第136話
戦場に架ける橋への試練
朝、スッキリと目覚めた僕は、シャワーを浴びてから、早朝の気持ちのいいバンコクを ツアー会社へと向かっていた。
昨日、タクシーで寝てしまった僕は、宿の近くで運転手に起こされ、無事 部屋へと辿り着いていた。
そして、暑さに慣れたのか?
クーラー無しの部屋で僕は、不思議なくらい ぐっすりと眠れていた。
朝の日差しで目覚めた僕は、スッキリとした頭で、小さなリュックに荷物を詰め、出掛けていた。
早朝のカオサン通りを抜けて、まずはツアー会社に向かう。
夜の喧騒とは裏腹に、シャッターの閉まった通りは、人影はほとんどなく、出ていた屋台なども姿を消している。ガランとした、ゴミだらけの通りを、真っ直ぐに抜けていく。
早朝に、カオサン通りに来るのは初めてであるが、ここまで夜とギャップがある事に、ある種の寂しさを感じてしまうが、この " お祭りの後" の様な寂しさが、僕は結構好きだった。
カオサンを抜けてしばらく歩き、やがてツアー会社前に着いた。今日はここに7時集合である。
時計を見ると、6:50である。
まっている間に、建物の間をふと見ると、可愛らしい三毛猫さんがいた。
首輪をしているのでどこかの飼い猫さんだろう。迎えの人が来るまでに、この美人さんと ひとときを過ごす事にした。
いい猫(こ)だねぇ〜。 綺麗だねぇ〜。
暑いよね〜、お水飲んでる??
と「岩合さんシステム」を真似した、下手くそなナンパの様なやり方で話しかけると、
「にゃー。」と返事をしてくれる。
挨拶の為に、ゆっくりと瞬きをすると、向こうも瞬きを返してくれる。
嗚呼。。しあわせ〜。
と心から癒される。。
この娘さんは優しいおっとりさんで、撫で撫でさせてくれた。
時間を忘れるくらい三毛さんに夢中になっていると、ふと視線を感じた。
スクーターに跨った、40前のタイ人女性が、僕を冷ややかに見下ろしていた。
「ええと…何か?」と話しかけると、
「ツアーに行かれる方ですよね?
もう行ってもいいですか?」
と言われる。
時計を見ると、もう7時を数分過ぎている。
どうやら僕は、しばらく前から彼女に観察されていたらしい。。
「ああ〜、可愛いねぇ〜❤️」とか、
「いい娘だねぇ。。あ"〜、ここだね〜。
ここ気持ちいいねぇ。」とか
「美人さんだねぇ。綺麗だねぇ〜💕
タイのオードリーさんだねぇ。」
と完全にメロメロに、おかしくなっていた僕の、一部始終を ずっと見られていた様だ(^_^;)
少し引き攣った顔の彼女に、全てを察した僕だったが、何事もなかったかの様に、強がって見せた。
「あ、はい。 大丈夫です。
いやぁ〜!この猫さん可愛いですよねぇ〜!
いやぁ! こんな綺麗な猫さん!
日本でも見たことありませんよ!
ガハハハハ! あ、えーと、お願いします。
ぜひとも、しゅっぱつで。」
と顔を真っ赤にしながら、そう言い張る僕に彼女は、ちょっと笑い出し、
「乗って下さい。」とスクーターの後ろを指差した。その笑顔を見ると、とても良い人そうだが、、
(んん? 原チャリに、乗って下さい…
とな? うん。。 ええと… (^_^;)?
スクーターに2ケツで乗っていくという。
そんなツアーなど存在するのだろうか…?)
