猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

隣の町はゆるやかぁ。

 

第110話

隣の町はゆるやかぁ。

 

隣町のフーリーは、国道沿いこそ会社やビルなどあったが、水上レストランから見える川向こうは、高い建物もなく、のんびりとしてそうだ。

 

まだ 11時を過ぎたばかりである。

こんな時間に来る常連以外の客が珍しいのか、それとも観光客自体が珍しいのか?

迎え入れてくれた 若い男性の店員さんは、かなり戸惑っていた。

 

彼には、全く英語が通じなかったので、

ジェスチャーで、川がよく見える、入り口付近のテラス席に座っていいか聴くと、快く座らせてくれた。

(そういえば、駅前の食堂でも

 英語は全く通じなかった。。)

 

渡されたメニューは、ベトナム語のみで、写真も無く よくわからない。。

とりあえず僕は、後ろのおじさんたちが美味しそうに食べていた 焼きそば を頼もうと、おじさんたちが食べている皿を指さし、注文しようとした。

ジェスチャー

「アレ、あの皿のやつ、ワンね。」

とやっていたところ。

後ろの親切なおじさんの一人が、店員に ベトナム語で、僕の注文をしてくれた。

彼は、メニューの一部分を指差して、親指を立てて、最高の笑顔で、たぶん

「グッドだお勧めだ」と言ってくれている様だ 笑

僕はおじさんたちに頭を下げて

「サンキュー」と言うと、

「いいんだ、いいんだ。」と言うふうに 彼らは頷き、再び酒盛りを始めた。

 

ビールは、ドリンクメニューに写真がプリントされていたので、それを指差し、指を一本立てた。

スタッフの彼は、注文が理解できたのか、ホッとした表情で店の奥へと帰って行った。

言葉が通じない事に慣れていないと、お互いに気を使う。

 

たった一駅、ハノイから離れただけで、英語が全く通じない事が少し驚きだった。

この旅の中でも、ここまで誰にも英語が通じないのは 初めてだった。

とにかくジェスチャーで、なんとかなった僕は、少しホッとしていた。

 

川を見てボーッとしていると、ビールが来る。

何故か、皿に山盛りの、茹でたピーナッツも 一緒に来た。頼んでいないはずだが、言葉が通じないので、「頼んでないよ〜!」と言うのも面倒になり、そのまま受け入れた。

(まぁ、お通しだと思おう…)

 

ビールを片手に、川を見ながら呑んでいるのが心地いい。

(うーん。リゾートだね。)

と心が落ち着く。

 

しばらく川を見ながらボーッとしていると、店員が料理を運んできてくれた。

僕はそれを見て止まった。。

 

それはさっき指差した「焼きそば」では無く、スープがたっぷり入った、丸い白い麺の

「フォーラーメン?」のようなものが来た。

(ええと。。なぜラーメンが…?

 俺は焼きそばが食べたかったんだけど…)

戸惑って 周りを見渡すと、後ろのおじさんと目があった。

おじさんは親指を立てて、笑顔でバチッとウインクをしてきた。

 

どうやら、僕の要望は伝わっていなかった様だ。。

だが、これほどの もの凄いウインクをしてくれるのだから お勧めで美味しいに違いない。

 

ツマミも兼ねて、焼きそばを頼みたかったのだが、まぁ、ツマミには大量にピーナッツもあるし、良しとしよう。

 

ポジティブな僕はそう考え、早々に諦め…というか、前に進むためにも、麺をすする事にした。

食べ始めてみると、地元のおじさんがお勧めするだけあって、なかなか美味しい。

野外のテラスですするフォーラーメンもまた、乙なものである。

 

フォーラーメンを平らげた僕は、ビールのおかわりをして、ボーッと 川を見ながらピーナッツを食べていた。

他のツマミも頼みたかったが、何が来るかわからない。万が一ガッツリご飯が来たら食べきれないだろう。。

 

僕は茹でピーナッツが意外とツマミとして優秀だった事で、そのままゆっくりビールを呑んでいた。

途中で、おじさん達は帰って行った。

その際に、また笑顔で挨拶してくれた。

ほろ酔いの僕は、それに手をあげて応えて見送った。

 

