猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

カンボジアの大地と地雷

 

第80話

カンボジアの大地と地雷

 

今日はついに ベンメリアに行く。

朝が早いので 仕方無く宿のモーニングを食べていた。

 

 普通だなぁ。。うん。普通だ。 

 

と思いながら、山盛りのフルーツを隣で 嬉しそうに頬張っている宿泊者を見ながら、フルーツがあまり得意ではない僕は、すでに2杯目のコーヒーを飲んでいた。

(やはり、ここのモーニングは

  今日で最後にしよう。。)

と僕は密かに決意していた。

 

約束の時間にフロントに降りていくと、ジェイクが椅子に座って待っていてくれた。

 

今日は、いよいよベンメリアへ行く。

間違いなく今日は、ここシェムリアップでのハイライトになるはずである。

気合を入れ、マレーシアで買った、折りたためるトラベルバッグを背負い、僕はトゥクトゥクに乗り込んだ。

昨日の取り決めで、三日間の行程のドライバーは、すべてジェイクにして貰っていた。

彼とはなんとなく馬が合ったし、空港に迎えに来てくれた縁もある。

 

今日は郊外まで行くので、結構トゥクトゥクに乗っている時間が長い。

昨日気付いた事は、やはり席が吹き抜けているので、正面から直接風が当たり 結構疲れるという事だ。

そこで今日僕は 一計を案じていた。

それは、”マスクをしてみる” と言う事である。

これは、眼鏡をしているので目は疲れないのだが、顔に当たる風は いかんともしがたい。それをマスクで解消してみようと 考えついたのである。

僕が偶然、使い捨てタイプのマスクを持っていたのには理由がある。

 

それは、出発の直前、羽田空港内にある小さな薬局で見かけた、中華系の航空会社のCAさん2人が「せっかく日本に来たんだから!」と、可愛くはしゃぎながら、日本製品の化粧品や マスクを嬉しそうに買っているのを見て

 あっ、マスクもいるかも?!

とふと思って買っておいたのだ。

そして そのマスクは日の目を見ずに、この1ヶ月間 バックパックの底で眠っていた…

だが、トゥクトゥクの風を何とかしたいと考えた僕は、今朝 荷造りをしている時に、急に閃いたのだ。

 そうだ。。マスクをしてみよう!! と。

そんな僕は、ジェイクが玄関に横付けしてくれているトゥクトゥクに乗り込み、いざ出発となった。

大通りに出たところで、マスクをしてみる。

 ん? んんん??  ぜ、、全然ちがう!!

風が顔に直接当たらなくなり、物凄い楽だ!!

 

読者の皆さんも、シェムリアップにお越しの際や、トゥクトゥクにお乗りの際には、是非! 試していただきたい!

メガネでない方は、サングラスや伊達メガネも併用がオススメです!!

 

マスクを装備し守備力が格段に上がった僕は、やっとこさこの乗り物の良さを味わえる余裕が出来た。

 

道は郊外に出ると、案外ちゃんとした、片側1車線の赤茶けたアスファルトの道路が続く。

道の左右は、野原である。

赤土の上に、草が生い茂る。

高い建物も山もなく、天は低く 左右に雲と青空が広がる。

車とも滅多にすれ違わない。

 

民家はまばらで、しばらく走ると民家、その後また 野原が続き、しばらく走るとまた民家、という具合だ。

 

面白かったのは、あまりの暑さに、犬が死体のように完全に横になり

「もう…どうにでもして。。」

と言わんばかりに横たわっていた事だ。

最初は (死んでいるのか?!)

と ギョッとしたが、民家を通るたびに、そこの飼い犬らしき犬達が 横たわっているので、彼らが

" ただ寝ているだけ"  という事がわかった。

ゾンビのように横たわっているそれを見て、何故か僕は、ゲームの「バイオハザード」を思い出していた。刺激を与えると動き出すところも、ゾンビそのものである。。

僕はこのカンボジア犬の寝方を 勝手に

「くたばり寝」 と名付けることにした。

そんな犬達を見ながら走っていると、スクーターで隣を、子供を自分の前に乗せたお父さんが 併走し、通り過ぎていく。子供は安心し切った顔で乗っている。2人乗りに慣れ切っているのは、きっと 赤ん坊の頃から乗っているからではないだろうか? 笑

お父さんはニコッとしてくれるし、子供は本当に屈託のない笑顔で手を振ってくれる。

僕も笑顔で手を振りかえす。

そんなやり取りが僕は大好きになった。

 

やがてトゥクトゥクは、遺跡に到着した。

 

が、明らかに写真で見ていた「ベンメリア」ではない。。

 ここ…。  ベンメリア?

