猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

人生初の タイとクアイテ

 

第116話

人生初の タイとクアイテ

 

晴れ渡る空を、気持ち良さそうに飛んでいた飛行機は、

時間通りにバンコクスワンナプーム国際空港に着陸した。

 

隣のご夫婦は、降りる際にも 満面の笑顔で会釈してくれた。

多少の罪悪感を感じながらも僕は、

「ハバァ グッタイム!」と最高の笑顔で挨拶した。

 

飛行機を降り、イミグレーションに向かい、入国審査の列に並ぶ。

実は僕は、カンボジア −  ベトナム 間の移動が、あまりにスムーズで 審査が甘かった為、すっかり油断していた。

 

パスポートを、審査官に見せる。

その厳しい顔つきをした、細身の年配の男性職員は僕を見て、手元を人差し指でトントンして

「クァイテ」と言った。

 

(クァイテ…?  何だろう??

 「通って良い」と言う タイ語かしら?)

 

そのまま通ろうとすると、止められ、

かなり強めに「クアイテ!」と言われた。

 

僕は、タイ語はさっぱりわからない。

それとも知らない英単語だろうか?

 

まだ、そこまで国越えの経験値が無い僕は、うっかり携帯を出して、言葉を調べようとした。

すると鋭く

「ダメだ! しまえ! 携帯を仕舞え!」

と英語で叱られた。この言葉はよく分かった。

 

僕はここで初めて、空港のイミグレーションで携帯を出してはいけない事を知り、直ぐにしまった。

 

(しまった! 携帯、やらかした!!

 だけど、先刻から彼は何を言いたのだろう?

 一体何が問題なのだろうか??)

 

やがて彼は、諦めたような顔で

「プリーズ ライティング」

「ライト、ディスペーパー」

と言ってきた。

彼の手元を覗き込むと、そこには入国カードがあった。

 

(ああ、そういう事か! 忘れてた!!)

僕は入国カードを書き忘れていたのだ。

カンボジアベトナム間で、入国カードを書く機会がほとんどなかった為、僕はすっかり忘れていたのだ。

僕が慌てて書こうとすると、一度脇に退いて、そこで書けという。

彼は次の入国者を呼び、審査し始めた。

 

そこで僕は、ある事を理解し、背中に電気が走ったように、謎が解けた!!

彼は、日本のパスポートを渡した僕に 気を遣って、わざわざ日本語で

「書いて!」と言っていたのだ。

てっきり、英語かタイ語でしか やりとりは出来ない と身構えていた為、彼がカタコトで日本語を喋っている事に、全く気がつかなかったのだ。

 

(でも、「クアイテ」って言ってたし、

 日本語だと思うわけないでしょ。。)

と 最初は少し腹も立ったが、理由が解ると 笑いが込み上げてきた。

 

(さすがに「クアイテ」はないだろ。。

 自信満々の怖い顔で「クアイテ!」って  笑)

 

だが、笑っている場合では無いし、笑いながらカードなぞ記入していたら、確実に 怪しい奴だと思われるはずだ。

僕は笑いを噛み殺しながら、必死に素早く入国カードに記入した。

書き終わって 待っていると、彼は 次の入国者の対応が終わったところで、また僕を呼び寄せてくれ、今度はすんなりと通してくれた。

 

しかし、久しぶりに焦った。。

「タイは初心者向け」と聞いて舐めていたが、自分にとっては 初めての入国である。

僕は気合を入れ直した。

 

入国が終わると、後はお金を下ろす作業だ。

まず、ネットでチェックしておいた、

空港内で "1番レートが良い" とされている地下の方の Exchangeへと向かった。

時間の問題なのか、穴場なのか分からないが、客は僕しかおらず、周りに人も全くいなかった。

とりあえず、残っていたベトナムドンを全てタイバーツに変えた。

だが、出国の前にほとんど使ってしまっていたので、数百円分にしかならなかった。

 

次に僕は、VISAのプリペイドカードで、タイバーツを下ろす事にした。

ATMを探そうと周りを見渡すと、誰もいない。

その広い廊下の向こうに、ATMが見えた。

早速向かって 財布を取り出そうとした僕は、ハタと止まった。。

 

何かが落ちていたのだ。

よく見ると、バーツ紙幣だ。

拾い上げてみると、1000と書いてある。

 

頭の中で計算してみる。

(えーと、さっきのExchangeだと、

 1バーツが日本円で3.3円位だったから…

  おお! 3300円か。 結構でかいな…)

 

僕は周りを見渡す。。誰もいない。

しばらく行ったり来たりしてみる。。

 うーむ、誰も来ない。

 というか、俺しかいない。

落とし主らしき… というか 人っ子ひとりいない。

 

「ん… よし!」と言って、僕はその千バーツを頭上に掲げ、一礼してから財布にしまい、

ATMでお金を下ろすのをやめた。

(きっと タイが僕を歓迎してくれたのだ。

 ありがたや。 ありがたや。)

僕はそう思う事にしたのだ。

 

それから僕は、日本人宿に電話する事にした。

ついに僕は、今回の旅で 初めて、日本人宿に泊まることにしたのだ。

「日本人宿」とは、原則日本人しか泊まれない宿で、日本人にまみれることができる宿である。

 

予約方法がよく分からない僕は、とにかく公衆電話で電話する事にした。

そう! ここタイには公衆電話があったのだ。

僕は 電話越しの英語の会話は厳しいが、今回は日本語が通じるはずなので、安心して電話をする。

 

空港のエスカレーターの脇に、公衆電話が3台並んでいる。

真ん中と右側の電話の ちょうど間に、ホームレスなのか、薄気味の悪い男がうずくまっており、怖いので、1番左の電話を使う。

 

コインを入れ、しばらく待っても、呼び出し音も何もしない。。

(こういうものなのかしら?

