猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

魔王のバス

 

第36話

魔王のバス

 

遠くで ピコーん♪ ピコーん♪ピコーん♪

と何かがリズミカルに聴こえる。。

 

何かを忘れている気がする。。

だけど心地よい。。

もういいのでは無いか。。

何も考えず……。

この心地よさに身を全て任せれば。。

 

 。。。?!

 ?!?!?!?!

 

ばっと、僕は起きた!!

 

 やべぇ!! 寝ちまった!!!

 

たぶんやってしまった。。と思いながら時計を見る!!

 

すると…

 

まだ30分くらいしか経ってなかった。。

まだバスには間に合う!!

 

 よ、良かった〜〜。。

 

どうやら、有料マッサージチェア

「お金を入れて下さい!」という 警報音 が 目覚まし時計がわりに 僕を起こしてくれた様だ。

(お金をたくさん入れなくて良かった…)

僕は心底 倹約家の自分を 褒めた!!

 

急いでバスセンターに戻ると、僕の番号のバス停には、すでに数人が並んでいた。

(間に合って良かった!)

と僕は、出発時間まで並んでいた。

 

…だが、バスは一向に来ない。。

頬に刀疵のような傷のある、よく日焼けした、豆タンクの様な正方形の体型のガッチリむっちりのスタッフに聞くと「バスが遅れている」との事。

「いつくるのか? 」と聞いても ヘラヘラ笑って、

 しらんね。そのうち来るべよ?

と、馬鹿にした 薄ら笑いを浮かべている。。

「到着の場所は間違いなくここなのか?」と聞くと

 チケットに書いてある通りに来るべさ?

とにべもない。

(こいつに聞いても無駄だ)と気づいた僕は

クーラーの効いている食堂で バス乗り場が見える席を探して、そこに座って待つ事にした。

 

その前に窓口に行き、どれくらい遅れているのか、僕のバスは番号通りのレーンに来るのか、確かめてからであった。

これまた 感じの悪い窓口のスタッフが言うには、まだバスは前の停車駅にいるらしく、結構遅れているらしい。

(まぁ、教えてくれるだけましたが…)

と思い待っていると、僕のバスの来るレーンには10分おき位にバスが来る。。

その度にバスの内容を確かめに行かねばならなかった。

 

ラクダに乗ってそうな 細身のエジプト人の様な 全身白の服を着た男性が、

身振り手振りで先程の 豆タンクスタッフに バスがどうなっているのか「教えて欲しい!」と もはや懇願しているのに、

犬でも追い払うかの様に「向こうで待ってろ!」 と追い払われて 彼は泣きそうになっていた。。

可哀想になり、彼に声をかけた。

チケットを確認し、降りる場所はちがったが、乗るバスは同じだったので

「そのバスはまだ来ていないよ」

と教えてあげた。

 

薄々感じていた事だが、クアラルンプールの車の交通関係者は、ヤバめの人が多い。

後で聞いた話だが タクシーも世界のワースト1の称号を冠した事があるらしい。

言い方は悪いが、あまり まともな人間がやる職業では無いのでは… と思えてしまった。

 

その後も 何本かバスを確認するハメになり、結局 1時間ほど遅れて、僕のバスは到着した。

やっとこさ来たバスに 僕は乗り込んだ。

 

スタッフはもう信用していなかった僕は

同じバスに乗る乗客にまでチケットを見せて、

同じ行先のバスに乗っているかまで確かめた。

幸い同乗者も 同じ緑のバスチケットを持ち 出発時間 行き先も一緒だった。

先程のエジプト人? の男性もちゃんと乗っていた。

 

指定席なので席を探すと、僕の席は ドアのすぐ後ろの一番前の席だった。

通路を挟んで右前には運転席がある。

前の景色はよく見えるし、隣に人もいない様である。

他の席より足は伸ばせないが、それでも十分スペースはある。

 「いいバスに乗れたな」

僕はそう思っていた

 

そう…  バスが出発するまでは。。

 

まさかここでもマレーシア特有の 、

魔界シリーズ が始まろうとは夢にも思わなかった

 

バスの運転手は風貌からして迫力があった。

立派な口髭を蓄えた、ガッチリとした体格の男だった。

あまり良くない表現かも知れないが、その風貌は何故か、イラクの元大統領 サダム・フセインを彷彿とさせた。

 

運転席に着くと、彼はまず「マレーシアの演歌」とでも言う様な曲を "大音量" で流し始めた。

よくみると、運転席の隣には何故か カラオケセットがあった。そこのスピーカーから流れてくるらしい。

BGMサービスのつもりなのだろうか?

だとしても 音量がおかしい。。

 

そして、ハイウェイに入ると、今度はヘッドセットを装着し、大音量の歌に負けじと、とんでもない大声で電話をし始めた。

たぶんドライバー仲間と話しているのだろう。

ものすごい ご機嫌である。

 

声はかなりの重低音ボイス… と言うか獣低音とでも言うべき "響きまくる低音の声 " で、声量、音量ともに、最強レベルだ。

数々の俳優、声優を見てきた僕が そう思うのだから間違いない。

きっと、オペラ歌手か 声優になったら、

 "かなり 仕事に恵まれるに違いない"

と思いながらも、、すぐ左後ろで その声をずっと聞かされると眠れない。。

というか、そのうち 頭痛までしてきた。

 

しかも、ご機嫌の為、

 ぐわぁっっハハハハハハ!!!

