猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

日帰りのフーリーと寝台車

 

第111話

日帰りのフーリーと寝台車

 

スーパーで思わぬ大笑いをした僕は、色々スッキリして再び橋へと向かった。

 

橋から眺める川は、ゆったりと流れている。

上流から ハスのような水草が数束、ゆっくりと流れていくので、水の流れはよくわかる。

 

僕は橋を渡り、町の向こう側へと歩いて行った。国道沿いが大きな建物が多かったのに対し、この道は まぁまぁ広い割には、田舎の風景である。

左右には建物が連なっているが、二階建てや、3階建ての民家や、ショップが結構あるが、地元の人御用達のカーショップや、クリーニング屋さんの様なお店ばかりだ。

観光地の様に、飲食店や、服を売っている店や、無論お土産屋など皆無だ。

人もほとんど歩いていない。。

 

しばらく歩いたが、あまりにも楽しくない 笑

それはそうである、私の様な観光客にかかずらわる様な、人も お店も無いからである。

ただ歩いているだけで、たまにお店を覗くと、外国人が珍しいのか、言葉の壁があるのか、積極的にコミニュケーションは取ってくれない。

そして暑い。。お酒が入った事もあり、大量の汗も出る。

僕の身体は、毛穴からさっき入れたアルコールを 大量放出し始めていたのだ。

 

 うーん。。ちょっと休みたいなぁ。

と思っている所にちょうど、結構広い 平家建てのカフェを見つけた。Wi-Fiも完備らしいので、僕はこのお店で一休みする事にした。

 

中に入ると、やはり涼しい。

僕はクーラーの涼しさにホッとしながら、周りを見渡すと、お店には僕の他は誰もいない。

 

…というか、店員さえいない。

 

 エクスキューズ ミ〜〜。

 

と一応言ってみるが、誰も出てこない。

(ええと…今日は休みの日??)と思い、表に一回出てみると、表の看板は「Open」となっている。

僕は再び店に入り、勝手に席に座って待つ事にした。窓から外がよく見える、あまり日の当たらない席に座った。

 とりあえず涼しいから、ゆっくり待とう。

と僕は勝手にゆったりする事にした。

 

窓の外は相変わらず、車がたまに通るだけで、ほとんど人も歩いていない。

しばらく待つと、何故か店の外から店員らしき男性が入ってきた。

僕が「ヘロー」と挨拶をすると、こっちをみてビックリしていたが、やがてすぐに、

謝りながら、メニューを持ってきてくれた。

どうやら所用で外に出ていたらしい。

不用心では無いのかしら? と思ったが、都会とは違いそんなに気をつけなくても良いのかもしれない。

 

ここは、入り口に「Open」と英語の看板があるだけあって、持ってきてくれたメニューには、英語も書いてあった。

僕が冷たいコーヒーを頼むと、笑顔で彼は店の奥に入って行った。

 

やがてすぐに、アイスコーヒーを持ってきてくれた。

彼もベトナム語しか喋れないらしく、ミルク、砂糖、ガムシロップ等を全て持ってきてくれ

「好きに使ってね」とジェスチャーをしてくれた。

僕も笑顔で「サンキュー」と言い、ミルクとガムシロップを入れた。

ガラスの容器から ミルクを入れる時に

「…大丈夫かな?」と思ったが、まぁ、気にしたら負けだ と思い、たっぷり入れた。

 

アイスコーヒーを飲みながら、Wi-Fiに繋ぎ、携帯をいじって ゆったりする。

(うーん。。思ったより疲れてるな。。それに

 帰りの電車まで 2時間を切っているなぁ)

僕の帰りの電車の時刻は 午後2時半頃である。

 

どうしてそんなに早く帰るのか??

と疑問の方もいるだろうが、実は帰りの電車は、これしか無いのである。

他の列車は、皆 フーリーを通過していく。フーリーから乗れる 次の電車にすると、深夜の1時まで待たなければならない。

 

流石にそれだともう宿泊した方がいい。

日帰りだと、午後2時半が限界なのである。

 

時間の事もあるし、病み上がりに 炎天下を歩き回った疲れも手伝い、僕はもう ここで残りの時間を潰す事にした。

 

色々見れたし、なんだかんだで刺激の多い 都会のハノイが、僕は早くも 恋しくなっていたのだ 笑

 

このカフェで、調べ物など 充実した時間を過ごした僕は、汽車の時間まで 1時間を切ったところでカフェを出た。

少し散歩をして、駅に戻る事にした。

 

橋に戻ると、何か違和感を感じた。

川が緑色になっていたのだ。

 

よく見ると、先ほど流れていた水草が、川を覆わんばかりに大量に流れてきていた。

ここは 2つの川が合流している場所で、なぜか上流の片方の川からだけ、草が流れてきている。

その左側の川は、川面が水草で 完全に覆われている。

(どういう事だろう??

 来た時とは比べ物にならない量の草が

 上流から流れてきている。。

 この時間に急に大量移動している…)

 

どうでもいい様な事かもしれないが、しかし、明らかに異様な量であった。

 

水草を まるで生き物の様に感じる。

(こんなに大量の水草は、何処から来てるの?

 この量が、毎日流れていくのだろうか?

 というかなぜこの時間に

 急に流れてきたんだろう?)