そう僕は 一瞬真剣に考えた。
そして、ツアー会社の店長さんの顔を思い出してみた。
そして、(そんな訳、ないハズだ!)と思い直した。
やはり、安心感のある人で、日本の人に組んでもらったツアーである。そこに対しての信頼感はやはり揺るがない。
ホーチミンから、カンボジアに、ツアーバスで陸路から入った経験もある僕は、その時の事を思い出して、
(彼女は ツアーバスの待ち合わせ場所まで、
原チャリで送ってくれるだけに違いない…)
と過去の経験から、そう思い直していた。
何事も、一度自分でパニックになった経験が、本人を成長させ、冷静に対応させてくれる。
旅人が、経験値によってどんどんレベルアップしていく所は、ドラゴンクエストの様な RPG に似ているのかもしれない。
そんな僕は、自分のレベルがいくつかも分からないまま、カオサンロードに連れて行かれた。
そう。。何故か来る時にも通った カオサンロードに戻ってきたのである。
原チャリなので、2分で着いた。
僕の他にも観光客らしき旅人が、そこかしこにいる。
どうやら ここカオサンロードは、朝はツアーバスの待ち合わせ場所になっている様だ。
たしかに出店も、人もほとんどいないここは、待機するには最高の場所へと変貌していた。
カオサンロードの、もう一つの顔の様だ。
最初は、
(ここで待ち合わせなら、
最初からここでええやん??)
と思ったが、結構長いカオサン通りであるし、色々なツアー会社がひっきりなしに来るので、一人で来ていたら、自分のツアーに参加するのは難易度が高そうだ。
早起きして、スタッフに連れて来て貰うのが 正解だと、途中から確信した。
「7時半に迎えが来ますので。」
というので、2人して半までじっと待つ。
目の前では、色々なワゴン車に、僕と同じ様に道端に佇んでいる観光客が、次々と乗り、出発していく。
流石に道幅的に、大型バスは入ってこれないので、僕のツアーバスも、ワゴン車である事が想像できた。
僕も彼女もじっと待つ。
皆を見送りながら待つ。
少し話をしながら待つ。。
その会話が終わり、また黙って待つ。
そんなことを何度も繰り返したが、待てど暮らせどバスが来ない、、周りにいた他のツアー客達も、ほぼいなくなっていた。
彼女に聞いてみても、
「待てば 来るはずだ。」の一点張りだ。
ふと時計を見ると、もう8時を過ぎている。
そして 流石に彼女も ソワソワし出した。
眠気もあり、待ち疲れてきた僕は、
(おいおい… これなら7時前に来なくても
良かったし、もっと寝れたじゃんか。。)
と思わず心の中で毒づいた。
やれやれ。。本当に来るのかしら?
さすがに中止じゃないよな(~_~;)
とぶつぶつ言っている時に事件は起きた。
しばらくどこかに電話していた彼女が、電話が終わるなり、ツアーのペラ紙チケットを僕に渡して、
「ワタシはもう行かなければならない。
ここで待っていれば大丈夫だから。」
と言い出したのだ。
「えええ? ちょっと待ってよ!
さすがにそれだと無理だよ!」
と食い下がったが、彼女に、
「用事があって、どうしてもこれ以上は
待つ事ができないの。ごめんなさい。。
電話で聞いたから本当に大丈夫!
絶対に迎えにきてくれるから!!」
と言って彼女は僕を残し、スクーターにまたがり、砂ぼこりをあげながら、猛スピードで走り去った。
(マジかよ?! つーか、どうすんの?)
ガランと空いている歩道に取り残された僕は、呆然とペラ紙を見つめていた。
それからも2台ほどワゴン車が来たり、セダンタイプのツアーバス?がやってきた。
来るたびに、僕のツアーであるかを確認する。
しかし、穴が開く程 ペラ紙を見られた後、
「違う。 ウチじゃない。」
と言われる。
そんな事を何回か繰り返した後、僕はやさぐれていた。
クアラルンプール国際空港で、マラッカ行きのバスを探していた時のトラウマが、蘇って来てさえいた僕は、
もう… 。ツアーバスなど必死に探さずに、
このまま宿にかえったろうかしら?!
と、そう本気でそう思い始めていた。
カオサンロードに来てから… というか、このタイ王国に来てから 一番心細くなっていた僕は、
(もう 全てを投げ出して宿に帰りたい。。)
という欲求と必死に戦いながら、歯を食いしばって、
「絶対に迎えに来てくれる!!」
はずのツアーバスを必死に待っていた。
つづく
↑ 美人な三毛猫さん 💕
(この時まではウキウキであった。。)
↑ カオサンロードを彷徨う僕(イメージ)
↑ 僕の目指す「戦場に架ける橋」
出発すらできていないが…
一体 どうなるんだろうか…
次話