第96話
郷に従うと酸っぱいよ、朝。
んん?! ここは何処だ??
結構広いシングルルームで目を覚ました僕は、
初めて見る天井を見て、そう思っていた。。
あぁ… そうだった。。ハノイかぁ。
そういえば ベトナムに来たんだった。
一週間ぶりに、寝起きで違う天井を見ると、一瞬、何処にいるのか 分からなくなるようだ 笑
昨日チェックインしたこの宿は、とあるガイドブックで オススメの宿であり「日本人もよく泊まる」と聞いていた宿である。
宿のレビューも結構高かった。
この宿を、何より素晴らしいと思ったのは、ここでもまた、前回のベトナム旅でしか出逢えなかった、
バスタブ付きの宿 だったからである。
お お おー! お、お、お風呂に入れる〜♪
僕は、プノンペンの日本風宿の「屋上露天風呂」に入れなかったことも手伝って、バスタブがある事が決め手となり、この宿を予約していた。
結局、カンボジアの遺跡周りの勤続疲労を落とす為に、ここハノイで "セルフ湯治" をする事にしていたのだ。
朝ごはん付きなので、僕は顔を洗ってから2階の部屋からフロントに降りていった。
フロントには、明るいこのホテルのオーナーがおり、彼は日本語が少しだけ話せるらしく、
「オハーよー!ゴザイまぁす!」
と日本人の僕に、大きな声で元気に挨拶してくれる。
無料の朝食は簡単なもので、パンに、あとはビュッフェ的にウインナーや、ゆで卵が置いてあり、自分で取って食べる。
使った食器は自分で洗って、水切りの食器たてに戻すシステムだった。
硬めのコッペパンの様なものが、主食の様なので、トレイを覗いてみる。
すると、何故か小さな蟻が結構いる。。
ええ? マジで?! 蟻がたかっとる…
びっくりした僕は、一気に目が覚めた。
周りを見渡すと、他の宿泊者の人達は皆、気にせずに、黙々とパンを食べている。。
皆、こういうものなのだろうか?
気にしたら負けなのだろうか…?)
と思った僕は、周りの人たちが あまりにも平然としているので、郷に従い パンを取ることにした。
(まぁ、払いのければ問題無いだろう…)
と思ったのである。
そういえば、子供の頃お世話になった 家の隣にあった教会の、優しかったおばさんも、ピクニックに連れて行ってくれた時に、おにぎりに蟻が一匹登ってきた時に、僕が嫌がると、
「あら、アリさんが食べに来るって事は
それくらい美味しいおにぎりなのよ。」
と僕に優しく諭してくれたことも思い出し、
僕は旅慣れた旅行者然として、あえて騒がずに、アリを払って 黙って食べる事にした。
(俺が何カ国周ってきたと思ってるんだ!?
ふーん。。全然こんなの気にしませんよ?)
と僕は強がっていたのだ。
インスタントコーヒーを入れ、ウインナーと、ゆで卵、パンを取った僕は、席に座り食べ始めた。パンを一口齧ると、酸っぱい。。気がする。
…腐ってないよな??
匂い嗅ぐが、問題はなさそうだ。
今度は、中央の割れ目を覗いてみる。
するとそこには、先程のアリさん達が数匹、まだ歩き回っていた。。
こんにちは。 ようこそベトナムへ!
アリ達に挨拶され、僕は戦慄していた。
何故なら、さっき酸っぱかったのは、アリを 一緒に噛み潰していたからだと 気付いたからだ。
(マジで?? もう飲み込んじゃったよ?!)
