猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

空飛ぶワゴン

 

アーバスを待つ僕のアタマには、真矢みきさんの声がリフレインしていた。

 「 …あきらめないで。 」

そんな僕は、しつこく 色々なワゴン車に話しかけていた。

 

しかし、その内に僕はある事を思いついた。

単純な事だった。  それは、

 「黙って待つ」 という事である。

真矢みきさんの声に従い、頑張っていた僕だったが、一つの真実に気付いたのである。

 

(なんで 遅刻してるツアーバス

 俺が必死に探さなきゃならないんだ!?)

という事である。

 

よくよく考えたら、遅刻して慌てなきゃいけないのは向こうのツアー会社である。

必死に僕を探すのは、彼らの方の義務のはずだ。

そう、真実はいつも一つだ。

そんな事に気付いた僕は、もう他の車が来ても、ただ佇み、ボケっとすることにした。

すると先程までと景色は一変し、僕は俯瞰してツアーバスとのやりとりを観察できるようになった。

 

アーバスが来る。スタッフが降りて来て、僕と目が合う。向こうは目を逸らす。

きっとこれは 違うバスである。

冷静に考えてみると、客が日本人だという情報は、ツアー会社にも入っているハズである。

今日ここに来た日本人は、今の所 僕だけだ。

元々濃い顔の上、日焼けしているので、この間インドネシア人に間違えられたとはいえ

 流石に百戦錬磨のツアー会社の人間が、

 日本人の区別がつかないわけがない。

僕はそう結論づけていた。

 

そして、もう来ないなら宿に帰るだけである。

そう腹が据わっていた僕は逆に、

(見つけられるもんなら、

 この俺を見つけてみろ!)

と どっしりと構えていた。

 

また、観察していると、ここカオサンで拾われる客は、1人か2人である事が多い。

到着したワゴン車には、違う場所で拾って来たのであろう、数人の観光客が、すでに乗っている事がほとんどだ。

そこから推察すると、ここカオサンは、最後のツアーメンバーをピックアップする場所と考えられる。

つまりは、他の客が遅刻しているか、なんらかのトラブルで他の場所を周っているのだろう。

 

時計は既に8:35を指している。

待ち合わせ予定時間から、悠に1時間は過ぎた。

ぼくは、これでもかという程、時間通りにはいかない、東南アジアの洗礼を浴びながら、9時まで待って来なかったら帰る事に決めていた。

 

それから10分ほど待っていると、黒いミニバンタイプのワゴン車が到着した。

ドライバーが降りて来て、僕を見つけるなり、

「カンチャナブリツアーの方ですか?!」

と聞いて来た。

やはり ツアー会社のスタッフが、待ち疲れて キレ気味の、かなり目つきが悪くなっている日本人を探し当ててくれたらしい。

 

20代中盤の細身のタイ人男性である彼は、遅れた理由を謝りながら説明してくれた。

それによると、一人、どうしても待ち合わせ場所で落ち合えない客がいて、彼と合流するのに こんなに時間がかかったのだという。

そしてそのお客には結局会えず、その彼はキャンセルになったとの事だ。

 

 もう少し遅れていたら、キャンセルの客は

 もう一人増えていただろうね。。 笑

 

そう嫌味の一つでも言いたくなったが、流石にそれは我慢した。

「来てくれたから良いよ、大丈夫だ。」

僕はそう言って、そのバスに乗り込む事にした。

(内心は腑が煮えくり返っていたが、

 それは、頑張って抑えていた。

 彼が必死だったので、事情を察したのだ。)

噂に聞く、タイ人らしく

マイペンライ (気にするな)」とかわされていたら、さすがに怒鳴りつけて帰っていただろうが、意外と彼は、真摯に謝ってくれた。

 

スライドドアを開けて待っていたワゴン車を見ると、先客が3人ほど乗っている。

僕は先に乗っている彼らに「ハロー!」と挨拶をして乗り込もうとしたが、

改めて車を見ると、助手席が空いている。

「助手席に乗っても良いかな?」と聞くと、一瞬嫌な顔をされたが、

「私物を片付けるから、少し待ってくれ」

と意外とすぐにOKが出た。

僕は車は、景色も見れるし、助手席で足を伸ばしながらの方が好きなので、我儘を言わせて貰った。

まぁ、待たされた分、これくらいの我儘は許されるだろう。

 

