第60話
グッモーニング & グッバイ ベトナム
ついに出発の朝が来た。
最後なので、宿のモーニングを頂く。
今日はフォーにした。
とても美味しかった。
(早くフォーを食べれば良かった。。)
と、思いながら、フロントに戻り、チェックアウトした。
ジョンには会えなかったが、フロントのジョンのお姉さんに、彼に宜しく伝えてくださいと伝言を頼む。
最初は怖く見えたこの方も、長くいる内に、笑顔で挨拶をしてくれるようになっていた。
人は、やはり 一つ屋根の下?に長くいると仲良くなるのだ 笑
アットホームなこの宿は、素晴らしく。
もっと安く泊まれる宿は色々あったが、
結局他の宿に移る事は無かった。
それくらいお気に入りの宿だった。
よく晴れた気持ちのいい朝の道を
「真・シンツーリスト」へ向かう。
これでベトナムでの僕の旅は一旦終わる。
次に来るのは、役者仲間と合流するという、最後の、楽しみなイベントの為に戻ってくる時である。
真・シンツーリストの待合で待つ。
だが、出発までまだ時間があるので、隣のコンビニで牛乳と水、軽食を買うことにした。
戻ると 待合は、人が増えていた。
たぶん同じバスでカンボジアに行く人達だろう。
牛乳を飲みながら待っていると、やがてスタッフが、声をかけてくる。
こちらに来てください。」
言われるままに並び、チケットを 念の為スタッフに見せると、「OK」と言われ、
店の前に止まっている ミニバンに、7人いたツアー客はギュウギュウに押し込まれた。。
向かい合ったシートの真ん中で、僕は大柄な白人男性に挟まれ。肩と肩が触れている状態だ。
向かいには膝が触れる狭さで中華系の旅行者がこれまた狭そうに座っている。
正面にいるので、何回か目が合う。。
(ま、まさか?
このギュウギュウのまま カンボジアへ
長時間のバス旅に行くのだろうか?)
確かに 1200円で安いな と思っていたが、ツアーの説明の時のバスの写真は "観光バス" だったハズだ。
(まさか、そういう詐欺じゃないよね?(-_-;))
と疑心暗鬼に陥りながら、、
僕が行ったのは、「真・シンツーリスト」
ではなかったのだろうか…? じゃあ?
何ツーリストに行ったのだろうか??
などと、色々な考えが 頭の中をぐるぐる周る。。
とてもじゃないが、この密着状態で6時間は耐えられそうにない。。
僕は、もうしばらくこのままだったら、途中で車を降りる覚悟をしていた。
10分程 嫌な汗をかきながら乗っていると、やがてミニバンは広場で止まった。
その広場には、、観光バスが止まっていた!
(か、観光バスだ。。
僕はまだ観光バスに乗ることが出来るんだ…
こんなに嬉しいことはない。。)
僕は生まれて初めて、観光バスが救世主に見えた。
ギュウギュウ詰めのミニバンから解放され、僕らは観光バスに乗り込んだ。
ミニバンの他の同乗者も、ほっとしていた。
バスには 他のツアー会社からも客が集まって来ていて、満席になった。
どうやら、一つのツアー会社でバスを一台手配するのではなく、観光バスありきで、色々なツアー会社が席を売って、一台のバスの席を埋めるシステムらしい。
なんにせよ、助かった。
僕は1200円のチケットをドブに捨てずに済んでホッとしていた。
やがてバスは出発したが、Wi-Fi付きだという話だったが、何もアクション無しで 淡々とバスは走って行く。
運転手とスタッフが1人づつの体制である為、席にいる人相の悪い添乗員に、Wi-Fiを使いたい旨を伝えると、
「ちょっと、待ってろ」
と横柄に言われた。
シンツーリストのスタッフとは 雲泥の差の対応だった。。まるで接客を放棄している。
だが、スタッフに 国境での入国手続きをしてもらわなければならない僕は
(怒らせてはまずいな)と、全然強く出れずに
「わかりました。。」と大人しく席に戻った。
席で10分待っても、20分待っても、スタッフは無反応だ。。信号機で止まった時に、再びスタッフに声をかけると、面倒くさそうに
