第119話
タイの関所と 生レバー
久しぶりに日本人だけの空間に入ったので、日本人だらけに感じたが、
実際は、宿泊者らしき人が3人、オーナーさんらしき人が 一人いるだけだった。
しかし、こんなに多くの日本人をいっぺんに見るのは、日本以来 一か月半ぶりである 笑
僕がまみれたい日本の方たちが、何人もいらっしゃる。
まぶされた僕は、早速挨拶をする。
女性二人と、男性一人、オーナーの男性一人。
皆 気持ちよく挨拶をしてくれた。
日本語だけで挨拶するのは、いつ以来だろう?
ここは共用スペースのようで、寝そべれるように、下には柔らかい下敷きが引かれ、ソファーや、座布団など、皆でまったり出来るようなスペースになっており、皆それぞれの場所で、思い思いに過ごしている。
宿のオーナーさんに、小さな受付カウンター越しに色々と、説明してもらう。
ここは、僕の泊まる 男性専用ドミトリーは上の階、女性専用がさらに上の階で、最上階のバルコニーに洗濯機があり、洗剤は自由に使って良いとのこと。
ただし、洗濯機使用 一回につき、10バーツをカウンターの貯金箱に入れて下さいとの事だった。
だが、洗濯機があるのは本当に有り難かった。
着替え難民であり、機内での異臭テロリストでもあった僕は、すぐに洗濯をすることに決めた。
先払いの為、2泊分の料金を、タイバーツで支払う。
宿代は結構安い。しかも 連泊の為、割り引いてくれるという。一晩 千数百円だ。
なんだかんだで、空港で祝福された千バーツで、ここまでの交通費と、宿泊代まで賄えてしまった。 …ありがたすぎる。
トイレと、シャワーの説明をしてもらい、部屋に案内された。
結構広い部屋に、壁際に2段ベッドが3つあり、計 6床あるが、かなり贅沢な広さの部屋である。
今日は、男性ドミトリーは、二人しか泊まらないとの事なので、好きなところを使って良いと言われ、僕は下のベッドを確保し、荷物をほどいた。
そして、早速洗濯に行く。
バルコニーは結構広く、洗濯機も二つあり、洗濯物も干せるスペースまである。
ハンガーなども大量にあり、いつも大活躍の、自前の洗濯ロープを張る必要もない。
新しいであろう方の洗濯機に、全ての洗濯物をぶち込み、適当な量の洗剤もぶち込み。
「おまかせ」というコースのボタンを押して、僕は鼻歌混じりに部屋に戻った。
部屋に戻ると先程お会いした、唯一の 同宿の男性がいた。
改めて挨拶をすると、三上さんと言う男性で、30歳だという。
下半身がガッシリした男性で、背は僕より少し低い。聞くとサッカーをやっていたという。
どうりで体格がいいはずだ。そして、昭和の匂いのする、中々の男前である。
ずいぶん旅慣れた感じだったので、話を聞くと、マレーシアの方面で仕事をしていて、この宿には、休暇の度に来ている との事だった。
とにかく、時間があればタイに来て ゆっくりしているとの事。
彼の話からも、日本で噂には聞いていた、タイの居心地の良さを感じる。
年齢の割には落ち着いた感じの彼と僕は、少し話すと すぐに意気投合し、
早速「飲みに行こう!」となった。
旅先ではインスピレーションが研ぎ増されているので、お互いに「合うか合わないか」がすぐ分かる 笑
そして、僕に勝手に ”タイの達人” 認定された彼に、行くお店を任せると、
ナント! 日本ではもう食べれない、
美味しい「新鮮 生レバーの店」に連れて行ってくれると言うのだ!!
だが、、
…た、タイで 生の内臓かぁ。。
そんなモノを食べて本当に
ダイジョブかしら??
とは思ったが、数年食べている彼は、一度もお腹を壊したことは無いらしいし、
昔、日本で修業した事のある タイ人店主のこだわりは凄いらしく、
「下手な日本の店より、
間違いなく、美味しくて安全です!!」
という 彼の力強い日本語を聞き、僕も腹が据わった。
僕には洗濯物があるので、
「終わってからで良いですか?」
と聞くと、「おっけーっすよー!」
と普通に待ってくれる。
何か、この国の "おおらかさ" のようなものを、この国に来ている 日本人の彼からも感じる 笑
無事洗濯が終わり、干し終わった僕は、三上さんと街に繰り出した。
三上さんは、早速タクシーを停め、乗り込むと、タイ語で行き場所を告げた。
タイ語で普通にやり取りしている。
や、やはり、もの凄い達人だ。。
と感心していると、
「いやぁ、最低限のタイ語覚えておくと、
ナメられないんで、ぼったくられませんよ」
と笑いながら教えてくれた。
このタクシー運転手は しばらく走ると、
(ホテルなのか、高級住宅街なのか?)