そんな車は僕を乗せてすぐに、カンチャナブリーへと出発した。

黒いキャップを被った運転手は気のいい男で、僕に気を遣ってか、色々と話しかけて来た。

僕も もう気持ちを切り替えていたので、普通に受け答えをする。市街地をゆったりと走りながら、何となしに話していた。

とはいえ、ツアーの出発時間を1時間以上オーバーしている。その事について聞いてみると、

「ノープロブレム」を連発された。

彼が言うには、

「間に合うから、ノープロブレムだ」という事であった。

 

やがて大きな国道に出た。そして、その時に彼の言う「ノープロブレム」の本当の意味を僕は知る事となった。

空いている、3車線の国道に出た途端に、彼は人格が変わったように飛ばし始めた。

信じられないスピードで、どんどん周りの車は車窓から後ろに消えていく。。

 

スピードメーターを見ると、なんと! 130キロ越えで走っている。

高速道路に乗ったわけでもないし、タイの国道の法定速度が何キロか知らないが、明らかにスピード違反である。

というか、、法律などはどうでもよい。

(このスピード… 事故るんちゃう?😅

 というか、事故ったら確実に助からない…)

僕はタイに来て初めて戦慄した。

 

この猛スピードの中 話しかけてくる運転手にも、

「いいから、運転に集中してくれ!!」

と怒鳴りたくなった。

そう。 彼の言う「ノープロブレム」は、

「間に合うから」と言う意味では無く、

「間に合わせるから、ノープロブレム」

の意味だったのだ。。

 

僕はこの旅で初めて、死 を覚悟した。

しばらく動悸が止まらなくなったし、頭の中には

" 日本人 タイで交通事故で死亡 "  というニュースも浮かんできた。

しばらく僕は、生きた心地がしなかった。。

 

だが、不思議なもので、しばらくすると僕はこのスピードに慣れていた。

きっとこのスピードで走る事に運転手も慣れているに違いないし、

(もう、死んだらその時だ。)

と腹が据わった。

日本だと、流石に運転手に注意するが、

「 タイだからしょうがない 」 という、マイペンライな結論に、僕は至ったのである。

タイにも、スピードにも慣れる(諦める?)のだから、人間とは本当に不思議なものである。

 

40分程、ぶっ飛ばしただろうか?

空を飛ぶ様に走っていた不思議なワゴンは、急いでいるハズなのに、何故かコンビニに到着した。

「ここで5分休憩です」とドライバー。

どうやら道が空いていた為、かなり時間を稼げた様だ。

(一体どれだけ飛ばして来たんだ 😅)

そんな疑問は僕の他のツアーメンバーも感じていたらしく、心なしか皆 表情が暗い。

 

他のメンバーは、身長は僕より低く、太っているが、がっちりとしたインド系の知的な50前の男性と、どこの国の人かは掴みづらい、白人より少し浅黒い、彫りの深い20代中盤の若いカップルだった。

降りながら、挨拶をして少し話す。

やはり皆「飛ばし過ぎだろ?」と苦笑いしていた。

トイレに行き、缶コーヒーを買った僕を乗せたワゴン車は、再び空を飛び始める。

ドライバーはトイレに行きたかったらしく、戻ってからはより絶好調で話しかけてくる。

それは後ろのメンバーにもである。

後ろのメンバーも諦めたのか、普通に会話をしている。

相変わらずの猛スピードでぶっ飛ばす車は、10時過ぎに目的地に着いた。

 

途中、前を走っていたこれまた飛ばしているセダンタイプの車と、しばらく並走し、カーチェイスを始めたのには閉口したが。。

 

とにかく僕、いや、僕たちは何とか生きて、「戦場にかける橋」カンチャナブリーに辿り着いたのである。

それはまるで、映画の中で、橋爆破の為に 命懸けでここに辿り着いた、イギリス兵達のように。

 

やはりこの橋に来るのには、戦後であるはずのこの現代でも  " 命懸け" である事に変わりはない様だ。。

 

 

つづく

 

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↑ 辿り着いたカンチャナブリー

 

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https://m.youtube.com/watch?v=QRQkX6-ks00

動画 戦場にかける橋を通る列車


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↑ 丁度電車が通った。。

     何か感慨深いものがあった。

 


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↑ JEATH戦争博物館

     ヘリやセスナを展示してある。

 

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↑ 「戦場にかける橋」に辿り着いた!

 

 

次話

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