会社にする事にした。 余裕をぶっこいていたが、いきなり出鼻を挫かれた。。

そして、宿のチェックインの最終時間も確認しておこうと 旅の記録も書いていたスケジュール帳を開こうとしたが、前掛けの貴重品バックには見当たらない。

 あれ??  な、無いぞ? どこ行った??

と、バックパックのほうも探してみたが、全く出て来ない。

僕は大事な手帳が無くなり、額から脂汗を流しながら、ベンチで 荷物をひっくり返して探してみたが…  影も形もない。

 

落ち着いて 記憶を辿ってみる。

 最後にスケジュール帳を開いたのは…

と考えてみると、それは飛行機に搭乗する直前の空港のベンチだった。

これからの 何となくの予定を考えながら、フライトまでに 色々シュミレーションをしていた。

 …あぁ、たぶん やっちゃったなぁ。

きっと、カンボジアのアンコール空港に忘れてきたのだ。。 そう僕は理解した。

外国なので、忘れ物をしたらまず帰って来ないとは思っていたが、違う国に忘れた物は もう絶望的だろう。。

僕は国を跨いだ "壮大な忘れ物" をしてしまったのだ。

一応 空港のスタッフに聞いてみたが、カンボジアのアンコール空港に直接電話してみてくれと言われた。

携帯のシム契約をしていない僕は、電話する方法も無いのと、ジェスチャーの使えない電話では、自分の英語力では 説明出来ないだろうと確信し、

(諦めるしか無い…泣 )という結論に至った。

 

どうも、少し旅がチグハグだ。。

そういえば飛行機に搭乗する前にも、細身の男性職員に止められていた。

機械を通す荷物検査で、

「刃物があるので見せて。」

と空港職員に止められ、確認された。

バッグには、日本で撮影前に、眉を整えたり、万が一のお鼻の毛のお手入れに使っていた 小さなハサミが、旅でも案外重宝するので 入れてあったのだ。

その 本当に小さなハサミが写ったらしい。

彼はハサミの実物を見るなり、その小ささに少し驚き「大丈夫、戻して良いよ」と笑って通してくれたが、今まで一度も止められた事はなかった。

 

実は、日本で買っていた腕時計も、街歩きの途中、カンボジアで無くしていた。

外してポケットに入れておいたはずだが、いつのまにかどこかで落としてしまったらしく、行った場所や道を、1時間ほど探してみたが、見つからなかった。

横浜のビックカメラで、1500円程で買った CASIOのシンプルな腕時計だ。

防水で、暗いところでもボタンを押せば時間がわかる。

僕は、外国で時間を見るのに、日本にいる時の様に、いちいち携帯で調べていたら、盗難の危険も増えるだろうと、普段はしない腕時計を付けていたのだ。

それも、盗む気が起きない様なデザインの、ようは…「安物」に見える腕時計を買っておいたのだ。

しかし、流石のメイドインジャパンで、時計は全く正確に時を刻んでくれ、日にちや曜日も分かり、僕の旅を大いに助けてくれていた。

 

 …なにか、流れが悪いな。。

 

僕は 時計を無くしたあたりから何となくそう感じていたのだ。

僕は、結構昔から 直感が鋭い。

少し理由を考えてみる事にした。

 …いつからだ?

  いつからおかしいのかな。。

目を瞑って考えてみる…

 

やがて結論が出て、僕は目を開いた。

やはり、3日目の遺跡周りの「タ・ケウ」の祠で、お婆さんに 黄色と赤の糸を、腕に結んでもらってからだろう…

僕はそう結論づけた。

この手首に付けてもらった糸から僕は、何か 強い気の様なものを、少し感じていて、同じ腕に付けているパワーストーンのブレスレットと、なんとなくだが、少しぶつかっている気がしていたのだ。

変な話だが、僕はこういう "感じる事" を大事にしている。

  おばぁさん… ごめんね。。

と呟きながら僕は、この糸の輪を切り、腕から外した。その後、大事に袋に入れて、バックパックの奥にしまった。

すると、腕から感じていた、違和感のようなものはやはり無くなった… ような気がした。

 

その後僕は、他のタクシー会社にも料金を聞いてみたが、

「50万ドンです」というところばかりだった。

交渉してみたが、値引きしてくれて 48万ドンくらいだった。。

(うーん。。 結局、

 最初の会社が一番安かった)

と僕は最初のカウンターに戻る事にした。

もうすぐ23時前になろうとしていたので、僕は少し焦りながらその場所に戻ると、カウンターでは、先刻はいなかった男性職員が 店じまいを始めていた。

 ありゃりゃ。。間に合わなかったか。

と思っていると、彼の後ろを先程の女性スタッフが通って、僕と目が合った。

 すみません、もう終わりですか?

と聞くと彼女は、

(もう…、しょうがないわね。。)

という様なため息を ひとつ付き、わざわざカウンターに座って、僕を呼んでくれた。

 前の料金の45万ドンでいいの?

と聞かれるので「OKです」と伝えると、手続きをしてくれた。

最初に来た時は

(うわぁ。。感じわるぅ〜)と思っていた彼女だったが、着替えを済ませて 帰り支度までしていた所を、僕の為に、わざわざ手続きをしてくれている事に、僕は罪悪感と、同時に感謝を感じていた。

 (全然悪い人じゃなかった。。)

僕は彼女に心で謝り、感謝していた。

 

支払いが終わると、彼女は「着いてきて」と言い、空港の外の駐車場で、送ってくれるドライバーを紹介してくれ、また無愛想に「では」とだけ言って、空港に戻っていった。

彼女は無愛想なだけで、いい人だった。

タクシーに間に合った事より、彼女の不器用な優しさに、なぜか ほっとしている自分がいて、

なんだかんだで、気を張っていたのだと気付かされた。

 

ドライバーさんはというと、細身のおじさんで、彼女とは正反対の満面の笑顔で、

「ハローハロー!!

 ヨロシクヨロシク!!」

と握手してきた。

僕はマレーシアのタクシーのトラウマから、満面の笑顔で、馴れ馴れしく握手をしてくるドライバーに あまり良い印象はない。。

が、ここはベトナムだ。まぁ、大丈夫だろう。と思い、彼の車に乗り込む。

車が走り出すと、彼はよく喋る。英語が微妙なのと、たぶんベトナム語も交えて喋ってくるので、ほとんど言ってる事は分からなかったが

"彼が非常に明るい人だ " という事だけは分かった 笑

疲れているところに、彼のマシンガントークは、正直 結構きつかったが、僕は適当に相槌を打ち、後ろに流れる車窓を眺めていた。

 

ノイバイ国際空港からは、高速の様な道路に乗り、しばらく行くと大きな橋を渡る。

かなり立派な橋であった。暗くてよく見えなかったが、川もだいぶ大きそうだ。

深夜の為か 道は空いていて、片道2車線の、かなり広い 高速道路の様な所をずっと走っているのだが、なかなか市街に入らない。

思ったより長くタクシーに乗っていた。

ホーチミンの時は渋滞していて時間がかかったが、これだけ空いていてここまで時間がかかるとは思わなかった。

たしかに、2000円以上かかるのも無理はない。

やがてタクシーは市内に入り、普通のスピードになるが、結構道は空いている。

 ハノイは、ホーチミン程は

 道は混まないのだろうか?

 それとも深夜だからなのだろうか?

と思っていると、ドライバーさんは ピッタリと僕の宿の目の前に、車をつけてくれた。

ちゃんと腕のあるドライバーさんだ。

かなり疲れていた僕は、全く歩かずに宿に入れる事に感動していた。

先払いの為 支払いはないので、お礼を言って、今度はこちらから握手して別れた。

彼は陽気に挨拶を返し、クラクションを一つ鳴らして、夜の街に消えていった。

 さぁ、いよいよハノイだ。

と思うが、まずは一息つきたかった僕は、早速ハノイで初めての宿に入り、フロントの男性に声をかけた。

 

つづく

 

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↑ 夜のノイバイ国際空港

 やはり、空港へ直接降りて歩く。

 

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↑ CASIOの旅用腕時計

 安いし、重宝するので

 次に海外に行く時に同じものを買い直した。

 

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↑ 東南アジア同士だと

 国際線のチケットも安い!

 

 

次話

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僕が見た シェムリアップとカンボジア

 

第94話

僕が見た シェムリアップカンボジア

 

乾いた赤土の大地

それが僕のカンボジアの印象でもある。

 

シェムリアップは、自然に囲まれた、田舎の観光地という印象だ。

遺跡だけではなく、カンボジアの田舎も堪能できるので、のんびりしてて僕は好きだ。

だが、観光地でもあるので、バーや、レストラン、バザール、サーカスなども色々あり、本当の田舎とは違い、遊ぶところは結構ある。

 

市街は、通りはアスファルトの道が多く、お店や、家屋などが密集しているが、シェムリアップ国際空港や、郊外の遺跡に向かうと、道中に見るものは、たまに道端に建っている平屋の民家か、他は畑か、野原である。

後はひたすらカンボジアの赤土の大地と、向こう側に見えるあまり高くはない山々、そして晴れ渡る空。遮るものが無いので、道の向こうに空が良く見える。

カンボジアの移動方法は、未だにトゥクトゥクが主流である。

トゥクトゥクいえばタイのイメージがあるが、実際、今はタイでは(特にバンコクは)タクシーが殆どで、トゥクトゥクはもう 浅草の人力車的な観光用の需要がある程度だ。

なのでトゥクトゥクが大好きな方は、カンボジアがオススメです! 笑

 

意外とカンボジアは、ご飯も、お店も色々あり、ちゃんと選べばかなり美味しいし、ビールも安い!

宿も、僕が泊まった宿は清潔で広いシングルルームで、シャワートイレ付きで、一泊千円程度で、かなり安かった。

一番お金を使わずにのんびりできる国でもある。ベトナムも食事やビールが同じくらい安いのだが、宿だけは、カンボジアの倍くらいの相場だからだ。

そして何より自国通貨がメインでなく、米ドルが支払いのメイン通貨として流通している不思議な国でもある。

なので、日本円だといくら? という計算も簡単に出来る。

 

唯一不安なのが 治安だが、僕が行ったところでは、夜でも、不用意に路地に入らず、気を付けていれば、そこまで危なく無い。という印象であった。

だが、ひったくりや、トゥクトゥクのボッタクリ、強盗などの話をよく聞き、特に夜は、僕の行った他の国に比べると明らかに雰囲気は違う。

社会情勢がまだ不安定の国の為、お金で色々解決できてしまうのも原因の一つだろう。

拳銃も「お金を出せばすぐ手に入る」

と聞いていたし、何か警察沙汰になっても、

お金か、街の有力者(市長や、町長等)にコネあればすぐに解決できるとも聞いた。

何にせよ、まだまだ荒削りな国なのだが、そこがまた魅力でもあるのだ。

 

そして、シェムリアップの遺跡群はカンボジアを代表する、いや、世界に冠する観光地である。

アンコール・ワットを始めとする遺跡は、各場所に点在し、その大きさも、形も様々だ。

本当に東西南北すべての遺跡を周ろうとすると、たぶん一週間以上はかかると思う。
もしかしたら、それでも周り切れないかもしれない。

シェムリアップに来てみて、一番驚いたのは、その遺跡たちの多さである。


そして、炎天下でそれらを周るのは結構大変だ。

一か月間、アジア三か国を歩き倒した僕ですら、途中で体力の限界を感じた。
一週間休みなく、みっちりと遺跡を周る。。
もしそのスケジュールで動くことを考えてみると、実際に三日しか周ってない僕でも、かなりゾッとする日程だ 笑
なので、遺跡周りは余裕をもってスケジュールを組むことがお勧めです。
遺跡周り 休み 遺跡周り 休み 遺跡周り
と言うような日程が理想だと思う。
あと " 絶対に" 自転車で周ろう となど、しないで頂きたい。
これはその悲劇を目撃した僕からのお願いだ 笑

大変だが、遺跡周りはかなり楽しい、最初はすべて同じように見える遺跡も、周ってるうちに、個性と言うか、違いが分かるようになってくる。
そして、「いいな」と思った遺跡はじっくり周ればいいし、「なんかなぁ…」と思った遺跡は一通り見たら すぐに出ればいい。
そういった遺跡の周り方は、美術館で絵を見て周るのに似ていると思う。

少なくとも僕は、その周り方で充分楽しめた。

 

そして、なんといっても、シェムリアップの子供たちが、とても可愛くて 美しかった。

ご縁があって、僕は日本では、お芝居を子供達に教えたり、一緒に共演する事もある。

そのやりとりも、とても好きだし、子供達といると とても良い刺激を貰えたり、感動したりする。

だが、カンボジアの子供達の笑顔は、それとは少し違う、正に「天使たち」とも言うべくような、本当に無邪気な笑顔である。

 