という曲がりくねった 上り坂の入り口を前にして、三上さんと なにやらやりとりを始めた。
そして話はついたのか、車は坂を上り始めた。
すぐに、電話ボックスのような「詰め所」の様な建物が見えた。
そこにある、車止めのバーの前で止まる。
そして、そのボックスの詰所にいる男に、運転手がバーツ札を渡すと、バーが開いた。
タクシーは、奥へと進んでいく。
うーん。。
これから高速道路にでも乗るのだろうか??
と不思議に思っていると、三上さんが説明してくれた。
東さん、ここはね。
お金持ちの 私有地なんだけどね。
ここの丘を通ると近道なんですよ。
ここを通らないと 遠回りで 道も混むので、
百数十円払うけど、結果的には
値段は変わらないんですよ〜。
昔はタダで通れたんですけどねー 笑
と教えてくれた。
何という事だろう!
ここは "有料の近道" だったのだ!
所有する私道を、皆に勝手に "近道" 扱いされて、勝手に通られるので、土地の持ち主が頭に来たのか、それとも、
「商売になるな!」と思ったのか、
通行料を設定し、わざわざバーや 人まで設置して、お金を徴収しているらしい。。
なんともびっくりな話である。
タイ初日に、いきなり 個人経営の「関所」を通るとは、なかなかのレア体験であった。
やがて、無事丘を越えたタクシーは、道路に戻り、15分程走り、目的の場所に着いた。
そこは屋根付きの吹き抜けた「屋台村」の様なところで、七、八軒のお店が客席を囲む様な作りであった。
日本人らしき人も席にはいた。
店の中を見て、三上さんが「あれ?」と言い、
「あれ? 休みかも知れませんね。。」
と言い出したのだ。
二人で、奥のお店に行ってみると、ビニールシートが貼ってあり、明らかにやっていない。。
周りの店はやっていたので、三上さんがタイ語で聞いてくれたところ、生レバー屋の店主は、ご家族で、タイの自分の田舎に帰省しているとのことだった。
2週間ほどお店は開かないらしい。。
なんというか、随分 間の悪い時期に来てしまったものだが、こればっかりはしょうがない。
「マジかー。ごめんなさい。
うーん、東さんどうします?」
と聞かれたので、
「周りの店はどうなの?」と聞くと小声で、
「そんなに美味く無いですよ。。」
と達人らしく情報をくれた 笑
「せっかく来たので、ここで食べましょう!」
と僕がいうと、彼もうなずき、席に座った。
レバ刺しを、食べられなかったのは残念だったが、少しホッとしている自分もいた。
やはり、ちょっと怖かったのだ。。
料理のオーダーは、達人の三上さんに任せる。
色々な料理と、チャンビアー(タイの一番有名なビール)を頼んでくれ、雰囲気もいいここで、僕と三上さんは、盛大に酔っ払った 笑
お腹がいっぱいになった僕らは、会計を済ませ、近場をうろついた。
達人の三上さんも、ここでは「レバー屋」しか来た事はないらしく、一緒に店を物色する。
オシャレそうなバーがあったが、顔を見合わせると、上級者の呑兵衛の同志の勘で、
(ここは、、違うかな…?)
と 鋭くなった呑兵衛のセンサーが働き、三上さんも同じく、酔っ払いテレパシーで、
" ええ… そうですよね。。"
と、アイコンタクトできたので僕は、安心して、
「宿に帰って飲みませんか?
そのお金は僕が持ちますので。」
と三上さんに提案した。
すると、ほっとした様に彼が、
「そうしましょうか?
ええ、是非 そうしましょう!」
と、乗ってきてくれた。
実は僕は、宿代を払ってしまって、
タイバーツは、殆ど持っていなかったのだった。
最初、すぐにお金をおろそうとしていたのだが、
「そんなの、後でいいですよ。
とりあえず俺が払うので、後で割りましょ」
という、三上さんの優しい提案で、僕は文無しだったのだ 笑
理由を聞くと、
東さんは、たぶん 大丈夫な人だから。
と、いつの間にか僕は、これまた東南アジアの、百戦錬磨の達人しか分からないであろう、
「マトモな人認定」をされていた。
そんな僕は、宿で まだまだ飲むために、三上さんの停めてくれたタクシーで、オンヌットの宿へと戻って行ったのであった。
もちろん、このタクシーの支払いも、優しい三上さんである!
戻ったら、すぐにお金を下ろさなければ。。
続く。
↑ 本当は食べれるはずだった生レバー達
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