第84話
地元のパブストリートを通訳付きで行く
「呑みに行こう」と約束はしたものの…
2日目の「ベンメリア」散策の後、次の日が早起き(4時起き)だった事もあり
2日目は止めて、3日目の夜に打ち上げも兼ねて、僕とジェイクは 地元のパブストリートに行く事になった。
今日の遺跡周りは、夕方に早めに切り上げた事もあり、ジェイクと 19時に宿の前で待ち合わせる事にした。
17時前には宿に帰って来ていた僕は、シャワーを浴びて、すぐに仮眠をすることにした。宿に帰って来て安心したのか、途端に疲れが襲って来た。身体が自分のものとは思えないくらい重かった。二階へ上がるのもかなりしんどかった。
ベッドですぐに気を失い、死んだように寝た。
起きれるか心配だったが、不思議とかけておいたアラームの時間に 僕は自然と目を覚ますことが出来た。
仮眠のお陰で身体も頭もスッキリしていた。
炎天下で 3日間の遺跡周りは、思ったより僕の身体を蝕んでいたらしい。。
せっかくの打ち上げが楽しめるように、しっかり仮眠を取ったのは大正解だったようだ。
表に出ると、昼過ぎから降ったり止んだりしていた雨は 完全に止んでいた。
玄関に止めてあるジェイクのトゥクトゥクを見ると、彼が猫を撫でていた。
この宿には、いつもフロント横の椅子で寝ている 可愛い飼い猫さんもいるのだが、宿の周りにも結構野良さんがいて、宿のトゥクトゥクドライバーさん達と仲良しだ。
一度など、トゥクトゥクにかけたハンモックで、おじさんと猫が一緒にお昼寝しているのを見て、とても癒され(う、羨ましいなぁ。。)と思うと同時に 猫好きな僕は
俺もここで トゥクトゥクドライバーに
なろうかしら?
と馬鹿な事を考えたりもした。
「俺にも撫でさせて」と言うと、ジェイクは片手で抱っこして僕に猫を渡してきた。
だが猫さんは僕には慣れていないので、嫌がってクネクネと液体のように手から滑り落ちていった。が、その後は その仔が撫でさせてくれたので、僕は大満足だった。
そんな僕にジェイクが
「さぁ、行こうか? 乗って乗って!」
と言うのだが、、
(今日はお酒を飲みにいくはずだが。。運転?)
と、そんなことを心配する僕を尻目に、トゥクトゥクは大通りを横切り、すぐ近くのパブストリートに向かう。
出発から5分もたたずにジェイクのトゥクトゥクは、夕方まで降っていた雨にぬかるむ、ある一軒の店の 土の駐車場に停車した。
「ここだよー」と案内されて入った所は、結構大箱の店で、奥では女性シンガーがステージで歌っている。どうやら怪しい店ではないらしい。ジェイクを信用してないわけでは無いが、僕は少しホッとしていた。
テーブルに案内されて座る。
とりあえず生ビールを頼み、乾杯をした。
店内では抽選をやっており、ビンゴの機械の様なものが回され、数字が発表される。
ビールが来た時に貰った番号を見ると、僕の番号だった。
なんと! いきなり当たりが出た!! 笑
来て5分も経ってない。
当たったのは、Tシャツだった!!
だが店にいる人たちの祝福の中、スタッフに渡されたそれは、、
シャツの白地に、
" CAMBODIA (赤字)
WATER (うっすい水色) "
とプリントされた、信じられないくらいダサいTシャツだった。。
日本だと「日本水」とか「東京水」
とか書いてある感じだろうか??
カンボジア ウォーター。。
どう言う事だ?!、、一体…? 笑
その時なぜか僕は、その昔に 横浜市の水道局に見学に行った時に お土産で貰った。
「横浜のおいしい水道水 」という
”水道水が入った” 飲料缶の事を思い出していた。。 意味が解らな過ぎて、
僕の脳みその ”意味の分からない水 記憶枠” から急に思い出されたようだ…。
ジェイクが「やったな!!」と僕にそれを渡してくる。
周りが祝うので、僕はとりあえずその場で それを着た。。
こうして、カンボジアはシェムリアップの大地に、カンボジアウォーターマンが 誕生したのである。
そして、カンボジアウォーターマンに変身した僕は、カンボジアを守る使命を頂いた?
その後、カウンターにいるスタッフに ジェイクが話しかけ、スタッフが頷いているのが見えた。戻って来たジェイクに
「奥に、個室があるからそこでゆっくり飲もう。」と言われる。
ぱっと見、ビアガーデンのような吹き抜けたスペースなので(どこにあるのだろう?)
と思ったが、店のスタッフについていくと、奥の壁の裏側に、プノンペンで見た 選挙の投票所のような タープテントが張られ、布で仕切られた個室が 十数部屋? あった。下は土である。
それを見た僕は 新宿花園神社の、野外テントの芝居に出た時の、似たようなつくりの ”楽屋” を 懐かしく思い出していた。。
そんな僕に「ここはVIPルームさ」 とジェイクがニヤリとする。
どうやら、カンボジアウォーターマンに変身した僕は VIP認定されたらしい 笑
(VIPルームにしては 壁が薄すぎるでしょうが?)と思ったが、黙って 案内された4つ目の布ルームに入り着席した。
ビールと、ツマミをジェイクが頼んでくれる。
ビールは縦型の筒形のピッチャーで来た。
入れ物の筒の周りが凍っていて、筒の中にビールが入っている為、冷たいビールがいつでも注げるハイテクなピッチャーだった。こんな代物を初めて見たが、よく考えられた作りに感動する。
さすが VIPルームだ!!