 何故だろう? と考えてみた。

 

これは僕の勝手な考察だが、日本の子供達は、優しいと言うか、良くも悪くも空気を読まないといけない所が、強制されている気がする。

どこか傷つかないように傷付けないように、

「完全に無防備ではいられないから」な気がする。

僕も経験があるのだが、本当に無防備でいると、早いうちに出る杭のように打たれて矯正される。。

たぶん、そのせいで処世術のようなものが、子供ながらに、少し身についてしまう。。だがそれは自分や、他人を守る為の優しさや、防御なのだろう。

これはきっと、僕ら日本の 大人の責任でもあると思う。

 

カンボジアの子供達は、逆に とことん無防備な気がする。

「傷付けられる事など一切無い」と 信じているようなところがある様に見えるのだ。

僕は、どっちが良い とか言っているのでは無い。ただ、カンボジアの子供達からしか受けない感動が 確かにあるのである。

勿論、日本では、日本の子供達からしか貰えない感動もある。それも素晴らしいものだ。

これは僕の主観で、僕が感じて考えた事なので、本当にそうなのかはわからないが、僕は確かに現地でそう感じたのだ。

 

また、シェムリアップでは、プノンペンで見かけなかった、お年寄りの方との交流もあったり、現地の人とも少し交流がもてた。

彼らは素朴で、柔らかい明るさを持っていて、笑顔がとにかく素敵だった。

 

色々なものを見て、人と交わり、僕は カンボジアをどんどん好きになっていった。

 

「またいってみたい国は?」

とよく聞かれるが、

 

「他も色々また行きたいけど、

 やっぱり、カンボジアかなぁ。。」

と答える自分がいる。

 

そんな魅力的な国を出て僕は、いよいよ初めて再入国するベトナムへと旅立つ事になる。

ベトナムでは、何が待ち受けているのか?

楽しみでしかない自分がいた。

 

そして旅はつづく

 


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シェムリアップ 遺跡コレクション

 

 

次話

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さらば いとしのカンボジア

 

第93話

さらば いとしのカンボジア

 

その日も素晴らしい天気だった。

昼前まで寝ていた僕は ベッドから体を起こし

(そうか、今日で最後か…) と呟いていた。

 

少し寂しいが、ついにカンボジアを去る日がやってきた。

色々事件は起きるが、遺跡を周らないと、シェムリアップは田舎なので、実はあまりやる事はない 笑

僕は毎日、「究極のチャーハン」をたべ、「究極の生ビール」をバーに飲みに行く事を日課にして、少し街歩きをし、後はゆったり過ごしていた。

そして今日はいよいよ旅立ちの時だ。

もう少しこの田舎でのんびりしたかったが、フライトが迫っているので 仕方がない。

僕はギリギリまでカンボジアにいれるように、夜の飛行機を予約していた。

この宿は、レイトチェックアウトが出来たので、部屋もゆっくり出れば良い。

宿から散歩に出た僕はまず、例の「角っこ」にある「極・焼き飯や」に行くことにした。

朝からやっているこの店は、すでに混んでいた。

焼き飯を頼むと、注文を伝えに行った従業員が帰りには焼き飯を持ってきてくれた。

繁盛店にありがちな、オーダーto Put である 笑

僕はさっそくうっすい紙ナプキンで拭いたスプーンを差し込み口に運ぶ。

 ざわ…ざわざわ…ざわざわ、。

と ざわめく程の、事件な美味さだ!!

スープも一口、、

 うまぁあ〜!  うまぁぁ。。 うまぁ…

うまさの  "やまびこ"  が聴こえる。

(うーん。。幸せだ。)

いい加減飽きそうなものだが、全然飽きない。むしろ、ずっと食べていたい。

(出発の直前にも、もう一回来ようかしら?)

とまで 思ってしまうお店である。

遅めの朝食を堪能した僕は最後に、毎日行っていた地元のパブストリートを見に行くことにした。

夜は、ネオンと照明で煌びやかな通りが、昼間に見るとどうなのか気になったからだ。

僕は日本で、博多や 大阪などに旅公演に行くことがあったが、旅公演の時は誰よりも早く目が覚めてしまうので、朝の街をランニングすることにしている。

汗と共に、前日の酒も気持ちよく抜けていく 笑

そんな中 走りながら見る街の姿は、昨日の夜の喧騒とは打って変わり、静かな街の姿を見せてくれる。

ネオンや照明で煌びやかっただった街は、朝の光に照らされ、まったく違った顔を見せてくれる。

ゴミや、それをあさるカラス、シャッターの閉まった店、人通りのない繁華街。

静かな、お祭りの後の公園のような、そんな街を見るのが僕は好きだった。

そして、シェムリアップパブストリートのお祭りの後も、中々興味深かった。

(こんな建物だったんだ…)と思うようなボロボロの建物があったり、赤土の駐車場は ただの原っぱにしか見えなかったり、

まさに " 祭りのあと" である。

ネオンという 煌びやかな装飾と化粧で、いかに豪華に着飾っていたかがわかる。

 

深夜まで楽しみ過ぎて、酔いのあまり ここで寝てしまったとしたら、きっと朝起きて

(ありゃりゃ? 狐に化かされたか…?)

と思ってしまうだろう 笑

 

だが、それがいいのだ。

昨日の宴が一夜の夢のような喧騒であり、それが終わった 朝に見る、祭りの後のような哀愁を感じる通りが僕は好きだからだ。

新宿歌舞伎町でも、友人と朝まで飲んだ後の、シャッターだらけの、まだ寝ている街を歩くのが僕は好きだった。

そんな僕を、ここシェムリアップの昼前のパブストリートは、大満足させてくれた。

 

この遺跡の街の最後に僕は

「ストリートパブ遺跡」を訪れたのだ。

 

そしてそのまま、昨日見つけておいた ATMに行く事にした。

近所にあるATMは「二度と行かない!」と決めた、手数料の高い 中華系の銀行ATMしかなかったので、少し離れたところにある、カンボジアの銀行? という感じのATMに行く事にしたのだ。

お金を下ろしてみると、案の定手数料は 200円程しかかからない。

(よしよし、やはり安かった!)

ニヤリとしながら、僕は宿へと帰った。

部屋に戻り、荷物をまとめていると、僕が旅立つ事を 知ってか知らずか

隣の家から、初日からすっかりご無沙汰だった、例の死ぬほど下手なカラオケが聞こえてきた。

 ぼぉへぇエエ~~♪

 ぼぉおおお~へぇええ~ぇぁあんん~♬

どうやら、今日僕が旅立つので、わざわざ例の ”らぷそでぃ” で送り出してくれるようだ 笑

  ”ぼぉへみぁあんな らぷそでぃ〜♪ ”

を僕は、折角なので最後にと、ベッドに腰掛けて味わうように聞いていたが、真面目に聞けば聞くほど我慢できなくなり、腹を抱えて笑い出した。

 なんでだよ!? もぉお! 

 これさぁ… なんなんだよ?! (爆笑)

 こ、、これ? 誰が何のニーズで…? 

 どんなつもりで??

 誰に、歌ってんの?? 笑

 もっ、もう、、やめてえーー!!!

 ありがとぉ〜〜〜 !!! 笑

と、涙が出るほどおかしくなって、しばらく僕は狂ったように笑い続けた。

もう 最高に可笑しかった。

 

不思議なもので、このカラオケはまた、15分程でぴたりと収まった。

 不思議だなぁ。。本当に不思議だ。

と思いながら、一通り笑ったせいで、スッキリした僕は、涙を拭いて、再び荷物をまとめた。

この宿は、クレジットカード保証で部屋を取る為に、料金は後払いであった。

昨日の内に明細を出してもらっていたので、それを払いにフロントに降りる。

その為にさっきATMでお金を下ろしてきたのだ。

フロントには、宿の主人がいて僕の顔を見ると、

 な、すぐに止んだだろ?

と言わんばかりのジェスチャアをして、笑っていた。初日と違い、僕がスッキリとした顔をしていたせいだろう。

僕が真面目な顔で、

 あの歌をもう聞けないのは寂しいよ。

と冗談を言うと、彼はニヤリと笑って、

 また聴きにおいで。

 いつでも歓迎するよ。

そう言って 会計をしてくれ、

 送りはジェイクで良いだろ?

と聞いてくれた。

 あぁ、そうだね。

 もちろん。  ありがとう。

と言いながら、空港までの送りをジェイクにしてくれた主人に感謝していた。

僕は握手をして、今日までの気遣いに対して、お礼を言った。

最後に挨拶をしたかったので、

 シャイナさんはいますか?

と聞くと、彼女は今日は休みだという。。

かなり残念だったが、これも縁というか、旅ならではである。 しょうがない。

 では、、彼女にもよろしくお伝え下さい。

と伝言だけ頼んで、遅めのチェックアウトを済ませた僕は、フロントにバックパックを預けて、街に最後の散歩に出た。

 この風景を見るのも これで最後だなぁ。

と感慨深く、近場を一通り回った僕は、やはり最後にまたあの店に行ってしまった。。

 そう「角っこの店」である!

最後にやはりチャーハンを食べた僕は、

 これで思い残す事は 何も無い。。

とふくれた腹を抱えて、宿に戻った。

フロントのベンチに待機してくれていたジェイクに、もう出る旨を伝えた。

今日は久しぶりの国際線で、20時頃のフライトだ。

2時間以上は見ておいた方がいいので

17時過ぎに僕は宿を出る事にした。

まだ明るい カンボジアの紅いアスファルトの道を、ジェイクのトゥクトゥクは疾走する。

1時間も乗らないので、僕は最後はマスクはせずに、トゥクトゥクの風を全身で楽しんだ。

やがて暮れ始めた空の下、僕達はアンコール国際空港に到着した。

国際空港と言っても、平家建ての小さな空港である。空港の建物の目の前にトゥクトゥクを着けてもらい、僕はジェイクと別れを惜しんだ。

「もし、日本に来たら連絡してね!

 どこへでも案内するよ!」

と約束をして、お互い笑顔で固く握手をして、ハグをして別れる。

ジェイクが最後にした、寂しそうな顔が僕の胸を衝いたが。。

「シーユー!! サンキュー ジェイク!

 シーユー アゲイン!!

と僕は声を励まして、彼に挨拶をした。

彼との別れに、湿っぽいのは嫌だったからだ。

ジェイクは、クラクションを一つ鳴らし、カンボジアの大地へと走り去っていった。

夕焼けに染まる道を走って行く 彼のトゥクトゥクを僕は、大地の彼方へ 見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

 

続く

 

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↑ 美しいカンボジアの大地

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↑ その赤土の大地を走る僕と相棒

 

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↑ 宿の明細2つ

 宿代も込みで全部で160$程

 雑費と送迎、ツアー代込みで

 この値段は安いと感じた。

 (一番高くついたのは やはり

  ベンメリア ツアーだった 49ドル 笑)

 

 

次話

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川沿いで鷺に遭遇する

 

第92話

川沿いで鷺に遭遇する

 

エアメールを書き上げた僕は、最初に届けたエアメールに喜んでくれた シャイナさんから頂いたアイスコーヒーを飲み切り、早速 郵便局へ行く事にした。

 

Googleマップ先生で調べると、南側の川の手前に、郵便局があると言う。

この宿が当たりなところは、自転車を無料で貸してくれる事だ。

昨日 辺りを散策したが、レンタル自転車屋が周辺で見当たらなかったので、非常に助かる!