「うわー!!」と叫びたかったが必死に我慢し、再び周りを見てみると、皆平然と食べている。
僕も感覚がおかしくなり、自分が悪い気がして、
(そっか、、中も取らなきゃダメだったんだ)
という謎の境地に至り、パンの中の蟻を必死に取り出した。。が、表だけでなく、少し中にまで食い込んでいる奴もいて、なかなか大変だ。。
やっとの事で蟻を全て取ったぼくは、パンを何度もひっくり返し、確かめてから、何とか食べ切った。
朝から中々の試練だった。
一応、フロントの元気印おじさんにこの事を伝えると「ええ? ホントに?!」と焦ってトレイに行き、彼は目に見えている蟻を払いのけ、
「もう大丈夫!」と力強く僕に報告してくれた。
何が大丈夫なのかは、全然わからなかったが…。
そんな僕はとりあえず、ハノイの街に出る事にした。
昨日はすぐ近くにある、そこそこ大きい池の周りの公園へ 散歩に行ったくらいだった。
街に出ると、ホーチミンと違い、結構雑然としていて、道も狭い。お店もぎゅうぎゅうに営業している感じだ。
しばらく行くと、巨大な建物があり、中は、バザールになっていた。
3階建ての、中央が吹き抜けた巨大なモールだった。入って見ると、かなりの熱気だ。お客も多く、小さなお店の店主達と値段交渉をしている。
一通り三階まで冷やかした僕は、満足して、そこを出た。
さらに 歩いていくと、何やら かなり古い煉瓦造りの門があった。いきなり道に出現した感じで、2車線の道を、分断している。
真ん中に2メートルくらいのアーチ状の穴があり、そこからは、バイクだけが、出入りしている。上には国旗が飾られていて、ここだけ急に昔のベトナムの風情が顔を出す。
だが、特別感はなく、ここハノイの街並みや、地元の人達に違和感なく溶け込んでいる。
不思議な門だなぁ。。風情もあるなぁ。
と引き込まれて、ここが気に入り、僕しばらく近くや遠くから眺めていた。
後で調べて見ると「東河門(ドンハー門)」という、有名な門であるらしかった。
街歩きをして見ると、不思議な事に、かなり街はゴミだらけだ。
ホーチミンでは、国家的ゴミ拾い人が、大量にいたのに対し、そのオレンジのツナギの人達は、かなり少ない。
えーっと、ここは「首都」のはずなんだけど…
と、ベトナムの首都「 ハノイ」に対するイメージが崩れていく。
大通りを歩いても、オレンジツナギの国家公務員の方々は少なく、どうやら 捨てるゴミに国家公務員の数が追いついていないようである。
そして、ホーチミンでは各店に1人いた警備員の数も明らかに少ない。。
一人で2、3店舗見ている印象だった。
ホーチミンより、首都であるはずのハノイの方が、田舎のように感じた。
それでも、中々味のある街ではある。
僕は、昨日 空港から来るときに通った 大通りに出て、少し北上してみた。大通りは片側2車線で、車もバイクも多いが、ホーチミン程は 渋滞していない。
大都市同士のはずだが、結構違うものである。
僕はここで、ホーチミンのホテルのジョンが言っていた
「ホーチミンが、一番暮らしやすいしね」
という言葉を思い出していた。
たしかに、ここベトナムの首都ハノイと比べると、ホーチミンは より洗練されている印象になる。
何故、首都なのに、こんなにも、
ホーチミンより、田舎に見えるのかしら?
と僕はベトナム政府のお金の使い方に疑問を覚えつつ
(まぁ、こういうの… 別に嫌いじゃないぜ? 笑)
とさらに歩いた。
そんな街を歩きながら僕はずっと
(やっぱりおかしいよなぁ…)
と 朝食時に起きた現象について考えていた。
郷に従うというか、時空の歪みに引き摺られたかのように、蟻パンを食べていたが、二度と食べたく無い自分がいて、これは "旅慣れたから平気なはず" とかいう感覚とは明らかに違うはずだ。。 僕は考えた末…
やはりおかしいのは、宿にいたアイツらだ!
という結論に至り、あの宿の朝食は二度と食べない事に決めた。
急に怒りが込み上げてきた僕は、
ふざけんな…。 と呟いてから、
(もう食べないと決めたから、別にいいや…)
と前向きに、苦い記憶…というか、酸っぱい記憶とおさらばし、
ハノイの街を スッキリした気持ちで歩き出した。
つづく
↑ どこもバザールはすごい熱気だ。
行くだけでテンションが上がる。
↑ 東河門(ドンハー門)
歩いていると いきなり出現する。
昔の風情を感じられてとても良かった。
街中にあるので、よく前を通る為、
その内に 親しみが出てくる。
次話