第32話
ビフタンネンなドイツ人
国籍を問わず自分勝手な奴はいるものだ。。
それは、急に two peace house hostel が満床になった日。
ドイツから大学生らしい、卒業旅行の6人が、男子3・女子3の比率でやってきた。
リーダー格らしい男が 顔も態度もデカイ。
俺は経済学の専攻で、これから世界を回していくんだぜ?!
という 気持ちオラオラ系とでも言うべき男だった。
アイリーンも、話しかけられる度に眉間に皺を寄せ、明らかに不快感を表している。
日本の宿ではあり得ないが、さすが外国である!
僕は彼を見て、バックトゥザフューチャーの
「ビフ・タンネン」を思い出していた。
またその相棒は、チリチリパーマの小アフロという感じで世の中を斜めに見ている感じだった。なぜかスネ夫を連想させる。。
2人はレンタルしたバイクで「ヒャッハー!」と島中を回っているようだった。
他のメンバーは、昼は何故かこの2人とは行動せず。皆でタクシー等に乗って移動していた。
こちらはアレックスという 中々いい人相をしたイケメン青年と、女子3人の普通の大学生という感じだった。
そのうち1人の女子は背が低くて、目がクリクリしてて、可愛らしい アイドルでも通じそうな可愛らしい娘さんだった。
話している時、上目遣いで真っ直ぐ見てくるので、恥ずかしくてあまり目を合わせられなかった 笑
彼らは、夜は合流して みんなでご飯や、共用スペースで他の宿泊者も交えて宴会という感じの日々だった。
ある日 宿で共用スペースにいる彼らに
「一緒に浜辺にある スポーツバーに行かないか?」
と誘われた。
バカンスで来ていると言う、いつも共用スペースでくつろいでいるインド系シンガポール人のシャーンも行くと言う。
道中アレックスと、かわいい娘さんと話す。
僕がカタコトなので、ゆっくりとわかるように喋ってくれる。
ドイツの方は、英語が上手いと言う印象が僕にはある。というか、世界的に英語が上手だとよく聞く。
流れるように、まるで "母国語" を喋っているんじゃ無いか? と言うくらい流暢に喋るので、僕くらいの英語レベルだと、聞き取るのを "諦める" 事もある。
不思議なのが、聞き取れるようにゆっくりわかりやすい単語で喋ってくれる人と、
こっちが解ってようがわかるまいが、喋り続ける人に分かれることだ。
(もちろんビフは後者である。。)
何故スポーツバーに行きたかったのかは、道中に解った。
リーダー格のビフがドイツサッカー界の覇王でもあるチーム
「バイエルン・ミュンヘン」のファンだったからだ。
彼はチリチリ君と肩を組んで バイエルン・ミュンヘンの応援歌を歌いながら歩いていた。
僕らは砂浜にあるスポーツバーに着いた。
今日は地元の人で賑わっているな。
と思っていたら、
マレーシア代表VSタイ代表の サッカーの国際試合が流れていた。
皆 テレビに釘付けで、声援を送っている。
僕らは席につき、このままこの試合を見るのかと思いきや、ビフは、店員と話し始め。。
なんと、店の全てのテレビが
バイエルン・ミュンヘンの試合に切り替わったのだ?!
僕は本当に、びっくりした。
地元の人の楽しみを平然と奪って、
またしてもミュンヘンの歌を歌い出すビフを見て、本当に、ビフのいる映画の世界に迷い込んだのか?と思った。
地元の人を見ると
唖然とした後、、、文句も言わずに、急にテンションが下がりながら、諦めたかのように会話している。。
む、無神経にも程があるでしょドイツ人!!
と、びっくりしたし。
断らない(断れないのか?)お店にもびっくりした。
僕はその光景を見て、
戦争に負けるとか、植民地支配されるってこう言う事なのかな?
と思っていた。
地元の人は、観光でやりくりしている人がほとんどである。観光客の我儘は ある程度我慢しなければと思っているのだろうか??
また、アジア人は背が低いし、巨大なビフタンネンに小さい身体で向かっていくのは、確かに
マイケルJフォックスくらいじゃなきゃ無理だろう。
良識のありそうな、シンガポール人のシャーンを見ても、別段何も気にしていない。
気が気じゃ無いのは、「日本人」の僕くらいだった。。
世界って、こう言う感覚なのか??と僕は困惑していた。。差別とまでは言わないが、、だが相手を下に見ていなければ 絶対にできない行為だと僕は思う。
やがて 試合途中に着いたせいか、
20分くらいで試合が終わり、やっと先程の国際試合に画面は戻った。
僕はほっとしつつ、信じられない光景を見た。
ビフが バイエルン・ミュンヘンが負けた腹いせに、ラミネートされたメニューを、ヘラヘラしながら、ジョッキに折り曲げて突っ込んだのである。。
ここは、島で、ラミネートのメニューを作るのも日本ほど簡単では無いと思う。
それを相手のことも何も考えず、自分の怒りに任せて、氷入りのジョッキに突っ込むのを見て、僕はさすがに許せなかった。
メニューをジョッキから、とりだし、おしぼりで綺麗に拭いて、元に戻した。
するとビフは、
ヘイ、ジャパニーズ。
君はこう言うのは嫌いか?
と聞いてきた。
僕は彼を睨み、
ああ!!嫌いだね!!
と嫌悪感からはっきり言った。
正直喧嘩になったら勝てないだろうなとは思っていたが、僕は許せなかった。
すると彼は、相棒と顔を見合わせて、苦笑いした後、外人がやりがちな
やれやれ と言うポーズした。
シャーンも間に入って取りなしてくれて、
とりあえず宿に帰ろうとなった。
僕は一人で散歩して帰る。 と言いながら、1人で宿に帰った。
次の日、大通りを歩いていたら、偶然出会ったアレックスが話しかけてきた。
良かったら、一緒に回らないか?
と言ってきた。
彼は昨日の事を話したかったらしく。
君のした事は正しい
と言ってくれた。
昨日、「おかしいだろ?!」 と思っていたのは僕だけではなく、控えめなアレックスもそう思っていてくれて、わざわざ僕にそれを言いにきてくれたのだ。。
僕は嬉しかった。
「ドイツ人ってのは!!!」
と、危うく怒りで、ドイツの方を一括りに決めつけてしまうところだった。
この一言で僕は、救われた。
そして、ビフを見て、全てのドイツ人を嫌いになろうとしていた自分を恥じた。。
ビフは別に ドイツ人代表ではないし、誇り高きバイエルン・ミュンヘンのファン代表でも無かった。。
僕は "うん、、ありがとう!" とお礼を言い。
後ろで控えている3人の女の子は、別に僕と周りたくは無さそうだったので、
一人で考えたいことがあるんだ。
とアレックスに告げた。
アレックスは、たぶん僕を気に入ってくれていたのだろう。
本当に残念な顔をしてくれていたが、
僕は彼らと別れた。
しばらく歩いていると地元の猫がおり、
僕はなぜか人恋しくなって、猫さんに 撫でてもいいかお伺いを立て、撫でさせて貰っていた。
撫でながら
「君らの世界にも、差別はあるのかい?」
と話しかけたが。
猫さんは不思議そうな顔を一旦しただけで、
すぐに気持ちよさそうに、ゴロゴロ喉を鳴らしていた。
猫さんの世界は平和そうであった。。
続く
↑ 平和な鶏たち
↑ 猫さん
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