心を込めて書いたハガキ達を 前掛けにした貴重品バックに入れ、郵便局へ向かう。

相変わらず すごい日差しなので、たっぷりと日焼け止めを塗って出発だ。

がたつく歩道を南下していく。

昨日散策した場所でもあるので、もう自分の庭である。Hard Rock Cafe を過ぎ、さらに行って川にぶつかり、橋を渡らずに右折する。

ここを曲がるとすぐに郵便局があるはずだ。

Googleマップ先生がそう仰っていたので、間違いはないはずだ。

事実右折して2分もたたないうちに、右側に郵便局が見えてきた。

門があり、入るとかなり広い敷地だ。正面は、二階建の結構大きな 立派な郵便局である。

 

以前にマラッカで手紙を出した時は、レッドハウスの広場の 端の赤い建物が郵便局だった。

 

どこも国営でやっているせいか、どの国の郵便局も立派だ。

日本みたいに、小さい郵便局がいっぱいある国はきっと珍しいのだと思う。

 

だから、全てを一手に扱う、中央郵便局のような郵便局が一つドカーンと! 地域に一個あるのが 外国では普通なのだと思う。

Googleマップ先生でも、郵便局で検索すると、近くには大体一つしか出てこない。

 

郵便局一つとっても、" 日本の特殊性" に気付けるのだから、海外に出るという事は本当に面白い。

日本にいた時は当たり前すぎて、気づかなかった事に、自分で気付ける。

セルフ 「ここがヘンだよ日本人」である  笑

自分で相対的に日本を理解する事は、人生では、とても大事な感覚だとも思う。

 

海外から手紙や葉書を出すと、

  " 届かないことがある "

という事は、マラッカでのケルビンさん探しの中で、実地で学んだ事の一つである。

日本国内だけだとありえないが、考えてみると、エアメールを郵便局で出すと、

カンボジアの郵便局と日本の郵便局、そして、委託しているであろう航空会社も絡んでくるのだろう。これだけ人が関わっていると、何かが起きても不思議ではない。

僕は海外へ出るまで、興味を一切持ってなかったが、黄色いトレードマークのDHLや、FedExなど、一社しか関わらず、海外と配送業務をやってくれる会社に、なぜニーズがあるのが よくわかるようになった。

その一社に預ければ、送り先の海外でも、その会社が責任を持って重要書類などを届けてくれるという、よく出来たシステムである。

郵便局はあまり信用されていないのだろう 笑

 

郵便局に入ると 窓口が四つほどあり、僕はエアメールを送りたい旨を 窓口の女性職員に伝えた。彼女は切手代を計算してくれ、値段を伝えてくれる。一通に100円掛からず数十円で送れる事にも結構びっくりする。

わざわざ、飛行機か 船かはわからないが、国を越えていくハガキが100円かからずに送れるのだ。結構すごい事だと僕は思う。

葉書も長い旅をして日本に届く。

大体1週間〜2週間ほどで届くらしいが、手紙が届く頃、僕はどこで何をしているのだろう?

今日はハガキを書いたこともあり、少しセンチメンタルな自分もいる。

 

郵便局の局員さんは、国際郵便にも慣れているのか、全く淀みなく手続きをしてくれた。

ニコッと笑って接客してくれたので、安心してハガキを托せた。

 

ここでもアイデアマンの僕は、仲の良い友人達だけに、LINEであるお願いをしていた。

それは、ハガキが届いたら 当然自分の自宅に、返信ハガキを送ってくれるのだが

「送る手紙や、ハガキを写メールで、

 旅行中の僕に送ってくれないか?」

とお願いしていたのだ。

沢木耕太郎さんの時代は、友人達は手紙の返信を、沢木さんが その時期はここにいるだろうと思った国の、その国の日本大使館に手紙を送っていたらしい。

それを日本大使館でピックアップしながら、旅をしていた沢木さん。

だが、今はデジタルの時代である。

いつ日本に帰るかわからない僕には、手紙が届いたら、書いてくれた手紙を自宅に送るついでに、僕に写メールで送ってもらう事にして、返信が旅の間に貰えるようにして、やりとりが出来る様に、友人達にお願いしていたのだ。

このアイデアは結構秀逸だと思う。

皆さんも長い旅に出た時は是非やって頂きたい。ハガキや手紙のやりとりほど、人間性を刺激するものはない。

とても素晴らしい経験になると思います。

ラインやメールとはまた違うので。

 

無事ハガキを預けられた僕は、目の前の川を眺める事にした。川幅は3メートルくらいだろうか。(後で調べると、シェムリアップ川というまんまな川だった。)

木々の陰で涼しいので、なんとなしにそこに立っていると、原チャリに乗った細身の40前の男が、バイクを止めて話しかけてきた。

 

 ハロー、何してるんですか?

 

 いや、、川を見ています。

 

 ハハハ、それはそうですね。

 実は私はこういうものです。

 

と言って彼は、自分の若い時の授業風景の写真を見せてこう言った。

 実は私はフリースクールの教師なのですが、

 この学校は寄付で賄われています。

 不躾なお願いですが、いくらでも良いので

 寄付をいただけませんか?

 ちなみにコレは今まで寄付してくれた方に

 書いていただいてます、ノートです。

と言ってノートを出してきた。

そこには日本語や、英語などで、十数ページに渡って色々な人がした、寄付の記録とコメントがあった。皆 肯定的なものだ。

とんでもなく速い展開の話が来た。

ここで僕の例のセンサーが微かに作動した。。写真が十年以上前の、彼の若い頃の古いものだった事と、いきなり 初めて会った人間目掛けて、寄付を頼んできた事にである。

(これ?本当に本人の写真かしら?

 コイツ、ちょっとあやしいなぁ。。)

と思ったのだが、僕は、ちょっと違うことも同時に期待してしまっていた。。

(寄付とかしたら、ひょっとしたら、

 授業とかに参加させてもらえないかなぁ?)

と思ってもいたのだ。

僕は、カンボジアの子供達が素敵過ぎて、何か関わる機会がないかなぁ?とも思っていたし、

実は僕は大学で、教職免許も取っていて、子供達にお芝居を教えたり、一緒に芝居したりするくらい、子供が好きなので、そんな事も考えてしまっていたのだった。

そこで僕は、ドルを渡すのはちょっと嫌だったので、今、自分が 一番渡してもいいお金を考えた。

そこで、持ってきていた貴重品財布の方にある、日本円の事を思い出した。

財布には、千五百円くらいが入っている。

「あげたいんだけど、今お金がなくて、、

 日本のお金でもいいかなぁ?」

と聞くと彼は、よろこんでくれ、

「大丈夫です。有り難いです。」

と言ってきた。

そこで僕は、財布から500円玉を取り出して、彼に渡した。

この時まで 、実は僕は 半分以上信じていた。

世話になったジェイクが、その様な人々の善意で成り立っているフリースクール出身で、自分の夢を叶えようとしている事もあったし、応援したかったのだ。

お金を渡し、名前と、値段をノートに書いた。

コメントは、自粛した。 その後に、

「これから授業なんですか?」と、聞くと、

お金をもらった彼は、急にしどろもどろになり

「今日は授業はないです。ありがとう。」と言って、原チャリに乗って逃げる様に去っていった。。僕は

「あ、あれ??やっぱりやられたのかなぁ…」

と思ったが、

(いや僕は、カンボジア

 未来ある子供達に貢献したのだ!!)

と、自分に無理やり言い聞かせた。

後でネットで調べると「地球の歩き方」にも載ってるらしい "有名な詐欺" らしいが、

僕はいまだに「騙されてなどいない!!」と自分に言い聞かせている 笑

 

まぁ、500円でも、金額の多寡に関わらず、キッチリと、凹むものは凹むので、不思議なものである 笑

 

続く

 

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↑ 手紙を書く

 

 

次話

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手渡しのエアメール

 

第91話

手渡しのエアメール

 

気持ちのいい朝を迎えた僕は、今日は アンコール・ワットで、少年時代の僕を思い出させてくれた少年から買ったポストカードで、日本の大切な人達に手紙を書く事にした。

 

朝起きて、シャワーを浴びた僕は、朝ごはんは昨日見つけた「究極のチャーハン」を食べに、大通りの "角っこ" のお店に向かった。

 

  昨日は 感動しすぎたのではないのだろうか…

と少し不安であったが、食べ始めると、また夢中で食べてしまう チャーハンと鳥スープである。

(ま、毎日ここでいい。。)

と思わせられる、、もはや、麻薬だ 笑

旨味のシャワーも、バシャバシャ浴びた僕は、大満足でしばらく放心していた。。

 

そしてここは、美味しいだけでなく、またしても何かが起きる。

僕の隣のテーブルに、若い女性が1人で座った。

18歳くらいの、小綺麗な格好の、ベトナムか、カンボジア人かの女性で、その世代の普通の女の子が着るような服装の子である。

その後に、友達だろうか?

お嬢様感丸出しの、真っ白なワンピースに、同じ真っ白な 貴婦人が被るような帽子かぶり、赤い口紅を引いた、中華系の色白な女の子が、彼女の向かいに座った。これまた17歳くらいの女性だ。まるで、昔の昼ドラに出てきそうな "御令嬢スタイル" である。

 

彼女は汗だくで、大きな扇子で自分を煽ぎながら、座ると同時に、向かいの女性に、ものすごい勢いで文句を言い始めた。それも半泣きで。

中国語だったので、正確には分からなかったが、

 あぁ〜!!あっつい!!もう、最悪!

 ねぇ、そうおもうわよね?

 どうなってるの? ホントもうヤダァっ 泣

 ちょっと!!注文はまだしないわよ!

 あっち行ってよッ!!  ふぅ。。

 暑いわ、来なきゃ良かったこんな国!!

 ねぇ!あなたもそうもうでしょ??

 なんなの?! ホントにもう!!

と言っていた。というか捲し立てていた。

(何故か身振り手振りで、

 不思議と 内容が良くわかる 笑)

先にいた 向かいの女性は、手を膝に置き、苦笑いしながらそれを聞いている。

しばらく バタバタと扇子で自分を煽って、

「あぁ〜 泣」とか「暑いわ…」と、独り言で文句を言っていた令嬢の彼女は、急にスッと立ちあがってどこかへ行った。

トイレにでも行ったのだろう。と思い、向かいにいた彼女をふと見ると、目が合った。

 大変だね?  友達大丈夫?

とこちらも苦笑しながら聞くと 彼女は、

 いや、友達なんかじゃないです。。

と言う。

(あらら…。ずいぶん嫌われてるな 友達に。)

と思い、

 でも暑いからさ、

 ああなるのもしょうがないと思うよ。

 彼女はどこかのお嬢様なの?

と聞くと、彼女は下を向いてからこう言った。

 知りません…、初めて会ったので。

僕は(あぁ 今日旅先で知り合った人か?)と思い。

 ええ? あぁ、さっき知り合ったの?

 

 いや、本当に友達とかじゃないんです。

 今、ここであったんです。

 

(んん? 話が見えないんだけど、、)

 一緒にご飯食べようとなったんだよね?

 

 違います。私がここに座ると、

 いきなり座って喋り出したんです。

 

 えええ?? ホントに??

 じゃあ、本当に知らない人が

 いきなり話しかけてきたの?

 

 そうです、私もどうしていいか分からず、

 とりあえず笑っておきました。

 

 ホントに?! だとしたら彼女凄くない?

 やばいよね?!

 

 はい。

 何故この人は 私に話しかけてくるんだろう?

 とずっと思ってました 笑

 

 あははは。

 あっ、俺もあなたの知り合いじゃないのに

 同じように話しかけちゃってるけど、

 それは大丈夫だよね?

と冗談で言うと、

 はい、あなたは話が通じるので 笑

と返してくれたので、僕達は笑ってしまった。

一緒に笑っていたが、せっかくだから、こちらに座りませんか?僕が誘うと、

「はい是非」と彼女が移ってきた。

話を聞くと、彼女はリーアさんと言って、プノンペンから旅行に来たらしい。お父さんは、ベトナム人で、お母さんはカンボジアの方だという。

僕はご飯は食べてしまっていたので、コーラを頼んで、少し話す事にした。

話してみると、とても当たりの柔らかい可愛らしい人だった。

この店には 初めてきたらしい。僕は 昨日来ただけなのに、まるで常連のように、彼女にチャーハンと鳥スープを勧めた。

運ばれてきたそれを一口食べた彼女は、

 お、美味しいです。すごい美味しい。

 ありがとうございます。

と何故か僕に笑顔でお礼を言ってくれた。

 どういたしまして。

と、僕も御礼に応じる。

彼女はこれから遺跡周りに行くというので、僕は、たまたま予備の新品のマスクをカバンに入れていたので、それを1枚あげた。

 トゥクトゥクの風除けにどうぞ。

というわけだ。まさに紳士マサミである。

トゥクトゥクの風除けにマスク」というアイデアと、マスクに彼女は思った以上に喜んでくれた。ご飯を食べ終わって、少し話したところで、時計を見た彼女は、

「あ、いけない」と、待ち合わせの時間が迫っているらしく、丁寧にお礼を言って、バタバタと去っていった。

 そして、彼女が去った後のお店は、

 色を失ったかのように、急に魅力を失った。

(あ! 連絡先、聞いておけばよかった。。)

と思ったが、後の祭りである。

僕は(いろいろとご馳走様でした 笑)と、心でお店にお礼を言って、宿に戻る事にした。

部屋に戻り、ポストカードを取り出した僕は、今はカフェタイムとなっているテラスへと出た。

屋根のおかげで日陰で涼しく、風が吹き抜けていて気持ちがいい。

今は僕しかいないので、この空間を独り占めだ。

紅い綺麗な布のテーブルクロスに、ポストカードを並べる。

アンコール・ワットで少年から買ったポストカードには、「バイヨン」や、「アンコール・ワット」など、各遺跡の名所の写真がプリントされている。

 さぁ、どのポストカードを、誰に送ろうか?