 がぁあっははははは!!!

 

 バァだビーダー!ビー!!

 ドゥワハハハハハハハ!!!!!

 

 ぐわっははははははは!!!!

 バゥダ! バーダビー。

 ぐぅあっっはははははははっ!!!!

 

まるで 本宮ヒロシ原作の 漫画のキャラクターみたいだった。

 

そして 彼のエネルギー量は凄まじく

まったく疲れを見せない!!

 

マラッカに着くまでの4時間以上

電波が途切れて 掛け直してる時間を除くと、 ずっとこの音量 迫力の会話だった。

勿論 マレーシア演歌も大音量である。

参った。。

 

僕は耳栓を探したが、、出発前に預けた、バス下の荷物入れにある バッグパックの中だ。。

まさか、、宿以外で耳栓が必要になるとは思っていなかった。。そんな甘い考えの自分を呪った。

マレーシアのバスとか 電話ってみんなこんな感じなのか?と思っていると、途中で、僕の後ろのマレーシア人も、携帯で電話し始めたが、普通の音量だった。

 普通に、話すんじゃん!?

と逆にこっちにツッコンでしまった。

勿論彼は 大音量が入らない様に、しっかりと口元に手を当てていた。

 

どうやら、この運転手。。というか

もうこう呼ぶ事にしよう!

 

彼 「サタン」 だけが特別な様だ。

 

 存在感、見た目、笑い方、音量、獣低音。

 全ての役作りが完璧だった。

 

 「魔王サタン」 そのものである。

 

後ろの乗客を観察してみると、別段誰も気にしていないし、一番後ろの席では この状況で眠っているツワモノのいる。。嘘だろ?!

 

魔王はさらにテンションがあがり

 どわっはっはっ!!グハハハハハ!!!

 ぐあっはっはっはっはっはっ!!!!!!

もう 止まらない。。

 

僕はこの状況を乗り切るために

 これが、マレーシアの高速バスでは 普通の事

 "デフォルト" なのだ。

と思う事にした。

マレーシアでは、魔界がバスを運行しており、魔王がバスを運転するものなのだと。。

 

たぶん絶対に違うのだが、、もうそれで良いのだ。

そう思い込む事でしか、この状況を乗り切る術は無かった。

 

 

4時間後、やがてバスはハイウェイを降りた。市街地の国道をしばらく走り サタンのバスは

やっとの事でマラッカの交通の中心

マラッカ セントラルバスターミナルに到着した。

ヘロヘロの、フラフラ になった僕は、もうよだれを垂れ流しそうな顔で 放心していた…

 

まるで彼の 1人芝居のオペラ  「 魔王 」

超SSS席の最前列のど真ん中で鑑賞した様な…

恐ろしい疲れと、謎の満足感さえ感じていた 笑   

 

バスを降りると、船の長旅から陸に上がって、陸酔いした船乗りの様にフラつきながら、身体に残る響きというか痺れを抱えたまま

 

無事? マラッカに到着したのだった。

 (魔王は意外と安全運転だった?? )

 

生きてマラッカに着けた事を 僕はただ喜んでいた。

 

きっと、東正実の "海外旅行生誕の地" 

クアラルンプール国際空港に 無事戻って来れた事で、 緩んだ 心と身体を

 

   「おい! 気を付けろよ!!」

 

と何かの力が引き締めてくれたのだろう。

 

ポジティブな僕はそう考えて

とりあえず休憩できる場所を探す事にした。

 

バスターミナル内はかなり広く。

Wi-Fiが繋がる ローカル食堂が並ぶ通りに、マクドナルドがあった。

KLIAでたらふく食べた僕は、お腹は空いていないのと、今日は 移動などでだいぶお金を使ってしまったので、一番安いソフトクリームを頼む事にした。50円くらい。

 

冷たいソフトクリームも舐めながら ゆっくり身体を休めた。

 

 ああ。。ここは 静かだ。。

 

喧騒は少しあるが、僕は心から安らいでいた。

 

アメリカの "グアンタナモ 捕虜収容所 " では

  【 大音量で 寝かさない 】

という拷問が有るそうだが、その事をボンヤリと思い出していた。。

 

( 僕は 口を割らなかった! 決して!!)

 

と意味不明な事を思いつき、笑いが込み上げてきた。

 まさに サターン's ハイである 笑

 

しばらく休むと僕の身体と耳は回復し、倹約家の僕にはタクシーという選択肢はないので、バス乗り場をインフォメーションで聞き、17番から出るバスを待つ事にした。

 

今回この番号から出るバスは 全てマラッカの 中心地に行く同じ系統のばすだ。

僕は涼しい中からガラス越しに優雅にバスを待つ事にした。

 

次のバスは 静かである事を願いながら…

 

続く

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↑魔王のバス

 

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↑ マラッカ セントラルバスターミナル

 

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↑ KLまでバス時刻表

 

 

次話

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