そして 何となく予想していたが、後から女性が二人入ってきた。
やはりVIPルームは女性が隣に座ってくれるカンボジア版の「キャバクラ」らしい。
まぁジェイクがニヤリとした時から 何となくそうだろうな とは思っていたが、今日は彼にお礼もかねての会食である。あまりそういう気分ではなかったが 気にしない。
それに 何事も貴重な経験だ。僕は日本で「キャバクラ」に行った事は数回しかないが、カンボジアのキャバクラなんてものは もちろん初体験である。中々、僕の好奇心を刺激してくれる。
僕の隣は黒髪の大人しそうな背の低い20歳くらいの女の子で、ジェイクの隣はスラっと背の高い、スレンダーな西洋風な化粧をした、かなり明るい茶髪のロングヘアーの、20代中盤のモデル風の女性だった。地元の人が楽しむお店なので、二人とも英語は喋れない。
なのでジェイクが英語で "通訳" してくれて 皆が会話をする。
そんな 世にも不思議なお店が開店した。
ジェイクが通訳してくれたところによると、本当にここは 観光客は滅多に来ないそうだ。その為、英語を喋れるキャストはいないとの事。ジェイクは本当に "地域密着のお店" に連れて来てくれたわけだった。
だが、通訳しながらなので、会話はどうにも いまいち盛り上がらない。。
たまにジェイクが飛ばしているであろう、クメール語ジョークで皆笑うので、僕も雰囲気で笑っていた 笑
しかしながら、会話のタイムラグを差し引いても慣れてくると、なかなか楽しい。
お店とはいえ、カンボジアの女性とがっつり話す機会もそうはない。何故なら僕は、クメール語は サッパリ喋れないからである。
カンボジアの人と喋る時は、ジェスチャーを交えた「脳内テレパシー」を使うしかない。
色々話を聞いたが
「マサミの隣の彼女が大変だったんだ」
とジェイクが言い出したので「どうして?」
と聞くと、先々週まで入院していたという。
たしかに少しやつれて見える。。
「ホワイ?」とジェイクに聞くと、
「デング フィーバー」と言われた。
(フィーバー??…は、、熱だよな。。)
と、トイウコトハ。。(^◇^;)
デング熱である。
当時新宿の公園で確認されて、日本で大騒ぎされていたアレである。。
えーと、、そんな子の隣にいて、
俺大丈夫かいな??
とも正直思ったが「蚊が媒介する」とニュースで言っていたのを思い出し、時々咳はするが、治っているし、隣にいる位では感染らないだろうとは思った。…だけど正直ちょっと怖かった。。
( 万が一 何かあったらその時はその時だ…。)
と僕は腹をくくった。
何か この外国のVIPルームで出会ったこの娘さんとも "何か縁があるのだろう" と、勝手に思っていたからである。もしこれでうつるのなら、それはそれでしょうがない。
旅の間に自然と身についてしまった、ある意味諦観のようなものにより、ストンと何か腹が座ってしまったのである。
そんな事件はあったが、たわいもない話で楽しい時間は過ぎ、いよいよ10時半頃に帰ることになった。
会計は席で済ませる。
ツマミも2皿しか頼まなかったので、ジェイクの分も女性のドリンクも全部合わせて、20数ドルだった。。
や、安すぎるでしょ?!この店。。
と思った僕は、少しは格好をつけようと、見栄を張って女性たちに、「サンキュー」と言いながら、5ドルずつチップを渡した。
女性2人は お店の出口まで見送ってくれるが、途中で隣だった彼女が、僕のシャツの裾を引っ張った。
(んん?)と思って振り返ると僕を見つめている。
店長が寄ってきて、話しかけてくる。
ジェイクが
「彼女が "この後どうするの?" って聞いてるよ」と通訳してくれた。
僕は一瞬で色々理解した。
(そうか、そういうサービスもあるお店だったか…)
僕は(やれやれ…)
と思い、ジェイクを見ると
「無理しなくていい、帰るなら帰る。
マサミの好きなようにすれば良いさ」
といたって普通にしている。
僕は、店長と彼女に
「今日はそういう気分じゃないんだ」と言い、通訳してもらうと、彼女は悲しそうな顔で
「どうして?私じゃだめなの?」
と聞いてくる。
彼女も食べる為に必死なのだろうが、僕は、この旅ではそういうお店には行かないと決めていた。だが、どうやらアジアではこういう事は、色々と地続きらしい。
そういえば、ベトナムでもマッサージ店や、なぜか床屋もそういう事があると聞いていた。
僕は「申し訳無いけど明日が早いので帰ります」と言い、彼女にも「ごめんね。」と言って、帰る旨を店長にもしっかり伝えた。
ジェイクは「よし、かえろう!」と言い、一緒にトゥクトゥクに向かった。
(しかし、色々起きるものだ。。笑)
と僕は少し笑ってしまう。
「今日はご馳走様。宿まで送るよ!」
という、ジェイクの運転するトゥクトゥクに乗り、宿へと向かう途中に
(あ! ジェイクの奴、飲酒運転じゃないか!?)
と僕は、トゥクトゥクに揺られながら気付いたが
…まぁ、カンボジアだから大丈夫か。
と そっと夜空に呟いていた。
続く。
↑ 3日目も遺跡周りは順調!
何故か一緒のポーズの警備員さん 笑
↑ とにかく、熱い 暑い遺跡周り
常に汗だくである。。
↑ 宿の猫さんたち
↑ 朝起きて
変身しっぱなしだった事に気づく僕…
次話