こういう事をゆったりと考えながら、手紙を書くというのは、本当に贅沢な時間だ。

まずは、タイを勧めてくれた、ここ数年間一緒に芝居をしていて、もう家族に近い俳優仲間に、最初の一枚を書く事にした。

 拝啓 〇〇様

 僕は今 カンボジアシェムリアップに居ます…

から始めて、人との出会いや、旅での出来事を書き連ねる。

ハガキや手紙を書くという事は、当たり前だが、送り先の人の事を考えながら書く。

異国で日本の友を思う。

お世話になった大好きな人を想う。

以前 マラッカでも、皆や家族にも 無事を伝えるハガキを出していたが、何度あっても、良い時間である。

正直にいうと、「深夜特急」の作中で、沢木氏が日本宛に手紙を書いている下りがあって、

「俺も旅に出たら、絶対やりたい!」と、旅に出る前から やろうと決めていたのだ。

だが やってみると、これがなかなか素敵な時間だった。

さっきの彼女との出会いもあって、気持ちが柔らかくなっている所に、こういう時間である。

本当に贅沢な1日だ。

僕は、お世話になった人や、家族、友人達に次々と溢れる想いを綴った。

異国の一人旅のせいで、少しセンチメンタルな文章だったかもしれない。。

書いていると ふと、視線を感じた。

顔を上げると、以前モーニングを僕に出してくれた、若い女性スタッフが立っていた。

(どうかしましたか?)と僕が笑顔を向けると、彼女は話しかけてきた。

 

 どこに手紙を書いているのですか?

 

 日本の友人達にです。

 

 これは日本語ですか?

 

 そうです。日本への手紙だからね 笑

 

 そうね。日本語難しそうね。

 でも、わたし、数字だけは言えるわ。

 ええと。、イチ、ニー、サン、シ

 ゴ、ナナ、ハツ、、

 

 ロクが抜けたよ。

 

 あら?そう。ええと、ごめんなさい。

 やっぱり難しいわね 笑

 ハガキ、そんなに何枚も書くの?

 

 カンボジアで買ったポストカードだからね。

 カンボジアにいる間に書いておきたいんだ。

 

 素敵ね。。

 私は外国に行った事はないし、

 そんな手紙も勿論貰った事は無いけど…

 きっと嬉しいんでしょうね。

と言って彼女は綺麗な顔で、少しはにかんだ笑顔を見せた。

その時! 僕のサービス精神と、発明精神が発動し、ビビビっと化学反応を起こした!!

 

ファイルから、マラッカの街並みがキレイに描かれているポストカードを取り出し、数字と 読み方を書き始めた。

 

 1  いち  Ichi

 2  に   NI

 3  さん  Sun

 4  し   Shi

                  ・

     ・

     ・

 10 じゅう JUU

というぐあいに1〜10までを書いて

 これはマレーシアのマラッカで買ったんだ。

 プレゼント フォーユー。

と言って微笑むと、びっくりした彼女は、

 こんな綺麗なポストカードは貰えないわ

 だって、友人の為に買ったんでしょ?

と遠慮するので

 

 僕は マサミと言います。

 あなたのお名前は?

 

 私は…、名前はシャイナです。

 

僕は彼女の綴りも聞いて、

 

左上に空けておいたスペースに、

 Dear  Shina 

と書き、一番下に、

   Your friends Masami Azuma  from Japan

と書いて彼女に渡した。

彼女は感動してくれたらしく、ハガキを胸に抱いて、

 凄い嬉しい!!大事にするわ!

といって、手紙の僕の名前を見直してから

 「アリガト!マサミ!」

と日本語でお礼を言ってくれ、足取り軽く、テラスから出て行った。

(うーむ、我ながら素晴らしいアイデアだった!)

と、彼女の喜びようを見て、僕は1人悦に入っていたが、今 冷静に考えてみると、

 こんな こっ恥ずかしいキザな事を

 よく"平然と" やってのけたものだ。。

と今でも思う 笑

まぁ、とにかく彼女が喜んでくれて良かった。

実は後から彼女は、サービスでアイスコーヒーまで、持ってきてくれたのだが…。

 

異国への旅というものは、これほどの魔力を秘めているのである。。

 

これも良い思い出だ。

 

続く

 

 

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↑手紙ををゆったり描ける宿のテラス

 

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↑ シャイナにプレゼントした

     マラッカで購入したポストカード

     マラッカや、KLが描かれている。

     サムの宿で気に入って購入した。

 

次話

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「遺跡はもう充分」と言う謎の境地に至る

 

第90話

「遺跡はもう充分」と言う謎の境地に至る

 

朝起きた僕は、ベッドの上で寝ぐせをつけたまま、ボーっとしていた。。

三日間の遺跡周りを終えてしまった僕には、今日 特にやる事が無い。

 

(うーん。。どうしたものか…?)

 

僕は昨日、ジェイクとパブから帰ってきた後、ベットでそのまま寝てしまっていた。

 (とりあえずシャワーを浴びよう。)

とりあえずのミッションを作り、遂行することにした。バスルームに向かう。

気持ちのいい朝のシャワーを浴びながら、今日は ぷらっと街を歩くことに決めた。

 

よくよく考えてみると、この遺跡の街に来てから、僕は 旅のスタイル だった街歩きを まったくしていないことに気付いた。

シェムリアップ初日から この3日間、慌ただしく 目的地にしか向かっていなかったのだ。

 

今日は街歩きをしようと決めて、フロントに降りていく。

フロントには宿の主人の奥さんがいて、挨拶をしてくれた。

 

いつも通り、椅子で寝ている可愛い三毛猫さんを撫でていると、奥さんが近づいて話しかけてきた。

チラシを持っていて、僕が回った北の遺跡群ではなく、南側のトンレサップ湖付近のツアーを勧めてきた。

「どう?こんな景色も見れるのよ。」

とどこか別のツアー会社の作ったチラシの写真も見せてくれる(結構みんな他社のチラシを使い廻している 笑)

だが、遺跡疲れをしていた僕はカタコト英語で

 I'm very tired.  プノン is enough.

   I'm very very enough プノン&tour

 I'm not hungry ツアー.

 Todays is around the neer side.

 thank you!  oh yes!?

どれだけ充分か 物凄い勢いのカタコト英語で伝えると、

彼女は 「そう。。」と苦笑いをしていた。

 

奥さんは 中々の商売上手だが、僕が もう遺跡には興味が無いのだからしょうがない。

だが、一晩千円弱の宿に、僕はツアー代だけですでに一万円近くお金を落としているはずだ。もう充分だろう。とも思う。

最後に、善意から、夜やっているサーカスの情報とチラシをくれた彼女は、

「行ってらっしゃい。今日も楽しんで」

と気持ちよく笑顔で送り出してくれた。

商売熱心なだけで、彼女も本当にいい人だ。

「サンキュー!」  と言いながら玄関を出る。

 

外はあいかわず暑いが、予定もなくぶらつける事が、ぼくの身体と心を軽くしていた。

とりあえず、ご飯を食べようと 大通りに出る。

大通りの角での店で僕は「究極の焼き飯」に出会い、大満足し、宿の近くを散策する事にした。

 

宿周辺をゆったり散歩する。

少し細い道に入るとまだ土の道だったりする。

途中に、フットサル場があった。未來のサッカー選手たちが、結構ちゃんとした指導者から、指導を受けている。

(そういえば、俺も子供の頃本気で

 サッカー選手になりたかったなぁ。。)

と サッカー少年の頃の自分をふと思い出した。

 

さらに歩くと、コインランドリーがあったが、看板が謎だった。。

看板には、とてつもないマッチョな男性の絵が描いてある。。逆三角形なんてものではない!! 僕が古舘伊知郎さんであったら、

  まさに筋肉のバイヨン!!

  太腿は 肉のタプロームか?!

  力瘤は正に アンコール・ワットだァぁあー!!

と実況したくなるような、引くくらいのマッチョだ。

洗い物を待つ間に 筋トレでもするのだろうか?

その間のトレーニングだけで、こんなにマッチョになれるはずがない。。

どう言う事なのかは、いまだにわからない  笑

 

何はともあれ、南側を回ることにした。

一度宿に戻り、無料で借りれる例の自転車を借りた。

漕いでいくと、貧乏旅行者の僕には縁がなく、行った事がないので、どういうニーズなのかよく判らないが、ここにも「Hard Rock Cafe」がある。

凄い出店数だな。ひょっとして世界中にあるのではないか?!  とだいぶ驚いた。

 

さらに南にいくと車が止めてあり、撮影をしていた。

クルーがいっぱいいたので、ドラマの撮影だろう。どうやら、カンボジアのドラマ撮影に遭遇出来た様だ。

車の中で、若いカンボジア俳優の男女が会話をしている。きっと、若いカッコいい俳優が、カッコよく カッコいい台詞を言っているのだろう 笑

平和になったカンボジアでは、当たり前のように ドラマも撮影されている。

その事が新鮮で、面白かった。

 

さらに南へ向かう。

そんなに大きくはない川を越えると、右側にお寺さんがあった。

橙色の袈裟を着たお坊様が何人か歩いて行く。

僕はせっかくだからお参りさせてもらおうと、1人のお坊さんを捕まえて、

「お堂の中に入っても良いですか?」

と聞くと、快く「どうぞ。」と言って、わざわざ お燈明も点けてくれた。

僕は正座をして、時計を外し、きちんとご挨拶をする。遺跡周りで疲れた心が洗われる。

長い旅をしていると、澱のようなものが心に溜まってくる。そんな時は、お寺さんだったり、モスクや、教会で、その土地の神様や自分と向き合うと、スッキリする。

以前日本で、近所の美味しいカレー屋の ネパール人のシェフで、50歳の敬虔なヒンドゥー教徒の彼も

「神サマ みんなオナジだよ

 呼び方が チガウだけ。」

と言っていて、僕も(そうだよなぁ…)と思った事がある。

なので、僕は節操が無いように思われても、その土地の気になった信仰の場に "ご挨拶" に行く事にしている。その行為は、その国と土地と、そこに暮らす人達に敬意を持つ事と同義だと 僕は思うからであるし、実際、旅が上手く行くので、その土地に少しは受け入れてもらえたのかなぁと、感謝する事が多い。

 

またしばらく行くと、あまり人通りのない、車もまばらな そこそこ大きな道に、マッサージ屋さんがあった。覗いてみると、なかなか綺麗な店内である。値段を見ていると、中から女性が出て話しかけてきた。

 今ならこのスペシャルコースを、

 安くしますよ。どうですか?

笑顔の柔らかい、地元の女性だ。

僕は旅の間に不思議と身についた技術がある。それは、お店からわざわざ出てきて話しかけられると、立ち去らずに、世間話や、交渉をする事である。

日本にいた頃は、店を覗いていて、店員にさんに店から出て来られると「あ…大丈夫です。。」とそそくさと立ち去っていたのだが。

いつのまにか、交渉の余地があるのだと思うようになり、全くの冷やかしの時でも、会話をすることを覚えた。アジアの人は「売りたい!」というだけではなく、人と話すことも楽しみにして、お商売をしている人が多い。なので、話しかけられたら、値段交渉や、世間話を楽しめばいいのだ。と言う事に、ある時にふと気づいたのだ。

日本では「なんだ!冷やかしかよ?」と言う文化が(今の若い商売人にはあまりなくなってきたとは思うが…)僕が子供の自分には、そういう文化がまだ根付いていたような気がする。。

その為、 僕には 備わっていなかった能力であったが、このアジア旅の間に、不思議と身につけられた能力であった。

アジアの人たちと触れ合う内に、

商売すらも " 会話のきっかけ" でしかないのだと思えるようになっていたのだ。

 このスペシャル、元が高いし、

 僕はそんなに時間がないから

 この、1時間コースを安くしてくれない?

と聞くと、少し悩んでから彼女は、

 わかったわ、じゃあスペシャルと同じで

 30%オフの価格で、1時間コースでいいわよ。

と言ってくれた。

7ドルのコースが、5ドル程になったが、彼女達も、暇を持て余しているよりも、安くしてでも稼いだほうがいいのだろう。

日本では3000円でも安いマッサージが、700円ちょっとで受けられるのに(高いなぁ。。)と感じて値引き交渉をしている自分がいる。

(だが、こういう一つ一つが、

 限られたお金で、いつ終わるか

 わからない旅をしている

 自分のような旅人には 大事なのだ!)

