猫好き俳優 東正実の またたび☆

俳優 東正実の東南アジア旅

魂が震える経験

 

第31話

魂が震える経験

 

カヤックツアーから帰って来ると。

ベッドに座った瞬間。

守り石にしていた ブラックオニキスパワーストーンのブレスレットの紐がちぎれて、散らばった。。

 

 

マングローブの海水に紐がやられたのか。

それとも危険から僕を守って身代わりになったのか?

 

実は僕は 旅に出る前に、

(何かお守りの様なものが欲しいな。)

とずっと思っており、そんな折り、たまたま歩いていた横浜駅の路上で、この石だ! と直感が働いて買ったのがこのブレスレットだった。

その後、ちゃんと神社に持っていき、力のある方に護り石として力を与えて貰っていた。

 

とにかく僕の旅とっては 本当に大切なものである。

 さて。。この異国でどうやって直すのか?

とりあえず散らばったストーンを、全て集めて 袋にいれた。

 

翌日 僕は、近くにアクセサリー屋は無いのか、大通りを探してみる事にした。

一通り回ったが、それらしい店はどこにも無かった。。 …本当に困った。

 

最後に ひとつだけ心当たりがある店に 行ってみる事にした。

そこはとてもおしゃれな オリエンタルな雰囲気の、小さめの雑貨屋さんで 扇子やトラベルバッグや、折り畳み傘 お土産の小物などを売っていた。

 

前に行った時、僕は折り畳めるトラベルリュックが欲しかったのだが、ものが良いので結構いい値段だった。

基本、交渉してみるのがいいので、

 少し安くなりませんか?

と聞くと 「ここは値引きをやらないの。」

と言われたので 「考えて またきますね」

と店を出たのだった。

 

あそこなら ちょっとしたアクセサリー用の紐か何かが置いてあるかも知れない。

僕はダメ元で 再びお店に足を踏み入れた。

 

店に入ると、この間はいなかった、40歳くらいの、細身の清潔感のある 店主らしき男性もいた。

 

僕はお店を一回りして、ネックレスと一緒に、ストーンのブレスレットが三点ほど置いてあるのを、見つけた。

僕はカウンター越しに 店主に声をかけ、バラバラになったブレスレットを見せ 直せないか聞いてみた。

切れた紐も持っていっていたので、見せて、このような紐は置いてないかも聞いてみた。

 うーん。うちは制作はやってないので、

 こういうstrings(紐)は置いてないんだ。

との事。。

 

ダメ元で、

 ブレスレットを買うから

 その紐で付け替えてくれないか?

と頼んだが、

 それは出来ないし、

 女性用だから、長さが足りない

と言われた。

それでも なんとかなりませんか? と聞くと

 紐が important なのか?

と聞かれた。

 

 NO ストーン!

 ストーン!  is important.

 

 why did you are important stones?

 

   It's my ガーディアン ストーン!

   Very important my journey.

 ストリングス..not important.

 

と僕がいうと、店主は

 「OK」

とだけ言って、ヒジャブを被った女性店員に何やら話し始めた。

 

やがてマレー系の女性店員が手を出して、

石を渡すように促してきた。

 

どうするのだろうと思いながら、僕が石を渡すと、机の引き出しから 釣り用のテグスを出してきて、石を繋ぎ合わせ始めた。

 

接着部分は、ライターで炙り溶かして接着し、

脱着できるように、綺麗な金具も着けてくれ、

取り外し出来る様にしてくれた。。

 

店主に

 さぁ、付けてみなさい。

と言って貰い

 

いざ付けてみると、生まれ変わったブレスレットは、全く問題無く 左腕に収まった。

まるで魔法のようだ。。

僕は本当にありがたくて、嬉しくなり。

 本当にありがとうございます!

 本当に私は助かりました。

 ありがとう。本当にありがとう!

 あ、工賃は、いくらですか?

と聞くと、

 

店主は普通の口調で、優しく、

 あなたの大事なものを

 治させて貰っただけだよ。

 お代なんて要りませんよ。

と、控えめな笑顔で言ってくれた。。

 

その優しい顔を見た時、僕は不意に まるで心臓を鷲掴みにされた様に動けなくなった。

何か言おうとしたが、言葉が出て来なかった。

…僕は。。声が…こえが出なかった…のだ。

 

人生で初めて 身体が魂が震えたのだ。

感動で全身が泡立つのがわかった。

人は本当に不意に感動すると、動けなくなってしまうのだと、僕は初めて知った。

 

だが僕はなんとか、絞り出すような声で お礼をいい。。

それだけでは気が済まず。何かお礼はできないかと周りを見回し、目に入った、前に買おうか迷っていたトラベルリュックを手に取り

 せめて、、こ、これを買います!!

 買わせてください。。

とそれを買った。

 

店主は、泰然とした態度で

 そうですか… ではこのお値段になります。

と淡々と会計をしてくれた。

 

困っている人がいて、自分ができる事があれば、やって当然の事です。

という態度が、その優しさが、僕には本当に心に沁みた。。

 

店を出た僕は まだ痺れた身体を抱えて、脇道から、すぐに 砂浜に向かった。。

近くのベンチに座り込み。

海を見ながら、痺れた心と身体を落ち着かせていた。

 

海を見ていると

不意に涙が頬を勝手に流れた。。

 

 ああ、世界はこうやって回っているんだ。。

 僕がして貰った親切は

 いつか誰かに返さなきゃいけない。

 きっと俺も人が困っていたら

 助けられる人になるんだろう

 こんな経験をしてしまったら

 誰でもそうせざるを得ないのだから。。

と、頬をつたう涙が とても暖かかったのを

僕は今でも覚えている。

 

そう、世界はそうやって回っている 本当に

ま・わ・って・いるのだ!!

親切も憎しみも怒りも悲しみも愛情も憎悪でさえも。。

周り回って還ってくる。

だから地球は丸いんだ。。というチープな結論を少しだけニヒルに、口の端をあげて笑いながら、僕はその日はビールも飲まずに、ずっと海を眺めていた。。

 

続く

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↑ 色々な経験をさせてくれる

 ランカウイ島 そして海

 

 

次話

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