猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

海外で初散髪。そこは青空と風の中…

 

第101話

海外で初散髪。そこは青空と風の中…

 

昨日 上田が、会話の中で、

日本にいる もう一人の俳優仲間からの

「伝言」を預かっているよー!

と言ってきた。

「散髪 いつ行くの? 」と。

 

 

そういえば、、日本を出る前に、そのもう一人の仲間から貰ったアドヴァイスの

"外国に行ったら やってみてねリスト" の中に

「海外で散髪をする」というのがあった事を僕は思い出した。

 

今日本にいる、 タイを勧めてくれた、これまた俳優仲間でトンチのきいている彼女は 20代の時、タイの床屋で 髪を切った時に、前髪をパッツン切られて「ちびまる子ちゃん」にされたと言っていた。

 

日本にいると、マネージャーが営業に使う

「プロフィール写真」や「撮影の繋がり」の関係もあり、我々俳優は、殆ど髪型は変えられない。

阿部寛さんなんかは、他の人に短く切られすぎたりするのが嫌で、自分で切っていると聞いた事がある。

(因みに僕は、たまたま受かったCMで

 阿部さんと共演させてもらった事がある)

 

長い旅とは、この機会に 思いっきり髪型で遊べるチャンスでもあるのだ。

それより何より、とんでもない髪型にされても、海外だから、旅の間にまた伸びるので、

ガンバ以上の大冒険が出来るのである!

 

「明日は、午前中は買い物に行きたいから、

 別行動しよう」と提案してきた 上田からも

「私がいる間に、髪切ってきて、

 明日、生で見せてよ! 笑」

と言われて、ぼくも ついに髪を切ることにした。

 

日本でもよく、私を乗せて楽しんでいる彼女達を楽しませる為、僕は旅での "ネタ作り" の一環も兼ねて、散髪屋を探すついでに、朝早く散歩に出た。

僕は別に 芸人さんでも無いのに である 笑

 

最初に見つけた美容室は、看板の写真に大きく男性が描かれ、彼の左右の側面は 頂上まで? 断崖絶壁と化している。

従業員を見ると、皆、側面がエベレストか、アンナプルナ岩壁の様に、クライマーを寄せ付けない程の異様を放つ  "刈り上げ" だ。。

高尾山にしか登った事がない僕には、この山は レヴェルが高すぎた。。

「僕は…まだ 死にたくない。。」

と呟き、そそくさとその場を離れた。

 

ノリが良すぎる僕は、万が一店員に話しかけられたら、うっかり説得されて、彼らとブラザーになりそうだと、危険を感じたからである。

 

そのまま南の鉄道駅を過ぎて 歩いていくと、オレンジツナギの国家公務員を見かけた。

若い女性で、一生懸命ゴミを拾ってくれている。

だが、ホーチミンと違い、圧倒的に ゴミの量に対して戦力が足りない。。

彼女はこのクソ暑い中、決して勝てない大量のゴミという怪物達と、必死に闘っていた。。

僕はそんな彼女に敬意を表しながら、さらに歩く。

途中に 日本製品専門店を見つけ、

(ここも、ミンさんの経営する店かしら??)

と思いながら歩く。

 

それにしても本当に 暑い。。

(誰だ??ハノイに行くと風邪を引く

 とか言っていた輩は…。)

と、ホーチミンで「ハノイは 寒い…」と言っていた友人に毒付きながら歩く。

 

僕はやがて、巨大なスタジアムにぶち当たった。

門が空いていて、入ってみると、どうやらサッカースタジアムである。

芝は少し禿げ上がった場所もあるが、数万人を収容できる規模のスタジアムである。

中に入った僕は、結構圧倒されていた。

そして、こんな立派な施設に、普通に中に入れる事に ちょっと笑ってしまっていた。

(おーい!首都ぉ! セキュリティぃぃ!?)

