第83話
ハンモックに揺られ 心も揺れる
ラピュタから " 無事に" 帰ってこられた僕らは、それを祝うために昼食を取りにレストランに向かっていた。
ジェイクが連れて行ってくれた お洒落なレストランに着き、美味しそうなグリーンカレーを注文する。
ここもおしゃれな割にはそんなに高くはない。
昼食を食べていると、中華系の3人組が入ってきた。
僕が挨拶をすると、向こうはびっくりしていた。
この三人組は、プノンペンへの 陸路国境越えの際、ホーチミンの「シンツーリスト」の待合から バスで一緒だった三人組である。
(少し太っちょの男性1人、女性2人の若者達)
観光バスへ移動の、ギュウギュウのワゴンの中で膝が当たっていたのも、彼らである。
プノンペンのバス停で、一緒に降りたはずだが、カンボジアに来た旅人はみな、同じようなルートを辿るのだろう。
なのでここ、シェムリアップで、再会する事になった。
実はこのレストランに来る前に、僕は彼らを見かけていた。
今日の 最初の遺跡を回った後、いよいよベンメリアに出発という時に、駐車場で彼らを見かけていた。
その時、彼らが、 なぜかうろたえてるのを見た。
まるで国境のイミグレーションで狼狽えていた時のように、キョロキョロして 何かを探していた。
出会った時から思っていたのだが、この3人組は全然旅慣れていないようだ。
運転席のジェイクがそれを見て
「見てみな。きっとトゥクトゥクに置いて行かれたんだぜ?」
と笑っていたが、僕は笑えなかった。
「乗せてあげようか?」とジェイクに相談したが
「ドライバーがそのうち戻ってくるか
他のトゥクトゥクに乗ればいいだけさ」
とジェイクに言われながら、僕のトゥクトゥクは、そのまま走り去っていた。
どうやら、彼らもトゥクトゥクドライバーと無事、再会出来たようだ。
そんなことも含めて、「よかったね」と挨拶したのだが、何しろ向こうは旅慣れていない若者である。
今まで、周りを見る余裕も無かったのか、僕のことをあまり覚えていなかった 笑
僕が「バスで一緒だった」と説明すると、大きく頷いて「ああー!!」と言っていたが、それ以上はなんのリアクションも無かった。
あまり、自分達のメンバー3人以外とは、交流をしたく無いようだ。
僕はさっさと「またね」と言って席に戻った。
旅は人それぞれ自由である。
彼らのスタンスを邪魔してもしょうがない。
とにかく彼らを 勝手に気にかけていた僕は、彼らが無事に レストランにたどり着けた事に安心していた。
席に戻り、グリーンカレーを堪能した。
結構美味しかったが、プノンペンで、神カレーを食べてしまった僕には、少し物足りなかった。
外に出ると、ジェイクがハンモックから、体を起こし、僕を手招きした。
この店は、駐車場の横に休憩所がある。屋根の下にハンモックが 10数個吊ってある。
"ご自由に休んでください" という場所である。
日本の温泉地にある、「足湯」のハンモック版だとイメージして貰えばわかりやすいと思う。
僕は言われるままにハンモックに入ろうとしたが、、何しろ ハンモックなんて、子供の時分に使った事があるくらいである。
靴を脱ぎ右足を入れる。
左右に振れ、安定しないので、結構バランスを崩して危ない。。
ジェイクに
「足からじゃなくて、お尻から入って!」
とアドバイスを貰うと、すんなり入れた。
なるほど! 片足だけまず入れて浮いたら、そらバランスを崩すはずだ。確かに お尻から座るように入るのが安全である。
ここは、屋根のおかげで日陰で 吹き抜けているので、結構涼しい。
「30分は休んで大丈夫だ」と言われ
ジェイクと共に ハンモックに揺られながら、ホーチミンの3人組にも会ったこともあり、僕はベトナムの事を思っていた。
ここシェムリアップの旅が終わると、ホーチミンから、はるかに北のハノイに行くとはいえ、いよいよベトナムに戻るのだ。
初めて行った外国に、"再び訪れる" というのは、一体どんな気持ちになるのだろうか??
