第156話
天空で逢いましょう
もう… だめかもしれない。。
あ、吐きそう。。 ビニール袋あったっけ??
グロッキーになっている僕を乗せたソンテオは順調に坂を登り、最後の方にやっと直線が多くなった。そのおかげで僕は、少し落ち着きを取り戻していた。
一息ついた僕を、ソンテオは直線ながらに、両側が林の間の坂をまだまだ登っている。
(一体 どんだけ登ったら気がすむんだろう…?)
僕はもう、この長すぎる坂に感心していた。
人生で一番、坂を上がった気がする…
富士山の頂上にでも向かっているのだろうか?
そんな僕を乗せてソンテオは、坂を登り続けた。
この坂の長さを感じながら僕は、カンボジアのシェムリアップでの、トゥクトゥクから見た、あのチリチリ赤毛の白人男性を思い出していた。
あの炎天下の中、遺跡を回る為にひたすら自転車を漕いでいた彼。。
その後、たまたま遺跡の頂上で再会した時、赤鬼のように真っ赤な顔で、しばらく会話すら出来なかったソバカスに丸メガネの彼。。
嗚呼… 僕はまた過ちを回避したのだ。。
僕は心から安堵していた。
この旅に出てから常に発動している、自分の研ぎ澄まされた危機回避能力に感謝すらしていた。。
(本当に。。ホントに、自転車にしなくて…
車にして良かった… 生きてて良かった!)
口を半開きにしてよだれを垂らしながら、僕は自分の判断を褒めていた。
海外ではたまにだが、一瞬の判断ミスが命取りになる事がある。
僕の危険センサーによる回避方法は、対人では、突然知り合ったり話しかけられた人に、
ここまでは付いて行く。
そして、ここからは走って逃げる!
と最初に線引きしてから人に付いていったり、話を聞いたりする。
それは対人用だが、こと移動手段や宿に関しても、(ここまでだな…)と、勇気ある撤退、宿替えをさっとする事が自分の身を守る事になるのだ。
意外とこの線引きは難しいはずで、僕の場合、役者やら、居酒屋の店長やら、日本でのこれまでの人生経験で培われている事が多い。
(勿論、旅の間に培われる能力もあるが…)
ようは危機回避能力すらも、人間力なのである。
偉そうに書いてしまったが、意外と日本でどれだけ経験値があるかが、海外では改めて問われるのである。 と僕は思っているのです。
そんな人生哲学を、改めてしている僕を乗せて、ドンフライ氏のソンテオは、やがて緩やかな坂にある、急に観光地感丸出しの場所に着き、停車した。
(あ、ココ、観光地だなぁ…)
だ思うのは、急に色々な車やソンテオが停車しており、今までひとつも見なかったレストランや、お土産屋らしき店が坂の上の方に見えたからである。
(ここでもまだ坂なのが 凄いぞ!
ドイステープ! 坂すぎるぞ!!)
と思いながらトラックの荷台の後ろから、僕はヒラリと飛び降りた。
もちろん彼女が「着きました。」と呼びにきてくれたので、少し格好付けたのである。
彼女に入り口を教えてもらい、
「Uターンしてあそこで待ってます。」
と車との待ち合わせ場所を教えてもらい、僕は早速ドイステープの入り口へと向かった。
入り口はこの坂道の右側にあり、見上げてみると、結構な階段があるようだ。
(ええと… まだ登るんだ。。)
と思いながら右を見ると、チケットオフィスらしき窓口がある。どうやらこの寺は有料のようだ。
下調べをあまりしない、今回のチェンマイ旅である。料金が高くない事を祈りながら窓口の看板に近付いた。
恐る恐るチケット代を見てみる。
大人1人30バーツ(100円)とかなり安い。
そして、何故かもう一つチケット代があり、そちらは50バーツ(165円)であった。
不思議に思ってよく見てみると、どうやらこちらはケーブルカーの料金付きのチケットらしい。
(という事は… ケーブルカーがあるのか?)
と周りを見回してみると、窓口の右手には確かに、「ケーブルカー」という表示があった。
とりあえず、窓口の女性スタッフに聞いてみる。
「階段だと結構登りますか?」と尋ねると
「300段以上あります。
ケーブルカーがオススメです。」
と教えてくれた。
今日は昨日のリベンジで「楽に寺まで行く」という目的がある。それを果たす為、僕は20バーツ(65円)足して、ケーブルカーに乗る事にした。
それに階段を避けて「小銭で楽して機械で登る」というシステムは、江ノ島の「エスカー」を彷彿とさせ、僕をワクワクさせた。
ただの有料のエスカレーターである。
江ノ島だとこれで神社や頂上に
300円程でスムーズに行ける 笑)
小学校低学年の時、江ノ島への遠足でクラスの皆と乗る事になった、謎の乗り物エスカー。
「おい、みんなヤベェぞ!!
