猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

バンコクの渡し

 

第133話

バンコクの渡し

 

カリプソショーに向かうべく僕は、夕方のバンコクを、チャオプラヤー川へと 早足で向かっていた。 そんな僕は少しイラついていた。

 

実はこの少し前に、朝会ったドイツ人のエマさんと一悶着あったのだ。

今朝、僕がカリプソショーを観に行くという話をしていたのだが、先程彼女が急に、

「一緒に観に行きたい」

とLINEをしてきたのだ。

「安いチケットを買えるなら行きたい。」

という彼女に、LINE電話して説明する。

「今日はツアー会社は閉まってるので、

 もう安く買えないよー。」

と僕が言うと

「安く買えないなら、じゃあ、良いわ。」

と言って来たので

「そこまで値段は変わらないし、

 正規の値段でも見る価値は有りますよ。」

と説得しても、ガンとして

「正規の値段? なら行かない、いいわ」

と言ってきた。僕は折衷案で、

「じゃあ、正規の値段のあなたのチケットと、

 割引の僕のチケット代を足して2で割って、

 割引きの値段は半分になるけど、

 お互い割引の値段で行こうよ。」

と提案したが、

「高い! それならいいわ。

 安くなるなら行こうと思ったけど、

 わざわざツアー会社に買いに行くのなら、

 要らないわ。大丈夫。」

と、ガンとして譲らない。。

しばらく押し問答した末に、流石の僕も、正直面倒くさくなって

(ああ、そうですか?)と思ってしまった。

「じゃあ 一人で楽しんできます。シーユー」

と僕は電話を切った。

何しろ、携帯の通信をWi-Fiに頼り切っている僕は、Wi-Fiのあるお店から離れると通話が出来ない。。お陰でかなりの足止めを食う事になった。

そして、この時僕は、正直 非常に交渉に疲れた。

別に僕は「一緒に行こうよ!」と朝 誘っていたわけでも無いので、善意で色々と提案したのだが、ことごとくハッキリと「ノー!」と言われて、改めて思ったのは、同じ日本語を喋っていても、

(やはり、相手の事を気にする日本人と違い、

 ハッキリと自分の意見を伝えてくる、

 外国の人との感覚の違いに気付かされるな…)

と言うものであった。こちらが良かれと思って提案しても、彼女からすると

「この値段でなければ、行かない。」

と言う動かない指標があり、それをちゃんと主張してくる。

わかりやすいと言えば、わかりやすいが、、

やはり、日本でのやりとりに慣れている僕は少し傷付くというか、面倒に感じてしまった。

 

こんな経験をさせてくれた彼女に今では感謝しているが、正直当時は、

(直前にいきなり連絡してきて、

 結局 行かんのかーい!?)

と かなりカチンと来ていた事は事実である 笑

僕の心は、先程雨が降ったばかりの悶々としたバンコクの曇り空と同じくモヤモヤとしていた。

 

そんな、僕の心を晴れやかに晴らしてくれたものがあった。

それが、チャオプラヤー川 であった。

この大きな川の茶色い水は、そんな僕の下らないモヤモヤなど意に介さずに、雄大に大きく早く流れていた。

 

何故僕がこの川に来たかと言うと、カリプソショーの劇場のある「アジアティーク」 と呼ばれる一角に行くには、この川を南下する、水上バスが一番便利だと聞いていたからである。

(チケットを売ってくれたツアー会社の

 オーナーさんが、行き方を紙付きで、

 丁寧にレクチャーしてくれていた。)

アジアティーク とは、色々な商業施設や、お店が集合している、日本で言うと、アウトレットモールほどの規模の商業施設で、チャオプラヤー川に面した、東京の「お台場」の様な場所なのである。

買い物してよし、デートしてよし、イベント行ってよし!!

と言う、凄い場所らしいのだ!!

 

そして川下りのイベントを楽しみながら行くのが、タクシーや 電車で行くよりも、一番安価で早いのである。

エマさんとの交渉が難航した事により、結構時間が押していた僕は、早歩きで 路地を歩いていた。Googleマップ先生でチェックしておいた船着場は、細い生活道路の先にあるらしい。。

低い建物達を通り過ぎた僕は、思わず声を漏らした。

そう!そこには、とてつもないデカさの川が流れていたのだ。波打つ川面は、雲間からの夕陽に照らされ、キラキラと光っている。

船着場であろうここは、あまり広くは無い。

そこでは、数人が船を待っていた。

 

僕は何かワクワクしてきた。

船着場の横にはお洒落なカフェがあり、皆テラス席で川を見ながらコーヒーやビールを飲んでいる。

やがて向こうから船がやってきた。

一階建ての遊覧船といった感じの船である。

小さめの屋形船とでも言った方が 分かり易いかもしれない。

それに皆と乗り込むと、合図なのか、船頭らしき男性が、指笛を吹く。

 「 ピュゥーーイ ♪♪ !!

