第131話
カオサンにある 日本人ツアー会社
朝の散歩は少しにして、宿に一旦戻った僕は、
昼のカオサンロードへと向かっていた。
僕は「カリプソショー」というレディーボーイ達のニューハーフショウを見に行きたかったのだ。ここのショウは、世界的に見てもクオリティはナンバーワンだと言われているらしい。
「エンタメ業界にいるなら、
是非見に行った方が良いですよ!」
と、前の宿のオーナーさんにも勧められていた。
そして、新しい宿の人に
「カリプソショー見るなら、ここのツアー会社から買った方が安くて便利ですよー。」
と教えて貰ったのが、カオサン通りから少し先にある、日本人が経営するツアー会社であり、日本語で申し込めるツアー会社だ。
なるほど。 それは有難い!
早速そこへ行く事にした。
カオサンで唯一、日本人がやっているツアー会社へと。
昼のカオサン通りも、色々とお店があり賑やかだが、人通りは夜の比ではない。
そこそこな賑わいで、深夜とは違い、健全な賑わいである 笑
通りを抜けて、少し閑静な路地に入りしばらく歩くと、郵便局があり、その先のコンクリートの建物の軒先に、こじんまりとしたサービスカウンターがあった。
同じ建物内には、ホステル宿もある様だ。
日本語で案内が色々出ており、一発でここだと分かった。
店先にはタイの方らしい女性スタッフがいたが、奥で日本人らしき人がパソコンをいじっていた。
「すみません。。」と遠慮がちに声をかけると、奥の男性が「どうしましたー?」と、にこやかに、日本語で声を掛けてくれた。
40歳位の、よく日焼けした男性だ。
この方が、このツアー会社のオーナーであり、店長さんであった。
話をすると、さっそくショーのチケットを手配してくれる。
正規の値段より安く買えて大満足な僕は、ついでに何かツアーがないか聞いてみた。
ここには「カオサン最安値!」という表示もあり、気になっていたからだ。
すると、「カンチャナブリーツアー」を勧めてくれた。
これは映画「戦場にかける橋」の舞台になった所で、実際に列車も見れる様だ。
店長さんは、話し方も柔らかく、とても良い方で、丁寧に色々と説明をしてくれ、今のタイやカオサンについても色々と情報をくれた。
僕はすっかり店長さんのファンになっていた。
タイのツアー会社はいい加減な所も多く、
「当日に急に中止」などという事もあるらしい…
ここは、ちゃんとした取引先を選択していて、取引きの度に、色々と話し合ったりしながら、信用できる相手先を開拓してきたのだという。
そして、安い理由は、いらないオプションをできる限り削ぎ落とした結果、実現出来ているとのことだった。
そんなタイのツアー会社事情なども含めて、色々と話を聞いて、面白そうだと思った僕は、ツアーに申し込むことにした。
自分で、どこに行ってみたいとか、どこに行ったら良いのか解らない… そんな僕の様な 雑な旅人は、たまにはツアー会社に、旅を丸投げするのが楽だったりする 笑
カリプソショーの引き換えチケットを、割引で購入し、明日のツアーにも申し込んだ僕は、ホクホク顔でカオサン通りに戻っていった。
昼のカオサン通りは、夜とは全く違う。
客層も、お店も賑わい方も。
昼の賑わいは健全そのものだ。
途中で、少しふくよかな、人の良さそうな、30位の中華系のタイ人女性に声をかけられた。
" ザ・マッサージ師 " という様な清潔感のある、白衣の様な制服を着ている。
とてもこの雑然とした通りには、不釣り合いな格好だ。そして案の定、
「マッサージは、どうか?」というのだ。
暇そうで、皆に声をかけていた彼女は、
料金表を片手に、話しかけてきた。
1時間200バーツと書かれた料金表を見た僕が
「オー! エクスペンシブ!(高い!!)」
と言って立ち去ろうとすると、
「値引きをするので、寄って行ってって!」
と言われた。
そんなにマッサージを必要としていなかった僕だが、一応値段を聞いてみる事にした。
いくらか聞いてみると
「150バーツで良いわよ?」
と言ってきたので、また僕は
「エクスペンシブ!」とわざと言ってみた。
相手が暇そうなので、いくらまで値切れるか、試して見ようと、僕の悪戯心が発動していたのだ。
「じゃあ、130バーツ…」
と言いかけた所を、
「100バーツならいいよ。」
と食い気味に言うと、
「オーケー。。
ワン ハンドレッドバーツ、OK!」
と交渉が成立してしまった。。
(あ、しまった😅)
と思ったが、交渉は成立してしまった。
こうなったらもうしょうがない。
…がそれにしても安すぎる(^_^;)
(一体どこに連れて行かれるのだろう?)