しばらく一人でいると、いつもの都会の風景を離れて、昼前からここでビールを呑っている事に、不意に不思議な感覚を覚えた。

旅に慣れ、あまり意識していなかったが、今僕は 日本を遠く離れ、縁もゆかりもないこの町で、平然とビールを飲んで寛いでいるのだ。

 今外国にいるんだよなぁ。。

と、風邪をひいて寝込んでいた時とは、全く違う感慨を感じていた。

これも都会を離れ、不意に、初めての土地に来たから感じられる事だろう。

 

しばらく不思議な感覚を味わい 堪能した僕は、会計をお願いして、店を出た。

会計は普通の値段で、結構安かった。川のコテージとはいえ、地元のレストランだからだろう。

 

一旦 橋まで戻った僕は、突然尿意を覚えた。

(しまった。。

 さっきの店で行っておけば良かった)

と思ったが、後の祭りである。

 

僕は橋に出る前に見つけていた、新しそうなスーパーマーケットに行く事にした。行きは あまり気にしていなかったが、トイレを借りる為に入ってみる事にしたのだ。

行きに通り過ぎた時は、

(表で何かやっているなぁ。) くらいにしか思っていなかったが、近づいてみると、どうやら本日オープンらしい。

 

二階建てのしっかりとした、倉庫のようなコンクリートの建物のスーパーである。

(本日開店かぁ。。しかし俺は

 よく イベントにぶつかるなぁ…  笑)

と苦笑しながら、中に入る。

 

中では、鮮やかな 紅いアオザイに身を包んだ若い女性が迎えてくれ、荷物をロッカーに預ける様に誘導してくれる。(勿論ベトナム語である)

例の、ベトナムのスーパーでの 万引き防止システムである。

アオザイのスタッフさんは、メガネをかけた普通の娘さん、と言う感じの顔立ちだが、スタイルは抜群で、本当にアオザイがよく似合う、綺麗な娘さんである。

(このこに会えただけで、

 この町に来た甲斐があったな。)

とほろ酔いの現金な僕は、ニコニコしていた。

 

アオザイとは、実は歴史的に見ると 結構近年に出来たものだと聞いていた。

元々の民族衣装ではないらしい。

 

ホーチミンで出会った友人の女性からは、

アオザイが着れるように、

 ちゃんとダイエットしているのよ」

と言う話を聞いていたし、やはり、

「スタイルが良くないと 似合わないのだ」と教えてくれた。

 

最近のベトナム若い女性達は美意識が非常に高い。 日焼けを嫌がる女性も多い。

元々色白のベトナム人女性は、肌を大事にしている女性が多いらしい。

知り合ったその娘さんも、待ち合わせで会った時も、原チャリの「ベスパ」に乗りながら、白い布と服で 顔も全身も覆い、日光を完全防備をしていた。

まるで、白黒時代のテレビの 昔のヒーロー

月光仮面」にしか見えなかった。

待ち合わせの時に、彼女が 顔も白い布で覆っていたので、僕は話しかけられても、

(あ、月光仮面だ。。

 月光仮面が話しかけてきた…)

と、大昔のヒーローを思い出しているだけだった。

 

 月光仮面の おじさんは ♪

 せぇいぎの味方だ よい ひーとーだー ♫

 

という、テレビの「昔のヒーロー大集合」的な番組で覚えていた「主題歌」を思い出し、

 (ええと。。 どなた??)

と思うくらいの変装(コスプレ?)であった 笑

 

話は逸れたが、そんなお祭り騒ぎのスーパーマーケットへと 僕は入った。

トイレを探しながら、一階を見て周ると綺麗なスーパーでかなり広い。

一階は食料品がメインのフロアで、驚いたのは店内で揚げたての春巻きを売っているのはいいが "まさに揚げたて" だった事だ。

調理場では無く、店内の通路で「試食販売」のように、直径1メートルの鉄鍋に油をたっぷり入れ、今まさにプロパンガスの力で揚げているのだ。。

(ええ?!  あ、、危なく無いの??)

