第163話
ゆーあーすとろんぐタイウーマン
合流した4人は、イギリス人の男性2人組と、ドイツ人女性一人、タイ人女性が一人と言う組み合わせであった。
男性2人組は、ヒゲモジャでガタイの良い男性が「ベン」といい、これまたヒゲで帽子にメガネの男性が「チャーリー」。ドイツから来たという「リオ」さん、ガイドのタイ人女性の「プイ」さんである。
男性二人組は、20代後半のいかにもバックパッカー旅を楽しんでいる感じで、気儘な旅人特有の、陽気さと気の良さがあった。
少しはにかんで笑うリオは、若く見えるが彼女には何か芯の強さのようなものを感じる。
そしてガイドのプイさんは、僕と同い年だという。愛嬌のある顔で、気持ちのいい挨拶をしてくれた。だが、良く顔を見てみると、だいぶ疲れているように見えた。
(どこか体調が優れないのかな??)
と僕は思っていた。
ここでガイドは、シアンからプイさんにバトンタッチしたようで、シアンは皆と握手して車と共に去っていった。
川遊びでカロリーを消費して腹ペコの僕は、それらをペロリと平らげてしまった。
前回の「カンチャナブリツアー」の時の、残念なランチのイメージが強く残っていた僕は、実は味には全く期待していなかった。だが予想に反して、ここの食事はかなり美味しかった。
かなり嬉しい誤算である。
ランチに舌鼓を打った僕らはいよいよ少数民族に会いに行く為、山道をトレッキングする事となった。山道を3時間以上登るはずだが、このアジアの平地を散々歩き回った僕である。かなり足腰には自信があった。
ツアーのしおりに「長ズボンで来て下さい」と注意書きがあったので、ナタを片手に、草をかき分けながら、獣道を進むものだと勝手に思っていた。
だが実際は、先人が通したのであろう赤土の道がきちんと開けており、舗装はされていないが山道がちゃんとあった。その赤茶色の、山をくりぬいたような道をひたすら登る。かなり助かる。
しかし、30分程登ったところで、早くも僕の心は折れかかっていた。
はぁ、はぁ。。 け、結構キツイ。。?
いや、そんな筈はない!
何せ僕はこの灼熱の大地を2ヶ月間、
毎日歩き倒して来た漢なのだ。
そう自分に言い聞かせながらひたすら登る。
しかしキツイものはキツイ。。そして僕は途中で気付いた。
あ、あれ? よく考えたら俺…
これまで平地しか歩いてこなかった。。?
考えてみたら僕は、これまで坂らしき坂など、ほぼ歩いてこなかったのだ。
それに、左右に大きな木はないので、直射日光が結構当たるので、日陰も選べずかなり暑い。。
僕は山を舐めていた事に今更気付いていた。
坂…は、やっぱりキツイ。。
実は僕は、山登りはあまり好きではない。
理由は「ずっとキツイ」からだ。途中で休むにも結局最後まで歩かなければならない。
やっとこさ頂上に登っても、帰りも同じ距離を降りなければならない。それが嫌だった。
穂高岳に憧れながらも、毎年「今年こそは!」と思うだけで登らない理由もそこにあった。
(なんでトレッキングツアーにしたんだろう?)
と、自分がひどく間抜けに思えてきた。
それでも足腰は相当強くなっているらしく、先頭をアレクと歩いていた。
後ろにはガイドである、一番坂に強くなければいけない筈のプイさんが、かなり遅れて歩いている。
(やはり体調が悪いのだろうか?)
心配になり彼女に話しかけた。
「あーゆーオーケー? どっか悪いの?」
「あ、あの… ノープロブレム。。」
そう答えた彼女を、両脇でフォローしながら登っている、ベンとチャーリーが、笑いながら教えてくれた。
「これはただの二日酔いだ」と。
「二日酔い??」と僕が怪訝そうに聞き返すと、チャーリーが答えてくれた。
「昨日は盛り上がってみんな飲みすぎたんだ。
特にプイはすごい飲んでたからね。」
そう言われたプイさんは、バツの悪そうな顔で無理に笑ってこう言った。
「だって、奢ってくれるから…」
それを聞いた途端僕は吹き出してしまった。
「プイさん、ガイドなんだから、
飲み過ぎちゃダメでしょ 笑」
と僕が笑いながら言うと
「だってビール、美味しいんだもん」
と愛嬌のある、最高の笑顔で返してきた。
そんな馬鹿な!! 笑
と僕は改めて爆笑してしまった。すごいガイドさんだ!
(やれやれ… 心配して損したな。)
僕が安心して先頭に戻ると、後ろからは、
「もうヤダ〜、休憩したいよー」とプイさんの声が聞こえてきた。チャーリーが、
「頑張れ、がんばれ。プイ、がんばれ」
と励ましている。
いったい、どちらがガイドかわからない 笑
そのうちベンが、プイさんの背中に手を当てて
「ヘイ! ファイト ファイト!
ユーアー ストロング タイウーマン!