 タイの公衆電話は??)

と思い、ホームページの電話番号を打ってみるが、何も起きない。

 

一度切り、もう一度やり直すが、やはり何も起きない。。

 

(この電話、壊れてるっぽいな。。)

僕は隣の電話を使いたかったが、とても、

「どいてくれませんか?」

などと言える雰囲気ではない。。

何か、今まで見た事のない 得体の知れなさが、彼にはあった。。

 

しょうがないので、他の場所に公衆電話がないか探す事にした。

階を変えて一回りしてみたが、やはり公衆電話は、見つからなかった。

 

僕は意を決して、先程の公衆電話に戻る事にした。

(頼んで、せめて横にずれてもらおう…)

と覚悟を決めて先程の公衆電話に戻ると、不思議な事に、先程までいた男は、いなくなっていた。

 

ホッとしながら、右の電話にコインを入れると、日本でもおなじみの「ツー」という音が聞こえた。

(やっぱり、壊れてたのか左端。。)

と思いながらも、電話番号をプッシュする。

 

やがて、呼び出し音が鳴り、

「もしもし…」と男性の声がした。

日本語を聞くと、やはり安心する。

 

 今日から、二、三泊したいのですが。

 

 いや、実は今日と明日は、満杯なんですよ。

 僕もこの電話に出てますが、

 この宿のスタッフではないんですよ〜。

 

 ええ?! そうなんですか?

 

 はい。 オーナーさんが今

 旅行に行っちゃってるので、代理です。

 オーナーさんのGmail教えますので、

 今メモれますか?

 

 あ、は、はい。

 ちょっと待ってくださいね〜

 えーと…

 

という感じで僕は、誰だか分からない男性から、口頭でメールのアルファベットを聞き取ることとなった。。

電話越しにメールアドレスをメモるという、原始的なやり方に

(一体何時代だ。。 笑)

と メモしながら笑ってしまうが、

アナログと工夫が最強なのは、この旅で学んだ事だ。

僕はお礼を言い、電話を切った。

 

さて、メールである。

聞き取ったメアドが間違っていたら、

そこで「ジ・エンド」である。

僕は ドラクエ2の、"復活の呪文よろしく、慎重にメールを打った。

アドレスエラーで、メールが帰ってこなかったところを見ると、

どうやら僕の「復活の呪文」は無事、旅の続きから 始められるようだ。

 

そして、今日、明日は満床と聞いたので、返信が来るまで、今日泊まる宿を確保する事にした。

実は日本人宿は、もう一つ見つけていた。

だが、僕の憧れの「カオサン通り」の近くではない。

そこから結構離れた、高架鉄道であるBTSに乗り「オンヌット」という駅で降りた所にあるとの事だ。

 

口コミはとても良く、宿の主人もとても良い人だと書かれていた。

「今日は、どうしても! 中華が食べたい!!」

と思ってしまう様に、

もう "口が日本語になってしまっている" 僕は、とりあえずこっちの宿に泊まる事にした。

 

とりあえず、その宿に電話してみると、気のよさそうな男性の声がした。

今日泊まれるか聞いてみると、全く問題ないという。

 全然空いてますよ〜! 大歓迎です。

 宿には、何時頃着けそうですか?

と、チェックインの時間を聞かれて、僕は止まった。

 

(ええと… すぐに宿に向かうけど、

 どれくらい時間がかかるのだろうか??)

と思案していると、

 今どこですか?  空港ですか?

と聞いてくれたので「そうです」と答えると、

大体の所要時間と、乗る路線を丁寧に教えてくれた。

 今日、初めてタイに来たばかりなので、

 時間通りにつけるかわかりませんが…

と言うと、

 気にせずに ゆっくり来て下さい。

 お待ちしてますので。

と優しく言ってくれた。

 

その後、鉄道の改札を探し出した僕は、

駅の窓口に置いてある、英語の路線図を見つけ、

「On Nut」と書かれている場所を探す。

 

タイの路線図は色分けされており、とても見やすい、

空港からは 「パヤタイ」という駅で、一度乗り換えが必要らしいが、乗る路線は特定出来た。

 

「よし! 行こう!!」と気合を入れる。

 

そして僕は、ついに空港を出て、本当はこの旅で最初に訪れるはずだった地、タイへと踏み出したのである。

 

つづく

 

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↑ タイ入国用の入国カード

 何故か 2枚渡されていたので、

 一枚は記念に取っておいた。

 

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↑ タイの空港の公衆電話

 

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