猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

プノンペンの朝

 

第66話

 プノンペンの朝

 

朝起きると、やはり昨日飲みすぎたのか、少し頭が痛い。。

コーヒーでも飲んでシャキッとしようと、ベッドのカーテンを開けた。

 

昨夜は遅めに寝た僕だが、意外と早く起きてしまったようだ。

時間を見ると、まだ8時過ぎだ。

 

ベッドから出ると、同部屋の住人達がいた。

カンボジアで初めての 同部屋の旅人である。

顔を合わせたので、いつも通り 名前を聞く。

ドレッドヘアーを、編み込みのオールバックにしている 20代中盤の男性は、

自分を「I'm Rio」と自己紹介してくれた。

名前が "リオ" で、ドレッドヘアのオールバックなので、

(ブラジルの方だろうな。。) と思いながら、

「ウェアー ユー カム フロム?」

と聞くと なんと、"ロシア人"  だと言われた。。

 ええっ? おいおい!!詐欺みたいな名前だな?!

と思っていると、Rioは、自分で名乗っているニックネームだと言う。

 なかなか難しいな。。この人。

と思ったが、さわやかな顔をした青年なので、全て受け入れる事にして、自分の自己紹介も兼ねて 挨拶をする。

もう一人は ”アレックス” というオランダ人で、こっちは納得がいった 笑

どうやらこの部屋には、僕ら3人以外は泊まっていないようだ。

挨拶が終わると、何かよそよそしいと言うか、あまり明るさを感じない。

 

プノンペンのパックパッカー達は、今まで行った国の旅人とは何かが違う。。なにか、雰囲気が違う。

どう違うのかと言われると、難しいが、なにか…。退廃的な人が多い気がするのだ。。

パブストリートで見かけた外国人は皆、旅をする明るさとは無縁の、人生の終着駅に来たような…「旅の途中」では無く「旅の終わり」を予感させる  "沈没者" であるように見えた。

旅を人生に例えるなら、旅の終わりであり、人生の終わりであるかのような。。

 

さすがに、この宿には そんな人はいなかったが、安さだけが売りの宿に行けば、そんな人たちはごろごろいるのだろう。

 

僕は挨拶もそこそこに 一階の、フロント兼レストランカフェに降りた。

店では、カンボジア人の店員さんが、カウンターの向こうで、ゆったりと準備をしていた。

昨日も見かけた彼は、まだ16歳くらいだろうが ”絶世の美少年 だった。

身長は160㎝無いくらいだが、スレンダーな モデルさんのようなスタイルで、本当に美しい横顔、浅黒い綺麗な肌、髪質は天然パーマが "チリリ" とかかっていて、その髪が店のおしゃれな ベレー帽風の帽子から覗くのも、良く似合っている。

まるで「樹なつみ」の少女漫画に出てきそうな美少年だ。

 本当に綺麗な顔だなぁ。。

 ”美少年” とはこういう人の事を言うんだなぁ…

と感心してしまう。

骨太な昭和顔の僕とは 明らかに何かが違う。。

 

(一応役者だけあって僕も 石原裕次郎世代の

 お婆さま達からは「あら、いい男ねぇ。」

 くらいは言われるのですが 笑)

 

そんな事を思いながら、マスターに挨拶をしてカウンターに座り、酔い覚ましに コーヒーを頼む。

 

綺麗な男性。。 と言えば、僕は日本で 苦い経験があった。

数年前に、オーディションに行った時の事だ。

とあるCMの「父親役」と言う事で、時間通りに控室に入ると、いつもと 何か様子が違っていた。

L字型の 壁際に並べられいる椅子に座っているのは、皆 細いイケメンばかりである。

僕は(おやっ?)と思う。

僕らは皆、事務所と名前、 スリーサイズ、過去の仕事を記入する オーディションシートというのを書くので、それを横目で見てみると、両隣りの男性は モデルさんだった。ウエストサイズも見たことのない数字だった… 笑

奥の会場からは「主にモデルの仕事が多いです!」と聞こえる。。

 おや? もしかして彼らとは 違う役なのかな??

と思ったが、奥から聞こえるモデルさんのセリフは、僕が覚えてきた役の台詞だ。

僕は理解した。。

(うちの事務所…。やっちまったな!)と。

もはやオーディションを 受ける意味すら無い事が、僕には経験上分かった。。

それにしても、

 なぜ 書類審査に通ったのだろう…?

