猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

戦争の傷痕

 

カンチャナブリーの有名な橋は、僕の記憶の中の映画では、爆破されていたはずだった。

だが実際には架け直したのか、立派な鉄橋が川に架かっていた。

 

現地に着くと、そこには地元のガイドが待っていた。

運転手と仲良く喋り、バトンタッチする。

なるほど。 運転手は客を連れて来るだけで、ガイドは現地に住む詳しいスタッフが引き継ぐ。

非常に合理的なツアー会社である。

 

新しい現地スタッフが、これからのスケジュールを説明してくれる。

JEATH戦争博物館、クウェー川鉄橋を自由に回ってきてくれと言われ、戦争博物館のチケットだけ渡された。

集合時間を言われて、僕らはそれぞれ好きなように散った。

 

まずは戦争博物館に行ってみる。

日本軍のやった連合国軍の捕虜への強制労働の資料、武器や、日本軍の装備、橋の建設のために実際に使った道具の展示がある。

 

ここカンチャナブリーは、当時の日本軍が、インドを攻める為に、泰緬鉄道を建設していた。

タイから ミャンマーを通り、インドまで物資を運ぶための鉄道だ。

 

しかし、と思う。 当時の日本軍はどこまで戦線を拡大させるつもりだったのだろうか?

ここ東南アジアに来てから、色々知った事であるが、マレーシアを一年ほど支配していた事も含めて、本当に驚く事が多い。

 

自分の足で訪れ、歩いてみると、日本からは、自分が思っていたよりも、はるかに遠く感じるこの東南アジア、さらにはインドを、極東の小さな島国が、どうやって支配をしようと思ったのだろうか?

 明らかに戦線を広げ過ぎでしょ。。

 …道理で戦争に負けた訳だ。

僕はそう感じていた。

無理は歪みを生み出す。それは、狂気へと人をより誘う。そんな戦争が生み出す歪みと、人間の狂気を僕は感じていた。

 

ここの戦争博物館は、色々な言語で説明が書かれている為、日本語でも書かれているものが多く、周りやすい。

 

そして、等身大の木製で作った人形たちが、強制労働の場面の再現をしている。

色々な場面、全部で30体くらいあった気がする彼らは、立体的に当時の様子を生々しく伝えてくれる。中には偉そうに、サイドカー付きバイクに跨る日本の軍人の人形もある。

 

そして、灼熱のこのタイで、裸に大きい褌のようなもの一枚で、大きな枕木を運ばされたり、ツルハシを持たされ、鉄道のレールをひかされている人たちの人形。

彼らは日本軍が捕らえた捕虜であり、連合国のアメリカ、オーストラリア、イギリス兵である。彼らは劣悪な環境で強制労働させられていた。

今日ですら、直射日光の下に 少し居ただけで、クラクラする暑さだ。この酷暑の中、重労働などしたら、僕ならすぐに倒れるだろう。。

事実、枕木一本に死者一人と言われるほど、過酷な強制労働であったらしい。

 

こうした人形の展示はけっこう生々しい、昔、新宿でロシアのシベリア抑留者の展示に行ったことがあるが、そこにも 等身大の人形で、当時の様子が再現されていた。そして、それらには、わかりやすく訴えかけてくる力がある。

特にここは、色々な国の人が来る事を考えても、文章だけよりも 写真だけよりも、より理解しやすいようにとの工夫でもあるのだろう。

 

僕は日本人が、戦時中、酷い事をしたのを否定する気はない。きっとしたのだろうと思う。

それが戦争だからだ。

日本に限らない、大なり小なり、他の国も戦時中は他国にロクでもないことをしたに決まっている。

アメリカも原爆を落としたし、ロシアも満州で日本人に本当に聞くに耐えない事をしている。

それは、戦争だからである。

はっきり言うと、僕はそういう人間の狂気を引き出す装置である、戦争が大嫌いだ。

 

とにかく、日本人として、日本人のした事、

他の国にある、日本以外の視点で見た日本軍、日本を見なければいけない。

これはある意味チャンスである。

文献では無く、身体で、感覚であの戦争を、一部でも捕らえるチャンスだ。

日本でも、広島や、沖縄等でも色々考えさせられるが、やはり僕の思考は、日本の枠を出ないはずだと思う。

 

その昔、芝居の先生が、

「新潟が舞台の芝居をやるなら、新潟へ

 長崎が舞台の芝居をやるのなら長崎へ

 お芝居の場所に、土地の空気を感じる為に、

 出来るなら、実際に 一度行ってみてから

 稽古に入りなさい。」

と仰っていて、その通りだと思った事がある。

そしてそれは、芝居に限ったことでは無いのだと、旅をしていると実感する。

 

色々と興味深く周っていたが、とある資料の前で僕は止まった。そこに書かれていた事に僕は、衝撃を受けた。正直びっくりした。

 

