第56話
ベトナムで「路地部」という名の部活動
僕は日本で仲の良い役者と
「路地部」と言う地味な部活動をしている。
ようは暇な時に、俳優仲間や 1人で、初めて通る 細い路地裏を歩く事を楽しむ部活動である。
路地には猫さんもいる。なので猫好きには大切な活動でもあるのだ。
僕は待ち合わせ場所のカフェから離れて、ぶらぶらと歩き始めた。
大通りから離れると、やはり色々発見もあるし楽しい。
しばらく歩くと、驚愕の光景が向こうからやってきた。
バイクの後ろに、綿なのか何なのか、とても軽いのだろうが、70センチ四方の、薄手の紙段ボールの箱状のものを
横に3箱✖️縦に4箱✖️高さ4箱という。。
とんでもない高さで積み上げたおじさんを見た。
つまり横 2.1m✖️奥行き 2.8m✖️高さ 3.5m
(うち0.7mはバイクの高さ)のデカさだ。
もう見た目は、3メートル以上の箱付きトラックにしか見えない
それを "スーパーカブ" で慎重に運転していた。
凄いバランスで積んであるし、凄いバランス感覚である。。
ここまでくると、危ない とかを通り越した、
「ここまでは積んで大丈夫」という、きっと何回か失敗をして会得したであろう "神業" である
およそ日本では見る事はできない。
" 物凄いものを見た。。"
と感心しながら、歩いていると 左手に
笑顔の素敵な 30代前半の女性がやっている、お洒落な「バインミー屋さん」があった。
バインミーとは、小さめのフランスパンで作るサンドイッチである。
中に、香草や野菜、ツナ、お肉なども挟む 中々ボリュームのありそうなもので、ここは数種類から選べる様だ。
イートインも中にある。
「どうぞ〜」と笑顔で言われたら、入らざるを得ない。。
僕はバインミーは「なんか堅そうだな?」と思い。さらには屋台がほとんどなので、暑い中 常温で置いてある具材が少し怖くて、何となく避けていた。つまり、食べたことが無かったのである。
ここはクーラーがよく効いている店内なので具材も痛まないだろうと思い、この機会に 食べてみる事にした。
また、ここに決めた理由は、屋台では無いので、珍しくビールも置いてあったからである。
お店に入り、女性にお店のおすすめを聞き、素直にそれを注文した。
" 初心者は 経験者に聞け!" である。
「それから、ビールも!」と頼むと
「はーい!」と元気よく返事をしてくれた。
たまにはカールスバーグを飲む事にした。
稽古があるが、まだまだ後だ。
日本では稽古前には絶対飲まないが、ここはアジアだ。普段やらない事をやるのも また旅の醍醐味である。
そう言い訳をしながら、ビールを飲んだ。
…う、うまい!!
暑い中 暫く歩いて飲むビールは格別だ。
酔わないように、チェイサーの冷たいお茶も こまめに飲む。
やがてすぐバインミーがきた。
鶏肉のバラしたものや、味付けした人参と 大根?の千切りや、野菜などでボリューム満点だ。オレンジ色のソースがかかり、食欲をそそる。。しかも130円と、安い。
僕は早速かぶりついた。
う、うまーい、う ウマぁ、うま馬うま〜い。
と僕は 今度は馬になった。
ビールを飲むと、バッチリあう!!
「僕は こんな美味しいものを
今まで 食べていなかったのか??」
とここまでの自分が間抜けに思え、自分自身から卒業したくなった。。
とにかくもの凄い相性だ。
近いものといえば、新幹線で、カツサンドをツマミにビールを呑んでいる感覚に近い!!
しかもここは涼しい。。天国だ。。
「路地部」でなければ見つけられないであろうお店を見つけ、大満足だった。
もう十分散歩した僕は、少し早めに待ち合わせ場所のカフェに戻った。
ここは、縦に狭い小さめの木造のカフェで、若者が多い、少しマニアックなカフェだった。何か文学的な雰囲気がある。
僕はこの、縦長のオープンなカフェでユンさんを待っていた。
ふと、店員さんをみると、、あれ?
…宮崎あおいさんがいる??
僕は 宮崎あおいさんの大ファンである。
見れば見るほどよく似ている。。
と僕は彼女から、目が離せなくなっていた。
読んでくださる方の中には、前々から僕に対して、女性のがどうの、天使だ、人魚だ、宮崎あおいさんだ。と大騒ぎばかりしているな…?
女性ばかりみているな?
と思う方もいると思います。
それは何故か?!
お答えしましょう!!
ずばり ” 暇 ” だからです!! 笑
というのは半分冗談で、半分本当です。
日本にいると、感じてるようで感じてない。
受け取っているようで受け取っていない。
日々忙しさと情報に流されて、ちゃんと目の前の事に反応していないのです。
日本では、忙しいのもあるし、何かフィルターがかかっていて、綺麗な人を見ても、
「あ、綺麗な人だなぁ。。」とか
「可愛い人だなぁ。。」とかで終わるというか、そこまで心が動かない。
本能が弱っているのか、そんな時間はないのか、、それとも次々と押し寄せる情報に押し流されるのか。。
特に重要な事ではなかった。
しかし、時間があり、人と触れ合いながら旅をしていると、やはり、人をよく見るし、人をより感じるものです。
そうすると、やはり 女性は美しいなぁ とか、
可愛らしいなぁ と改めて深く感じる。
自分の感覚に素直に反応している内に、
日本人の僕にも、なんといゆうか、ジローラモさんほどの達人ではないにしろ、イタリア人的な感覚が、旅をしている内に段々分かってきたんです。
彼らが、女性にいちいち反応するのも、人生を楽しんでいるからだし、生きる上で余裕があるからなんだと。
なので僕も、日本にいる時より はるかに、心が動くのです。
この事を実感として手に入れただけでも、僕は、俳優としても 男としても少し成長している気がしていた。
本能が呼び覚まされる旅をしながら、この東南アジアの男女を見ていても、何か世界の真理のような物を肌で感じる。
これは僕が、旅の間に勝手に感じている事なので、ただただ僕の実感でしかないのだが…
僕は「シェイクスピア戯曲」は、全作品を 一応読んでいるし、岸田國士さんの、男女の機微を描いた 日本的なお芝居も好きだ。
日本にいるときには戯曲もそうだし、
世の中には、なんでこんなに、少女漫画も、少年誌のラブコメも、月9も 映画も、舞台も、小説も、
男と女が、くっついただ、離れただ。
恋だ、愛だ、不倫だ、近松が心中だ!!
と、大騒ぎしているのか?
未熟な僕には、そこまでよく解らなかった。。
しかし、一人でアジアを回っているうちに、少しだけ "物語" の真理に近づけた気がする。
この世の「ストーリー(物語)」はほぼ全てが男と女で描かれている理由に、妙に納得出来たからだ。
とにかく、アジアにいると、感じとる力がアップして、極彩色に世界が見える。
それは、例えていうなら、二、三年使ったスマホの画面の、保護フィルターを剥がした時に感じる、元の画面の美しさ 綺麗さに似ている。
それほど世界が違って見える。
この旅の中で僕は
この ”物語(ストーリー)” という 俳優にとっての命とでも言うべきものの根幹に、少しだけ近付いている気がしていた。
そんな事を感じながら僕は、コーヒー片手に、
楽しそうに他の店員さんと話す宮崎さんを、
「美しいなぁ。。」と、心から素直に眺めていたのだった。
続く。
↑ 散歩で見つけた謎の建造物。
たぶん、貯水タンクだと思う。。
↑ 日本にいる時から信じている
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