噂に聞く、路上にマットを引いた青空マッサージでない事を祈りながら、女性店員に付いていくと、比較的新しめの、こじんまりとしたビルの、小さなお店が何件か入っている、少し広いロビーの様なところに着く。
(ここで?? やるの? マジ。。(^◇^;))
と心配する僕を、舞台装置のカキワリの様な作りの、扉一つ入った、ガラス窓もある廊下の一角に案内してくれた。
ビルの中とはいえ、大きめのガラス窓なので、落ち着かない。。そう思っていたが、
「ここに寝ろ」と言われて、ベッドに寝てみると、窓の高さよりベッドが低いので、外からはあまり見えなくなった。
覗き込まれなければ、大丈夫だ。
中もベッドも 意外と綺麗だ。
100バーツ(330円)なので、
(一体どんな魔窟に連れて行かれるのだろう?)
と心配していたが、ひとまずは安心だ。
なにせ、昨日 カオサンロードに顔を出しただけの僕は、カオサンの事を何も知らない。
うっかりしていると、とんでもない目に遭わないとも限らないのだ。
外国では 油断したら負けだ。
カバンを手の届く手元に置き、少し警戒していると、マッサージを始めてくれた。
最初は(どんなもんだろ?)と、安さゆえに期待していなかったが、どっこい、この女性は激ウマだった!
残り20分あたりで、僕の頭の上の方に正座してくれ、彼女は 僕の頭を膝に乗せて、縦の膝枕をしてくれた。
少し照れる僕に彼女は、そのまま優しく 顔のオイルマッサージをしてくれた。
それがあまりにも気持ち良すぎて、昨日の宿の暑さゆえの寝不足も重なり、イビキをかきながら 僕はあっさりと寝てしまった。。
この旅で一番熟睡したかもしれない。
ハッと気がつき(ヤバっ!寝ちまった!!)と思ったが、僕の顔の真上にある彼女の顔は、まるで菩薩の様だった。
身体をほぐしてくれている時から思っていたのだが、なにか 彼女は徳のある尼さんのような、何か母性を感じる方だった。
今までして貰ったことが無いくらい、僕の身体を丁寧に扱ってくれ、大事に大事にほぐしてくれていたのだ。。
まるでそれは、母の乳飲み子に対する慈愛の様な触れ方だった。
(とんでもない慈愛に出逢ってしまった。。)
僕はゆっくりと瞬きをしながら、ニコニコしている彼女を見上げていた。
僕は 彼女に勝手に「カオサンの聖母様」と名前をつけ、お礼を言いい150バーツを支払った。
ここまでして貰ったのに、100バーツだけ渡したら、バチが当たるに違いない。
僕は本気でそう思いながら、タイ語でお礼と「チップです。」と言いながらそれを渡した。
彼女はビックリして、まんまるな目をしたが、直ぐに、笑顔で「コップンカー」と手を合わせてきてくれたが、僕も負けじと、
「コップンカップ」と言いながら手を合わせた。
もちろん僕の両手は、ただのお礼ではなく、もはや宗教的な意味を含んでしまっていて、彼女を拝んでしまっていたのだが… 笑
何にせよ、僕は昼のカオサンに祝福された事を喜びながら、宿の方へと歩き出していた。
カリプソショーまでは、まだ時間がある。
まだまだ歩き足りない、面白すぎるバンコクであった。
続く。
↑ 世界的に有名な「カリプソショー」
↑ カオサンロードはいつ行っても刺激的だ。
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