第125話
タイの女神と 気持ちのいい男たち
LINEを送った後、外国にいる僕から すぐに電話がかかってくるとは思わず、
中条は少し驚いていたようだった。
だが、アジアにいる僕からの電話に 喜んでくれた彼女に、僕は、
「ワタクシはこれから、どこに向かえば…
一体 どうしたら良いのでしょうか?」
と、およそ神父様にしか聞かない様な事を、恥も外聞もなく聞いてみた。
まあ、付き合いの長い親友だから言える事である。
ノリのいい中条は、全く動ずる事なく、
「んーむ。。はぁぁあー! はい。
…見えました。 チェンマイに行きなさい。
余裕があったら チェンライにも行きなさい」
と 僕に道を示して下さった 笑
チェンマイとは、タイ 第二の都市で、タイの北部にある。
チェンライは、そこから更に 北東である。
中条が言うには、バンコクもいいが、
まさに「タイ」を感じたいのなら、ここにいった方がいいと、色々な情報も交えて丁寧に教えてくれた。
買い物に行くと、タイ人はよく
「セイムセイム」と言うらしい。
このTシャツ、どっちがLサイズ? と聞いても、
「セイム セイム。」(同じ同じ。)
お土産屋などで売っている、ナイキ? や、アディダス? を店員に「本物?」と聞くと、
「 Same Same But Different!
(同じ同じ!だけどちょっと違う。)」
と今度は 謎のセイムセイムになるらしい。。
「どっちやねん?!」とツッコみたくなるが
全てを この言葉と、にこやかなタイスマイルで、そのまま押し切ろうとするらしい。
本当に 素晴らしくいい加減な国である 笑
「マイペンライ(気にしない)」
という言葉と同じで、よく使われるとの事だった。
僕はまだ見ぬ「セイムセイム」に、胸を躍らせていた。
一度は言われてみたいと 笑
僕はこの、道を示してくれた、タイの女神様に感謝しながら、さらに 少し疑問に思っていた事を聞いてみた。
なんかさぁ。。
「コップンカー」って、言って、満面の笑顔で、手を合わせてお礼を返すと、タイの人から、ちょっと不思議と言うか、たまに苦笑いされるんだけど…
何か、発音が変なのかな??
それとも、手を合わせ方が変なのかしら??
すると中条は爆笑して、
それ! 女の子の語尾だからだよ!
と教えてくれた。
彼女がいうには、
語尾に「カー」をつけると女の子の言葉で、
男性は「カップ」だそうだ。
さらにいうと、あけっぴろげなレディーボーイの方だと「ハー」という感じらしい。
つまり、日本で言うと、AKBの可愛い女の子だと、
「コップンカー」であり、
どんだけ〜?! と盛り上がってる時のIKKOさんだと、
「コップンハー!」 であると。
一般的な男性は、
「コップンカップ」だそうだ。
つまり僕は、日本人アクセント丸出しのカタコト英語で男らしく話していたのに、
会話の最後に、急に可愛くタイ語で
「いやーん! ありがとう💕」
と手を合わせて挨拶していた事になる。。
日本に置き換えてみると、さっきまで英語で話していたゴツい男性外人さんが、会話の最後に日本語で、
「アリガトね💕 モエモエきゅん!」とでも言ってる感じだろうか??