僕はしばらく その不思議な光景を眺めていた。

 

(やっぱり、ハノイの水上人形劇の

 水の色が緑色だったのは、

 水草を意識しているだろう。。)

と、僕は勝手に納得していた。

 

先程のスーパーを過ぎ、駅に戻る。

なんだかんだ、ご飯を食べて、スーパーに行っただけで、小旅行は終わった 笑

 

だが、まだ寝台車に乗るというイベントが残っている。

 

直前まで日陰で涼しい駅舎のベンチで待つ。

日本の区役所の待合の様に椅子が並んでいて、皆そこで待っている。

時間が迫ると皆ホームへと向かうので、それに合わせて僕もホームへと向かう。

日本と違い、普通に線路を越えて、真ん中のホームに行く。

 

やがて列車がきて、客車へと這い上がる。

 

日本のように、すっとは乗れない。

バリアフリーって何?」という感じの、人間の強さを信じ切った 高さのドアである。

 

車両に入ると、丁度車掌さんがいたので、チケットを見せると、案内してくれた。

恰幅のいい男性の親切な車掌さんである。

寝台車は、右側は窓のある廊下で、左側にだけドアがあり 部屋になっている。、

 

僕のベッドのある部屋の前で、彼は止まりドアを開ける。

部屋の中に、3段ベッドが左右にあり、計6床ある部屋である。

 

部屋を見ると、一番下のベッドには、左手に子供が、右手にはその母親らしき女性が寝ていた。

 

車掌が、その母親を起こし、退くように言ってくれ、僕に「ここだよ」と教えてくれた。

 

流石に 終点のハノイの一駅前で、新しく人が乗ってくるはずが無いと思って、ゆったりと僕のベッドで寝ていた母親に、少し罪悪感を感じた。

彼女は、上のベッドに行く気力は無いのか、子供と一緒のベッドで一緒に寝始めた。

 

(一駅だけ寝台車に乗ると、なるほど。。

 結局、こういう事になるんだな…

 一駅しか乗らない 俺がおかしいから

 全然 彼女を責められない (^_^;) )

 

「寝台車じゃ無くて、3等にしなさいな」

とアドバイスしてくれた、窓口の女性の言葉が、今更頭にリフレインする。。

 

だが、せっかく乗ったのだから楽しまないと損である。母親も慣れたもので、すぐに寝息を立て始めた。

 

僕はベッドでとりあえず横になってみた。

(うーむ。結構良いベッドだ。)

寝やすそうである。流石はホーチミンからの2泊3日に耐えうる寝台である。

 

この寝台車の衝撃なことは、三段ベッドであることである。

僕が泊まってきた数々のドミトリーでさえ、三段ベッドは存在しなかった。

2段目は結構スペースがあるが、3段目は もう天井とキス出来そうなくらいのスペースしか無い。 挟まりそうな狭さである。

そして、3段目へ登るのは、結構な筋力がいるはずである。

(面白い! やはり寝台にして正解だった!)

僕は大喜びしていた。

 

窓からは、風景がよく見える。

壁には謎の計器と、温度計もある。

温度を見ると23度である。

行きに乗った三等車と違い、クーラーも効いていて、涼しい。

珍しく、室温が丁度良い温度になっていて、寒くは無い。睡眠をとる 寝台車ならではの温度なのだろう。

 

ベッドで景色を見ながらゆったりとしていると、すぐに田園風景から、市街地の風景になった。

行きはお喋りが盛り上がっていて、景色はあまり見ていなかったが、結構 街に入るのが早かった。

ふと疑問に思った。

(この親子はもう3時前だというのに、

 よくすやすや寝れるなぁ…)

という事と、よく考えるとこの寝台車は、個室である為、知らない人と最大6人相部屋になるのだが、女性である母親は、男の僕が入ってきても、平然と無防備に寝ている。

どうやら寝台車は、結構安全みたいだ。

 

そして、ハノイまであと30分と言うところで、奇跡が起こった。

車内にスピーカーから 大音量で

ベトナムの歌謡曲」という様な歌が 流れ始めたのである。

女性シンガーの、悲しいような、ダイナミックに歌い上げるバラードである。

まるで、この長いホーチミンからの旅の終わりを、恋人の別れのように歌い上げているような曲である。

 

ついに、終点のハノイに着くというのに、曲の音量と、哀愁が物凄くて、僕は笑ってしまっていた。

 

だが、不思議と聴いている内に、この曲が妙にしっくりくる。

「いよいよ終点ですよ〜!

 皆さん、降りる準備をして下さいね〜」

という意図だろうが、この曲はハノイ駅に着くまで 大音量で30分以上、ずっとエンドレスで流れ続けた。

 

ホーチミンから来たわけでも無く、一時間しか乗らない僕でさえ、何か感慨深いものを感じてしまう。

(ああ、やっとハノイに着くのだなぁ。。)

と、まるでこの列車と長旅をしてきたような気分になり、名残惜しさが込み上げてくるから不思議な曲である。

 

僕は廊下に出てみた。

すると皆 部屋のドアを開け放している。

 

廊下にまで荷物を出し、降りる支度をする人。

まだ幼い息子を抱き抱え、自慢げに街並みを見せている若い父親。

肩を抱き寄せ、窓の外を見る 若い夫婦。

じっと街並みを眺めている年配の女性。

 

この列車で共に旅をしてきたであろう人たちが、廊下に溢れていた。

僕もそのまま廊下で、彼らと車窓の景色を見る事にした。

 

例の曲のせいか、不思議な事に僕も、彼らと長い旅をしてきた仲間の一員の様な気がして、

不意に何かが込み上げてきて、危うく涙が出そうになった。

 

何故だがわからないが、僕は 不意に心を揺さぶられたのだ。

 

不思議な寝台列車はやがて、そんな僕たちを乗せて 終点のハノイ駅へと入っていった。

 

つづく

 

ベトナム統一鉄道 動画

寝台車内部

https://m.youtube.com/watch?v=fWMB_TbdMxI

 

寝台車のハノイ到着直前のバラード

https://m.youtube.com/shorts/zmkDvSls0bU

 


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動画 フーリーの川と水草

https://m.youtube.com/watch?v=TD6kZSx7XqQ

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次話

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