全ては 初めての経験だ。
一体この旅は 37年も生きてきた僕に
旅を始めてから「初めて」の経験ばかりをさせてくれる。
初めての感覚を いつも体験させてくれる。
まだまだ人生は、これからなんだなぁ。
と改めて思い知らされる。
僕がこれまでの人生で感じた事や、経験した事など、まだまだ何も知らない、小僧の歩みに過ぎないのだと。
そんなことを、ハンモックに揺られながら僕は、カンボジアの大地で考えていた。
そして、そんな事を考えられる時間を持てている事に、改めて感謝をしていた。
「贅沢をさせて貰ってるなぁ。」
と、心から思う。
「旅に出よう!何がなんでも!」と
ふいに決意をし、旅に出たことは間違いではなかった。
涼しさと気持ちよさで、思考の途中に いつのまにか寝てしまっていた僕は、「時間だよ」と、ジェイクに揺り起こされ、再び次の遺跡へ向かった。
正直「ベンメリア」以上の感動があるのかしら?と疑問だったが、それはそれである。
初日のように、意図せず何かに出会えるかもしれない。
次の遺跡に向い、また一通り周る。
今度は平地の遺跡であった。名も知らぬ遺跡をくるくる周る。
やはり、あまり感動は無かった 笑
最後は、夕陽が見える遺跡に行く事になっていた。サンセットが見える遺跡の急な階段を登る。大きな遺跡だった。
遺跡の頂上付近の夕日ポイントには、5、6人の観光客がおり、みな思い思いの場所に腰掛けている。
僕も良さそうな場所を探して、そこから太陽を眺める。
空はだいぶ曇っていて、太陽は滲んでいる。
まだまだ太陽が沈むまでは時間がありそうだ。ゆったりと、夕陽になるのを待っている人たちを尻目に、僕は遺跡をじっくり周る事にした。
ジェイクから地雷情報を聞いた事により、僕はより大胆に遺跡の周りを散策する事が出来た。
水場がある事もあり、またここにも野良牛がいる。マレーシアのランカウイでもみかけたが、野良牛も、家族で一緒にいる。
栄養たっぷりの餌をもらっているわけでは無いので、痩せこけて見えるが、本当は 牛はこんなものなのかもしれない。。
日本だと、牛舎にいる牛さんたちしか見れないので、何か微笑ましい。
以前に訪れた、石垣島で見た野生の馬も、家族で仔馬を連れて生活していた。少し近づくと、仔馬を守りながら 親馬が威嚇をしてきた。
動物も人間も、皆家族を大事にして生きている。そんな当たり前の事を、改めて感じる。
そんな事を考えていると、夕陽が沈み始めたので、さっきのスポットに戻る事にした。
急な階段を再び登る。
息を切らして、さっきのポイントに着くと、人は20人くらいに増えていた。
カップルも多い。
僕も適当な所を見つけ、腰掛ける。
絶壁から、足をぶらぶらさせながら、雲間から見える 沈みゆく夕陽を見ながら僕は
「あぁ、ビールが飲みたいなぁ。。」
と夕陽に呟いていた。
続く
↑ 本日3つ目の遺跡 後で調べると恐らく
「プリア・コー」だと思われる。
↑ サンセットポイントの遺跡
たぶん「バコン遺跡」だと思う
かなりの高さがある遺跡だった。
↑ 野良牛さん
↑ 沈みゆく夕陽と「バコン」
↑ 犬と戯れる地元の少女。
手前の警備員さんは、
「もっといいサンセットポイントを教える」
例のパスポートのカラーコピーの裏に
その遺跡の場所を書いてくれている。
後でジェイクに聞くと
「こんな所は無い!」と一蹴された 笑
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