そう自分に言い聞かせて、僕は2階の施術室へ向かった。

僕はベトナムでは、マッサージは2回行っているが、カンボジアのマッサージは初めてである。

(なんか。。カンボジアのマッサージ…

 す、凄そう。ちょっと怖いな…)

と思っていた、腰に不安ある僕は、いつもより大きな声で、

「ノーアクロバティック!

 そふと、ソフトぷりーず!!」

と宣言してマッサージをして貰っていた。

 

心地よいマッサージを受けながら僕は、今日は早めに例のバーで「究極の生ビール」を飲む事を想像しながら、ここ3日の遺跡周りの疲れと、気持ち良さに任せて、いつのまにか眠ってしまっていた。。

 

続く

 

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↑ 宿の三毛猫さん 

 宿の主人も猫可愛がりしている❤️


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カンボジアドラマの撮影風景


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↑ 謎のコインランドリー

     洗浄には強さと筋肉が必要だとでも

     言うのだろうか??

 

 

次話

azumamasami.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンコール・ワットには "思い" を置いてくる。

 

第89話

アンコール・ワットには  "思い"  を置いてくる。

 

参道を抜けた僕は、ついにアンコール・ワットの、内部に足を踏み入れる。

 

この遺跡は今までの遺跡とは、規模が違う!

とてつもなく巨大で、しっかりした建物 である!

今まで遺跡は 内部を見るものではなく、廃墟化していたりと、外観をメインに見るものだったのに対し、

アンコール・ワットは 初めて " 建物の内部 "を見るタイプの、唯一の遺跡だった。

それほど建物がしっかりとしていて巨大なのだ。

アンコール・ワットの内部に入ると、中はかなり広かった。各場所には、いくつも仏像が安置されており、お坊様が何人もいて、ここは遺跡の総本山だが、仏教国である カンボジアの方達の、最高峰の信仰の場所でもあり、心の拠り所でもあるのだろうと感じた。

「ワット」は「お寺」の意味であると聞いていたので、

 "アンコール寺院 " であるはずだ。

日本で言えば、東大寺か、高野山や、お伊勢さま、靖国神社の様なものなのだろうと思う。

観光地であると同時に、人々の信仰の心の拠り所でもあるはずだ。

遺跡というよりは、歴史ある、現役の寺院でもあるように思う。

僕が今まで見てきたアンコール・ワットの画像は、建物と景色を捉えたものばかりだったので、僕はこの事実を初めて知り、かなり意外だった。

実は内部こそが、アンコール・ワットそのものなのだ。まるで日本の荘厳なお寺さんに入ったかのような、不思議な感覚に僕はなった。

この遺跡周りで初めて感じる感覚である。

内部に入って、いくつかの仏様にお参りしている間に、雷の音が聞こえだし、雷鳴の音と共に、カンボジアに来てから 一番とも言えるほどの雨が一気に降り出した。

豪雨。というのがぴったりのスコールである。

そして この雨は延々と降り続く。。

仕方がないので、雨に濡れない内部を移動していくと、急に降られたのか、びしょ濡れの人たちも回廊の中で雨宿りをしている。

皆、雨が止むまでじっとしている。

僕も壁にもたれ、しばらくじっとしている事にした。

眺めている雨は、一向に降り止まない。。

皆、じーっと、思い思いの場所で、思い思いの時間を過ごしている。ある人は座り、ある人は立ったまま、ある人は壁にもたれて。

それは不思議な光景だった。

回廊の中はかなり薄暗く、人々のシルエットを映し出し、雨が石を激しく打つ音だけが響く。

誰も声を発しない。

まるで皆が、この寺院で、それぞれが急に 瞑想を始めたかの様な光景で、まるで 敬虔な仏教徒たちが集まっているかのような…

そんな不思議な空間である。

雨のおかげで、ここは観光地から、急に神聖な信仰の場になったのだ。

 

それから30分以上 雨は激しく降り続けた。

 

小雨になったかな? というあたりで皆動き始める。僕も回廊内部を周り、その後 第一回廊から、傘をさして中庭に出て、さらに内部の第二回廊へ入る。第二回廊の中を回っている内に、また雨が激しくなる。。

完全な足止めだ。

僕は笑っていた。

アンコール・ワットには、

 やはり 僕は向いてないのかね? 笑」  と。

また小降りになったところで、また外に出て、一番の中心部である最後の第三回廊へむかう。そこに入れる、唯一の入り口を探して、ぐるりと回ってみると、北東の場所に入り口への階段があった。だが、雨で滑って危険なので、回廊への階段が 通行止めにされていた。

大きな雨除けのパラソルの下で、スタッフが観光客達に、

「今は 入れない!」と大きな声で説明している。

見上げてみると、かなり急な階段だ。

雨の中、皆傘をさして並んでいる。

どうやら順番待ちをして並ばなければ、入れないようだ。

 

僕はラーメンでも、並ぶのが好きではないので

(この雨の中並ぶなら もう良いか。。)

と、アンコールワット周りはここまでにした。

 

 " 縁がない時 " というものは確かにある。

旅をする間に、より僕は、

「縁がある、縁がない」とか、

「まぁ、今はその時ではないのだな」と、

諦めではなく、スッと納得できる様になっていた。

旅には流れというか、確実に " 時期 " というものがあるのだ。

今回縁がなかったということは、また来る機会を与えて貰ったのだと思えば良い。

実際僕は、今でもカンボジアにまた行きたいと思っている。

それは「また来なさい」と 

その土地にまたの機会を貰っているからだと思う。

確実に " 思い " が残っている土地には、きっと、何十年後かはわからないが、また訪れる事があるのだろう。

 

そんな僕は、回廊を第二、第一と戻り、参道へと戻った。不思議なもので、参道に出ると雨はすっかり上がっていた。

(お〜い! アンコール・ワットぉぉお! 笑)

と、もう笑うしかない。

 

激しく降った雨の影響か、参道にはさっきいた少年も、他の商売をしていた人たちも居なくなっていた。

お堀に出ると プカプカ橋は、豪雨のせいで滑りやすくなっていて、転んでいる人もいた。

この仮設の橋は、カラの大きな四角い 空気入りのプラスチックを繋げて浮かべてある簡易の橋で、

まるで、赤壁の戦い龐統曹操に進言した

「連環の計」の様な橋である。

プカプカしていて、滑りやすい。

 実際僕は、ここでの観光がスベッた… 

よくよく考えると、ここがアンコール・ワットへの最初の入り口である。

その「正面の橋」が工事中だった事、横の仮設のプラスチック橋を渡らなければいけなかった所から、ケチがつき始めていたのだった。

「ちゃんとした アンコール・ワットでは無かったのだ!

   よし! またいつか来よう!!

と決意した僕は、ジェイクのトゥクトゥクを探し出し「もういいのかい?」と聞く彼に大きく頷き、宿へと帰る事にした。

ジェイクはこの後、僕と飲みに行く事になっているので上機嫌だ。

この遺跡の旅は、彼と一緒に遺跡を周ったり、びしょ濡れにしてしまって コーヒーを奢ったり、謎の遺跡が「ある 無い」で、言い争いをしたりと、ジェイクとの思い出も多い。

彼とは、近しい友人の様に 仲良くなっていた。

 

事実、そんな彼は "遠慮" と言うものをどこかに忘れてきたのか、

帰りの道中で、雨が降り始めると、車を止め、

「ヘイ! マサミ。キミの持ってる

 例の便利な傘を貸してくれ!」

と、僕の折り畳み傘を強引に借りて、傘をさしながらバイクを運転し出した。

傘をさしながら バイクを運転というのも、客席でバイクが安定している トゥクトゥクならではことだが、、初めて見る光景である。

風が結構あるので、僕は日本から持ってきて 大活躍の折りたたみ傘が壊れやしないか、ヒヤヒヤしていた。

貸すときに

「壊すなよ、マ・ジ・で! 壊すなよ!!」

と念を押してしまった事も、

「押すなよ 押すなよ」的なフリに思えてきていた。

 

とにかく傘が心配な僕は、そのお陰で 遺跡周りの余韻を楽しむ余裕もなく、宿へと帰っていったのだった。

 

続く

 


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↑ いざアンコール・ワット内部へ


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↑ 激しい雨が降り続ける。。


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↑ 遺跡中央の高台にある 第三回廊

     他の入り口は全て登れない。。

     入り口階段は一つしかない。


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↑ 雨を避け回廊を移動


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↑ 回廊と雨宿りする人


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↑ ついに辿り着いた

     第三回廊への唯一の入り口

     だが、雨の為通行止めである。


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↑ 雨の中 なんとか周る
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↑ 少し雨が止んだ アンコール・ワット内部

 

 

次話

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ついに 幻の遺跡を発見!!

 

第88話

ついに 幻の遺跡を発見!!

 

バイヨンから北に真っ直ぐ伸びる道を、さらに進むと北西にある 象のテラスを抜けて、さらにもう一つ遺跡を周り、王のテラスをささっと見て、僕は駐車場に戻った。

 

もう十分見たな…遺跡。とも思ったのである。

駐車場に戻りながら、ふっと 僕は気付いた。そういえば、ジェイクが北東の方向を見ながら、

「パッキン」と言っていた事を思い出したのである。「パッキン遺跡」だけ、僕はやけに耳に残っていた。せっかくなので、最後にその遺跡だけ周って、アンコール・トム周りを終わらせる事にした。

駐車場で、ジェイクを見つけ、話しかけた。

 ハーイ! ジェイク。

 だいたい周って来たよ。

 後一つだけ 行きたいんだけど、

 さっき言ってた "パッキン遺跡" は

 どこにあるんだっけ?  

すると、ジェイクは怪訝な顔をし、

 

「そんな遺跡はない。」 と言う。

 

 いや、いや、さっき言ってたじゃん。

 あっちの方にあるんでしょ?

 パッキン遺跡が?

 

 いや マサミ、向こうに遺跡は無いよ!?

 そんな事を俺は言っていない!

 

 いや、確かに言ってたよ!

 

 いや! 俺は言ってない!!

 

と押し問答になった。

 

すると、彼は何かを思い付いたのか 急に

 …パッキン遺跡は ここにある。

と厳かに言ってきた。

 

とりあえず見渡してみるが、

(ええぇ…と。ここには何もないぞ…。

 ジェイクはいきなり何を言い出したんだ?

 ひょっとして、禅問答でも始めたのか?)

と、びっくりして「どこに?」と聞き返すと、

かなり激しく、

 だから!!パッキンはここなの!!

と言われた。

しきりにジェイクは「ヒアー!ヒアー!」と繰り返す。

(どゆこと???)と僕は思ったが、

少し落ち着いて考えてみる事にした

 パッキン パッキン…。うーん。。

 トゥクトゥクしかないぞ、、ここには。。

と思ったが。 少し考えて、、

 

 ん? んん?? あ、あれ (^_^;)

 

と思いついて、僕は恐る恐る聞いてみた。

 も、もしかして、パーキング?

 ここ?? 駐車場??

 

するとジェイクは、

 イエス! パッキン!

 だから ずっとそう言ってるだろう。

そう言いながら 大きく頷いた。

 

 えええー?! 俺は駐車場さがしてたの?!

 

なんと言う事であろうか?!

僕はすでに幻の遺跡「パッキン」に来ていたのだ!!

 

パッキン遺跡とは、トゥクトゥクが大量に止まっている平地の遺跡?だったのだ 笑

 

僕は頭の中で 英語の綴りを思い出していた。

 えーと…Par..king…かぁ。

英語はGを、発音しないことがあるから、ジェイクは「パッキン」と呼んでいるのだろう。

せめて「パーキン」と言ってくれれば良かったのに。。と思いながらも、とにかく

 "  謎は全て解けた! "

こうして僕は、シェムリアップ史上 最大の謎

幻の遺跡である「パッキン遺跡」の真実にたどり着いたのである!