映画「戦場にかける橋」と「史実」は全く違った。

映画では、仕掛けた爆弾で橋が爆破されるのだが、史実では 飛行機による爆撃で破壊されたらしい。

そして資料には、その時の事が書かれていた。

橋の爆撃の日にちと 時間の情報を手に入れていた日本軍は、それを阻止する為、捕虜を橋にギュウギュウに並べ、飛んで来た爆撃機に、

「死にたく無い!!爆撃しないでくれ!!」

とアピールさせた、。と言うのだ。

パイロットも人間である。同胞ごと橋を爆破するのを躊躇するだろうと言う考えだ。

捕虜達は死にたく無いので、命懸けで飛行機に手を振る。「やめてくれ!!」と。。

 

結果、連合軍の作戦は遂行され、橋は、橋に並べられた捕虜もろとも爆撃され、100人ほどがバラバラになった。

バラバラになった捕虜達の血で、川は数日、紅い色だった。

と言う記述である。

本当だとしたら、恐ろしい戦争犯罪である。

だが、そんな話はほとんど聞いた事がない。

事実だとしたら、戦後、もっと大騒ぎになっていてもおかしくは無いのではないだろうか?

とも思ったが、事実だとしたら、本当に狂っている。。

僕はこの暑い中、背筋が寒くなったのを覚えている。

 

どちらにせよここに来て強く思った事は、

 とにかく戦争は狂っている。。 という事。

自分は、自分の国から遠く離れた、こんな恐ろしく暑い所で、重労働をしたり、重い装備を担いで進軍したり、人を殺す事は、

  絶対に! 絶対にしたくない!!

と思い、身体の芯からその事を強く実感した。

 

それはとてつもない実感だった。

本当に心から「嫌だ!」と思ったのだ。

 

その後、僕は頭を整理する為に、ベンチでしばらくぼーっとしていたが、やはり橋を見に行く事にした。

観光客でごった返すこの橋は、今はあの悲惨な戦争が無かったかのようにただ佇み、下を流れる川は、ゆったりと流れている。

「ほら、やっぱり平和が一番じゃんか…」

僕はふと、そんな事を呟いていた。

 

とりあえず、鉄橋を川の向こう側まで渡ってみる。橋を渡った奥には自然が広がっている。

全くのどかな。。「スタンド バイ ミー」のゴーディや、クリス達がひょいと出てきそうな雰囲気だ。

僕はそこから振り返り、茶色の川を見ながら、ありし日の紅くなった川を想像し、橋の上を歩く観光客を眺め、彼らを捕虜に置き換えてみた。

 

全く信じられない事だ。

もし、今爆撃があったなら、今いる彼ら、彼女らが爆撃で木っ端微塵になるなんて、誰が想像出来るだろう??

僕は一つ大きなため息をつき、集合場所へと戻っていった。

 

集合時間まで10分ほどあったが、皆 車に戻ってきていた。現地ガイドが助手席に乗っており、僕は後ろのシートに移動した。

そしてまた車は飛ぶように走る。

どういう時間調整なのかはわからないが、とにかくぶっ飛ばす。これはもう運転手の性格なのかも知れない。。 やれやれだ。

 

しばらく線路沿いの道を走っていた車は、途中で駐車場のある場所にとまり、ガイドと共に降りる。

レールは流石に鉄だが、木造りの線路が現役で使われているこの泰緬鉄道を、じっくり眺める事ができるポイントだ。

下から眺めることもできる、この木組みの鉄道が、現役で使われている事に 不思議な感じを受けた。

 

僕が初めて見る、木造りの土台の上に鉄道が走っている線路だ。

鉄道というだけあって、日本では枕木以外の、特に土台はコンクリートか、安心感のある鉄でしか見たことがない。

土台が木で出来ているこの現役の鉄道に僕は、色々な危うさを感じていた。

 

木組みの土台は、メンテナンスを定期的にキチンとしなければ、すぐに劣化して駄目になりそうに見える。

いい加減なタイ人の管理で、この鉄道は大丈夫なのだろうか??

 

そんな事を思った時、僕はここカンチャナブリーに来て、初めて笑いが込み上げてきた。

ここへ来るまでのドライバーのマイペンライな飛ばしっぷりといい、きっとセイムセイムな鉄道の管理も想像して、何故か笑えてしまう。。

 

やっぱり、タイは面白い 笑

僕は自分に、そんなタイの水があっているのでは無いか? と、うっかり感じ始めていたが、

 

それは喜んでいい事なのか、そうでは無いのか、わからないままに、ただ苦笑していた。

 

 

つづく

 

 

 

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↑ クウェー川鉄橋の向こう側  緑が続く…

 

↓ 動画 今は穏やかな クウェー川鉄橋

https://m.youtube.com/watch?v=jhImmGF63dcf:id:matatabihaiyuu:20220724153035j:image

 

↓ 動画 いまだ現役の現役泰緬鉄道

https://m.youtube.com/channel/UCnaa41CzfSrZtpiKfTxNXog/videos

 

↓ 泰緬鉄道 動画 2

https://m.youtube.com/watch?v=subKUkm8yv0

 


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↑ 現役の泰緬鉄道

     木造のこの上を電車が走るのだ。

 

 

次話

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