第93話
さらば いとしのカンボジア
その日も素晴らしい天気だった。
昼前まで寝ていた僕は ベッドから体を起こし
(そうか、今日で最後か…) と呟いていた。
少し寂しいが、ついにカンボジアを去る日がやってきた。
色々事件は起きるが、遺跡を周らないと、シェムリアップは田舎なので、実はあまりやる事はない 笑
僕は毎日、「究極のチャーハン」をたべ、「究極の生ビール」をバーに飲みに行く事を日課にして、少し街歩きをし、後はゆったり過ごしていた。
そして今日はいよいよ旅立ちの時だ。
もう少しこの田舎でのんびりしたかったが、フライトが迫っているので 仕方がない。
僕はギリギリまでカンボジアにいれるように、夜の飛行機を予約していた。
この宿は、レイトチェックアウトが出来たので、部屋もゆっくり出れば良い。
宿から散歩に出た僕はまず、例の「角っこ」にある「極・焼き飯や」に行くことにした。
朝からやっているこの店は、すでに混んでいた。
焼き飯を頼むと、注文を伝えに行った従業員が帰りには焼き飯を持ってきてくれた。
繁盛店にありがちな、オーダーto Put である 笑
僕はさっそくうっすい紙ナプキンで拭いたスプーンを差し込み口に運ぶ。
ざわ…ざわざわ…ざわざわ、。
と ざわめく程の、事件な美味さだ!!
スープも一口、、
うまぁあ〜! うまぁぁ。。 うまぁ…
うまさの "やまびこ" が聴こえる。
(うーん。。幸せだ。)
いい加減飽きそうなものだが、全然飽きない。むしろ、ずっと食べていたい。
(出発の直前にも、もう一回来ようかしら?)
とまで 思ってしまうお店である。
遅めの朝食を堪能した僕は最後に、毎日行っていた地元のパブストリートを見に行くことにした。
夜は、ネオンと照明で煌びやかな通りが、昼間に見るとどうなのか気になったからだ。
僕は日本で、博多や 大阪などに旅公演に行くことがあったが、旅公演の時は誰よりも早く目が覚めてしまうので、朝の街をランニングすることにしている。
汗と共に、前日の酒も気持ちよく抜けていく 笑
そんな中 走りながら見る街の姿は、昨日の夜の喧騒とは打って変わり、静かな街の姿を見せてくれる。
ネオンや照明で煌びやかっただった街は、朝の光に照らされ、まったく違った顔を見せてくれる。
ゴミや、それをあさるカラス、シャッターの閉まった店、人通りのない繁華街。
静かな、お祭りの後の公園のような、そんな街を見るのが僕は好きだった。
そして、シェムリアップのパブストリートのお祭りの後も、中々興味深かった。
(こんな建物だったんだ…)と思うようなボロボロの建物があったり、赤土の駐車場は ただの原っぱにしか見えなかったり、
まさに " 祭りのあと" である。
ネオンという 煌びやかな装飾と化粧で、いかに豪華に着飾っていたかがわかる。
深夜まで楽しみ過ぎて、酔いのあまり ここで寝てしまったとしたら、きっと朝起きて
(ありゃりゃ? 狐に化かされたか…?)
と思ってしまうだろう 笑
だが、それがいいのだ。
昨日の宴が一夜の夢のような喧騒であり、それが終わった 朝に見る、祭りの後のような哀愁を感じる通りが僕は好きだからだ。
新宿歌舞伎町でも、友人と朝まで飲んだ後の、シャッターだらけの、まだ寝ている街を歩くのが僕は好きだった。
そんな僕を、ここシェムリアップの昼前のパブストリートは、大満足させてくれた。
この遺跡の街の最後に僕は
「ストリートパブ遺跡」を訪れたのだ。
そしてそのまま、昨日見つけておいた ATMに行く事にした。
近所にあるATMは「二度と行かない!」と決めた、手数料の高い 中華系の銀行ATMしかなかったので、少し離れたところにある、カンボジアの銀行? という感じのATMに行く事にしたのだ。
お金を下ろしてみると、案の定手数料は 200円程しかかからない。
(よしよし、やはり安かった!)
