なんだかんだで、あっという間に2時間半が過ぎ、遅れてきたユンさんと一緒に稽古場へ向かった。
稽古場は、カフェから10分ほどの所にあり、2階が稽古場で、一階には大家さんが住んでいると事だった。
一緒に大家のお婆さんに挨拶をして、2階の稽古場に向かう。
大家さんは人の良さそうな笑顔の柔らかい方だった。
2階に上がると、若い俳優さんが数人いた。
女性が一人に、男性が3人だ。
ユンさんがいうには、今日は主宰の女性は、丁度アメリカにインプロを勉強しに行っているとの事だった。
彼らと英語で挨拶をする。
皆カタコトであるが、通じる。
柔軟体操などのアップを一緒にやり。
とりあえず稽古を見させてもらう、面白い。
そういえば、外国の方の稽古場にいるのは、初めての経験だった。
ユンさんに、ベトナム演劇の問題点だと話していた 腹筋と発声の基礎的な訓練を教えてほしいと言われた。
僕は、尊敬する文学座の女優さんで、朗読も教えて頂いた方がいるのだが、
その女優さんは とにかく声が通る。その女優さんの発声訓練法を僕も良くやるので、それを教えた。
僕の号令で皆仰向けに寝る。
そこから両足の踵を十センチだけ上げて、声を出し、発声練習をする。
僕は慣れているので、普通にやっていたが、皆踵をあげてはすぐ「んっ、無理!」とか、「んん。。どぅハっ!!」と足を下げてしまう。
そして皆に「出来ない」と言われた。
うーむ、基本的な身体訓練といゆうか…
筋肉が無いようだ。。
僕は、これを 少しづつでもやれるようになれば、
「声を大きく出したり、
呼吸をコントロール出来る」と、
踵をあげた腹筋の姿勢のまま、皆に伝えた。
すると どうやらこの一件で僕は
「すごいちゃんとした俳優だ!」と思われたのか、皆の態度が変わった 笑
続いてインプロ(即興劇)の基礎稽古を一つ教えてほしいと言われ、
”スピット・ファイヤー” という基本の訓練を教えた。
これは、二人一組になり、
片方が お題から(例えば ”入学式”)
昨日、大学の入学式だったんですが…
などと ストーリー を自分の体験として語り始め、
程よい所で相手が何か「言葉 」を投げ入れる。(例えば ”ハンバーガー”)
急にハンバーガーが食べたくなって、
校庭から駅にUターンして。。
さらに食べたくなって、走りだしたんです…
とその言葉をちゃんとストーリーに使ったところで、
また次の言葉を投げ入れる
(ストーリーとあまり関係ない言葉が良い
例えば ”ウルトラマン”)
そこにウルトラマンが空から降りてきて、
何を言うかと思ったら、
「ジュワッ! そんなに急いでいるなら
私の背中に乗りなさい」
と言い出して…
などと続けていき、二分計っておいて
「ラスト~!」の掛け声で最後の言葉(ワード)を貰い、
語り手側は、そのストーリーを その言葉も使い、まとめて一つのストーリーにする。
という、物凄く頭の瞬発力を使う訓練である。
考える前に、とにかく言われた言葉(ワード)を使って どんどんストーリーを展開させなくては訓練にならない。
失敗を恐れずにドンドン進む訓練である。
やはり、初めて行うベトナムの俳優たちは 安全に ゆっくり考えて、言葉を投げ入れられても、じっくり考えてから話し出したり、中には止まってしまう者もいる。
僕は英語で
モア クイックリー!! クイック クイック!
アドバンス アドバンス!!
と檄を飛ばして 夢中で指導している内につい…
ドント シンク!!ノット ストップ。
Don`t think! ヘイ!ドントシンク!!
Don`t think !! フィール!
Don`t think! フィール!! Feel!
あれ?!?!
