第135話
はじめてのフアランポーン駅
アジアティークを満喫した僕は、いつの間にか水上バスの終電を逃していた。。
ぼくの腕時計は、夜の10:40を指している。
ここから宿へは、タクシーで帰っても1000円もあれば帰れるはずなのだが、当時の僕は、そんな事は知らないし、何より " もったいないお化け" の僕は、道路まで出て思案していた。
タクシーはひっきりなしに来て、カップルから、ご夫婦、友達であろう人達がどんどん乗っていく。
どうやらこの時間だと、タクシーで帰るのを見越して 皆来ているらしい。
だが、貧乏旅行者を自称している僕には、すぐにタクシーというのは、罪の意識に苛まれ、まるで踏み絵をさせられているキリシタンの様に、足を踏み出せなかった。
大きな道を(何かないか??)とうろついていると、バスが何台か来る事に気付いた。
乗る人などほぼ皆無か、地元のタイ人しかいないのだが、僕はそれに乗り込む事にした。
前に乗った、タイのバスは無料だったので、とりあえずGoogleマップを見ながら、宿に近づけるだけ近づいて、それからタクシーに乗ろうと思ったのである。
意地汚い 交通貧乏人、と言えばそれまでだが、行きが200円しなかったので、何とか帰りもそれに近い値段で帰れないかと工夫していたのである。
たまに思うのだが、数百円も惜しむ僕は、本当に、一昔前に アジアで一番の経済大国 と言われていた、日本の旅行者なのか??
と自問する事がある (^_^;)
とりあえず、宿の方向へ向かう車線に 来たバスに乗ってみた。
前に乗ったバスと違い、綺麗なバスで、窓ガラスがあり、ちゃんとクーラーが効いている。
この国で、初めて乗る 綺麗なバスだ。
席に座りボーっとしていると、卒業証書を入れる筒の様なものを持った、30歳前後のかなりふくよかな、女子プロレスラーのような、強そうなタイ人女性が、筒をポンポンと左手に叩きつけながら近付いてきた。
なんだろう?? な、なに? 誰?
と思っている僕に彼女は、英語で話しかけてきた。
「ハロー、サワディーカー。プリーズ ぺい!!」
乗った時から(少し変だな?)と思っていたのだが、この乗り心地のよいバスは、どうやら有料の様だ。。
たしかに、無料だったオンボロバスとはグレードが違う。
有料という事に、僕はあっさり納得してしまっていた。
コワモテの強そうな彼女に、値段を聞く。
すると、「どこまで行くの? アンタ?」
と逆に聞かれてしまった。
もちろん僕は、どこで降りるかなんて決めていない。。
冷や汗をかいて「あー」とか、「ウー」と言いながら、ジエスチャアーしながら 結局英語で、
「あー、、あ、アイ ドンノー…」
というのが精一杯だった。。
彼女はそんな僕を冷ややかに一瞥した後、
「イレンブン バーツ」と冷たく言い放った。
イレ?…ん? おお! そんなには高くない!
日本円で40円くらいだ!
僕は安心してお金を払い、彼女から解放された。
そういえば、夕方乗った船の会計係も、会計用の財布代わりに、筒を持っていた。
どうやら、この卒業証書入れの様な形の筒が、バンコクでは、交通機関の会計係が皆持っている、お財布らしい。
しかし、筒だけに、思わず叩きやすいのか、
パシッ! パシッ! と、
アメリカのMADポリスが、警棒を叩きながら近づいてくるイメージに近く、謎の迫力がある。 なので、結構 圧があって怖いのだ 😅
とにかく行き先のわからない僕は、GoogleマップのGPSの現在地マークに集中していた。
とあるY字路を、川沿いの宿の方の西北に行って欲しいところを、バスは東北へと走り出した。
だが、、なんとか、北上はしている。
僕は我慢しながら行けるところまで行く事にしていた。
マップをよく見て見ると、この大通りの先には、大きな駅がある。
見てみると、ファランポーン駅とあり、拡大してみると、ターミナル駅らしい 終点の鉄道駅へ向かっている様だ。
おお! とにかく大きな駅がある。
とりあえずここまで行けば 安全だろうし、
何とかなるに違いない!!
僕はそう思い、駅まで乗る事にした。
かなりふざけた移動方法ではあるが、約40円で、明らかに宿まで近づいた事を喜ばねばなるまい。
宿の方向の車線のバスに乗っただけなので、そんなに完璧に宿に近付ける可能性など、最初からほぼ無いからである。
やがて、駅舎らしい建物が見えてきたところで、僕は運転手に近付き
「ここで降ります。」と伝えた。
止まったところで僕は降りた。
乗客は僕の他に二人しか乗っていなかったが、全員がここで降りた。
バスは次のバス停を目指し、すぐに出発した。
そのバスを見送りながら、しばらくボケっとしていたが「これじゃいかん!」とばかりに僕は自分の頬を叩き、気合を入れて、動き始めた。
バスから降りた、バンコクの夜の外気は涼しく、かなり過ごしやすい。
駅の近くの歩道には、レジャーシートを広げた家族や、数人の友達の集まり、コンクリートの段差に腰掛けたカップルなど、大量の人が楽しそうに飲み物を飲みながら、やもすると食べ物を食べながら談笑している。
もう、深夜の11時を過ぎている。
だが、夜はこれからとばかりに、皆 集まって来て遊んでいるようだ。
どうやら、この灼熱の地であるタイのバンコクでは、涼しくなった夜から、皆集まって遊ぶという、夜型の生活が一般的なようだ。
夜っぴきだが、涼しくなってから遊ぶというのは、たしかに、効率的な気もする。
このクソ暑いアジアにいると、涼しくなってから行動するのが正しい事に感じるのは、この東南アジアの地にしばらくいるせいで、身体で心底理解出来ているからである。
歩道をまるで庭のように、人が多くいるここは、まるで日本の夜桜の花見に来ている人たちを彷彿とさせる。
僕はまた、カンボジアにいた時の、夜のプノンペンの王宮前の広場の歩道に集まっていた、カンボジアの人達を思い出していた。
そして、出店も少し出ていて、夜中を感じさせない活気がある。
そして、そこには温かい人の交流があり、穏やかな空気が流れていて、東南アジアの深夜だというのに、アットホームな雰囲気で、全く危険など感じ無かった。
そこは、本当に不思議な空間だった。
(実はここが「バンコク駅」だと言う事は
しばらく後で知る事となった。)
僕はしばらく駅の周りの人々を眺めて歩いていたが、ハッとした。
あ、明日ツアーで早起きだった!
カリプソショーで感動し、アジアティークを堪能して興奮していた僕は、バスでの緊張も相まって、すっかり明日のことを忘れていたのだ。
もう少しここを堪能したかったが、残念ながらタクシーを探す事にする。
歩道の前の大通りは、ほとんど交通量はないが、たまに通る車はほぼタクシーであった。
僕はすぐにタクシーを捕まえて、宿までのGoogleマップを見せた。
メータータクシーでは無かったが、100バーツ(330円)で行ってくれると言うので、僕はもう妥協して、そのタクシーに乗り込んだ。
フアランポーン駅(バンコク駅)の人や、街灯を車窓から眺めていたのだが、
宿へと向かうタクシーの中で、値段交渉が終わっている安心感と、疲れからか僕は、ついうっかり寝てしまっていた。
薄れゆく意識の中で、
(無事 宿に着きますように…)
と頭の片隅で考えながら。。
つづく
↑ 夜のアジアティーク
↑ タクシーの車窓
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