と 一笑いした僕は 外に出て、スタジアムの周りを歩き出した。

 

その時に、まるで恋に落ちるかの様に、運命的な出逢いを果たしてしまった。。

 

このスタジアムのかべを利用した

「青空床屋」を見つけてしまったのだ。。

 

なかやまきんにくんをソフトな髪型にした様な、全面積を刈り上げた20代前半であろう、目のギョロギョロした おとなしそうな若者が、ハサミを片手に持っている。

そこには、スタジアムの壁に鏡を立てかけただけの、謎の床屋がキックオフしていたのである。

 

スタジアムの壁に 鏡を立てかけただけで 一人で営業する床屋さん。。

なんと言ったらいいか、床屋界のファンタジスタだろうか??

 

(流石にここは無いわ…(^_^;)

と思って通り過ぎようとすると、だいぶ髪が伸びていた僕を見た、店員であり店長?の彼がハサミを片手に

 床屋ですか? 床屋ですよね??

ジェスチャーで僕に一生懸命、話しかけてきた。

 いや、いやぁ。。うーん、そう??

と僕は話だけ聞こうと近づいた。

すると彼は「どうぞ」と椅子を引くが、僕はここで切る気は無い。

 いやいや、、座りませんから 笑

 なんか… 本当に ここ大丈夫なの? 

と思わず聞くと、

 

「OK OK!」と言う。

 

 …えーと、、ハウマッチ?

 

聞いても、「OK OK!」と彼は言う。

 

 いや、だから値段です…  いくらですか?

 

「ア〜、うん、OK  OK!」

 

どうやら彼は、英語は「OK」しか知らない様だ。

だが、その「オーケー」だけで、なんとかコミニュケーションを取ってくる。

「オーケー」のニュアンスと、表情と、ジェスチャーで、全てを解決しようとしているのだ。

 

僕も面白くなってきて、ふざけて

「Oh! オーケー?」と聞き返すと、彼も大きく頷き 嬉しそうに、

「OK OK!」と席を進める。

 

僕は半笑いで「おーおー!オーケー? OK?」

とやりとりしている間に、楽しくなってきてしまい、ノリで うっかり席に座ってしまっていた。

 

(し、しまった!  や、やられた!?)

 

悪意があると、すぐに分かり 対処するのだが、彼はとても良い人そうで、安心感があったのか、僕も彼のノリに引き込まれてしまっていたのだ。

 

まるで彼に 「シャル・ウィ・ダンス?」

と、はにかんで手を出された舞踏会で、

 

(あら? この人良い人そうだわ。。

 それに一生懸命、わたくしなんかを

 誘ってくださってるわ。。)

とうっかりその手を取ってしまったかの様に…

 

(これは 一番やばいパターンだぞ…

 マサミホイホイに引っかかったぞ。。)

 

自分が悪いのだが、僕は早くも後悔し始めていた。 うっかり座ってしまったが、

(流石にここは無いだろう。。)

とかなり焦り始めた。

 

ノリとはいえ、座ってしまった以上、何か理由を付けなければ、ここを出れない。

彼はニコニコしながら、僕に髪除け用のエプロンを、全く自然につけ始めていた。

 ちょ、ちょっとストップ!

 ノーOK! オーケー??

 えーと、お金、ドン! ドンいくら??

とぼくが言うと、「アー、、OK 」と言っている。

 

僕は財布に たまたま色々な種類のベトナムドンが入っていたので、相場のわからない僕は、とりあえず、

20万ドン(1000円)を、提示すると

「OK OK!」と言ってきた。

僕はどうせ「OK」しか言わないだろうと思い、とことん値切ってみることにした。

 

交渉さえ決裂すれば、僕はこの席から解放されるからだ!!

 

札二枚提示し、15万ドン(750円)に変えて、「OK?」と聞いてみる。

 「OK OK!」

さらに、10万ドン札(500円)に変えてみる、

 「OK OK!」

 

僕は 流石に怒るだろうと思い、

5万ドン札(250円)を提示すると、

「OK OK!」

…全く変わらないテンションで、「OK OK!」と言う。。

 

流石に僕も観念した。。

これ以上値切っても、彼は「OK OK!」と言う事がわかったからだ。

もう、彼はいくらでも 僕の髪を切りたくてしょうがないのだと思ったのだ。

それに、流石にこれ以上値切るのは、本当に失礼な気がした。

 

僕は観念して、ひと際 元気な声で、

 「おっけぇええ〜〜〜 !!!」

と絶叫し、彼に伝えた。

その僕の叫びは、ハノイの 気持ちのいい青空に吸い込まれていった。

 