ニヤリとしながら、僕は宿へと帰った。
部屋に戻り、荷物をまとめていると、僕が旅立つ事を 知ってか知らずか
隣の家から、初日からすっかりご無沙汰だった、例の死ぬほど下手なカラオケが聞こえてきた。
ぼぉへぇエエ~~♪
ぼぉおおお~へぇええ~ぇぁあんん~♬
どうやら、今日僕が旅立つので、わざわざ例の ”らぷそでぃ” で送り出してくれるようだ 笑
”ぼぉへみぁあんな らぷそでぃ〜♪ ”
を僕は、折角なので最後にと、ベッドに腰掛けて味わうように聞いていたが、真面目に聞けば聞くほど我慢できなくなり、腹を抱えて笑い出した。
なんでだよ!? もぉお!
これさぁ… なんなんだよ?! (爆笑)
こ、、これ? 誰が何のニーズで…?
どんなつもりで??
誰に、歌ってんの?? 笑
もっ、もう、、やめてえーー!!!
ありがとぉ〜〜〜 !!! 笑
と、涙が出るほどおかしくなって、しばらく僕は狂ったように笑い続けた。
もう 最高に可笑しかった。
不思議なもので、このカラオケはまた、15分程でぴたりと収まった。
不思議だなぁ。。本当に不思議だ。
と思いながら、一通り笑ったせいで、スッキリした僕は、涙を拭いて、再び荷物をまとめた。
この宿は、クレジットカード保証で部屋を取る為に、料金は後払いであった。
昨日の内に明細を出してもらっていたので、それを払いにフロントに降りる。
その為にさっきATMでお金を下ろしてきたのだ。
フロントには、宿の主人がいて僕の顔を見ると、
な、すぐに止んだだろ?
と言わんばかりのジェスチャアをして、笑っていた。初日と違い、僕がスッキリとした顔をしていたせいだろう。
僕が真面目な顔で、
あの歌をもう聞けないのは寂しいよ。
と冗談を言うと、彼はニヤリと笑って、
また聴きにおいで。
いつでも歓迎するよ。
そう言って 会計をしてくれ、
送りはジェイクで良いだろ?
と聞いてくれた。
あぁ、そうだね。
もちろん。 ありがとう。
と言いながら、空港までの送りをジェイクにしてくれた主人に感謝していた。
僕は握手をして、今日までの気遣いに対して、お礼を言った。
最後に挨拶をしたかったので、
シャイナさんはいますか?
と聞くと、彼女は今日は休みだという。。
かなり残念だったが、これも縁というか、旅ならではである。 しょうがない。
では、、彼女にもよろしくお伝え下さい。
と伝言だけ頼んで、遅めのチェックアウトを済ませた僕は、フロントにバックパックを預けて、街に最後の散歩に出た。
この風景を見るのも これで最後だなぁ。
と感慨深く、近場を一通り回った僕は、やはり最後にまたあの店に行ってしまった。。
そう「角っこの店」である!
最後にやはりチャーハンを食べた僕は、
これで思い残す事は 何も無い。。
とふくれた腹を抱えて、宿に戻った。
フロントのベンチに待機してくれていたジェイクに、もう出る旨を伝えた。
今日は久しぶりの国際線で、20時頃のフライトだ。
2時間以上は見ておいた方がいいので
17時過ぎに僕は宿を出る事にした。
まだ明るい カンボジアの紅いアスファルトの道を、ジェイクのトゥクトゥクは疾走する。
1時間も乗らないので、僕は最後はマスクはせずに、トゥクトゥクの風を全身で楽しんだ。
やがて暮れ始めた空の下、僕達はアンコール国際空港に到着した。
国際空港と言っても、平家建ての小さな空港である。空港の建物の目の前にトゥクトゥクを着けてもらい、僕はジェイクと別れを惜しんだ。
「もし、日本に来たら連絡してね!
どこへでも案内するよ!」
と約束をして、お互い笑顔で固く握手をして、ハグをして別れる。
ジェイクが最後にした、寂しそうな顔が僕の胸を衝いたが。。
「シーユー!! サンキュー ジェイク!
シーユー アゲイン!!」
と僕は声を励まして、彼に挨拶をした。
彼との別れに、湿っぽいのは嫌だったからだ。
ジェイクは、クラクションを一つ鳴らし、カンボジアの大地へと走り去っていった。
夕焼けに染まる道を走って行く 彼のトゥクトゥクを僕は、大地の彼方へ 見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
続く
↑ 美しいカンボジアの大地
↑ その赤土の大地を走る僕と相棒
↑ 宿の明細2つ
宿代も込みで全部で160$程
雑費と送迎、ツアー代込みで
この値段は安いと感じた。
(一番高くついたのは やはり
ベンメリア ツアーだった 49ドル 笑)
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