グレート タイウーマン。」
と言って彼女を押してあげているのを見た時は、もう爆笑してしまった。
日本ではガイドが前日に飲み過ぎて、具合が悪いなどと言う事はまずあり得ないだろう。もし、万が一そうだとしても、必死に平静を装う筈である。
だがここタイでは、飲み過ぎた挙句に「もう無理」だの「休憩したい」だのと平然と口にしてしまうガイドがいる。
さすが、おおらか過ぎるタイである。
僕はこの酒飲みの同い年のガイドが面白くて、すっかり気に入ってしまっていた 笑
プイさんのペースに合わせながら、僕たちは山道を登って行く。途中、村に向かうであろうスクーターが僕らを追い抜いていった。30過ぎの親父さんが、小学生に上がるくらいの娘さんをシートの前に載せ、2人乗りで凸凹の、赤土の山道を、足をつきながら匠なアクセルワークで登って行く。
まるで、ちょっとした曲芸である。きっと僕が同じことをすれば、意図せずウイリーしてしまい、派手に裏にひっくり返るだろう。
(きっと全ては " 慣れ " なんだろうなぁ。。)
とおよそ日本の山道では見ることの無い光景に、タイらしさを感じる。
そしてついに道幅のある尾根らしきところに出た。道の両脇は草むらで、坂がほとんど無くなる。2時間ほど登った後だ。
僕はツアー会社の旅のしおりの通り、生真面目に長ズボンと、スニーカー登っていたので暑くてしょうがなかった。汗が止まらない。
僕の他のメンバーは、皆ハーフパンツであった。山だというのに、サンダルで登っている輩までいる。。どうやらこのまま開けている道が続くようだ。
汗だくの僕を見て、アレクが例の如く
「ヘイ、ジャパニーズ」と話しかけてきた。
「オマエはどうしてこんなに暑いのに
ずっと長ズボンなんだ??」
と聞いてきて、しまいには
「アーユー クレイジィ?」と頭の具合まで聞いてきた。
「いや、アレク‥ しおりをちゃんと読めよ。」
と反論しかけたが、確かにこの暑さである。。
そしてもう、草むらを掻き分けて進むということも無さそうだ。
彼の言うことが正しいなと思い、僕はハーフパンツに履き替えることにした。
(草むらを進み、虫も多いので長ズボンでと
しおりに書いてあった注意書きは、
いったいなんだったんだろうね。。?)
苦笑いしながら、僕は脇の草むらで、さっとハーフパンツに履き替えた。
戻るとアレクは「ナイス!」と喜んでいた。汗だくすぎる僕を見て、意外と心配してくれていたらしい。
ハーフパンツになるとかなり涼しい。
(最初からハーパンでくれば良かった。。)
と思いながら、僕はカバンの中のしおりを、二度と開かないことに決めた。
しばらく歩くと、一軒の家があり子供もいる。
ここで冷たい飲み物を売ってくれるらしい。
飲み物を入れた、青い大きなクーラーボックスには、氷が詰まっている。ここで僕は水を買い足す事にした。山の値段でかなり高かったが、それはしょうがない。
しかし、キンキンに冷えた飲み物に、こんな所でありつけるとは思わなかった。汗だくだった僕には最高のご馳走だ。
皆も水を買い足して、ベンチに座ってそれを飲んだ。みんな美味しそうに水を飲んでいる。
そして、僕が会いたかった少数民族に会えたのも嬉しかった。まぁ、みんなタイ人なのだが、やはり少数民族と言われると、わざわざ会いに来た甲斐があったものだ。と感じるから不思議だ。
実はプイさんも、この先の村の出身の少数民族なのだが、やはり、少数民族の方に会うには、「ロケーション」が大事なのである。
僕はここに来てやっと、ついに少数民族の方にちゃんと会えた気がした。我ながら不思議なものだ。
開けている尾根を歩く。登り下りは多少あるが、格段に歩きやすい。そしてその事が村が近い事を感じさせる。
やがて建物が道の左右に見えてきて、僕らは無事アカ族の村に到着したのだった。
家々は、木や竹をツルなど縛って上手に作ってある。地面から高く作られており、中々快適そうである。
村に入ってすぐに気になった事がある。
放し飼いの犬たちが多い事だ。大人しい犬もいるが、僕らを見ると吠えてくる犬も数匹いて、かなり怖かった。かなりの数の犬たちが僕らをジロリと睨み、侵入者なのか?と値踏みしているのがわかった。
村の中に入ってからも、周りの至る所で犬の吠え声が聞こえる。。人生で初めての経験だ。
怖いなぁ。。この村 犬だらけじゃないか…
ふいに犬に襲われるんじゃないだろうか?
犬があまり得意ではない僕は、この村にいきなり先制パンチを喰らい。
嫌な気持ちで、かなり緊張していた。
犬の本当の怖さを改めて感じさせられ、僕は自分の生命と、本能が改めて呼び覚まされていくのを感じていた。
さすが少数民族の村である。
マジに、イッヌ! こわ〜い!!!😢
続く。
↑ キンキンの水を売ってくれた少数民族の親子
↑ まだまだひたすら歩く。。
↑ ついに到着した、山岳少数民族の村
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