 

お互いに理由がわかると、笑いが込み上げて来た。ジェイクを見ると、彼も笑いを堪えている。。

 クフフフ… クックックッ…

お互い我慢していたが、あまりの馬鹿らしさに僕らはもう我慢できなくなった。

爆発したように僕が笑い出すと、ジェイクも腹を抱えて笑い出した。周りの人たちは、なんだコイツら?と僕らを見ていたが、もう我慢ができなかった。

ひとしきり笑った僕らは、お互いの肩を叩き合い。

「よし!いこうか!」と

最後の遺跡、アンコール・ワットへ向かった。

 

途中、スコールに見舞われ、雨宿りをしたが、雨は10分ほどで上がり、再びトゥクトゥクは走り出した。

そしてついに、最後の遺跡に到着した。

今日の僕の遺跡周りは

アンコール・ワットに始まり

 アンコール・ワットで終わる」

というもので、僕の遺跡の旅もここで終わりだ。

到着すると、まだまだ雲行きが怪しい。

空の向こう側がかなり曇っていた。

僕は例のプカプカ橋でお堀を越えて、門から中に入る。

朝も見た、長くて広い石の参道を さらに歩く。

観光客は、さっきの雨の影響でまばらだ。空いていて、逆にありがたい。

 

歩いていると、よく日焼けした、少し太っちょの、10歳くらいの男の子が、話しかけて来た。

手にポストカードを持っているので、

(ああ、来たな。。)と思う。

例の「ワンダラー!」の呪文を唱えられるに違いない。

通り過ぎようとする僕に、彼は

「ちょ、ちょっと、まってよぉー」

と話しかけてくる。

目的がハッキリしていることもあるが、なぜか彼が言っていることがわかる。

足を止めてやると、案の定

「ワン、ツー、スリー、フォー…」

とカードを数え始めた。

僕は ちょっとした悪戯心が芽生え。

ファイブから 一緒に数えることにした。

「ファイブ、シックス、セブン、エイト

 ナイン、テン…」

と一緒に来たところで、例の呪文を解き放つ。

  同時に叫んだ。

「ワンダラー!!」と僕

「ツーダラー!!」と少年。

同時に言ってから、僕はカチンと来ていた。

(おいおい!今までみんな1ドルだったぞ?!

 こ、、こいつ、ボッタクリや!

 姉さん事件です。ボッタクリですよ!)と。

それともアンコールワット価格だとでもいうのだろうか?

僕は日本語で優しく諭した。

 おいおい、少年。2ドルは高すぎるだろ。

 みんなどこでも1ドルやったで?

 お兄さんの事、お登りさんだと思って

 ボッタくったらあかんで。

すると彼は、たぶんクメール語で、

 安いよう、おにいちゃん。

 安いよ、買ってよぉ〜。

と言ってきた。

 いや、、いらないよ。

と言っても 結構しつこくまとわりついてくる。

僕は「ボッタクラーからは買いません。」

とはっきり何度も断った。

すると彼は ため息を一つつくと、首を振り、他の観光客に声をかけ始めた。

僕は 不思議と彼に興味が湧いて、しばらく参道の 腰の高さ位の、石の手摺りに腰掛けて、彼を観察することにした。

彼は、まるで新宿歌舞伎町のティシュ配りのようにすぐ諦める 笑

声をかける方法は、歩いている人と、一緒に歩きながら話しかける、歌舞伎町のホストのキャッチ方式にも似たやり方である。

一組目のカップルは完全にシカトだ。。

2組目の白人女性に声をかけると、

「NO!」と笑顔ではっきり言われる。彼は僕に声をかけた時のように、全然粘って話しかけない。

(おいおい、俺の時だけなんでやねん?! 笑)と思わず笑いながら、

「おーい!なんで、俺の時みたいに

 追いかけながら、しつこく売らないの?!

 ほら、今の白人の彼女とか追いかけないの?」

と問い質すと、彼は疲れた態度で頭を振り、

「だって、、知ってるんだ。。

 アイツらは絶対買ってくれないんだ…」

と言いながら、うなだれて、僕の隣に座った。

 

隣に座った彼が少し可哀想になり

「疲れたのか?  大丈夫か?」と聞くと

「もう、疲れたよ…。」

と彼は ゆっくり首を振った。

まるで 人生に疲れた10歳児だ。。

凹んでいる彼には悪いが、実は彼からは、何か面白みというか、天性の愛嬌が滲み出ていて、

悪いなぁとは思うが、僕はちょっとだけ、笑ってしまっていた。

だが よく考えると、ここは日陰などない 炎天下の参道である。さっきから 少し曇っているとはいえ、彼は炎天下で、水も飲まずに200円のポストカードを延々と売っているのだ。

ペットボトルの水も60〜70円するカンボジアでは、水も勿体無いので買えないのだろう。

色々想像すると、うなだれている彼が他人事とは思えない。彼の体型や、例の愛嬌や、貧しさは、僕の少年時代に何か似ていて、何か親近感を感じてやまない。

僕は、初めて会った彼が、本音をポロリと話してくれた事で、もはや 他人とは思えなくなっていた。

僕は彼の肩を優しく叩き、立ち上がり!

「いいよ!2ドルだろ?買ってあげるよ。」

と、自然に言っていた。

 

すると「いいよ!無理しなくて!」と拗ねている所も、また自分の子供時代を彷彿とさせる。

僕は笑いながら、

「かうっつーの!!」

と、彼に笑いかけた。

彼は「本当に?」と初めて笑顔を見せた。

僕は2ドルを払い、彼の肩を軽く叩き

「頑張れよ。」と言い残してアンコールワットの中に入るべく、真っ直ぐ参道を進んで行った。

僕はこのアンコール・ワットで、子供時代の自分と話したかのような、奇妙な錯覚を覚えていた。。

 

(後から考えると、不思議な経験だった。なぜなら、彼は数字以外は、英語を知らないので、彼はクメール語だっただろうし、僕は日本語で、普通に会話していたからだ。まったく違和感なく、普通に会話が出来ていた事は、今でも思い出すと不思議だ。彼とは何かが通じていたのだと今でも思う。)

 

そんな僕は、いよいよ空を覆いだした、黒い雲から逃げるように参道抜け、建物内へと急いでいた。

 

続く

 

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いざ他の遺跡へ

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↑  移動途中の景色


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アンコール・ワットのお堀りと、

     橋工事の為、迂回する簡易のプカプカ橋


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↑ お堀を越えてすぐの参道と入り口


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アンコールワットの参道。

 

 

次話

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知らない遺跡の事は 右から左へ受け流す

 

第87話

知らない遺跡の事は 右から左へ受け流す

 

ジェイクに急かされて乗ったトゥクトゥクは、アンコール・トムの南大門を抜けてすぐ、

予想通り、次の駐車場に "すぐに" 着いた

 

ここはアンコール・トム内部の大きな駐車場で、ここにバイヨン寺院があるはずだ。

そして空は、雲はあるが、いつの間にか晴れ渡っている。  天高く ピーカンである。

 

駐車場には、沢山のトゥクトゥクが止まっている。今朝のアンコール・ワットで起きた、

 "My トゥクトゥク探し" が面倒だった僕は、ジェイクにどこに駐車するのかを聞いてから、説明を受ける事にした。

ジェイクは木陰を指さし

「あそこに停めて待っている」

と教えてくれた。

 

「あそこがバイヨンで、あそこが象のテラスで…」

と簡易の地図を見せながら、方向を指差して説明してくれた。

知らない遺跡の名前や説明は、よく分からないので、いつも通り 右から左に聞き流した。 

この三日間の遺跡周りで得た技術だ。

「行けばわかるさ!」と 平然と聴き流す。

完全には理解できなかったが、バイヨン寺院の他にも、2つか3つ、遺跡を回るらしい。

更に、王のテラスと、最後の遺跡の「パッキン」だけ聞き取れた。

「では、2時間半後にここで会おう」

と言われた僕は

  ええーっ!? に、二時間はん…!?

  そんなに! この炎天下をまわるの???

と その数字に仰天した。

そして木陰に移動していくトゥクトゥクを見ながら

(人が炎天下でヒイヒイ言っている横で、

 ジェイクの奴…木陰でゆったり昼寝か。。)

と逆恨みに近いが…  

”炎天下を 二時間半周ってこい” と言われて、僕はかなり恨めしい気持ちになっていた。

というか、正直に言うと、若干殺意を覚えた…

まぁ、冷静に考えると彼は何にも悪くないのにである。

きっと僕は 相当疲れていたのだろう。。

 

そんな僕は、最初は「バイヨン寺院」に向かった。

この 「キン肉マン」の阿修羅マンのような、四方に顔がついている仏頭だらけの遺跡は、何故か僕を惹きつけてやまない。

いや、アシュラマンより顔が一つ多いので、バイヨンマンの方が強いだろう!

 

着いてみると、バイヨン遺跡も 登る遺跡だったが、さっき登った「タ・ケウ」よりは 急では無い。

登っていくと

 顔 顔 顔 顔 顔 顔! かおーーー!!!!

そう。正に顔だらけである!!

仏頭の四方、東西南北の方向すべてに顔がついている。

しかも 仏様なので、皆 いいお顔をされている。

僕は旅の疲れが吹っ飛ぶくらい癒されていた。

観光客も多く、今まであった遺跡の中で、一番人がいた。

僕はそこら辺の人を捕まえては、写真を撮ってもらっていた。珍しく日本人も結構見かけた。

 

日は高く登り、曇ったり晴れたりを繰り返しているが、僕は頭がぼーっとしてきた。。

(あれ? …これ..ちょっと危ないなぁ。。)と思い、あまり日陰もないので、もう下へ降りる事にした。

少しふらつきながら下に降りると、何故か どデカいガチョウが何匹もいる。。さらに、さっきまでなかった、トレーラー式のカフェまである。。

 

 あれ? ここはどこ?

 暑さでおかしくなったのかしら?

 

と思いながら、カフェに近づくと、紛れもなく現実であった。

時計を見ると、まだ2時間ある。

僕はここで こんな事を思っていた。

(ヘッヘッヘっ。 ジェイクの奴…

 俺が、2時間半の全てを

 真面目に 遺跡だけ周ると思うなよ。

 遺跡なんぞ ガツガツ廻らずに、

 カフェで 1時間くらいゆったりしてやる!

 ヒャッハー!  ザマアミロっ!!)   と。

どうやら 暑さと疲れで僕は、完全におかしくなっていたようだ。。

僕は日陰で、業務用の扇風機の冷風が当たる場所の席に着き、冷たいコーヒーを頼んだ。

 

 あぁ、、やっと座れた。。

 

とお爺さんのようになった僕は、心の底からホッとしていた。

コーヒーを待つ間に、おばあさんが近づいてきた。少し腰の曲がった、細身のおばあさんだ。

(今日は おばあ様をよく見る日だな…)

プノンペンでは ほぼ見かけなかったご老人によく会う事が、新鮮ではあった。

おばあさんは、結構大きめの網(日本で言うとミカンが入っているような網の巨大な奴)にマンゴーらしき果物を15個程入れていて、

僕に「マンゴー要らないかい?」と話しかけてきた。もちろん言葉は通じないのだが、脳内テレパシーで、言っていることはわかる。

前に書いた通り、僕はフルーツが苦手だ。。

「ごめんね、おばあさん。

 俺、フルーツはね、要らないや。。」

と言うと

「そう、美味しいんだけどね?

 まぁ、じゃあ、わかったよ。」

と、言って少し離れたところで、また他の観光客に、控えめに声をかけ始めた。

押し付けがましくない(どう?美味しいのよ?)という、のんびりとしたお商売で、見ていて好感が持てた。

彼女が炎天下で頑張っているのを見て

「偉いなぁ。。」とは思うが、食べない物を買ってもしょうがない。

やがて店員が持ってきてくれたアイスコーヒーを飲みながら、おばあさんを眺めていると、少しすると、こっちにまた向かってきた。

このカフェは、今 僕しかいない。

(また、売りに来るのかなぁ。。)

と少し困っていると、おばあさんと目があった。おばあさんはそれが解ったのか

(違う、違う 笑)と手を振ったかと思うと、

僕の席の目の前の、店の扇風機の前に座り、ニカッと笑って、

「ここ涼しいからさ。」

と最高の笑顔で、後ろの扇風機を親指で指さしながら、教えてくれた。

僕は笑ってしまい

(そっかぁ!!そうだよね。暑いもんね 笑)

と笑い返す。

おばあさんと 不思議な交流が生まれ、休憩するおばあさんと2人で、素敵な時間を過ごした。

それにしても、今日の僕は  "おばあさんづいている"  面白くて、素敵なおばあ様達に すでに3人もお会いしている。

僕は彼女達との交流で、ますますカンボジアが大好きになっていた。

また、お店はと言うと、別にお客ではないおばあさんが涼んでようが、一切頓着しない。

こう言うところもアジアの良いところだ。

日本ではあまり見られない光景で、ほっこりする。こういう東南アジアのおおらかさは、いつも僕を優しい気持ちにさせてくれる。

僕は冷たいコーヒーと、おばあさんのおかげで、謎の恨めしい気持ちから解放されて、ゆったりとこのカフェで、小一時間を過ごした。

 

大分体力が回復した僕は、他の遺跡も見ておこうと、お店を出た。

次はバイヨンから見て左手前の、西北の方向に向かう。

歩いてすぐに遺跡への門が見えた。

門を入ると細長い橋のような参道がある。この参道も良くある造りで、左右の地面から高く造って有る。(元々左右は池か何かだったのだろうか?)とここに来てそう ふッと思った。

遺跡は緩いピラミッド型の 結構な高台で、正面から見ると、一番上には、長方形の石で出来た大きな窓のような、吹き抜けたドアのような枠があり、その向こうには空が見える。

何かワクワクしてくる遺跡だ。

僕は長い参道をやっと抜け、遺跡に登り始めた。ここは、階段が頂上まで と言う作りではなく、直登はできない。

遺跡をぐるりと周りながら上がっていく。

日本の城の、攻められた時に、すぐに本丸まで来れない造りと似ている。

ぐるぐる周りながら行くと、最後に回廊を抜けて、やっと頂上まで着いた。。

 

遺跡の一番上は圧巻だった。

正面から見えた窓枠は、

(あのゲートをくぐると ひょっとしたら

 異世界に行けるんじゃ無い?)