高温の大量の油が スーパーの通路に、2箇所も出現している事が、僕にはかなりのカルチャーショックだった。

 

そんな僕は ぐるっと回ったが、トイレは一階には無かった。

普段なら、トイレの場所をすぐに聞く所だったが、ここは英語が全く通じないフーリーである。 自分で探すしか無い。。

 

僕は2階へと上がった。

だが階段を上り、限界が近づいてきた僕は、ついに店員さんに聞く事にした。

背の低い、まだ若い男性店員さんを見つけて 話しかけた。

まず「アイ うぉんとぅ ゴー レストルーム

と言ってみる。

彼はキョトンとしている。。

(なるほど…) と思い、

「トイレ、トイレット、レスト、バスルーム!」

と単語を駆使するが、全く伝わらず、彼はやはりキョトンとしている。。

 

僕は諦め、ジェスチャーで伝える事にした。

「トイレ、トイレ。。手洗い!」と言いながら手を洗うジェスチャーをする。

すると伝わったのか、彼は(ああ!)という感じで頷き、僕を案内してくれた。

 

ホッとしてついていくと、ある棚に案内され、タオルを指差し、「どうぞ。」というジェスチャーをしてくれた。

(…まったく 伝わっていなかった。。)

僕は手を拭きたいわけでは無い。

 

僕は次に、少し恥ずかしかったが、ズボンを下ろすジェスチャーをして、パンツまで下ろすパントマイムをした。

 

すると彼は、ハッと気付いて手を叩き、

(ああ!! なぁんだ! そうでしたか。

 わかりました。 それならこちらですよ!)

とやっと理解してくれ、お互い笑顔になり、彼は僕を案内してくれた。

 

僕は 再びホッとしてついて行ったが、なぜかまた棚の前につき、彼は男性用のトランクスを指差し、満面の笑みで、

「どうぞ! いっぱいありますよ。」

ジェスチャーしてくれた。

僕はパンツを履きたい訳ではない。。

 

どうやらパンツを欲してると伝わったらしい。

(おいおい… この伝言ゲーム。

 むりゲーすぎるだろ?)

 

…ここまでジェスチャーが通じないのは人生初であった。

英語が通じないのはしょうがないとしても、カンボジアでも、マレーシアでも、ジェスチャーで何とかなってきていたが、

一駅 田舎に来ると、ジェスチャーまで通じないらしい。。

 

が、しかし僕はここで諦めなかった!

既に漏れそうだった僕は、潜在能力が発動したのか、頭の中で あるアイデアが閃いたのだ。

(そういえば、全然使ってなかったが

 iPhoneの、Google翻訳のアプリで、

 ベトナム語を、オフラインで使えるように

 宿でダウンロードしておいていたな。。)

用意周到な僕は、新しい国に行くたびに、その国の言語をダウンロードしていたのだ。

 

今までの旅で、1回しか使っていなかったアプリを開き、日本語で「トイレ」と打ち込むと、右側にベトナム語が表示された。

僕はそれをその店員さんに見せる。

 

その瞬間である!!

男性店員さんは大声で、「あああぁ〜!!」と気付き、爆笑し始めた。

勘違いで 色々案内していた自分に気付いて、笑いがこみ見上げてきたのだろう。

普段なら、僕も一緒に爆笑するところだが、それをやると、確実に漏らすだろう。。

 

僕が引きつった笑顔を浮かべていると、さすがに同じ男性である彼は、 笑っている場合では無い  と察してくれ、大真面目な顔で僕を先導し始めた。

ついていくと、彼は 階段を降り、1階のフロアを早足で歩き、出口から出ていった。

外に出て 戸惑う僕に「いそげ! 着いて来て!」とジェスチャーし、建物の裏口に案内してくれた。

 

そして、彼が指差した先には トイレがあった。

なんと、トイレは外にあったのだ!

僕は「サンキュー!」と言い、トイレに駆け込んだ。

(ま、間に合った!!)

やがて至福の顔で出てきた僕を待ってくれていた彼が、「間に合ったかい?」と話しかけてきた。僕は、

「サンキュー!! 貴方のおかげだよ

 ありがとう。 でも、パンツはないだろ?」

と言うと、彼は僕を指差し、笑い始め、僕も釣られて大笑いしていた。

 

あれほど通じなかったジェスチャーが、共に危機を乗り越えた今は、何故か通じ始め、僕と彼は急にコミニュケーションが取れるようになり、お互いの間抜けさを指摘し合いながら、大笑いしていた。

 

不思議なもので、人間とは、

 不意に心が通じると、

 何故か会話が出来るようになるらしい…

 

そんな、この 人間という生き物の深淵 に触れたぼくは、

 

更なる出会いを求め、フーリーの町を再び歩き出していた。

 

続く

 

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↑ 水上レストラン

 山盛りのゆでピーナッツとサイゴンビア

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↑ のどかそうな川の向こうと橋

 

次話

azumamasami.hatenablog.com