猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

窓とTシャツと私

 

第73話

窓とTシャツと私

 

アンコールワットに行くと人生観が変わるよ。

なんでって?  ふふふ 行ってみればわかるよ?

 

と、旅行好きの大学生に 言われた訳ではないが、僕はワクワクしていた。

 

そんな僕が、搭乗手続きをしに行くと

なんと! 飛行機が遅れていた。

カンボジア・アンコール航空のスタッフに聞くと、あと2時間以上は遅れるらしい。。

これまでの旅が 今まで順調過ぎたのか、初めて僕は 飛行機の遅れに遭遇した。

 おじさんに あんなに急いで貰ったのに…。

とは思ったが。

 

(いや、早めに着く事に越したことはない)

と僕はすぐに前向きな気持ちに切り替えた。

" 確実に2時間は遅れるんですね?" と、念を押してスタッフに確かめた僕は、散歩がてら、いったん空港から出て時間を潰す事にした。

 

空港の周りには何も無いのかと思いきや、道を渡ると中華レストランがあった。そこに入る。

もう、急いでもしょうがないので、ビールでも飲んで、ゆったり待とうと思ったのである。

空港からお店を探して少し歩いただけで、すごい日差しに照らされて、汗だくになっていた僕は、クーラーのよく効いた涼しい店内で、ゆったりと時間を過ごす事にした。

 

ここは、シーフードも売りらしくて、店内にお洒落な生け簀がいくつも有り、その水槽に、大量のエビやら、他にもお魚が泳いでいる。

シーフードはやはり、ここカンボジアでも高い。

僕は興味がないので、まぁまぁ安い値段の 野菜炒めと、ビールを頼む事にした。

さすがにお腹は空いていないからだ 笑

 

ビールを頼む際に、一瞬、選挙の為の禁酒法が 頭をよぎったが

(まぁ、カンボジアだし大丈夫だろう。)

とぼくはもう普通に頼んでいた。

その通りで、オーダーは普通に通って行った 笑

 

ここは水槽も大きくて、泳ぐエビや魚を眺めながら、ビールを飲める。

涼しげな、アクアリウムレストランに来たような感覚を味わえた。

ビールを飲みながら、それらを眺めていると、僕の他に1組だけ居た母子の、3歳くらいの男の子が、車のおもちゃを見せに来てくれる。

 すごいね、かっこいいね。

と少し酔った僕は彼と交流する。

その後、男の子は、僕の横の水槽に興味津々だが、背が足りないので、頑張って見ようとしていた。

僕は、彼を後ろからそっと抱え上げてやり、よく見えるようにしてあげた。

男の子は、少しだけ驚き、そのまま気にせずに、水槽を眺めている。

彼の目の前を、何匹もの魚が泳いでいく。

向こうで母親もニコニコしている。

しばらくそうしていたが、腕が痺れて来たので、彼に「もういいかなぁ?」と聞くと、素直に頷いてくれた。

そのまま彼は、僕のテーブルの向かいの椅子に座った。その奥にいるお母さんが、笑顔で会釈してくれる。

せっかくなので、僕は彼と時間を過ごすにした。彼は喋らないし、喋っても言葉は通じない。

だが、心の中で会話をする。

彼が聞いてくる。

 

 それ、おいしいの?

 

 うん、美味しいよ。

 

 ぼくも欲しいな。

 

 これは君は飲めないんだよ。

 

 どうして??

 

 大人にならないとダメなんだ。

 

 どうしてなの?

 

 そういうものなんだ。

 

 のみたいボクも

 

 お母さんにもダメって言われるから、

 だめだよー。

 

 えー、つまんないの〜。

 

飛行機が、遅れてくれたおかげで思わぬ交流が生まれた。

僕はその後、野菜炒めを食べながら、ゆったり2本目の瓶ビールを飲んでいた。

その間も彼と 表情と身振りで会話していたが、彼は暫くしてボクに飽きたのか、自分のテーブルに、帰って行った。

母子は、それから暫くしてお店から出て行った。帰り際には 挨拶をしてくれた。

男の子は手を振ってバイバイしてくれる。

その後僕は、チェイサーのお茶を飲みながら、心地よい酔いに任せて、背もたれにゆったりもたれかかって、エビたちを眺めていた。

 

 あぁ。。なんというか、

 ゆったりとしていい時間だなぁ。

 

カンボジアに来て、凝縮された時を過ごして来たボクは、ここに来て、かなり気持ちが緩やかになった。

飛行機が遅れるのもたまには良いものだ。

僕は、1時間半程 ここで時間を潰していたが、早めに空港に戻る事にした。

外に出るとまた、すごい日差しだ。。

大きな国道を越えて、空港入り口まで50メートルも歩かないのに、すぐにまた汗だくだ。

 