流石に「刈り上げ」全盛の

「刈り上げてなければ、人にあらず」という平家システムのベトナムに抗うため、僕は彼の髪型を指差して、

「ノーストレート、ノーまっすぐ、

 ノー刈り上げぇええ!」

ともう日本語で、必死にバツを作り、ジェスチャーで伝えた。

そして、日本の僕の事務所のホームページの宣材写真を見せて、

「これ!これ!!これにして〜〜!!」

と懇願していた。。

 

勿論彼は、全てに「OK OK!」と返してくれたが…。

 

画像だけは真剣に見てくれた彼は、僕の髪を切り始めた。。

 

最初、切腹する武士の様に覚悟を決めた顔をしていた僕だったが、彼がハサミを動かす内に、徐々に表情が柔らかくなってきた。

(あれ?? 彼の介錯…意外と上手く無い??)

僕の手を取り 踊り出した彼は、実はかなりのテクニシャンだったのだ!!

 

僕は笑顔になり、

(もおぉ! 上手なんだったら、

 勿体ぶらずに、早く言ってよ〜。)

とはにかんでいた 笑

 

やがて意外と良い感じになった僕は、

(これだとネタにならないじゃん!

 もう。ぷんぷん☆ ぷんぷん丸☆)

と可愛く怒りながら、彼にお礼を言い、

一緒に記念撮影して貰って、彼と握手し、そこを後にした。

 

外なので、ここには流石にシャンプー台は無く、高野豆腐か、足の角質とるやつ??という軽石レベルに硬くなったスポンジで、顔や、首や、肩の髪の毛を払ってくれたが、

顔をガリガリ、首をガリガリ

(ち、血がでるぅぅうう。。)

と言うくらい痛かったので、ついに僕は、

「NO! のぉぉおおお!! のおぉぉおん!」

と、「OK」とは逆の、たぶん この店では 言ってはいけないであろう単語を発して、ようやく解放されていた。

なんにせよ僕は、彼を

ベトナムシザーハンズ と呼ぶ事にした。

 

髪の毛が 顔にも付きっぱなしの僕は、このままじゃ気持ち悪いので、工夫で乗り切ることにした。

近くのお婆さんのやっている、本当に小さな、暗いお店に入り、おばあさんから2リットルのペットボトルの水を買い、頭を流すことにしたのだ。

人通りのない歩道を見つけ、誰もいなくなったタイミングで、Tシャツを脱いで上半身裸になった僕は、ズボンが濡れない様に前屈みになり、頭からその水をぶっかけた!

その瞬間である!!

 つ、つ、つめてぇええええ!! えええ?!

と僕は叫んでいた。

僕はおばあさんに、常温の水を指差して買ったはずだが、おばあさんは、知らぬ間に気を遣って、冷蔵庫でキンキンに冷やした水を渡してくれていたのだ!!!

考えてみると、確かに普通は、飲む用に買っていると思うはずで、おばあさんの優しさである。

 

そんな僕が、ヒーヒー 言いながら、何とか頑張って、頭を水ですすぎ終わると、何故か目の前には若い女性がいた…

彼女は、物凄く頭のおかしい人を見る様な目で 、僕を一瞥してから、目が合うと 逃げる様に走り去って行った。

 

海外で髪を切るのは本当に大変である。

皆様もご注意願いたい。。

 

因みに上田には、

「全然 おもんな〜い!!」

と案の定 ガッカリされた。

 

それでも 僕の旅は続く。

 

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↑ 見つけた綺麗なスタジアム


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↑ 髪を切る前の僕とスタジアム。

 写真では分かりにくいが、

 意外と髪はボサボサだ。


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↑ 青空と、本当に美しいスタジアム。

 この外壁に床屋があろうとは。。


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切腹の覚悟を決めた僕


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↑ 髪の毛と今生の別れをする僕…

 手前にあるのが 固すぎるスポンジ。。


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↑ あ、あれ?? 意外と…


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↑ お互いに大満足の 僕とジョニー・デップ


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↑ 全然おもんない僕が出来ましたとさ 笑

 

 

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