とさえ思う、神秘的な造りだった。

開きっぱなしの「どこでもドア」に見える。

 

僕はこの素晴らしい場所で、記念写真を撮りたくなった。

が、周りに人は誰もいない。。

 

とりあえず頂上を周りながら、誰かが上がってこないか、少し待つ事にした。

 

しばらく周っていると、ちょうど人が上がってきた。その人は、炎天下の遺跡周りが堪えたのか、元は白かったであろう顔を真っ赤にし、まるで、赤鬼のようである。 …それも瀕死の。

「ハァ、ハァ、ハァ。。

 はぁ。。はぁあ、ハァ…」

と手を膝につき、下を向き、息も絶え絶えで、肩で息をしている。

 

そんな死にかけている彼を見ても、僕はあまり驚いてはいなかった。。

何故なら (やはりそうなったか。。)

と思っていたからである。

そう、彼は一つ前の遺跡の「タ・ケウ」に行く途中で見かけた、自転車を必死にこいでいた白人男性だったからだ。

自転車で、体力を削り倒したあとに、さらにこの大回りで登らなければいけない遺跡は、かなり辛かったはずである。。

 

とりあえず、その若者が落ち着くまで、僕は冷静にその光景を眺めていた。

少し落ち着いたかな? と思ったところで、

「写真を撮ってくれない?」

と声をかけた。

 ちょっ、ちょ。。ちょっと…

 かっ、かはっ… まっ、まって。。ね…。

と、まだ下を向いている。

 

僕は彼が落ち着くまでさらに待つ事にした。

彼は遺跡の石に手をかけて

「ハァハァ げほげほ」と言っている。

 

 ふぅーふぅー、ふうぅう。。

 

となった所で「良いかなあ?」と聞いた。

少し残酷だが、彼しか上がってこないので、もう彼に頼むしか無い。

とりあえず、買っていた、まだ口をつけていない水をあげた。

彼はそれを「サンキューぅ」と言いながら飲んで、やっと震える手で、僕のiPhone7を受け取ってくれた。

ちゃんとポーズをとり、笑顔の僕を、彼は最後の力を振り絞って、撮ってくれる。

とにかく良い人だ。

僕がお礼に「君の写真も撮るよ?」と言うと、

 ぁ、ぁあ。。、それは、。

 いいかな。。いぃよ。。

 だ、ダイジョウブ。。

と、力尽きたように、遠慮された。

 

僕はそんな彼の肩を「ご苦労様」と、優しく叩いてから、遺跡を降りた。

 

まるで、パラレルワールドに迷い込んだ自分を見ているようだった。

もし!? 自分が自転車で回っていたら、こうなっているんだよ!!

と、見せつけられたようで、少し背筋が冷たくなった。

 

だが僕は、賢明にもトゥクトゥクを選び、今まだ力尽きずに遺跡を周れている。

 

天啓を受けたかのように、

 僕にはまだ、周れる体力があるんだ。

 こんなに嬉しい事は無い。。

と僕は、アンコールトムを周りきろうと、次の遺跡へと歩き出した。

 

 

続く

 

 

 

 

 

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↑ いざ!アンコール・トムへ!!

 


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↑ デカすぎるガチョウたち。。


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↑ 「どこでもドア」 の "パブーオン" 

 

 

次話

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遺跡周り3日目の 過酷さと楽しさ。

 

第86話

遺跡周り3日目の 過酷さと楽しさ。

 

客席に斜め掛けしたハンモックで、呑気にイビキをかいていたジェイクをたたき起こした後、アンコールワットのすぐそばの小さな食堂で、僕はかなり早めの朝食を食べていた。

 

腕時計を見ると まだ6時にもなっていない。

よくよく考えたら、仕事とはいえ、ジェイクを早起きさせたのは僕である。

( 少し悪かったな…。)と思った僕は、テーブルの向かいに見える、ちょっと離れた所に止まっているトゥクトゥクを指さし、店員に

「彼にコーヒーを一杯お願いします。」

と頼んだ。

店員さんは 気を使ったのか、僕が指さしたトゥクトゥクに、何故か注文を取りに行った。

そして、少し話した後、僕のテーブルに戻って来た。

 (えーっと、何してるのかしら? )

そう思う僕に、店員さんが言う

「彼は、コーヒーは受け取れないと言っている」

僕はビックリして、

 (ジェイクのやつ、今さら何を 急に遠慮してるんだ?!) と思い

 いいんだ。 持って行ってあげて下さい。

と言うと、店員さんが

「彼は、あなたにご馳走して貰う

 謂れはないと言っている。

 君のドライバーじゃ無いんじゃないか?」

と言って来た。

ぼくは   (そんなハズあるかーい!)

とズッコケながらトゥクトゥク見ると、そこから出て来た彼は、ナント!?

"全然知らないおじさん" だった。トゥクトゥクの造りが、遠目には同じに見えていたようだ。

 え、えーと… こ、コーヒーは無しで。。

と僕は店員に伝えた。

きっと店員さんは、僕が降りてきたトゥクトゥクが走り去ったのを ちゃんと見ていてくれたのだろう。彼は笑いながら奥に戻って行った。

 

どうやら、早起きしすぎた僕の脳みそは まだ寝ていたようで、ジェイクのトゥクトゥクを降りた時に そのまま見失っていたようだ。。

知らないおじさんは 笑いながら僕に手をあげてくる。

ぼくも苦笑いをしながら会釈をする。

黙って貰ってもいいのに、ちゃんと断るとは、律儀なドライバーさんである。

あまりいい評判を聞かない現地のトゥクトゥクドライバーさん達であるが、そんな事は無いのかな?と僕は思った。

それにしても、コーヒーに関わると 本当ツイていない日である 笑

 

僕が、早すぎる朝食を摂っていたのには理由がある。

ゆすり起こした、寝ぼけ眼のジェイクに

「これから宿に戻って、

 一眠りして 9時過ぎにまた出かけるか、

 それともこのまま遺跡を周るかい?」

と聞かれたので、

当初は、宿で一休みしてから行くつもりだったが、雲越しとはいえ 朝日を凝視していた事により、僕は目がすっかり冴えてしまっていた。

それにより 宿に戻るのが億劫になっていた。

 このまま 今日のツアーを周ろう!

とジェイクに答えた。

「なら、先に朝食だ。」と

早朝からやっている、すぐ近くの食堂にやって来ていたのだ。

 

食事を終え、会計を済ませた僕が、店の垣根の外を見てみると、その死角にジェイクのトゥクトゥクは止まっていた。客席に寄りかかり ジェイクは携帯をいじっていた。

 (ジェイクはこっちにいたのか。。) と苦笑いしながら、「さあ、行こうか」 と伝える。

 

今日も遺跡の旅が始まる。そして今日、遺跡の旅は ついに最終日の三日目だ。

このまま すぐそこのアンコールワットを周るのかと思いきや、

これからは今日のツアーの

「ビッグ・ツアー」が始まるので、最初に周る遺跡は「タ・プローム」である。

アンコールワットにはまた、最後に帰ってくるはずだ。

二日目に、周る遺跡の順番が良く解っていなかった僕は、その反省からちゃんと予習をし、英語表記のツアー表と 穴が開くほど睨めっこをし、

タプローム→バイヨン→アンコールワットと言う順番で、

” 僕でも知っている有名どころ” を周る事だけは 把握していた。

合間にもどこかの遺跡を周るらしいが、良く解らなかった。

日本で出発前に「地球の歩き方」を図書館で借り、かなり予習して来たはずだったが、一か月間 旅をしている間に、その遺跡の知識は すっかり頭から抜け落ちていた 笑

 本日のツアー最初の遺跡 (実際は二つ目だが)「タ・プローム」に着き、内部へと入る。

”巨大な象の足のような” 遺跡の壁に張り付く有名な木の根を見て、やはり感動と言うか、刺激を受ける。それは有名だとか、知っていたから。 というものではない。

ただ、初めてそれと対峙し、素直に感じるモノがあったのだ。

満足した僕は車に戻り、次はどこだろう?と思いながらトゥクトゥクにまた乗る。

 

道を走っている間に、自転車に乗る若者を見かけた。

赤毛のチリチリとした天然パーマの、丸眼鏡をかけた若い白人の旅行者が、必死に自転車を漕いでいる。

顔を真っ赤にして、ハァハァ言いながら、自転車を一生懸命漕いでいる彼を追い抜いた時

(あぁ…トゥクトゥクにして良かった。)

と心から思った。

 

実は当初

 借りれたら自転車で周れば良いよね?

 結構 いけんじゃね? 笑

と僕も炎天下と遺跡を甘く見ていたのだ。

 

2日間炎天下で活動し、薄々感じていた事だが、、今 僕の隣を必死に自転車を漕いでいる若者を見て 改めて思う。

 (これは死ぬな。。) と。

”僕は過ちを回避したのだ” そう心から確信していた。 ツアー付きの宿に感謝である。

そんな僕を乗せてトゥクトゥクは、次の遺跡にすぐに着いた。

ここはかなり高い 城跡のような遺跡である。

ここは敷地内の土の駐車場も広く、遺跡の向かいには、小さな飯屋さんや、Tシャツやタイパンツ、カンボジアパンツなどを売る店が横に並んでいて、結構活気がある。

この遺跡は とにかく階段が急で、気をつけないとかなり危険だ。

(後で調べると「タ・ケウ」という遺跡だった。)

 

登っていくと、中々頂上までつかない。。

(遺跡巡り三日目で、早朝出発で、

 3つ目がこれだと けっこう…。)

と僕は 少し辛くなり始めていた。

登りきり 「ハァハァ」言いながら、下を見るとかなりの角度だ。

思ったより広い 頂上部分をぐるりと周ると、階段は東西南北にあり、他の階段は 正面よりさらに急に見えた。

駐車場から見上げて、塔に見えていた所は、内部に入れた。

内部の一つには祠があり、仏像があった。

隣に オレンジ色の袈裟のようなものを着た、信心深そうなおばあさんがいる。

(この祠の管理をしている方だろうか?)

おあばさんに一礼をして、祠の神様にご挨拶しようと、僕がお賽銭を入れる器に コインを入れてお参りを終えると、そのおばあさんに手招きをされた。

近づくと手を出すように言われた。

言われたように手を差し出すと、彼女は僕の手首に 赤と黄色で編んだ糸を優しく結んでくれた。

お礼を言い手を合わすと、彼女も優しい笑顔で手を合わせてくれた。

言葉は通じないが、おばあさんと何かが通じたような気がする。

思ってもいなかったプレゼントをここで貰った僕は、少し 身体と心が軽くなった気がした。

帰りは、正面から見て右側の、階段を降りてみることにする。

 

…油断していた。

とんでもなく急な階段だ。這いつくばるように降りていく。はたから見ると

エクソシスト」のスパイダーウォークをしている様に見えただろう。

だが、悪魔に取り憑かれている様に見えようが、ここで怪我でもしたら、旅がしづらくなる。僕は、旅先で怪我と病気にだけにはなりたくなかったので、かなり慎重な蜘蛛となり降りていった。

無事 下に着き時計を見ると、集合時間までは まだ30分程ある。

僕は 簡易の飯屋の、木陰にあるテーブル席で カフェビアーをする事にした。

このままトゥクトゥクに戻り移動すると、すぐまた 近くの遺跡に着いてしまうに違いない。そうすると、いかにタフな僕でも、パタリと倒れる気がした。なので、少し休憩することにしたのだ。

悪い事をしているわけでも無いのに、何故かジェイクに見つからないようにと、そろりと入った。不思議な心理状態だ 笑

ここのお店は平屋のお店が、レストラン、お土産屋、衣料品屋と三つ繋がっており、注文した瓶ビールを かち割り氷のグラスで飲みながら観察していると、どうやら全ての店は同じ経営者らしく、それもご家族でやっているようだった。

ビールを飲んでいる僕に、子供を抱いた若いお母さんと、そのお母さんのお母さん(ようはお婆さん)が、営業に来る。

お母さんが、乳飲み子をあやしながら話しかけてくる。

 

「シャツいらないですか?」

 

 えーと。要らないです。。

 

「じゃあ、このタオルは?」

 

 ええと、要らないです。。

 

「じゃ…」

 

 要らないよー 笑

 

「そんなこと言わないで!