…どちらにしても かなりのホラーだ。。
そら、苦笑いするわ😅
ここバンコクでは、手を合わせて挨拶をしてくれる人の率が、圧倒的に 女性店員さんに多く、しかも、可愛らしい笑顔の方が多かったので、ついつい嬉しくなってしまう僕には、
「コップンカー」という言い方が、自然と頭に残ってしまっていた。 そのまま、
「ありがとう」と言うタイ語は、
「コップンカー」ね、ふむふむ。
と覚えてしまっていたのだ (^_^;)
僕はこの語尾に慣れすぎて、もう誤解を生むレベルに 自然 になる前に、このことに気付けた事を、神と彼女に感謝した。
レディーボーイが多いこの国である。このまま「カー、カー」と言っていたら、色々と誤解され、そのうちどこかで、とんでもないトラブルに巻き込まれる可能性だって、ない事も無いだろう。
…やはり外国にいるのだなぁ。。
と改めて気付かされる。
(どんな気付きだ? 笑)
僕は彼女に感謝を述べ、近況を話して電話を切った。久しぶりに、色々と話せてスッキリした。
気の許せる友人の声を聞くと、安心する。
しかし凄いものだ…
と 同時に僕は感心していた。
マラッカで、宮下さんと ケルビンさんを繋いだ時も感じた事だが、遠く離れたタイから、日本へ、無料で電話が、気軽に出来る事にだ。
まだスマホも、LINEもなかった頃は、海外に旅に行っている友人からは、旅の途中に 彼の寄る、インターネットカフェから、Gmailで 手紙のように、メールが来るだけだったのが、
今は その場で気軽にLINE電話をすると、すぐ日本に繋がる。。しかも音質も かなりクリアだ。
僕は改めて、スマホの万能感と、時代の凄さに驚いていた。
その後、駅の周りも色々うろついた僕は、夕方宿に戻った。
共有スペースでは、三上さんは既に一杯やっており、他の二人もまったり過ごしている。
飲み仲間を探していたのか、三上さんは僕を見つけるなり、昨日も行った日本食堂に
「呑みに行きませんか?」
と誘ってくれた。
せっかくなので、昨日の詫びもしたいなぁと、宿のオーナーさんも誘ってみる。
オーナーさんも話がしたかったのか、喜んで来てくれた。
今日は、昨日と違いゆったりと飲む。
しばらくバカ話をした後、改めて昨日の事を詫びた。
オーナーさんも
「あれは、僕の言い方が悪かったです。」
と言った後、説明してくれた。
驚く事に、実はオーナーさんも昔、映画系の学校に通っており、僕のいる業界にいたらしいのだ!
自分にとって「頭がうんぬん」というのは、芸術家に対する、褒め言葉だったと言うのだ。
かれの学校では、当時、ヤバい奴だな。。
と思っていた同期の突き詰め方を
「…おかしい」と皆表現していて、そこまで思われる奴が結局、プロになっており、自分と違い、まだ、そうやって突き詰めている僕をみて、素直に「凄いっすねー」と言いたかったのだと。
僕が
「いや、でも絶対誤解されるから、
その言い方やめた方が…」
と言うと、
「いや、確かにそうなんですよ…
久しぶりに、そういう業界の人と呑んでて
嬉しくなっちゃって、酔いすぎたのもあって
うっかりそういう風に言っちゃったんです…」
としきりに反省していた。
「いや、僕も酔いすぎて、
ちゃんと理由も聞かずに喧嘩ふっかけて
本当にすみませんでした…
あれは、僕が悪いです。」
と僕も素直に詫びた。
腹を割って話すと、スッキリした。
そして、このオーナーさんの人柄がより解って、僕は彼の事がより大好きになっていた。
なんか、素直で、本当に素敵な人だなぁ。
と。
人と人は結構ぶつかる。
必死だったり、一生懸命だったりすると尚更だ。稽古場でもそういう事が良くある。
最近は皆、ぶつかる事を避ける傾向にあるが、僕の経験では、ぶつかった後、その人と急に分かり合える事があるとも思う。
思い切りぶつかったから、生まれる関係性もあるのだ。
まぁ、あまり不用意にやるのは、もちろん良くないが、そんな無骨な昭和の男たちが、ここ、アジアの片隅で邂逅したという事なのだろう。
そう格好をつけた結論に至り、僕はその後も彼らと酒を飲んだ。
レストランのマスターも、
「お、仲直りしたの? 笑
お祝いに、一杯奢りますよ。」
と笑いながら、ビールを無料で出してくれた。
そして、合流してくれたマスターと4人で、また楽しく酒を呑んだ。
昨日会ったばかりだが、皆、昔からの知り合いのような楽しい酒だった。
久しぶりの「日本人漢祭り」は、深夜まで続き。
タイの熱い夜は、穏やかに更けていった。
つくづく この出会いに感謝である。
つづく
↑ タイでよく売られている
セイムセイムTシャツ 笑
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