僕は不思議な苦笑いを浮かべ、壁際のイケメン達を眺めていたが。。しまいには 可笑しくなって 笑ってしまっていた。

だって、椅子には 右から数えて、

モデル、モデル、超絶イケメン俳優、モデル、骨太俳優の僕、モデルだった。。

さすがに戦いようがない。

落語の会ならば、よくあるつかみの

「別嬪さん、別嬪さん、一つ飛ばして、別嬪さん」状態である。

 

いざ僕の番になると、審査員たちの目の色が変わった! 勿論いろんな意味でだ。

お互いに 不幸な出会いである事が共有される。

彼らも思っただろう。

(おい! 書類審査した奴は誰だ?!)と

オーディションあるあるで、自己紹介の後に、大体のオーディションは、身体を見たいのか、カメラの前で一回りする。

カメラを、回しているアシスタントから、

「ではゆっくり回って下さい。」と言われ

ゆっくりと、正面のカメラに向かって、体ごと 「右向け右」をしていく、右側、後ろ姿、左向き、最後にまた正面に戻るという 一周を、大体どこのオーディションでもやるのだ。

そして、僕がいざ右を向いた瞬間! 審査員がどよめいた。

「おおっ!ぶっとっ!!」と、思わず声を漏らす失礼な輩もいた。

それはそうだ。彼らは今まで、本当に内臓が入っているのかと 疑いたくなるほど程、細いボディばかり見てきたのだから。

「あづまさぁーん!凄い身体ですね!

 何かスポーツやってたんですか?!」

と、これまでのオーディションで、疲れてダレてきていた彼らは、急に違う方向でやる気を出して来た。

「いやー、若い頃 引っ越しのバイトしてました!」

と、こちらも もう笑いながらウケ狙いで言う。

「そ、それ!スポーツじゃないよねっ!? 笑」

と 全員が大喜びで、大爆笑だった。

もちろん落ちた!オチがついて落ちた。

この話も、オーディションもである!

 

話はそれたが…

そんな事を漠然と思い出しながら、店のカウンターで僕は、ぼーっと コーヒーを啜っていた。

 

そんな僕は今朝、昨日 マスターが「当店一押しです!」と言っていた

 ”グリーンカレー” を食することにしていた。

せっかくのアジアである、朝カレーが ” グリーン” であるのも 乙なものだ。

例の美店員さんに、貼ってあるメニューを指差して、グリーンカレーを頼んだ。

その時である。。 んん?? 僕は違和感を感じた。

声が随分と可愛らしかったからだ。

 美少年は、声も可愛いのかな??

とアホな事を考えながら、その動きを見ていると、物腰も柔らかい。

マスターと話しているのを見ていると、とても可愛らしい。。

 

そこで僕はようやく自分の勘違いに気付いた。。どうやら絶世の美少年ではなく

 ”美少女”  だったようだ。。

僕は驚愕していた。そういえば、昨日は少し見かけただけで、すぐに彼女が帰ってしまったのと、クールな外見の印象から、勝手に男性だと思い込んでいたらしい。

僕は勝手に美少年だと決めつけ、自分のトラウマを思い出していた事に、何故か "申し訳なさ" を覚えていた。。

彼女からしたら何の事か解らないだろうが 笑

 

女性だと知ってから見ると 急に気恥ずかしくなってきた。女性だとしたら、ちょっと彼女は美しすぎる。。

性別の認識が変わっただけで、自分がこんなにも動揺することが、驚きで 何か笑えた。

そんな葛藤を 短時間でしているとはつゆ知らず、美少女店員さんが、グリーンカレーを持って来てくれた。「サンキュー」と言うと、ニコッとしてくれる。。 か…可憐だ。。

 もうカレーなんざ、どんな味でもいいさ!

と現金な僕は カレーを食べ始めた。

一口食べて フリーズする。。

 う、うまい。。

 こ…こんな美味いカレーは 初めて食べた。。

僕はあまりの美味しさに、上を向いてしばらく目を瞑っていた。

「こ、これ、旨すぎじゃないですか??」

と言うとマスターは

 あ、やっぱり!みんな美味しいって

 言ってくれるんですよ!!

と言って喜んでくれた。

その後、一気にカレーを食べてしまった僕は、しばらく呆けていた。

 うまぁ〜ぁ、馬ウマ、旨かったぁ。。

と、馬になりながら、ベッドから出て 数十分の間に、色々な思考と 出来事に出会った僕は、コーヒーのお代わりをしてから、プノンペンの街へと飛び出していった。

 さぁ、今日のプノンペンは、

 僕に何を見せてくれるのかな?

とワクワクしながら。。

 

続く

 

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グリーンカレーが美味すぎる宿

 

 

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