(空港に着いたら、Tシャツを

 また変えなければならないなぁ。)

と、また洗濯物が増える事に 少し憂鬱になる。が、さすがに自分でもこのままなのは 気持ちが悪い。

 

飛行機は 予定通り?きっかり2時間遅れで出発した。

空港の建物から、直接 飛行機まで歩いて行き、そのまま乗るスタイルだ。

驚いたのは、飛行機にプロペラが付いていた事だ。ちょっと人生初のプロペラ機である。。

 カンボジア航空だし、ちょっと怖いなぁ…

    大丈夫…? だよね?

と思うが今更引き返す事は出来ない。

タラップを上り、中に入る。

僕は窓側の席だ。

ひょっとしたら、空から遺跡が見れるかも?

とちょっとワクワクしていたのだ。

 

僕が席を見つけると。。そこには、30歳位の白人女性が座っていた。窓側の席に。

僕はチケットの座席を確かめて、声をかけた。

 エクスキューズミー そこは私の席ですが。

すると彼女は

 私も同じよ。こちらに座ってね。

と、通路側の席を手で差した。

一瞬(この人は何を言ってるんだろう?)

と思ったが、気を取り直して、

 そこは、私の席なんです。

 代わってください。

と丁寧に言うと、一度こっちを見る。

そしてすぐ窓を見る。

動かない。。

 まじかコイツ。。

かなりカチンと来ていたが、同時に 何故か少し面白くなって来た僕は、もう一度、言ってみる事にした。

 窓際のチケットはこれですよー。

 聞いてますかー? 見てくださーい。

 窓際は僕の席ですよー。

すると、今度は完全に無視している。

「私は窓の外の景色に集中してます」という体だ。

 す、凄いやつに出会ってしまった。。

 

昔から思っているのだが、大体窓側に勝手に座る輩は、景色を見るのは最初だけで、

「ほら見ろ!!必要なかっただろ?!」と言いたくなるくらい、すぐに景色を見なくなる。

ひどいやつになると、窓を閉める。

 

それなのに 窓際の席を強奪しておいて

「席ならここにもあるわよ?」

と平然と言ってくるコイツは何者なのだ??

 

まぁ、東南アジアでは、バスも電車も、座席などあってないような事がよくあり「勝手に空いてる所に座る」という事が良くあるのは承知していたが、まさか、飛行機でもこうなるとは思わなかった。

小さい事を言っているのはわかっているが、僕はどうしても納得ができなかった。

 

この席は、チケットを申し込む時に、窓際の席か、通路側かは指定できず、チケットが取れた後に、窓側の席だと分かったので、僕はヤッタァ!と正直楽しみにしていたのだ。。

…しかも無視されている。ガン無視である。

流石に僕は ハラワタが煮えくりかえり

「窓の外に何があるんや?! ああ"?!

 そないに、何見とんのや?!姉ちゃん?!」

と よっぽど関西弁で怒鳴ってやろうかと思ったが、これから2時間、隣り合わせな事を考えると、それは得策ではない事は、ほろ酔いの僕でも分かる。

とりあえず僕は、通路側に座った。

気が収まらない僕は、窓の外を見続ける彼女の、横顔を 恨めしそうに 暫く凝視していた。

彼女の心の声が聞こえてくる

(こいつ…しつこいな。。はやく前向きなさいよ)と。

そう口には出さないが、じっと窓を見続け無視を決め込んでいる。

こうなったら我慢比べだ!!

と僕は彼女越しに窓を見続けた。

ジィーッと、二人とも 一方通行の睨めっこだ。。

 

…が、しばらくすると僕は

「俺は、なんでこんな事を

 一生懸命にしてるんだろう?」

と思い、急に可笑しくなってきてしまった。

そしてその内、僕は笑い出してしまった。

静かに笑っていると、流石に無視していた彼女も僕に顔を向けた。

僕は笑いながら、窓を手で差し「どうぞどうぞ」ジェスチャーする。

彼女は少し怖くなったらしい。。

少し引き攣った笑顔で、会釈してきた。

僕も満面の笑顔で会釈し返す。

 

やがて飛行機は、そんな僕らを乗せて、遺跡の街へと出発した。

 

(イエエェーイ!!

 レッツゴー!しぇむりあああっプう!!)

 

…僕は少し酔っていたのかもしれない。

 

 

続く

 

 

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↑ 人生初のプロペラ機で

     いざアンコールワットへ!!

 

 

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