猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

ベトナムの洗礼

 

第45話

ベトナムの洗礼

 

ぬるくなったお湯の中で 僕は目覚めた。。

 

風呂から出て、備え付けのバスタオルで体を拭く。

うっかり寝てしまったため、体はだるいが 心地よい疲れがある。

 

 お風呂は最高だ!!

 

そういえば ランカウイ島で仲良くなった、

トルコ人で、薬剤師のブルハムに、

「どうして日本人は長寿なの?

 君の意見を知りたい」

と僕なりの理由を聞かれた事があった。

 

その時僕は、

食生活とか、四季があって 身体を休める春や秋がある事など、色々言っていたが、

ふっと思いついて

 

「お風呂に入る事で

 副交感神経が優位になり

 ストレスが緩和されるからだよ。

 1日の終わりに、風呂に入って、

 「あ"ぁ〜」 と声を出して

 心も身体もリラックスするから

 だから 長生きなんだ」

 

という "新説" を唱えていた。

(副交感神経という単語は

 Google翻訳で調べて、画面を見せた)

 

このホテルで、およそ2週間ぶりに 風呂に浸かって僕は、改めてこの説に信憑性を感じていた。

 

だが…、風呂から出てお湯を抜こうとした所、困った事になった。。

お風呂の栓が、水圧で抜けなくなったのだ。

 

ここの風呂の栓は、日本のゴム製のトルクとは全く違った。

金属製の「落下傘」のような、上が三角錐で、下に棒がついていて、

大きめの「きのこの山」と言った感じのものだ。

どうやっても、とっかかりもないし、紐もついていないので、水圧で栓が取れない。。

 

僕は観念して、フロントに電話をかけた。

先程のフロントの女性が出る。

電話越しに、英語で物事を伝えるのは、

ジェスチャーが使えないので、色々と僕には難しい。

 

「アー、、マイバスルーム

 ホットウォーター ノットスルー。

 アイ キャンとスルー ホットウォーター

 イン バスルーム…a BOX?」

 

僕は頑張って説明したが、

 「…What?」

と言われてしまい。。

仕方なしに 一階のフロントまで降りる事にした。

 

しかし、1階へエレベーターを降りだはずが、

何故か見慣れない 客室しかない廊下に出た。

 

 ええ? ここどこ? フロントは?

 

間違えたと思い、再びエレベーターにのり、扉を閉めながら 「1階」のボタンを押す。

すると、ドアが開く。。

何回「1階のボタン」を押しても ドアが開く。

 

 こ、怖わぁ、。壊れてるよ。

 このエレベーター。。

 

しかし、ここで僕は気が付いた!!

 

 そうだ!!

 階段を上がって フロントだったから、

 フロントは "2階" なのだ!

と。

 

自分の間抜けさに ひとり「ふふふ…。」と笑いながらも、エレベーターに乗り、2階を押す。

エレベーターは、上に上がる。

2階に出ると

何故か ここにもフロントは無い!?

 

 客室しかない廊下に出た。。

 

もはやパニックである!!

 

 えええ?怖すぎる。。

 どうなってるんだ??

 フロント、、どこ。。?

 

僕がパニックになっていると、ちょうど客室を掃除しているおばさんが顔を出した。

人の良さそうな明るいおばさんだ。

 

彼女に、フロントはどこなの?

と聞いた所、あまり英語は通じなかったが、

「フロント」と言う単語は通じたらしい。

彼女は会話をすぐに諦め、一緒にエレベーターにのり、「0」というボタンを押した。。

 

 ゼロ? 0ってなんだ?

 

と思っていると、ゼロのボタンで着いた先に、

なんと!

フロントはあった。。

ニコニコして彼女はエレベーターで二階に戻って行った。

 

ここでやっと僕は理解した。

どうやらここは、一階を0階と呼ぶらしい。

つまり、日本での一階がゼロ階、ニ階は 1階なのだ。

後でネットで調べてみると、ベトナムは 全てそうらしい。

一階は 0階であり「GF(グランド フロア)」と表記されることもある

 

いきなりのカルチャーショックであったが、

なんとかフロントにたどり着けた。

しかし、右車線といい 0階といい、いきなり色々ベトナムはやってくれる!

 

フロントで、例の女性に事情を話すと、これまた入り口に座っていたジョンが、一緒に部屋まで行ってくれる事になった。

ジョンは一緒に部屋に来てくれ、バスタブに手を突っ込む。

そして爪を引っ掛けてなんとか外そうとする。。さっき僕がやって諦めた方法だ。

 

 …ジョン、、ノープランなのね。。

 

彼は何回かチャレンジしていたが、ついに諦めたのか「ちょっと待っていてくれ」

と部屋を出て行った。

 

その間、僕もやはり手を突っ込み栓を取ろうとしたが、やはり無理だった

僕は諦めて、ベッドに腰掛け待つ事にした

マレーシアの旅で「ダメな時は 頑張らない」

上手くいかない時は「ただ待つ」という事を多少なりとも学んでいたからだ。

 

やがて5分ほどして、ジョンが戻ってきた。

傍には さっきフロントに連れてってくれたおばさんがいる。

おばさんはお風呂を見て、すぐに足拭きのタオルをのけた。

そこには、足拭きがずれないように、平たいゴムがあり、そのゴムの裏側は "動かないように" と、

何故か吸盤になっている。

 

どうするのだろう? と見ていると、彼女はその吸盤つきの平たいゴムを床から ペリペリペリ と剥がし始めた。

そしてそのゴムをバスタブにおもむろに突っ込んで、例の鉄製の栓に吸盤をくっつけた!

そして、、、、

吸盤にくっついた落下傘型の栓が、水の中から姿を表し、僕のエキスがたっぷり入ったぬるま湯は、下水に流れて行った。。

 

  き、、奇跡だ。。。

 

僕はサイババに会ってしまったかのような衝撃を受けて、目を見開いていた。

やがておばさんは、ウインクを一つして、部屋から出て行った!!

 

凄いぞおばさん!!

ここに来て、すでに2回も僕を救ってくれている!!

 

それにしても、ジョンの頼りなさが面白い

実は部屋を案内された時も、クローゼットがわりの 大きな木のタンスの内部に、貴重品を入れる ダイヤル式のセーフティBOXがあった。

ジョンが解錠番号を教えてくれて

「パスポートなど入れるのに 使って下さい」と言われた。

 

そこで、自分のオリジナル番号を設定するにはどうしたらいいのか聞いた所

「……この番号で空きますので」

 

 いやいや、みんな知ってる番号じゃ

 ダメなんじゃない??

と言うと

「やり方がわかないから、お客さん、

 心配なら使わないほうが良いですよ〜」

と、素晴らしい笑顔で言われた。

 

 「そうだね。。」

と思わず僕は笑ってしまった。

何か 彼とは上手くやれそうだ 笑

この件と、お風呂の件で打ち解けた僕達は、宿に出入りするたびに、挨拶や軽い話をするようになった。

 

ジョンは24歳で、この宿は家族経営でやっていて、代表は彼の父親だという。

フロントの女性はジョンのお姉さんだった。

なんにせよ、アットホームな素晴らしい宿だ!

 

僕のベトナム旅は、この奇妙な 家族ホテルを拠点に 動き出して行くこととなった。

 

続く

 

 

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↑ 宿の近くのおしゃれマンション

 

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↑ 僕の部屋から見える

    向かいの2階の屋根の風景

 

 

次話

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