 この子に免じて何か買って^_^、」

 

 えーと、、んじゃあ、その子を下さい! 笑

 

「この子は売り物じゃないわよー! 笑」

 

と、何か彼女とは気が合うのか、漫才のような会話が、カタコトの英語とジェスチャーで続く。。

 

途中から、彼女の姉らしき人物も現れ、女性3人に販促攻勢をかけられる。

だが、僕は楽しくなってきて、色々持ってくる彼女達の商品を見ては、色々理由をつけて断っていた。

 模様は素敵なんだけど、これは色がなぁ。。

とか、

 良いシャツだけど、乾きにくそうだね。。

とか、

 こんなに暑いのに、マフラーは要らないね。

とか。。

向こうはめげずにどんどん勧めてくる。

 

途中で 彼女達は、"僕は"  欲しいものが無いのだと気付いたらしい。

「じゃあ、これなんか、

 彼女さんにどう??」

と言われて僕は考え込んでしまった。

 

実は当時僕は、付き合ってはいないが、ちょっと良い感じになっている女性がいて、彼女がアジア好きだったのもあり、帰国後のプレゼントにカンボジアパンツをプレゼントしたらどうだろう?と考えていたのである。。

 

 ええと。。じゃあ、ちょっと見せて貰おうかな…

 

と見せてもらうと中々良い。

ここシェムリアップを周っている観光客というかバックパッカーは、大体 先に訪れたであろうタイのパンツか、ここカンボジアのパンツを履いている。それは涼しげなズボンで、

僕は(オシャレだなぁ。)と、僕がもし女性だったら着てみたいものだった。

僕が迷っていると、お姉さんがマネキンを持ってきた。

 どう?こんな素敵な感じになるのよ?!

となかなか攻めてくる。

僕は、一つ思いついた。

その彼女の写真を見せながら、この子にはどの柄が似合うと思う? と聞く事にしたのだ。

 

お姉さんとおばあさんと、若いお母さんは、写真に釘付けになり

「あらら?あなたの彼女、可愛いわね〜!」

と言ってくれるが、彼女では無い。。

 

説明するのに苦労しそうだと思った僕は、

 そうそう、僕の彼女綺麗でしょ?

 どれが似合うか選んでよ!

と、勝手に彼女と付き合う事にした。

 

女性にありがちな、キャピキャピトークが始まる。

「これが良いんじゃ無い?」

「いやいや姉さん!そっちよりこれよ!」

「私はこれが良いと思うのよ。

 おい! だれが、ババくさいんじゃ?!」

と、賑やかである。

僕も楽しくなりすぎたので、調子に乗り

 マネキンじゃよくわからないから、

 着てみてくれませんか?

と頼むと、今着ている服の上から、嬉々として着てくれる。

おばあさんまで、自分のお気に入りを身につけて、ターンをしてくれた。

僕は爆笑しながら、

(なんて楽しい時間だろう!)

と、大満足だった。

その中で、やはりお姉さんが勧めてくれた、白が基調のカンボジアパンツを買う事にした。

また、おばあさんが勧めてくれた、象のかわいい絵柄のスカーフを、自分の母のお土産に買い、思わぬファションショーも見れた僕は、大、大、大満足していた。

若いお母さんは、悪びれず、

「この子にもお祝いでチップもはずんで!」

と要求してきたが、僕は笑いながらそれはスルーした。

そんな僕に、いつの間にか後ろに来ていたジェイクが話しかけてきた。

 

「ハイ!マサミ、時間をとっくに過ぎてるよ。

 さぁ、急いで次に行くよ。」と。

 

時間を見ると、いつの間にか、50分以上をここで過ごしていた。。

 

僕は、彼女たちにお礼を言い、ジェイクに促されるまま、次の遺跡へと 風を切るトゥクトゥクで、走り出した。

 

 あぁ!  楽しかった!! 

と。

 

続く

 


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↑ タ・プローム!!


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↑ タ・ケウ とにかく高台!

 

 

次話

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アンコールワット アンコール!!

 

第85話

アンコールワット アンコール!!

 

午前四時。。シェムリアップの宿のベッドから這い出た僕は、寝ぼけ眼の全く機能していない頭のまま、宿の玄関に向かった。。

 

ロビーで待っていてくれていたジェイクと合流し、宿の玄関を開けると外は真っ暗だ。

 

そう。僕はシェムリアップ観光者の例にもれず「人生観が変わる!!」と言われているアンコールワットの朝日を見る「サンライズツアー」を組んでいたのだ。

揺れるトゥクトゥクの客席で、うつらうつらしながら、アンコール・ワットへと向かっていた。

街灯は途中からなくなり、バイクのライトが道を照らすだけである。

20分ほど走ってトゥクトゥクは、駐車場に着いた。

 

到着した駐車場には結構人がいた。

きっと皆 人生観を変えようと集まった人たちだ。

 

こんなに大量の人間達の人生を変えてしまうとは!

アンコール・ワット!恐るべしである!!

 

観光客需要を見込んで、コーヒー屋の屋台が一軒だけ出ていた。

僕にとって 夕陽と言えばビールだが、朝日と来ればコーヒーだろう!

と考えた僕は、アンコールワットを照らす美しい朝日を見ながら コーヒーを飲む自分を想像していた。。

 

息を呑む景色とアンコールワット

ぼくが コーヒーを一口呑む。。そして流れる音楽

 

だばだぁ♪ だぁば♬  だばだぁ だばだっ ♪

 

…最高だ。

最高のひとときに違いない!!

 

僕は珈琲屋に、カフェラテを頼む事にした。

前には2人ほどが 注文したコーヒーを待っている。

値段を見ると観光地価格で案外高い。。

だが至福のモーニングコーヒーである。

高くてもそれはしょうがない。

僕の脳内にはすでに "モー娘。" の

モーニングコーヒー」が流れている。

お金を払い、先客達と待つ。

 

だが、、待てど暮らせどコーヒーは出てこない。

店を覗いてみると何やら機械トラブルのようだ。

 

 えーと…これ待ってて間に合うのかしら?

 

さすがの僕も焦りだす。

 もし、駄目なら、帰りにでも貰うよ!

と言うと

 「もう直るから待ってくれ!」と言われる。

向こうも必死なのだが、僕もコーヒー 一杯の為に、人生観を変えられなくなるのはごめんだ!!

 もう要らない! もう行くよ!!!

と言うと「今出る!!」

とカフェラテを持って来てくれた。

だが駐車場は、到着した時より 明らかに暗闇が薄くなって来ている。。

 え?! ま、、まじで。 間に合うのか? 

僕はどんどん大きくなる不安を抱え、人の流れについて行き、アンコールワットを目指す。

まだ暗いし、足元も危ないので、焦っていても、走る事は出来ない…。

なんとか早歩きをするが、すぐそこだと思っていたアンコールワットに なかなか着かない…

やっとこさ着くと、お堀を越える為の橋が工事中だった。

すぐ横にある代わりの橋を渡るらしい。

ここでもパスチェックおじさんがいて、暗い為カバンからパスを出すのに手間取る。

チェックも懐中電灯で見るので、自分の番まで結構かかる。進まない。

やっとこさチェックも終わり、僕はやっと橋を渡れる事になった。

プカプカしている。どうやら、繋いだ四角いプラスチックを浮かせて作った臨時の橋であるようだ。ここでも足元が安定しないので、あまり急げず足止めを喰らう。

 

あたりはすっかり暗闇ではなくなり、灰色の景色がぼんやりと広がっていく。。

 

 あれ?これせっかく来たのに、

 間に合ってないんじゃない…??

 

とても悲しい気持ちになる。

左手に持っているコーヒーが恨めしい。。

(ドウシテ オレハ コーヒーナンゾ

 カッテ シマッタンダ…??)

と自問していると…

 

 この一杯のせいで、

 この旅自体が台無しになるとか

 考えなかったのか?!

 バカバカ!! マサミのばかぁ!!!

 

と、久しぶりに登場した 頭の中のリトルマサミが暴れ出し 僕は激しく罵られる。。

悔しいが今回も彼の言う通りだ。

そんな脳内の格闘をしながら、ドンドン進む。

お堀から中に入ると さらに中央に参道のような橋がある。右左の下は土である。

空は白じんで来ていて、はっきりとそれらが見え始めた。

 あ、、こら、もう間に合わないな。。

僕はスゥぅうっと諦めた。 そして、

(これ、もういい土産話だわ 笑)

と笑ってしまった。

中々アンコールワットまで行って、コーヒー買ったせいで、朝日を見損ねる日本人もいないだろう 笑

 

急ぐことをやめた僕は、ゆったりとその橋を歩き始めた。

心を落ち着けてみると、なかなかの景色である。

  アンコールワットだ。。

 そうだ! 今 僕はアンコール・ワットにいるのだ!

と改めて自覚する。

 

僕の大好きな漫画「岳」の主人公 島崎三歩さんが、

今回がエベレスト無酸素登頂の最後のチャンスであろうバディが、救助の為、頂上へのアタックを諦め、その彼に三歩さんが

「ここも、登るのも降りるのも、途中までも

 全部エベレストじゃんかぁ!」

と言っていて、感銘を受けたことを思い出した。

そう、これも含めて、全部アンコール・ワットなのだ。

僕は変なスイッチが入り、

 

「…地雷を踏んだらサヨウナラ。」

 

と つい役者の業で呟いていた。。いや…ほんいきで演じていた。

かの、一之瀬泰造さんが、浅野忠信さんが演じた彼が憧れたアンコールワット

"僕は今 いるのだ"  と。

僕ら役者は不思議なもので、色々な戯曲や映画、本や、漫画などに触れるのですが、人生で 一度で良いから 言ってみたい。

舌の上に載せてみたい台詞 というものがあるのです。

それを、ただ言っているだけだとヤバい奴だし、意味が無いので、

その作品をやるか、または、その場所や、それを言えるシュチュエーションになった時に 

"言葉にして味わう" と言う事をしてしまいがちなのです。

不謹慎かもしれないが、それを出来た僕は

もう良いや 充分! とだいぶ満足していた。

 

そんなあまりに短時間で色々な思考と経験をした僕は、すでに人生観が変わっていたのかもしれない 笑

そしてやっと、例の有名な「逆さ富士」のように、湖面に朝日とアンコールワットが映るであろう場所に到着した。

人の流れに付いてきただけの僕だが、場所の特定は簡単である。

何故なら其処には、Nikonやら、Canonの、メイドインジャパンのカメラを構えた人々でいっぱいだったからである。

彼らを観察してみると、まだじっとキャメラを構えたままだ。

どうやら、朝日に間に合ったようである!!

 

僕は「よーし!!人生変えちゃうぞ!!」と酔っ払いのような決意をし、向こうに見える、かの有名なアンコールワットに向かい合う。

 

だが…、空が白じんできた時から感じていたのだが。

 

やはり。。今日は曇りまくりの "曇り" である。

 

雲が厚い。。

 

とにかく厚い。

 

どんどん明るくなるが、アンコールワットも、雲も、全ては灰色のままである。

朝日の赤さとは無縁の、ただ、灰色の世界がどんどん明るくなる。

どんどん灰色に明るくなっていくのだ。。

 

結構皆と一緒に、粘って待っていたのだが、アンコールワットは、ただその輪郭をハッキリと見せてくれるだけで、曇り空の昼間に見るアンコール・ワットなだけであった。。

徐々に人垣はくずれ始め、皆帰って行く。

 

ふうぅ。。あぁあ。 アンコールワットには縁がなかったんだな。

と思いながら僕はすっかり明るくなったアンコールワットを後にした。

 

内部に入ったと思っていたが、アンコールワットの建物が見えるのだから、よく考えると、まだ城壁の中に入っただけだった。

 

僕はあくびを噛み殺し、再びプラスチックの簡易の橋を渡り、駐車場に戻った。

数あるトゥクトゥクの中から やっとこさ自分の車を見つけると、ジェイクは客席にハンモックを吊って、気持ちよさそうに 呑気にイビキをかいていた。

彼の平和そうな寝顔に カチンときた僕は

「おーい!おきろ!」と

結構 雑に、ジェイクを ユッサユッサと揺り起こしていた。

 

続く

 

 

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↑ あ、あ、明けちゃう〜。


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↑ あ、、明けたの??

 


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↑ 曇りすぎていた。。
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↑ 人生変わりました 笑


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↑ でも綺麗だった。

 


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↑ もうしょうがないので写真撮影。

 

 

次話

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