となんと、 一生口にすることは事は無いであろう思っていた「燃えよドラゴン」の
”ブルース・リー” のセリフを真顔で連呼していた。。
そのことに気付いた僕は、少し笑ってしまっていたが、皆には 何故、この日本の俳優が笑っているかは分からなかったようだ 笑
稽古は和やかに 笑いも交えて進み、二時間ほどで終了した。
皆、基礎稽古が新鮮だったようで
「是非来週の稽古にも来てくれ」と言われたが、来週にはベトナムにはいない事を伝え
「きっとまたベトナムに戻ってくるので」
と話して、皆と握手をして別れた。
さて、帰りであるが男性俳優のティン君が バイクで宿まで送ってくれることになった。
ユンさんにお礼を言い、ティン君のバイクに乗り、夜のバイクの海へと走り出した。バイクで信号で止まるたびに、片言英語同士で話をする。
日本では 何年役者をやっているのかとか、次はどこの国に行くのかなど。
彼はメンバーの中でも芝居心があり、普通に「いい役者さんだなぁ」と思っていたので興味があり、話は尽きなかった。
しばらく走ると、やがてティン君が不思議な事を訊ねてきた。
マサミ 「ドラえもん」を知っているか?と…
もちろん僕は イエス!と答えた。すると今度は
じゃあ「ジャイアン」を知っているか? と
もちろん僕は イエス! と答える。
(彼は一体何を聞きたいのだろうか。。
日本人で「ジャイアン」を知らなかったら、
もう日本人のモグリである。。
それとも僕が日本人だと
伝わっていなかったのだろうか…
そういえばこないだ
インドネシア人に間違えられた。。)
などと 頭の中で色々考えていると、彼が衝撃の事実を教えてくれた
実はぼくはベトナム版の
ジャイアンの声優なんだ。
!?!?!?!
僕は思考が停止した。
えええ!?何言ってんのこの人? と。
よく聞くと もう二年程ジャイアンに 声を当てているという。
えええ?! マジで?!
俺よりちゃんと食えてる俳優さんじゃん?!
と知り、偉そうにブルース・リーになっていた
稽古場の自分が 恥ずかしくなった 笑
彼は、その後「お腹がすかない?」と聞いてくれ、自分の行きつけの美味しい屋台のお店に連れて行ってくれ、食事をご馳走してくれた。
そこで、
自分の家には結構外国や
国内の友人が遊びに来るので、
次にベトナムに来たときは、
何日でも 好きなだけ
僕の家に無料で泊まって良いよ。
と嬉しい申し出をしてくれ、Gmailを交換した。
次にまた道中に「のどが乾かないか?」
とサトウキビのジュース屋さんに連れて行ってくれ、サトウキビジュースを飲ませてくれた。
このサトウキビ屋さんといううのは、サトウキビを 電動式の丸い2つの鉄のローラーの間に、何度も なんども 挟んでくぐらせて 絞って出したジュースを売っている。
そのサトウキビ絞り機は
「キン肉マン」の悪魔超人
”ザ・サンシャイン” の 地獄のローラー を彷彿とさせる。
しかしティン君は、本当に 友人としてもてなしてくれる、優しい いい男である。
ジャイアンの優しさだけを抽出したような。。
それとも僕は旅の途中なので「大長編ドラえもん」のさ中なので、いいジャイアンなのか? 笑
こんなことを思われているとも知らずに 彼はニコニコしている。
極めつけは、どこかに電話をかけ しばらく話していたのだが…
「この電話に出て欲しい」と言われ 電話を替わったところ
電話からは 若い可愛らしい 女性の日本語が聞こえてきた。
あ、マサミさんデスか?
ワタシはティン君のトモダチです。
ティン君が先ほど お伝えシた。
ティン君の家に
「イツデモ泊まりにキテいい」という件が、
チャンと伝わっているか、
心配してイて、ソレを私に
"日本語デ確認して欲シイ" という事デシタ。
マサミさんが分かっていてくれて良かっタ。
と、カタコト同士だったので心配になり、わざわざ日本語が喋れる友人に頼んで、その事を改めて伝えてくれた彼に感動してしまった。
もうここまで来ると、間違いなく彼は
綺麗なジャイアンだ
僕はもう彼の大ファンになっていた。
やがて宿まで送り届けてくれた彼に、僕は彼の親切にとても感動した事を伝え、お礼を言って、ギュッとハグをした後、記念撮影をして別れた。
去り際に何回か手を振って バイクで遠ざかっていく彼を
僕も手を振り、見えなくなるまで見送っていた。
凄い濃い稽古だった。。
続く
↑ カフェの近くで見た仔犬さん。
↑ ティン君と宿の前で(撮影者 ジョン)
次話