猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

アリノナイ世界へ ホームステイする。

 

第102話

アリノナイ世界へ ホームステイする。

 

青空床屋での散髪が終わり、髪の毛も水で流し サッパリとした僕は、バックパックを取りに、一旦 宿に戻る事にした。

 

実は 今朝起きてすぐ、宿を変える決心をしていたのだ。それは、昨日の上田のアドバイスで決めた訳ではなかった。

今日僕が 早起きしていたのには、一つ理由があった。

昨日上田と別れてから、さらに飲みたくなった僕は、一人でバーで呑み、深夜1時過ぎに宿に帰っていた。

本当は、もっとゆっくりと寝ているつもりだったが、朝、ある事で叩き起こされていたのである。

 

カーテンの隙間から 朝日が差し込む部屋で、僕は首がチクチクするので、違和感を感じて目を覚ました。。

手で首をかきながら払うと、手にも何かが付いているのを感じた。

 んん? え?! なっ、なに!?

僕は飛び起きた!

 

そして周りを見て、仰天した!!

なんと、小さな蟻が 行列を作り、ベッドの上を行進していたのだ。

足が多いベッドの、足の1つから登り、彼らは僕の喉元の辺りを通り、向こう側へ行進していたのだ!

 うわ!! なんだよ!? おい!!

 ふざけんなよ!? おいっ! アリっ!

僕は首や、胸元に入り込んだ蟻達を必死に手で払っていた、服も脱いで、バスルームの鏡で見ながら全部を払った。

 

払いながら、

 俺は、パンじゃねぇっつーの!

 冗談じゃないよ… マジで 泣

 

半泣きの僕はさらに

 無理だわ ここ!  バカかよ!?  

 お馬鹿さんかよ?! 

 どんなモーニングコールだよっ!?

と本気で毒づき、ツッコミを入れていた。

 

そして、僕は怒りに任せて、

 もぉお! 宿変え けってぇーい!!

 はーい!! 決定しましたよー!!

 アリだけに、無しになりましたよー!!!

と叫んでから、僕は もう行進するアリ達は無視して、蟻から遠い椅子に どかっと座り、booking .comで宿を探し始めた。

 

前の魔窟の時から思っていたのだが、ガイドブックが紹介する安宿では、ろくなことが無い。。そして日本人にも会えた試しがない。

 

僕はもう、旅に出てから一番信頼している、ホテル検索サイトで、自力で宿を探す事にした。

近くに、良さそうな宿を見つけた僕は、バスタブは無いが その宿に移る事にした。

 

荷物をまとめ、干していたシャツも生乾きだが全てしまい、僕はフロントに降りていった。

部屋のドアを開けた時、ドアの下の隙間から蟻達が来ていた事が分かったが、もうどうでも良かった。

チェックアウトついでに、

「蟻を完備しすぎたろ!?この宿!」

と文句の一つも言ってやろうと思っていた。

 

だがフロントにいたのは、昨日 思いっきり怒鳴りつけてしまった 若いスタッフだった。

彼は 僕の顔を見ると怯えた表情をする。。

どうやら、よっぽど怖かったらしい。

(昨日 どんなキレ方をしたんだろう? 僕は…)

と罪悪感が頭をもたげる。

 

      彼はもう 十分罰をうけている。。

 

そう思った僕は、もう クレームさえ入れずに、黙って宿を出る事にした。

 

チェックアウトする旨を伝え、手続きをしてもらう。

そして、次の宿のチェックインは、最短で 午後1時なので、僕はバックパックだけ フロントに預かってもらい、そのまま今朝の、散歩兼 散髪に出ていたのである。

 

そして今に至る。

午後1時前に、移動の為に宿に戻ってくると、例のいい加減そうなオーナー兼 主人がいた。彼は僕を見るなり、

「どうして宿を変えるんです?!

 ハノイの次の宿はどこですか??」

と、珍しく気色ばんで聞いてきた。

 

僕はめんどくさくなり、

「いや、今日もうハノイを出るんだ。」

と適当に言った。

 

すると、何故かその嘘がバレて、

「イヤ! アナタは 宿変えるダケ!

 ドシテ?  ナゼこの宿ダメか?!」

と急に日本語で言ってきた。

 

( えっ? なんで分かったんだろう??

 ん、、まぁ、勘だろう。。

 もうめんどいからいいや)

と思った僕は、まだ何か言いたそうな彼を無視して、バックを背負い「グッバイ!!」とだけ言い残してその宿を出た。

 

この宿には、クレームの一つも入れてやりたかったはずなのに、

逆に自分が、罪悪感を覚えさせられて 宿を出るという "不思議な理不尽さ" に、なんか笑えてきた。

(まったく… 凄い宿だなぁ 笑)

と歩きながら、吹き出していた。

 

この宿の方が、今朝の青空床屋より、よっぽどネタとしては秀逸である。

 

そんな事を考えながら歩いていくと、次の宿の前には、5分程で着いた。

前の宿が近いので、

(あのホテルの前は 当分通れないな…)

と思ったが、しょうがない。

遠回りすれば良いだけだと 自分に言い聞かせる。

 

Googleマップでは、宿の目の前に着いているはずだが、ホテルのような建物はない。。

そこには、歩道でタライに水を溜め、食器を洗っている女性がいるだけで、そこから路地はあるが、袋小路で、本当に暗い狭い路地だ。

 

(この先には民家しかないのでは…?)