今日、エスカーってのに乗るんだってさ!」
「マジで?! なにそのカッコいい乗り物!」
「ヤベェ強そう!! ドラクエ4の
最終ボスみてぇな名前じゃん!?」
と大盛り上がりしていた僕たち。
だが江ノ島で、いざ目の前に現れたのは、なんの事はない、ただのエスカレーターだった…
そんな強烈なオチを僕は未だに覚えている。
そんな僕は是非ともケーブルカーに乗ってみたかった。
料金を支払い、右手へ進み、タイのエスカーこと、ドイステープ専用ケーブルカーの乗り場に着いた。
もうケーブルカーは停車しており、そこに乗り込む。
形は巨大なただのエレベーターだった。。
斜めに移動する大きめのエレベーター。
江ノ島にあったら、きっと「エレベー」と名付けられたに違いない 笑
そんな事を思いながら僕は思わず吹き出していたが、周りの人は僕がなぜ吹いているかはわからない。
同乗した、派手なメイクの強そうなレディボーイの方にジロリと睨まれ、僕は真顔に戻って前を見ていた。
やがて5分程でエレベーは、頂上についた。
途中、エレベーの周りの景色は全てコンクリートであり、何の景観も見れなかった。。さすがエレベーターだ 笑
頂上に着くと、そこは煌びやかな建物がそこかしこに建っている。
タイによくある金色の仏塔もあり、隣の建物とのコントラストが素晴らしい。
色々な仏様をお参りして、一通り回ったかな?という所で、展望台らしき所に着いた。
ここからはチェンマイの街が一望できた。
少し暗くなりかかっている街は、それでも十分見応えがあった。
近くにアジア人男性がいたので、写真を撮ってくれるように頼むと、逆に日本語で話しかけられた。
「あれ? アヅマさん! 東さんですよね?
ええ? 覚えてません?? 平松です。
バンコクの日本人宿で一緒だった。」
言われて僕は思い出した。
二つ目の日本人宿で、例の「リリーさん」の話で盛り上がっていた時に、事の経緯を僕に説明してくれた若者である。
まさかこんな天空で再会するとは思わず、ちゃんと顔を見ていなかったようだ。
それに… あの宿には日本人が多すぎて、逆に一人一人、名前も顔も覚えられていなかった 笑
つまり、彼が僕を覚えてくれていたおかげで、僕たちは再会出来たわけだ。
お洒落な黒縁メガネに、キャップを後ろに被った平松くんと僕は、まさかの再会を喜んだ。
情報通の彼に教えて貰った所によると、ここは実は夜景が一番の売りだという事だった。
「暗くなるまで居なかったら、
わざわざ来た意味無いですよ?(^_^;)」
とまで言われた。
先程から急に曇り始めた空のせいもあるのか、日は急に落ち始めていた。
「後15分程で、車に戻る約束なんだよね(^_^;)」
と言うと、彼から諭された。
「いや、ここはタイですよ?
10分20分遅れても大丈夫ですって 笑」
「いや、、でも…」と口籠る僕に
「絶対夜景見た方が良いですって!」
と強く勧めてくれた。
(そうか、確かにここはタイなのだ…
まだまだ俺は真面目すぎるんだな 笑)
と思い直した僕は、最悪 追加料金払えば大丈夫だろう。と思い直し、ここで夜景まで粘る事にした。
平松くんはまだ展望台にしか来てないらしく、
「暗くなる前に、お寺廻ってきます!」
と広場の方へと戻って行った。
彼を見送った僕は、ひとつため息をつき、カバンから缶コーヒーを取り出した。
(昨日の教訓から僕は、水分を大事に
水1リットル、缶コーヒー1つを
しっかりとカバンに入れて来ていた)
そして手すりにもたれて、肘をつきながら、缶コーヒー片手に景色を眺める。
なかなか良い時間である。
「後で合流する」と約束した平松くんを待ちながら、僕は時間から解放されていた。
僕はゆったりとした気持ちで、雲間に沈みゆく太陽と、眼下に広がるチェンマイの美しい街並みを眺めていた。
続く
↑ まだ明るい展望台と街並み
↑ 美しいドイステープ寺院
( 思ったより広い)
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