猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

失った時と 巡り会う。

 

第103話

失った時と 巡り会う。

 

この宿は、3階に上がるまでは アレだが…  上がってしまえば、そこは快適で清潔な空間だった。

この建物で、僕の別館エリアだけが まるで天国だった。

 

暗黒路地から、宿のガラス扉迄の "魔窟感" は凄いが、逆にギャップが大きくなり、よりこの部屋を素晴らしく感じさせる 笑

 

この3階フロアには、従業員さえいないので、今は僕一人しか居ない。

まるで、一軒 家を借りきった様な 贅沢な気分になっていた。

(清掃でベットメイキングしてくれる度に、

 カップル仕様にセットしてくれるので、

 バスタオルを 普通に四つ折りに畳み直し、

 シーツに撒かれていた花びらを、ゴミ箱に

 片付けるのは、ちょっと手間だったが…)

 

僕は ゆったりとベッドに寝転んで、何時だろうと思い、腕時計で現在時間を確認した。

 

そう。。僕は腕時計を手に入れていたのだ。

カンボジアで腕時計を無くしていた僕だが、実は初日のバザールで、腕時計を購入していたのだ。

 

その店は、バザールの 一階のエリアの端で、道路との境目で営業していた。

机程の大きさの、二段しか無い棚の、安っぽい汚れたガラスケースに、時計や腕時計が 全部で7点程並べられていた。

 え〜とぉ。。 し、品数… 少なっ。

と思いながら覗いてみると、僕の目は、ある腕時計に釘付けになった。

 

そこにある一点は、僕が日本から持ってきていた腕時計と うり二つだった。

あまりに同じだったので、一瞬僕は、

 自分の無くした時計が

 ここで売られているのでは??

と疑ったくらいだった。

 

しかし、冷静に考えてみると、僕が時計を無くしたのは、カンボジアである。

ベトナムで売っているはずがない。

 

包装などされていない その時計は、中古なのか、新品なのかもわからない。。

僕は目の前でタバコを吸っている、元は白だったであろう うす茶色の汚いランニングを着ているおっさんに話しかけた。

 

 えーと、その腕時計見せてくれない?

 

 ああ? どれだ?  ああ、これか?

 ん、ほら つけてみな?

彼は、ケースの鍵を外し、建て付けの悪すぎるガラスケースを、ゴリゴリゴリ…と無理矢理開けて、腕時計を渡してくれた。

(鍵をする必要はあるのか…?)とツッコミを入れたかったが、我慢して「サンキュー」と言って、それを受け取った。

 

手にとって、見れば見るほど 同じ時計だ。。

腕につけてみる。

 うーん、時計を無くす前の左腕だ。

 腕が、元のデザインに戻った。。

 なんか落ち着くな。。

 

僕は ある事をほぼ確信していたが、あえて値段を聞いてみた。いくらですか?と。

 

 その時計か?  いいだろ?

 なにせメイドインジャパンだからな。

 えーっと、8万ドン(400円)だ。

 

(ああ、やっぱり偽物かぁ。。)

僕はそれを聞いて、確実に偽物だと確信した。

CASIOの腕時計が、日本でも1500円だったものが、アジアとはいえ、400円なわけが無いからである。

僕は値引き交渉に入った。

 

 ええ〜? 8万は高いよ!

 もう少し安くなりませんか?

 せめて6万とか??

 

と聞くと、おっさんは商売する気がないのか、黙って僕から腕時計奪い取ると それをしまい。

急に無愛想になり、タバコを消し、新しいタバコを吸い出した。

 

全く交渉する気はない様だ。

僕は、どちらにしても腕時計が必要だったので、もう彼の言い値で買うことにした。

(まぁ、必要なものを買うのに、

 400円なら安いはずだ。

 それに偽物だったとしても、

 あまりに話が出来すぎている。

 この時計は ガラスケースでずっと、

 きっと 僕だけを待っていたはずだ。)

と勝手に不思議な縁を感じていた僕は、僕を完全に無視しているおっさんに、黙って8万ドンを差し出した。

すると、おっさんも黙って、ガラスケースを開け、その腕時計を渡してくれた。

そしてお互い無言で別れた。

 

だが僕は、不思議と「感じが悪い」などとは思わなかった。

(彼の性格や、商売のやり方なのだろう。)

と、何か妙に 納得できるおっさんだったからだ。

 

何にせよ、僕の左腕のデザインは 旅の当初に戻り、僕は気軽に時間を確認できる様になったのである。

(まぁ、やはり偽物らしく ボタンは少し緩いし

 毎日、キッチリ1分づつズレていくが、

 アジアでは大した問題では無い 笑)

 

そんな僕は、ベッドに仰向けに寝転びながら、天井をバックに、自身の左腕を見て、ニヤついていた。

 

そういえば先程 ショッピングに精力的な上田から、LINEで、

「もう少し、買い物したいから、

 待ち合わせ時間 伸ばして〜。

 終わったら連絡するね〜^_^」

と、買い物の延長戦の申し入れが来ていた。

 

しかし、僕の様な 旅行先で滅多に買い物をしない人間からすると、

(しかし、、よく そんなに

 買いたい物があるもんだなぁ。。)

と感心してしまう。一体何を買っているんだろうか?と。

 

やはり、 女性+ベトナム=買い物

なのだろうか? そういえば「地球の歩き方」を買った有楽町の三省堂でも、ベトナムの棚は

「女性向けのガイドブック」で溢れていた事を思い出す。

ベトナムとは、日本女性にとって「桃源郷」なのかもしれないと、改めて思う僕であった。

 

だが、せっかく親友と会えているのに、僕より買い物を優先されている事実に、

 もおぉ〜、ちょっと傷ついちゃうなぁ。

と僕は、少し買い物に嫉妬してしてしまうが、僕の方が年上だし、旅の先輩ぶっているので、そんな事は口が裂けても言えない 笑

 

「私と、買い物! どっちが大事なの?!」

と言いたくなり、女性心理が何となくわかった様な気がした。。

 うーん、酒でも飲むかぁ。

と思った僕は、この心地よい部屋から出て、宿の近くの散策ついでに、一杯やろうと宿から出る事にした。

相変わらずドア全開の 民家の前を通り過ぎて、暗黒路地に降りて、僕は日の当たる通りに出た。

 

この通りには色々お店がある。

今日はベトナムの若者達が多くいる、ロックな感じのするレストランに入った。

ビールは相変わらず50円ほどで飲めるので、席に座り、それを頼む。

メニューは色々あるが、僕は例の如くフレンチフライを頼み、ゆったりと飲み始めた。

 

しかし、まだ3日目なのにハノイでは、色々起きる。。

慣れているはずのベトナムだったが、都市が変わると結構違う。

僕にとっては「ベトナム」と一括りにしていたが、縦長の国ベトナムの、南の端のホーチミンと、北の端のハノイはきっと、博多と青森くらい違うのだろう。。

日本でも、都道府県で 全然気質が違うのだから、外国もそうである という、基本的な事に今更気付いていた。

 

ここまでが、あまりに長編ブログの為、読者の皆様も勘違いされているかもしれないが、

この時の僕は、生まれて始めての旅で、実はまだ一ヶ月ちょっとしか旅していない、未熟な旅人だったのです 笑

 

だからこそ、旅は続く

 

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↑ 清潔で快適な 素晴らしい部屋

 

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↑ 僕の腕に 戻ってきた時計

 

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↑ 腕時計と運命的な出会いを果たした

 バザール。熱気がすごかった。

 

次話

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