猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

バンコクの不思議なバス

 

第127話

バンコクの不思議なバス

 

前を向いて歩き出した僕は、すぐにオンヌット駅に着いた。

 

階段下で、今日も盲目の女性がカラオケを口パクで、歌っている。

彼女の側の缶に、そっと小銭を全て入れた。

この街への感謝も込めて、それが この街への僕なりのお別れだった。

 

オンヌット駅はからは、Googleマップの、指示に従う事にする。

宿で調べておいた「経路」の通りに行く。

Googleマップの便利さは、他の追随を許さないのでは。。?

と思う事が良くある。特に海外だとそう思う。

(中国だとGoogle系は全て使えないので、

 流石のGoogleも無力らしいが…)

 

少し前に気付いたのだが、かなり便利な機能がタイでも使える事を、改めて発見していた。

行きたい場所をタップして、その後、

「経路」ボタンを押すと、車での時間や距離、徒歩での所用時間が出て来る。

そして「電車」のマークを押すと、公共交通機関での行き方が出てくる。

完璧では無いし、出てこない経路もあるが、バスなどを利用する場合には、重宝する。

日本だけでは無く、この機能が タイでも使える事に気付いたのである。

 

「まず宿から最寄駅まで、徒歩で8分、

 その後、BTSに乗るという指示。

 出発と、到着駅までと時間。

 その駅から8分歩いてバス停へ。

 何時発のどこ行きのバスに乗ると、

 何分でこのバス停着、そこから宿へは、

 徒歩で10分で着きますよ」

という感じで、外国でも経路が出る。

 

今回の僕の経路は、オンヌットからBTSに乗り、

Phloen Chit(プルンチット)駅で降り、そこからバスで行くと一番良いらしい。

 

僕は、旅に出てからは、

Googleマップ先生の生徒ととして、旅をしてきたので、恩師の言う通りに宿に向かう事にしてみた。

まずオンヌット駅から、電車に乗る。

BTSのプラスチックカードをインサートし、警察官のいる物々しい改札内からホームへと向かう。

電車で、例のプルンチット駅に着く。

周りにはあまり何も無い駅だ。

ここからは、歩きでバス停までなのだが、意外と歩いた。。 旅のフル装備の僕には堪える。

 

 あ、あっつい。。死ぬ。。

 

暑いと、すぐに死にかける、汗っかきな僕であるが、水をガブガブ飲みながら、なんとかバス停に着いた。

 

バス停はスーパーの前にあったので、中に入りとりあえず涼む。。

時間は気にしない事にしていた。

経路案内で指定された、乗らなきゃ行けないバスの時間を過ぎても、3分おきくらいに、同じような路線のバスがいっぱいくるはずだからだ。

それに、東南アジアで、時間通りにバスが来るハズがない 笑

 

中で、水も買い足し、日陰のスーパーの日除けのシェードの下でバスを待つ。

やがて古びたオレンジ色のバスが来た。

窓は全開で、どうやらクーラーなどと云うものは 付いていなさそうだ。

 

僕はそれに乗り、目的地へと向かう事にした。

日本のバスと同じで、バスはややこしい。

 後払いなのか? 先払いなのか?

 小銭しか使えないのか??

と、集中力を最大限にして、行き先だけでなく、支払い方法なども含めて、とてつもないプレッシャーに晒されることである。

幸い僕は、時間だけは無限にあるので、乗り間違えようが、行き過ぎようが、そこのプレッシャーだけは皆無だ。

 

なので早速、行く場所をタイの人に見せて、

「ここに行きたいんだけど、

 このバスで合ってるかしら?」

と聞いてみる。

一人目の30歳くらいの男性は、英語がわからないのか、困った顔で、首をかしげた。

 

数人が携帯を覗き込んでくれたが、一人の強そうな40過ぎのおじさんが、「OK!」といってくれた。 おじさんは力強く、

「行く行く!大丈夫だ!このバスだ。

 俺に任せろ!そうだ!安心しろ!

 俺に任せれば、降りる場所も大丈夫だ!」

とかなりの強さで教えてくれた。

僕は嬉しくなり、覚えたての男性語尾で、

「おじさん、コップンカァっプ!」

とお礼を言い、そのままこのバスに乗ることになった。

後ろのドアから入り、皆 そのまま席に座ったので、このバスはきっと

後払いなのだろうと結論付けた。

席は、おじさんと通路を挟んだ隣に座った。

 

おじさんは良い人なのだが、あまりこちらの云う事が伝わらないのか、それとも使命感なのか、かなりの自分のペースで喋る。

 このバスは どこ行きなのか?

などと聞いても、答えは全て、

「大丈夫だ、俺に任せておけ」だった 笑

僕はもう 腹を決め、おじさんに全てを預ける事にして、Googleマップも見るのをやめた。

 

とりあえず、おじさんとなんとなく話す。

おじさんは そこまで英語が喋れないので、タイ語と日本語と英語で

伝わっているのか。 伝わっていないのか?