と間の抜けた顔で聞くと、ジェイクが説明してくれた。

「ここは、ツアーの最初に回る遺跡だ。

 ベンメリアは、次に行くから大丈夫。

 時間はたっぷりあるから、じゃ、

 1時間後にここで落ち合おう。」

と。。

 

てっきり「ベンメリア遺跡」に一番最初に着くと勘違いしていた僕は、いきなり出鼻を挫かれた。

昨日あんなに店主と打ち合わせをしたのに、、

"英語力の欠如 " のせいで、色々勘違いして、自分の良いように解釈して聞いていたようだ 笑

 

とにかく、折角なのでこの遺跡を楽しむ事にした。

ここは、お土産屋さんが "夏の湘南の海の家" のように平家でいっぱいあり、お土産を見るのも楽しい。

商売熱心な人が多く、笑顔で声をかけてくれる。

前にいた国が、共産国家の為か、どこかやる気がなく、商売してもしなくてもゆったり生活できるベトナムだった為か、逆にここで 商売人の魂のようなものを感じ、僕も熱くなる。

やはり「売りたい売りたい」と来られると、こちらもファイトが湧いてくる 笑

途中 用を足したくなり、トイレに入るととんでもないものを見つけた。

結構綺麗なトイレだったが、手を洗う段で

石鹸のポンプがあり、そこには日本語のカタカナで、

  " リンス " 

と書かれてあった。。

 ここで頭洗うんかい?!

とツッコミそうになったが、冷静に考えると、きっと日本から来た、お古のプラスティックのポンプであろう。。

日本の銭湯で、リンスが入っていたであろうそれは、ここ、カンボジアシェムリアップでは、石鹸液が入れられ、トイレの洗面に置いてある。。感慨深い光景だった。

僕は笑いながら、とりあえず写メを撮る。

そんなこんなで、遺跡に入るのがだいぶ遅れたが、とりあえず遺跡に突入する。

例の如く、一切笑いの通じない係員に、パスにパチンとまた、1日分の穴を空けてもらう。

 

この遺跡は昨日と違い、平地の遺跡で周りやすかった。ツラツラと周る。

僕は俳優なので人間観察も趣味である。いや、人間が好きだから俳優をやっていると言った方が良いか。遺跡の警備員も気になってしまう。

遺跡の警備係員の人達も人間模様が様々である。今日は、娘さんを同伴して、出勤しているのか、お昼も近いこともあり、遺跡の段差に腰掛け、子供とお弁当を使っている女性係員を見かけた。

この国の労働の法律やら、休憩時間がどうなっているのかは解らないが、腰掛け、職場に連れて来た娘さんとお弁当を食べている係員を見ると、何故か  "ほっこりする"  

 (あぁ、、なんか、良いなぁ。。)

と思ってしまうのである。

 

遺跡自体にはすぐに飽きてしまった僕は、遺跡の周りの森に近い、庭のようなところを散歩していた。

 ひょっとしたら地雷が、

 まだあるんじゃ無いだろうか?

と正規の場所から離れると、少し不安になる。

だが、そこからは、芝生と林が見えて、遺跡も外から眺めると また味わいがある。

 

ここには、遺跡の壁の外側に、楽団がいた。

よくみると、地雷の被害者の楽団だった。

 

足がなかったり、盲目だったり、片腕がない人たちが座って、楽器を演奏している。。

僕は人生で初めて地雷の被害者の方を 実際に見た。

そして改めて、地雷という非人道的な兵器を考えついた人間に吐き気を覚えた。

読者の方の中には 知っている方も、知らない方もいると思うが、僕は昔、地雷って一体なんなんだろう? と、気になって調べた事がある。それによると もともと地雷とは

人を殺傷する目的で仕掛けられた爆弾ではないというのだ。

殺傷能力をわざと抑え、足や 身体を不自由にする事で生かしておいて、障害者になった人達を増やして、その国に その人達の面倒を見させて、その国の 国力や経済を衰退させよう! という

およそ悪魔が考えついたような 吐き気のする目的で作られた爆弾なのである。

(この事を本で知った中学生の僕は、

 戦争というものの、

 気狂いじみた真実に戦慄した。。)

 

そんな被害者の方達を、僕は今までのカンボジアでは見なかったが、ここが観光地である為か、皆集まって、演奏する事でお金を稼いでいる。

僕は初めて実際に地雷の被害を受けた方達を見て、少し胸が苦しくなった。。

だが、目を逸らさずに、彼らを見据える。

彼らも、今できる事でお金を稼いでいるのだ。

生きてこそである。

僕は色眼鏡ではなく、単純に演奏を聴くことにした。

だが、この楽団は凄かった!!

なんと「ソリスト」というか、

メインの楽器が「草笛」だったからだ!!

そこらで拾ったであろう草で、きっと幼少期に会得したであろう技術で 草笛を演奏する男性に合わせて、皆演奏をする。。

草笛の音量は、他の楽器に負けていない。

もちろん演奏自体は、そんなにレベルの高いものでは無い。。 が、しかし…

僕はあまりの事に、暫く動けなくなっていた。

その演奏は、僕の心に響いた。

この演奏に 心の動いた僕は、黙ってチップを入れる箱にお金を入れた。

この演奏に出逢えただけで、この遺跡に来て良かったと思い、僕は遺跡の入り口に戻っていった。

 

駐車場で、ハンモックをトゥクトゥクの客席に張って、呑気に寝ているジェイクに話しかけ、僕は次の遺跡に向かってくれと、彼に伝えた。

 

続く

 

動画 ジェイクとカンボジアの大地を疾走

https://m.youtube.com/watch?v=UvUtpo9ZxsI

動画 草笛の楽団

https://m.youtube.com/watch?v=Z92v2a0axPc

 

 

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↑ 赤土の道。。空と雲。


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↑ トイレにあるリンス。。

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↑ 一休みする係員と、娘さん。
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↑バンテアイ・スレイという遺跡だったらしい



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↑ 草笛と演奏する楽団

 

 

次話

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