と思いながら、恐る恐る路地に入っていくと、悪臭もする。。

 

右手に階段があり、僕の宿の表示があった。

斜め上を指している矢印通りに、階段を上がると、2階は 広めの踊り場といったところで、かなり暗い。。

階段を登り切ろうとしたところで、僕は止まった。

いきなり、暗い廊下を挟んだ目の前に、

ドア越しに「明るい部屋」が出現した。

玄関のドアが全開で開いており、上半身裸のお父さんと、おじいさん、その家族が

「ザ・ベトナムの一般家庭」という感じで、食卓を囲み、一家団欒していた…

 

一瞬、(本当に民家に迷い込んだのか?)

と思った僕は、次に、

 

「え? えっ?!   嘘でしょ?

 マジのホームステイじゃないよね??」

と呟いていた。

 

実は このホテルの名前が

「An Family Homestay」

だったからだ。

 

だが、サイトの写真では、ちゃんとした、綺麗なシングルルームであり、シャワートイレだけが共同だったはずで「本当のホームステイ」などとは書いていなかったはずだ。

 

僕が、呆然と彼らを見つめていても、彼らは無視、と言うか全然気にしない。家族の誰も僕を見ない。

「何か用ですか?」とすら思ってない様子である。

 

僕は勇気を出して、階段を登り切ってみた。

するとドアの前を過ぎた先に、さらに階段があり、その階段だけ やけに綺麗だ。

 

ドアの前を横切り、その階段を登ってみると、ガラスのドアがあり、そこにインターホンがあった。

そしてそこには、ホテル名が書いてあった。

ドアの中も、雑然として暗かった2階とは違い、かなり綺麗で明るい。

 

僕はほっとした。

「流石に あの一般家庭に

 ホームステイは厳しいぞ。。」

と思っていたからである。

 

インターホンを鳴らし、しばらく待つと、スピーカーから スタッフの声がして、オートロックの扉の鍵が空き、そのまま中で待つ様に言われた。

 

扉のすぐ横に 共同スペースの小さなテーブルと椅子があり、僕はそこで待つ事にした。

しばらくすると、スタッフが 下の階段から上がってきた。そして鍵を開けて、入ってきた。

てっきり奥から出て来ると思っていた僕は、面食らったが、この謎は後で解ける事になる。

 

背の低い、20歳そこそこであろう、頭の良さそうなスタッフが、部屋に案内してくれるという。

まずは共同のシャワートイレを見せてくれる。

そして、その向かい側の部屋が僕の部屋で、大きなダブルベットがあり、そこそこ寛げるスペースもある。

 

ちょっとびっくりしたのは、いかにも

「愛の巣へようこそ!」という様な、カップル向けの演出がされていた事だ。

シーツの上には、可愛く折られたバスタオルが置かれ、赤い花びらが散りばめられていた。

(俺は一人で泊まるんだが… 笑)

と苦笑いする。。

 

しかし、それ以外は、本当に綺麗な良い部屋だ!

ここは僕の部屋から外階段を上がった4階に一部屋と、隣に一部屋しかなく、今日は僕しか泊まる人は居ないらしく、この空間を全て一人占めらしかった。

前の宿と変わらない値段の割にはだいぶ得をした気分だ。

 

鍵を貰い、荷物を置くと 彼は

「手続きをするから、付いてきて」

と言って 階段を降り始め、何故か一緒に、宿の外の通りまで出た。

そして彼は、同じ通りの4つ先の建物に入って行った。そこはしっかりしたビルで、ビジネスホテルの様だった。

どうやらここのフロントが、僕の部屋のフロントでもあるらしい。

 

僕の部屋は、このホテルの別館だったのだ!

無料のモーニングも、このフロントの奥の 食事スペースで出るらしい。

そして、謎だった2階の人々は、元々あそこに住んでいる人達で、彼の親戚だそうだ。

 

どうりで、急に見知らぬ旅行者が上がってきても、何も騒がないはずだ。

彼らからすると、そんな輩には、慣れ切っていたのだろう。

 

だが、最初に何も説明が無いので、そんなの分かるわけがない。

あと、「ホームステイ」という紛らわしいホテル名も本当にやめてほしい 笑

 

なんにせよ僕は 手続きを済ませ、別館に戻る為に、悪臭のする 暗い路地へと戻って行った。

 

(ここさえ過ぎれば、居心地のいい部屋だ)

そう 自分に言い聞かせながら。。

 

続く

 

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↑ 事件現場。。


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サラバ! 愛しのバスタブ。


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↑ 新しい宿、 えーと。。

 僕は1人で寂しく泊まるのですが… 笑

 

 

次話

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