という会話を延々としていた。

 

「どこからか? コリアンか?」

 

 いえ、日本人です。

 ええと、ジャパン、ジャパン。

 ジャパニーズ!

 

「おおそうか、いつタイに来たんだ?

 だから、、いつ?いつ?タイ??」

 

 一昨日、、ええと、ツーデイ ビフォア

 ツーデイ…、まえ、前に。ふつか前。

 二、ツー?分かる? ツーね。デイ、ツー!

と云う具合に、ほとんどジェスチャーで、会話が進む。

その為、彼と僕は話はしたが、たぶん、お互いの脳内に残っている会話の内容は 全く違う可能性が高い。。 が、それはそれである。

どこの国でも、似たようなやりとりが色々あった僕は、そんな事にはもう慣れ切っていた。

お互いに興味があれば良いので、内容など重要では無いのだ、きっと 笑

 

おじさんと話しているうちに、信号の向こうに何やら巨大なモニュメントらしきものが見えてきた。

(ここら辺じゃ無いのかしら?)

となんとなく思いながらも

おじさんの話は終わらない。

話に夢中なおじさんの肩を、後ろの これまたおじさんがトントン叩いた。

するとおじさんは、ハッと気づき、

 ここだ!ここ!!

 おーい!降りるぞー!

と運転手さんに大きな声で呼びかけた。

 

バスはバス停に一直線に寄り、急停車した。

いきなりの展開に僕は驚いていたが、

「いくらですか?」と運転手に聞くと、

「降りろ降りろ!」という。

困って後ろを見ると、おじさんが、

「フリー、フリー」と連呼してくれていた。

 

なんと!? どうやら信じられない事に、タイのバスは無料らしい。

このバスでは、みんな気軽にひょいひょい乗って来ては、ひょいひょい降りていくので、不思議に思ってはいたのだが、、

「きっと定期か何かを持っているのだろう…」

と、考えていた。

流石に 無料だとは考えもつかなかった。

そんな 人生初の無料路線バスを降りる事にした僕は、

運転手さんにも 「コップンカップ!」

おじさん達にも 「コップンカップ!!」

とお礼を言ってからバスを降りた。

過ぎ去るバスから、おじさんは手を振ってくれていたので、それに答えた。

 

さて、、である。

巨大なモニュメントの 周りを回る車達を見ながら僕は、オンヌットとは、全く違う顔を見せるバンコクを感じていた。

道は4車線で広く、歩道も広い。

何か今までのような街では無い。

 

Googleマップで、現在地と、宿を確認する。

西にバスで移動してきた僕は、どうやらここからは徒歩で北へ向かうと、宿に着くらしい。

 

片掛けにしていたバックパックをゆすり上げ、僕は、北へと歩き出した。

 

途中、日本料理の小さな食堂があった。

メニューを覗いてみるが、値段の割にはあまり美味しくは無さそうだった。

(ここは無いな。。)

と勝手にランク付けしてさらに進む。

途中に結構 不思議なお店が多い。

額に入ったタイ国王の、写真などを全面に売っている小売店が結構あるのだ。

あまり日本では見かけないお店である。

奥では何やら、他の物も売っている。

 タイの国王様は、

 皆に愛されている方なんだなぁ。

と不思議とそう思う光景だった。

 

さらに北上し、大通りから一本入る。

日中なのに、急に人通りがなくなり、ちょっと雰囲気が良くない。

久しぶりに、僕の危険センサーが発動し始めた。

お店などは無い、民家だけの通りだが、ちょっとだけ、スラム感を感じる通りだ。

動かないであろう、パンクした、廃れた車も放置されている。

 

野良犬と、左右に気を配りながら、まっすぐ歩くと、しばらく言ったところに、僕の宿はあった。

ここは、外壁で囲まれた 結構大きな敷地の、大きめの一軒家が 二つほどある造りで、敷地内への入り口は一つだ。

金網の門にキーチェーンの鍵がかけてある。

中に見える共有スペースらしき庭には、日本人らしき人がいっぱいいる。

門の前に立った僕に、その中の一人の男性が、声をかけてくれた。

「今日泊まる人ですか??」

 はい、そうですが。。

「なら、そこの鍵を開けて入ってきたら良いよ

 番号は36079だから。」

番号通りに鍵を合わせると、鍵は開き、僕は門を抜けて、敷地内に入れた。

この時声をかけてくれた気のいい若者が、

「なんちゃん」と呼ばれる日本の旅人で、この後、この宿で 一番一緒にいることになるとは、この時は 全く予想などしていなかった。

 

つづく。

 

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↑ 巨大なモニュメントと大通り。

    このモニュメントをぐるっと車は周る。

 

 

次話

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