という気持ちのいい音の後、船はチャオプラヤー川へと漕ぎ出した。

船と水面は近く、窓際の席だと、ピチャピチャと飛沫がかかる。手を伸ばせば、川の水にも触れられる。そして、なんかこの川は チャップン チャップンしている。そう思う。

 

夕闇の迫る中、夕陽に照らされたこのクルーズは最高であった。

この船は、大きく蛇行しながら川を降っていく。つまり、川の向こう岸に斜めに渡りながら、またこちら岸へと、川を斜めに横切りながら、各船着場を経由していくのだ。

まさに「バンコクの渡し」である。

乗り込んで皆、思い思いの席に座っていると、新しく乗った人間をめざとく見つける、会計専門の人が来て、その人に料金を支払う。

船内で会計する、車掌ならぬ、船掌システムだ。

 

途中 暁の寺」 とも言われる

「ワット・アルン」の目の前の船着場にも着いた。残念ながら、工事中で、覆われていて見られなかった。

夕陽に照らされた「ワット・アルン」を楽しみにしていたのだが、残念だった。

また岸を離れる時には、例の船頭の " 指笛 " が響き渡り、いっそうこの景色を際立たせていた。

 

夕闇の迫るバンコクを船は、川に揺られながら、南下していく。エンジンがかなり強いのか、川の流れに負けずにどんどん進んでいく。

途中で思った事は、水面の高さが市街地より、少し下がっているだけ。。と言う事である。

日本の多摩川のように、土手があり、水を逃がせる高さも、堤防も無いようにみえる。

ちょっと大雨が降ったら、この川をはすぐに氾濫してしまうのではないだろうか?

僕はそんな事を考えていた。

それくらいチャプチャプしている水の高さと、すぐ隣の陸地の高さが、この大都市はあまり変わらない。。そして、水のすぐ横が民家なのである。

 

カンボジアプノンペンメコン川は、かなり余裕を持った土手の、遥か下を川が流れていたし、ベトナムハノイや、ホーチミンの都市の川も、きちんと整備されていたのだが…

僕は見るからに危なかっしそうなバンコクの川と街を、勝手に心配していた。

 

そしてそんな事を考えている僕を乗せた船は、川を渡ったり、戻ったりと何駅かを経由していく。

船はあっさりと着岸する。よく考えると物凄い操船技術である。

そして、その度に人が降り、乗り、指笛が響き渡る。

今時、指笛で合図を送ると言うシステムが、本当に凄い。この仕事に着くには 指笛の技能が必須に違いない。

きっと求人票には、要 運転免許では無く、

※ 要 指笛技能  とでも書かれているのだろう 笑

 

ツアー会社から貰っていた、イラスト付き、説明付きの地図はとてもわかり易く、

「この橋を越えたら降りる駅です。」

と丁寧に説明されている。

その大きな橋の下を通り過ぎ、僕はその船着場で降りた。

ほとんどの乗客もここで一緒に降りる。

どうやら皆行く場所は同じ様だ。

 

降りた駅には、何故かそこそこ大きな涅槃している黄金の仏像があった。

ここから先は、アジアティーク行き専用の、無料の水上シャトルバスに乗り換えるらしい。

お陰で 船代はここまでしかかからないので、かなり安くアジアンティークに行ける計算になる。

そして、水上バスのハシゴである。なかなか出来る体験ではない。

先程の船より遊覧船感が強い、お洒落な船である。こちらの船でドンブラコと川を少し下ると、正式名称である

「アジアティーク ザ リバーフロント」の名に恥じぬ、船着場に着いた。

もう船がついた先からお洒落な感じのお台場である。すぐそこは広場になっていて、皆お洒落に憩っている。

思ったより上手く乗り継げた僕は、時間に多少の余裕があったが、油断は禁物である。

手元の引き換えチケットを劇場チケット売り場で引き換えるまでは油断はできない。

 

僕はゆったりする人たちを尻目に、結局小走りで移動をしなければならなくなった僕は、

カリプソショー」を上演する劇場へと、一目散に向かっていたのだった。

 

つづく。

 


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チャオプラヤー川の川下り 動画 

https://m.youtube.com/shorts/s0tBmEUKihc

 

チャオプラヤー川の夕陽と船頭の指笛

https://m.youtube.com/shorts/94zx-MxZDKI

 

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バンコクの渡し 船乗り場


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↑ 工事中の 暁の寺「ワット・アノン」


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↑ 夕闇とチャオプラヤー

 

 

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