「携帯を渡しな?」と言い、
渡した携帯にWi-Fiのパスワードを入力してくれた。
しかし、マレーシアならわかるが、、
この スタッフの人相と対応の悪さはなんだろう。。
僕はよく考えてみたところ、
たぶんもう、カンボジアに関わっているのだと気付いた。
たぶん、このスタッフは カンボジアのバス会社の人間で、ベトナム〜カンボジアを往復しているのだろうと。
うーん。。カンボジアって
治安悪そう。怖そう。。
と僕は、そのスタッフを見て、少しビビってしまった。
その後あまりWi-Fiの調子が良くないので、携帯の作業を諦めた僕は、車内で延々と流れている、映画を観ることにした。
アクション映画をやっている。
たぶん、多国籍な人が乗っているバスの為、
「アクション映画」なら、言葉がわからなくても楽しめるだろうという 配慮だと思う。
内容は、アメリカから家族連れで 休暇でカンボジアに来た男性が、何故かカンボジアのテロリストに、家族ごと執拗に追われて、殺されそうになる。
という内容だった。なぜ、家族が追われているのかは分からないが、とにかく追う側が激しい。
交渉など一切せずに、とにかくこのアメリカ人を殺そうとするので、もはや目的は分からない。。
仲間を引き連れ、家族に発砲する。。
巻き添えで一般市民が次々と死んでいく。。
ホテルでは、、ドアマンが、フロントが、掃除のおばさんが。。
レストランでは、給仕が、コックが、料理長が。。
スーパーでは、レジのおばさんが、店長が、お客様が。。
道では、車が、建物が、木が。。ロケットランチャーで炎上する。。
それらを全て掻い潜り、男は、娘2人と、奥さんを守りながら、逃げ延びて行く。。
凄い男である。自分1人ならともかく、家族を守りながら逃げ延びる。
家族も危機一髪 逃げるのがうまい。
不謹慎だが、途中から、、この人達が逃げなければ、もう巻き添いで 人は亡くならないのではないか。。と思ってしまうくらい。
とにかく "巻き添えで " 人が死ぬ映画で、
最後は川向こうからベトナム軍が 戦車まで引き連れて助けに来て、テロリストは、一網打尽というストーリーだ。
とにかく人が死んだ。。
50人以上だろうか?
次に すぐまた始まったアクションは、ダークヒーロー的な話で、ある日 主人公のギャングが、敵対組織のギャングに、仲間と家族を皆殺しにされる。。
怒りに震える主人公は、相手のギャングのアジトに乗り込み 相手ギャングを皆殺しにする。
そして警察に捕まり、収監された刑務所には、敵対していたギャングのボスがいる。
刑務所内で再び殺し合いが始まり、何人も死ぬ。。そして、最後は暴動が起き、刑務官や、警備員も ほぼ巻き込まれ死。さらに服役囚同士の殺し合いは続き、刑務所の中は阿鼻叫喚の殺し合いである。
恐ろしいことに、最終的に 100人以上が死んだ。。
こんなに人が死ぬ映画を、初めて見た。それも二本続けてである。
三本目は 一体どうなるのかと思っていると、始まった映画は、レベルが違った。
なんとそれは「韓国軍の戦争映画」だった。
ついに戦争が始まった。。
そんなバカな?! と僕はひっくり返った。
戦場である。先程とは、比べ物にならないくらい人(兵士)が死んでいく。。
もはや桁が違う、数百人が亡くなった。
僕はもはや、ただ「アクション映画」を見せられているのではない気がしていた。
これは、カンボジアの元独裁者の ”ポル・ポト” に対する ”オマージュ” なのではないかと?
暗に、カンボジアに向かう観光客たちに向けた
カンボジアは、そんな甘い所ではない。
浮かれて観光だけをする所ではない。。
というメッセージではないか?? と思ってしまった。
こんなことを考えているのは、車内で僕だけだろうが…
プノンペンに着くまでに僕は、カンボジアに対する気持ちをすっかり改めていた。。
続く
の国境を越える。。
次話