第77話
天地のキャンバス
名も知らぬ遺跡の、門や壁のレリーフを見て周り、真ん中にあった祭壇に、祈りを捧げた。
初めての遺跡を一通り回った僕は正直
うーん。。こんな感じなんだなぁ。
と特に感動はしていなかった。
理由は、まったく知らない遺跡だった事と、壁に張り付いた大木以外は、あまり面白くなかったからである。
遺跡の壁には、クメール王朝時代のものなのか、ほぼ全ての壁は レリーフが彫られており、それを楽しんだりするのが、遺跡の作法なのだろうが、どうもピンと来ない。。
僕は遺跡の観光に
向いていないのでは無いだろうか?
と悲しい疑問が頭をもたげる。。
それを押し殺して、次の場所に行くために 出口から出る。
出口ではジェイクがゆったりとトゥクトゥクの客席の方に座って、携帯をいじっている。
声を掛けると「もう良いの?」と聞いてくる。そういえば…と思い 時間を見ると、まだ30分ほどしか経っていなかった。
僕は「もう大丈夫」と言って頷いた。
トゥクトゥクに乗り込みしばらく走ると、ジェイクはバイクを止めた。
周りを見渡すと、遺跡ではなくて、湿原のような湖がすぐ横にあり、それを見渡せる広めのデッキがすぐ先にあった。
ジェイクはバイクを降りて、後ろの客席に来て話しかけてきた。
「マサミ、お腹は空いていないかい?
これからランチタイムだよ」と。
腕時計を見ると、確かに昼をだいぶ過ぎていたが、まだ遺跡をひとつしか回っていない。。
あとはオフィスに行っただけである 笑
どうしようかと思って、ふと右手の湖を見ると、空の一部だけ雨が降っているのが見えた
(ん? なんだあれ?? ) と思い
ちょっ、ちょっと湖を見ても良い?
と聞くと、ジェイクはうなずき、ここで待っているからと、ジェスチャーをした。
先ほど見つけたデッキにのぼる。
そこから見た景色は、世にも不思議な光景であった。
湖の上には雲がかかり ざぁぁあ。。と雨が降っている。しかし、その向こうの空は晴れ渡っている。
正面は 雨の向こうに 青空。晴れ間と雨雲が同居する、不思議な空が向こうに見える。
また、右手の空は晴れ、左手の空は雨雲だ。
それはとても不思議な光景であった…
僕は暫く惚けていたが「そうだ!」と思い、iPhoneの動画を回した。
やがて雨が僕のところにまで降り注いできた。
ジェイクが呼びにくる!
「もう少しだけ良いか?!?」と大声で聞くと、待ってくれた。
マレーシアで買ったトラベルバッグから、折り畳み傘を取り出し 差すが、スコールと言って良いほど、雨が激しくなり、再び「戻れ」と催促される。
僕は今度は、ジェイクに言われるままに 客席に戻って 飛び乗る。ジェイクは雨の中、トゥクトゥクを走らせ、100メートルくらい先の、小さなローカルレストランの軒先に、トゥクトゥクを止めてくれた。
お陰で 僕はほとんど濡れなかったが、ジェイクはびしょ濡れである。
(本当に申し訳ない事をした。。)
と、景色を見る為に粘ったせいで、彼をびしょ濡れにしてしまった事を後悔した。
ジェイクに謝ると、笑って「気にするな」と手を振っている。僕が席に着くと、
彼はシャツを脱いで、軒先で絞り始めた。
不思議なもので、空は既に晴れている。
僕は席に着き、まず、お詫びに彼に、温かいコーヒーを注文した。ジェイクのトゥクトゥクを指差し
「これを彼に届けてくれる?」と聞くと、英語が通じたので、頷いてくれた。
ほっとしながら、自分の昼ごはんを頼む。
観光客向けの店なので、写真入りのメニューが置いてある。
僕は、鳥肉入りの野菜炒めらしき物とライスのセットを頼み、先ほど見れた素晴らしい景色に乾杯する事にした。ビール頼む。
しばらく待つと、ビールが僕に、コーヒーがジェイクに運ばれていった。
アンコールの缶ビールを飲んでいると、僕の前にも食事が届く。
結構美味しそうだ。
たが、食べ始めると…(うん。。?うまい?)という味だった。。
まぁこんな物だろうと、ビール片手に食べ切る。
会計を済ませ、トゥクトゥクに戻ると、ジェイクはシャツを着替えた様で、ニコニコしながら、コーヒーのお礼を言ってくれた。
「では次に行くから」とジェイクは、トゥクトゥクを走らせる。
気合を入れて「OK!」と返事をし、出発したはいいが、次の遺跡はすぐそこだった 笑
遺跡は、先程の湿原の様な 湖の中にある様だ。
例の如く 周る時間を言われ、僕は遺跡へと向かう。
ここでも奇跡が起こった。
湖の真ん中に遺跡はあるようで、そこまで、真ん中を一本道の 小道で向かうらしい。
小道の左右には、湿原の湖が広がる。
雨が降って、すぐに晴れたせいか、空気中の不純物が無くなり、水面が鏡の様になり、美しい青空と雲を反射して「逆さ富士」の様に、美しい 晴れ渡った景色が、水面から線対象のパノラマとなる。
奇跡だ。。なんて美しい景色なんだろう…
僕は感動してしばらくそこから動けなかった。
この景色を見れただけで、シェムリアップに来た甲斐があった。。 と強く思った。
僕はしばらくこの小道に佇み、景色を堪能していた。そして、十分景色を見て満足した僕は遺跡に進んだ。
遺跡はこじんまりとした遺跡だったが、美しかった。
先程感じた(遺跡巡りに向いていないのでは?)などという考えは、すっかり頭から消し飛んでいた。
いきなり素晴らしい景色を見れた事で、僕はこの遺跡の街に、温かく迎え入れて貰った様な気がしていたのだ。
そのせいか、遺跡を周る気持ちもだいぶ変わっていた。
「見よう」と思うのではなく "ただ感じよう" と思い直したのかもしれない。
きっと自分にとって 合わない遺跡もあるはずだ。そうしたら、さっと周って帰れば良いし、逆に感じるものがあれば、じっくり周れば良いのだと。
肩の力が抜けたぼくが遺跡から出ようと、湿原の中の土の小道に戻ると、またビックリした。そこにはさっきまで無かった、小さな出店が出現しいていた。4、5軒が魔法の様に、急に現れていた。
(きっと雨が止むまで
どこかに避難していたのだろう。。)
服や涼しげな女性用のカンボジアズボンや、Tシャツなどを売っている。それらはハンガーラック掛けられ、他にも箱の中にも色々ある様だ。
僕はせっかくなので少し覗いてみる事にした。お洒落な半袖シャツを発見した。
水色のアンコールワットのプリントがされた、ちょっと綺麗なシャツだった。
おばさんが、当ててみろと言うので、自分に当ててみる。ご丁寧な事に、姿見の鏡まである 笑
あれ?!これ似合うんじゃない?!
と思った僕は、彼女に「これ似合うかな?」聞いてみると、彼女は笑顔で大きく頷いてくれた。
その人の良さそうな笑顔と、シャツが気に入った僕は、このシャツを買う事にした。
雨が上がり、蒸し暑くなった事で、僕はまた大汗をかいていたので、このシャツを買い、着替える事にした。値引き交渉をしてみると
「良く似合うからいいよ」と少し安くしてくれた。200円くらいでシャツは買えた。
その後僕はトゥクトゥクに戻り、出発前にそのシャツに着替えた。
ジェイクも
「良く似合うね。カンボジア人だ 笑」
と冗談を言ってくれたが、景色に祝福されて、さらにカンボジアのシャツに包まれ、僕は この遺跡巡礼が「ようやくしっくり来始めてきたな」と感じていた。
次の遺跡はどんなだろう? 楽しみだ!!
ジェイクのトゥクトゥクは、土埃を上げながら、颯爽と次の遺跡へと走り始めた。
続く
雨の向こうの青空 動画
https://m.youtube.com/watch?v=gB2WAv4cqiE&feature=share
↑ ローカルレストランでの昼食
天地のキャンバス(ニャック•ポアンの小道)動画
https://m.youtube.com/watch?v=r1-6-DknmIc&feature=share
↑ ニャック•ポアン
次話